桜の奇跡   作:海苔弁

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二人が中に居る頃、地狐達は園庭へ来ていた。


庭で眠っていたエルと二匹の竜は、目を開け体を起こした。


『やぁ、エル。

久し振りだね』


晃に擦り寄り、嘴を開け自身を舐めるエルを彼は撫でた。


『随分長生きするね、君は。

こんなに立派な姿になって』

『こいつだけ、北西の森に来なかったから心配していたが……

まさか、人の手に渡っていたとは、思いもしなかった』

『あらら。

でも、また会えたんだね』


撫でる晃に、エルは体を擦り寄せ甘えた。


『それで……


どうするんだい?美麗を』

「……

まだ分からん。


儂としては、幸人の元へ返しそのまま平穏に暮らして欲しいと願っておる。

もう……あの子の泣き顔は、見たくは無い」

『……


もし、ここへ再び残すと言うのなら……

美麗はもう、君等の前から姿を消させるよ』

「……」

『それぐらい、簡単だよね?


天狐、地狐』

『まぁね』

『一応、その話はした』

『次暴走すれば、もう止めることは出来ないよ』

「……それでは、やはり」

『二人も気付いてるよね。


彼女の力』

『……』

『力が解放した時、麗桜のクローンを倒す。

そして、新たなぬらりひょんとなるだろうね』

『そうなれば良いんだけどね』

「どういう事じゃ?」

『美麗の記憶は、一部を除いて蘇っている。

それが全て、蘇ったら……

矛先は、父親である麗桜ではなく……




人間』

「……当然かも知れぬな。

あれ程の事をされて、恨まない方が不思議じゃ」

『……だから、封じているんだ。

美麗は、あの力を扱う事を教えられていない』

『だから、天狐の行為は正解だよ』

『……』

『君が生きていてくれて良かったよ。


蘭丸……君だけだよ。あの時のことを知っているのは』


紅く光る目を、晃は蘭丸に向けた。彼は微動だにせず、ジッと彼の目を見つめた。


桜の木

「嫌だ!!帰る!!

 

帰る!!」

 

 

園庭から帰ってくると、部屋で泣き喚き暴れる美麗を秋羅が抑え宥めていた。

 

 

「あ、蘭丸さん!!

 

手伝って下さい!!美麗の奴が、自分の名前思い出した途端いきなり暴れ出して」

 

『思い出しただと!?』

 

「自分は夜山美麗だって、さっき……痛っ!!」

 

 

自身の手を押さえていた秋羅の手を、美麗は噛み付いた。彼の手が緩んだ隙に、彼女はもう片方の手を振り払い、寄ってきた蘭丸の後ろへ隠れた。

 

 

『名前を思い出した事で、ここにいた頃の記憶が少し蘇ったのかも知れない』

 

「そんな……」

 

『美麗、おいで』

 

 

後ろにいた晃は、震える彼女を抱き上げた。美麗は、彼の胸に顔を埋めしがみついた。

 

 

『しばらく、園庭に行っているよ。

 

 

秋羅、ここはもういいから君のお師匠の所に行きなさい』

 

「けど」

 

『大丈夫。

 

今は感情的になっているだけだよ。美麗は君等が味方だって事、ちゃんと分かっているから』

 

「……」

 

『蘭丸、一緒に着てくれ』

 

 

先行く晃の後を、蘭丸はついて行き部屋を出ていった。

 

3人がいなくなった後、秋羅はバラバラになったパズルのピースを箱の中へ入れた。

 

 

「……なぁ、天狐。

 

この部屋って、まさか」

 

『……恐らく、美麗を監禁していた部屋だろう』

 

 

部屋に置かれていた机に触れながら、天狐は部屋を見回した。

 

 

『床に金具があるだろう?

 

恐らく、その金具に枷の着いた鎖を付けて、それを足首に着けていたんだろう……』

 

「……美麗がここに来たのって、晃が死んだからか?」

 

『だと良かったんだけどな』

 

「え?」

 

『もういいだろう。

 

僕等、あの時の事はあまり思い出したくないんだ』

 

「あ……ご、ごめん」

 

『別にいい。

 

どうせ、100年以上前のことだ』

 

 

 

 

園庭へ来た蘭丸達……園庭にある池の水を飲んでいたエルは、彼等の元へ駆け寄り晃に抱かれている美麗に嘴を擦り寄せた。

 

 

「……エル」

 

『空のお散歩、行ってきなさい』

 

「紅蓮は?」

 

『蘭丸とお話があるから』

 

「あまり、遠くへ行くでないぞ」

 

「うん」

 

『大丈夫。

 

君が戻ってくるまで、ここで待ってるから』

 

「……」

 

 

その答えを聞いて、美麗はエルの首元を撫でた。それを合図にエルは翼を広げ飛び立った。エルに続いて二匹の竜も飛んで行った。

 

 

「随分と、賑やかな夜散歩じゃな」

 

『ちょっとは落ち着いたかな?

 

彼女、小さい頃よく夜泣きしてたから』

 

「ほぉ……」

 

『夜泣きするたんびに、天狐達が住む森に連れて行って、そこで夜景を見て寝かし付けてたっけ』

 

「……晃さん。

 

アンタ、いつまでそうしていられるんじゃ?」

 

『……さぁ。

 

 

出来れば、このままでいたいよ。

 

でも、それは出来ない。天狐達と約束したからね……

 

 

僕は死人……別の形で、彼女と一緒にいると』

 

「……それじゃあ」

 

『多分そろそろ、紅蓮に戻るよ。

 

彼に戻れば、君のことは何も覚えてはいない。

 

 

でも、安心して……君が味方だって事は分かっているから』

 

「……」

 

 

 

医務室へ戻った秋羅……中では、暗輝達が幸人達の看病をしていた。

 

 

「あれ?皆は」

 

「隣の部屋。

 

もう休んで貰ったよ」

 

「ただでさえ、今日は霊力使ってんだ。

 

早めに休んで貰わないと」

 

「秋羅も、ここは私達に任せて休みな」

 

「……あの、ちょっと聞いていいですか」

 

「?」

 

「この近くに、桜が咲いてる所ってありますか?」

 

「桜?

 

 

今の時期はまだ咲いてないとは思うよ」

 

「じゃあ、桜の木がある場所は?」

 

「ウーン……あんまり聞かないなぁ。桜が咲いてる場所は。

 

 

昔は沢山あったんだけど……今は」

 

「昔はって……」

 

「もう100年ぐらい昔のことだよ。

 

北西の地域が、桜の名所だったんだ。春になると、満開になった桜が風に揺られて、桜吹雪を起こすって有名で。

 

時期になれば、観光に来る人が来てその光景を見るんだ。夜になれば、月と桜のがまた格別でね」

 

「けど、北西の町が滅んだ後、桜の木も全部枯れてしまって……

 

今は、所々に散らばっているだけになってしまったんだよ」

 

「北西の森って……

 

確か、紫苑の」

 

「そんで、桜がどうかしたのか?」

 

「いや……その……

 

 

実はさっき……」

 

 

秋羅は、先程の紫苑が自身の名前を思い出した事を話した。

 

 

「……結局、シーちゃんは……

 

あの、夜山美麗だったって事か」

 

「はい……

 

 

それから、紫苑……

 

 

美麗の奴が言ってたんです……『桜の木……約束』って」

 

「約束……

 

美麗は、その消えた記憶の中で誰かと約束したのかもな。桜の木に関わる約束を」

 

「……」

 

「そういえば……

 

あの妖狐達、何で秋羅と幸人にだけあんなに肩持つんだ?」

 

「いや、それは普通に俺等が美麗を引き取ったから」

 

「そうだったとしても、彼女ここでの記憶を封じるくらい、人から酷いことをされていたんだろ?

 

それで普通、人間の君等に預ける?」

 

「……確かに」

 

「昔の月影が、彼女に何かしてそれで信用しているのかもな」

 

「昔の月影って」

 

「幸人の師匠が、まだ弟子だった頃とかさ」

 

「それか、その前の師匠が弟子だった頃とかな」

 

「……」

 

 

その時、部屋に飾られていた振り子時計が音を鳴らした。時間を見ると、針は丁度12を指していた。

 

 

「12時か……

 

秋羅、もう寝な。俺等ももう少ししたら、寝るから」

 

 

幸人を気にしつつも、秋羅は暗輝達に挨拶し部屋を出ていき、隣室へ入った。中では敬達が既に眠っており、開いているベッドへ、秋羅は横になりそのまま目を瞑り眠りに入った。

 

 

 

園庭……割れた窓から、エル達は入り庭へと着地した。エルの背中に乗っていた美麗は、眠い目を擦りながら、体を起こした。

 

 

『よかった……戻る前に眠くなってくれて』

 

 

そう言いながら、晃は美麗を抱き上げた。重くなっていた瞼を、彼女は彼の胸に頭を預けながら閉じ眠った。それを確認した晃は、美麗を強く抱き締めると傍にいた蘭丸に受け渡した。

 

 

『後は頼んだよ……蘭丸』

 

「あぁ」

 

『美麗……少しの間、またさよならだよ。

 

 

でも大丈夫……何があっても、僕は君の傍を絶対に離れないから』

 

 

美麗の額に自身の額を当て、涙を流しながら晃は言った。すると、彼の体は光に包まれ黒狼の姿となり、そのまま眠りに付いた紅蓮の姿へと変わった。

 

 

「(晃さん……)

 

 

エル、ここは任せたぞ」

 

 

エルの頬を撫で、蘭丸は眠っている美麗を持ち直すと園庭を出て行った。残ったエルは、眠っている紅蓮の傍で横になり、目を瞑り眠りに入った。




ここどこだ……何で俺……

『紅蓮……

僕の代わりに、また美麗を頼むよ』

みれい?誰だ、それ……つか、お前も……

『僕は君。君は僕。

美麗は紫苑。紫苑は美麗』

……

『目が覚めれば分かるよ』

俺はお前って……




『美麗を頼んだよ……紅蓮』
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