桜の奇跡 作:海苔弁
「幸人!!シーちゃんの健康診断、してもいい!?」
「何だいきなり……」
「紅蓮の健康状態を確認するから、ついでに紫苑の健康診断でもやろうって話になって」
「ねぇ!やっていい!?」
「……まぁいい機会だし、変なことしなきゃ別にいい。
変なことしたら、撃ち殺すからな」
「しませんしません。
変なことはしません」
紅蓮の状態を診る暗輝と違って、水輝は逃げ回る紫苑を追い駆けようやく捕まえ、口の中を見たり体を検査した。
「今んとこ、シーちゃんには目立った傷も病気もないね。
健康その者だよ!」
「紅蓮も同じだ」
「それなら安心だ」
「そんじゃあ次は……」
「それ以上のことはしなくていい!」
「待て!兄上!これは調べなくては!」
「調べんでいい!!
そんじゃあ、幸人。今日はここで」
「あぁ」
「また、遊びに来るよ」
コートに腕を通して、外へ出ようと玄関の戸を開けた。外は、先の見えない猛吹雪になっていた。
「……泊めて!」
「泊めて下さい!」
薪ストーブが燃え、暖まるリビング……
秋羅と水輝と暗輝が夕飯の後片付けをし、幸人が仕事部屋で仕事をしている頃、紫苑は窓の外を眺めていた。
「……?」
窓を見ていた紫苑は何かを見つけ、こっそり紅蓮と共に外へ出た。玄関の音に暗輝はいち早く気付き、リビングへ行き二人の姿が見えないのを確認すると、大慌てに秋羅に話した。
「紫苑と紅蓮が外に出た!!」
「何?!」
吹雪の中を歩く紫苑……柵を跳び越え、林の中へ入った。持っていたランプを照らすと、木に凭り掛かるようにして座る、一人の女性がいた。
紅蓮は彼女の頬を舐めた。すると、女性はゆっくりと目を開け紫苑を見た。
「……あなたは?」
「紫苑……お前は誰?」
「この先にある祓い屋に、頼みが……」
立ち上がろうとした女性は、ふらつき倒れかけ紫苑は慌てて彼女を支えた。
家の前で、ランプを照らしながら、秋羅達は紫苑と紅蓮の名を呼び叫んでいた。
「クソ!!どこにいきやがった!」
「シーちゃん!!どこぉ!?」
「何であいつは、こんな猛吹雪の中外に出たんだ!?」
「俺が聞きたいです!」
「……?
幸人!!あれ!」
強風が吹く中を、女性を乗せた紅蓮と共に紫苑が歩いてきた。
「紫苑!!」
「誰だ?!あの女!」
紫苑に駆け寄る一同。幸人は着ていたコートを女性に掛けると、彼女を持ち上げ先に水輝と家の中へ入った。
ベッドで寝かされた女性は、ようやく落ち着きを取り戻し眠っていた。その様子に、ホッとした水輝は彼女に毛布を掛け部屋を出た。
リビングへ戻ると、ソファーの上で紫苑は毛布に包まった状態で、秋羅に凭り掛かり眠っていた。
「あれ?シーちゃん、眠ったの?」
「今さっきだ。
体が温まったから、それでだろう」
「ここで寝かせたら、そこにいる女に何されるか分からねぇから、とっとと部屋に連れてけ」
「アーン!幸人ぉ!」
「そうした方がいいな。
紅蓮、おいで」
眠った紫苑を抱え、秋羅は紅蓮と共に二階へ上がった。
「さてと、俺は仕事の続きする」
「俺等もしばらくしたら、休むよ」
リビングを出て行き、幸人は仕事部屋へ戻った。
夜中……寝静まる中、眠っていた女性は目を覚ましそして部屋を出ると、ある部屋へソッと入った。
そこは、紫苑の部屋だった。ドアを静かに閉め振り向いた時、女性は目にした。
ベッドに座る黒い人影……黒い影から、何かが赤く光っておりそれはスッと上を向き、彼女を睨んでいた。
「だ、誰……なの?」
『……』
黒い影は立ち上がると、姿を変えその場から消えた。
突然いなくなったそれに、驚きながらも女性はベッドに近付き、隠し持っていたナイフを眠っている紫苑に跨がり彼女の首に当てようとした。
「誰?」
「!?」
赤く光る目が、女性を見つめていた。女性は手を震えさせ、息を乱した。
「違うの……違うの……
ただ、助けて欲しくて……違うの……」
その時、ドアが勢い良く開いた。女性はハッと、ドアの方に振り向いた。
そこにいたのは、幸人と暗輝だった。
「怖がらなくていい。
そこから降りて、ナイフをこっちに渡してくれ」
「わ、私……私……どうしても……」
ゆっくりとベッドから降りる女性……その隙に、ベッドから降りた紫苑は、幸人の元へ駆け寄り後ろへ隠れた。
「暗輝、その人をリビングに」
「分かった。
さぁ、行きましょう」
「私、本当に」
「お話は、まず落ち着いてから」
女性を落ち着かせながら、彼女を立たせ暗輝はリビングへ向かった。
騒ぎに起きてきた秋羅と水輝は、すぐに状況を呑み込み何も言わずに頷くと、下へ降りた。
「……怪我は、ないみたいだな」
しゃがみ込み、傍にいた紫苑の顔や首辺りを幸人は確認した。すると、部屋から紅蓮が姿を現し彼女に擦り寄った。
「そいつも平気か」
「あの人、どうしたの?」
「さぁな。今からそれを聞く。
お前も聞くか?」
「……うん」
ソファーに座り、水輝が作った紅茶を飲む女性。
「ありがとうございます……」
「別にいいよ。
それより、落ち着いた?」
「あ、はい」
「そんじゃあ、依頼内容でも聞こうとするか」
「……聞いて下さるんですか?」
「依頼のために、わざわざこの猛吹雪の中を歩いてきたんだろ?」
「でも、私……」
「さっきのことは気にしてない。
こいつに、目立った傷も怪我も無いから大丈夫だ」
幸人の傍にいた紫苑は、女性に軽く頭を下げるとすぐにそっぽを向いた。
しばらく黙っていた女性は、口を開き話し出した。
「私には、一回り年下の妹がいます。
昨夜、妹が妖怪の子供を拾ってきたんです。それですぐに元の場所に戻しなさいと、怒った途端彼女は飛び出してしまいました。
すぐに帰ってくると思ったんですけど……一夜明けても帰って来なくて……
今朝早く、私は近くの森や川を探しました……でも、見つからなくて」
「他の人に、助けて貰うことは出来なかったの?」
「近所に住む人に、すぐ助けを求めましたが誰も……」
「ご両親は?」
「妹が3歳の時に、事故で……
それからずっと、あの子を育てていたんです……
お願いです!お金は何とかして払います!
ですから妹を……妹を探して下さい!!」
マグカップをローテーブルに置き、女性は息を荒げながら土下座をした。
水輝は彼女を起こし、ソファーに座らせた。
「土下座せずとも、依頼は引き受けます」
「ほ、本当ですか!?」
「妹さんの写真か私物をお持ちですか?
あと、お名前の方を」
「名前は杏奈。
持ち物は、この髪留めくらいで」
そう言って出したのは、橙色の花飾りが着いたバレッタだった。
「……水輝、暗輝。
金やるから、一緒に来い」
「いいぜ」
「お安い御用よ!」
「秋羅は今回、留守番頼む」
「了解」
「紫苑、お前も来い」
その言葉に、嫌そうな表情を浮かべる紫苑を、幸人はしばらくの時間説得をした。
翌朝……
雪が小降りとなった頃に、幸人達は馬を小屋から出し手綱と鞍を付けた。
「小降りになって、良かったな」
「全くだ。
あの吹雪じゃさすがに、この子達を行かすのはね」
「じゃあ秋羅、後宜しくな」
「応よ」
「よし、行くぞ」
「オッシャー!行くよぉ!
皆、私についてきなさーい!」
先に馬を走り出した水輝を、暗輝は慌てて追い駆けていき、二人を幸人は声を上げながら追い駆け、彼の後を紫苑はついて行った。
「……あの」
「?」
「この家に、あなた方以外の人は住んでいないんですか?」
「いや。
さっきの男と女は、吹雪だったから泊まらせてただけで……普段は俺と幸人、それに紫苑の3人暮らしだけど」
「……」
「それが、何か?」
「あのお嬢さんの部屋に入った時、誰かいたんです」
「え?」
「暗くてよく見えなかったんですけど……
多分、男の人かと」
人物リスト2
名前:大空陽介(オオゾラヨウスケ)
年齢:34歳
容姿:銀髪に紺色の目。妖討伐隊の大佐。
幸人、暗輝、水輝とは同期で幼馴染み。
名前:星野暗輝(ホシノクラキ)
年齢:34歳
容姿:黄色い髪に青い目。獣医。
陽介同様、幸人とは同期で幼馴染み。
水輝とは双子の兄妹。
名前:星野水輝(ホシノミズキ)
年齢:34歳
容姿:肩までの黄色い髪をポニーテールにしている。目の色は青。医者。
幸人とは同期で幼馴染み。