桜の奇跡 作:海苔弁
昼食を食べ終えた美麗は、紅蓮の胴に頭を置き奈々と一緒に昼寝をしていた。
「遊び疲れて、眠っちゃったわね」
「呑気で良いよな?ガキは」
「アンタだって、変わらないじゃない」
「っ」
『ここでこの子達見てるから、秋羅達は師匠達の所へ行きなさい』
「オメェ一人で、大丈夫か?」
『平気だよ。彼女の面倒を見るのには慣れているから』
「へ?慣れてる?」
「説明は後でする。
じゃあ、ここ頼んだぞ」
『はい』
眠っている美麗を気にしつつ、秋羅達は園庭を出て行った。
地下……
牢屋が並ぶ道……その奥にある巨大な牢屋を見張る新米の兵士に、先輩兵士が歩み寄ってきた。
「あ、先輩。
お疲れ様です」
「お疲れ」
「先輩、この檻の中何が居るんですか?」
「ん?
何でも、100年以上生きてる獣らしい」
「獣?」
「妖怪だ」
「へ、へー」
「何だ?怖いのか?」
「そ、そりゃあ怖いですよ!!
いつ襲ってくるか、ヒヤヒヤして」
「大丈夫だ!
確か、中には研究室特製の拘束具を着けているから、ちょっとやそっとじゃ、壊れないらしい」
「本当ですかぁ?」
「本当だ。それより見張りキッチリやれよ」
「あ、はい!」
去って行く先輩兵士に、新米兵士は敬礼して見送った。
暗い檻の中、その光景を金色の目でそれは見つめていた。しばらく見つめると、金色の目はスッと閉じた。
「……」
割れた窓から通り抜ける風と水が、園庭にある草木の葉を揺らし濡らした。その音と自身の頬に当たった水に、眠っていた美麗はスッと目を開けた。
「……秋羅?」
「あれ……
美麗、起きたの?」
隣で寝ていた奈々は、目を擦りながらあくびをして起きた。
「ねぇ、秋羅達は?」
「へ?
あれ?いない……」
辺りを見るが、秋羅達は愚か時雨と地狐の姿がなかった。
「……多分、ママ達の所だよ。
行こう」
「うん」
奈々に手を引かれ、美麗は園庭を出て行った。
その数分後入れ違いに、地狐がどこからか帰ってきて二人の姿が無い事に気付くと、すぐに彼女達を狐の姿となり、眠っていた紅蓮を起こし人の姿になさせ探しに行った。
薄暗い廊下を歩く、奈々と美麗。ふと窓の外を見ると、強く降る雨が、強風に煽られ硝子を叩いていた。
「凄い雨……いつの間に」
「さっきまで、あんなに晴れてたのに」
「早く行こう。ここの人達に見つからない内に」
「うん」
“ドーン”
歩き出そうとした瞬間、雷が鳴り響いた。その音に、美麗はその場に座り込み、奈々は悲鳴を上げながらその場に座った。
近くを徘徊していた二人の兵士は、その悲鳴に気付き彼女達の元へ駆け付けた。
「何で子供がこんな所に?」
「そこで何やってるんだ!?君等」
駆け寄った兵士は、二人の腕を掴んだ。その瞬間、美麗は咄嗟にその兵士の腕に噛み付き、二人から離れた。奈々は泣き喚きながら、兵士の手を振り払い美麗の後ろへ付いた。
「な、何だこいつ等」
「侵入者か?」
「わ、私、金影の弟子だもん!!」
「金影?」
「お前みたいなガキが、祓い屋に勤まるわけないだろう」
「子供扱いしないで!!」
「つべこべ言ってないで、とっととここを出ろ」
そう言って伸ばしてきた兵士の手を、美麗は素早く払うと隙が出来た彼の腹に、正拳を食らわせた。それを見たもう一人の兵士が、常備していた銃を構えたが、それを彼女は蹴りで落とすと、左脚を軸に後ろ蹴りを食らわせた。
騒ぎに気付いた他の兵士達が、次々に彼女達の元へ集まってきた。
「な、何かいっぱい来た!!」
「奈々、頭下げて!」
「へ?」
下げた瞬間、美麗は彼女を捕まえようとした兵士に踵落としを食らわせた。
そんな騒ぎを、ベッドが並ぶ広間で聞いた秋羅達は、顔を見合わせながら、戸を開け外を見た。
「何だ?あの群衆」
「何か面白そう!」
「オイ、変な行動やめろ!」
嬉しそうな笑みを浮かべながら出て行った敬の後を、秋羅は追い駆けその後を梨白がついて行った。
兵士の群れの中へ入り、その光景を見て目玉が飛び出しそうになった。
襲ってくる兵士達を、美麗は軽々と蹴散らしていっていたのだ。それを見た秋羅は、野次馬になっている兵士を退かして、彼女の首根っこを掴み止めた。
「?
あ!秋羅!」
「何やってんだ、お前」
「奈々と一緒に、秋羅の所に行こうとしたら」
「部外者だって、追い出されそうになったんです!!」
「まぁ、そうだろうな。
こんなガキ、弟子だとは誰も思わねぇから」
「アンタだって、そうじゃない!!
不良変人チャラ男!」
「変人じゃねぇよ!!」
「事を荒げるようなことを言うな。
すまない。この者達は、月影と金影の弟子で間違いない。迷惑を掛けた」
「いや、こちらこそ……」
(つか、子供一人にどんだけやられてんだ?ここの兵士共は)
兵士達に平謝りをして、秋羅は美麗を抱き部屋へ戻った。
「年上の悪口言うな!!ガキ!
お前のせいで、梨白に怒られちまったじゃねぇか!!」
「不良変人チャラ男が、アタシの悪口言うからでしょ!!」
「ガキにガキと言って、何が悪い!」
「やめなさいよ!!こんな所で喧嘩は!」
「だって、この男が!」
「お前、何向きになってんだよ」
「こいつが俺の悪口言うから!」
「大人気ないですね」
「なっ!」
「全くだ」
自身に突き刺さる目線に、敬は黙り込んだ。奈々は頬を膨らませながら、時雨の傍に座った。
静かになった二人に、軽く溜息を吐きながら秋羅は林檎を丸囓りする美麗の頭に手を置いた。
「そういや、美麗。地狐は?」
「どっか行った」
「どっかって?」
「分かんない。起きたらいなかった」
「そっか(どこに行ったんだ?)」
「ねぇ、幸人いつ起きるの?」
「さぁな。
いつになるか、まだ分かんねぇ」
「ふーん……」
食べかけの林檎を手に、美麗は幸人の上に飛び乗ろうとした。その行為を、秋羅は素早く止めた。
「無理矢理起こそうとしない」
「こうやって起こした方が良いって、暗輝言ってた!」
「それは緊急事態の時!!」
「そういう起こした方があるのか(今度先生に、やってみよう)」
「言っとくが、これは“美麗”だから許されることだからな。
真似してやろうと思わねぇ方が、身のためだぞ」
「っ……」
引き攣った表情を浮かべる敬に、一同は吹き出し笑いを堪えた。
その様子を、ドア越しから聞いていた地狐は微笑みを浮かべると、紅蓮と共に園庭へ戻っていった。