桜の奇跡 作:海苔弁
何かの気配を感じた美麗は、摘んでいた数本の花を手に、辺りを見回した。
「どうかしたか?美麗」
「……呼んでる」
「?」
「来てって呼んでる」
立ち上がり、摘んでいた花を置き美麗は園庭を出ようとした。
「待ちなさい」
『待って』
地狐と蘭丸に呼び止められ、美麗は足を止め振り返った。二人は互いを見合うと頷き、蘭丸は立ち上がると彼女の元へ歩み寄った。
「儂も一緒に行こう。一人じゃ危険じゃ」
「うん!」
『蘭丸、美麗のこと頼んだよ』
「うむ」
蘭丸の手を握り、美麗は園庭を出て行った。二人の後を、人の姿となった紅蓮は、地狐と一瞬目を合わせるとすぐについて行った。
(君も、頼んだよ……紅蓮)
地下を警備する数名の兵士……
檻に入っていた獣が目を開けた。そして、着けられていた拘束具を、全て外した。
「……?
え?」
檻を警備していた新米兵士は、外れた拘束具の音に気付き振り向いた。
次の瞬間、檻は粉々に壊された……警備していた兵士は間一髪避けており、すぐに壁に付けられていた警報器を鳴らした。
鳴り響く警報……廊下を歩いていた秋羅達は、足を止めその音を耳にした。
「な、何だ?この警報」
「……ねぇ、あそこの通り!兵士達が駆けてるよ!」
角から次々と現れ出る兵士達の元へ、秋羅達は駆け寄った。
その時、何かが壊される音と共に建物が揺れた。
建物が揺れた頃、エレベーターで地下へ向かっていた蘭丸と美麗は、揺れで動かなくなり閉じ込められていた。
「全然動かないよ……蘭丸」
「恐らく、さっきの揺れで緊急停止したんじゃろう」
「出られないの?」
「いや、出る方法はある(確か、この辺りに……)」
壁を触りながら、蘭丸は何かを探した。そして何かに触れると、そこを軽く叩いた。すると壁の一部が剥がれ、中からボタンが一つ設置されており、それを躊躇なく押した。
押した瞬間、エレベーターは動きそして一番近い階に着き戸が開いた。
「……凄ぉい……」
「全く、まだ直してなかったのか」
「直す?」
「緊急事態が発生した際、エレベーターを一番近い階で止めるように言ったんじゃが……
まだやっていないとは……」
「……?」
何かに気付いた美麗は、辺りを見ながら先を歩き出した。移動した彼女を見た紅蓮は、蘭丸の服を引っ張り、指差して共について行った。
「巨大な妖怪が、脱走した!?」
途中で合流した陽介から、秋羅達は話を聞きながら地下へ続く階段を降りていた。
「長年監禁していた妖怪が、どういう訳か脱走したらしい」
「巨大なら、すんなり見つかると思いますけど」
「そう簡単にいけば、こんな騒ぎにはならない」
「と、言いますと?」
「奴は、姿を消すことが出来る。
まぁ、簡単に言うと透明人間だ」
「そんなのが、脱走したって事は……
相当ヤバいじゃねぇか!!」
「だから、緊急指令出してんだよ!!」
「まだ地下にいてくれればいいんだが」
地下へ着いた陽介と梗介な、銃を手にして辺りを警戒しながら、先頭を歩いた。二人に合わせて、秋羅達も各々の武器を構え、歩み出した。
先に角を曲がろうした敬が、顔を覗かせるとそこに誰かの頭が顔面に直撃した。
「痛ってぇ!!何だ!?」
「……蘭丸!敵じゃなかった!」
聞き覚えのある声に、敬は鼻を押さえながら上半身を起こした。そこにいたのは、後から歩み寄ってきた蘭丸の元へ駆け寄る美麗だった。
「美麗!?
お前、頭突きするな!」
「……
あ!秋羅!」
「無視するな!!」
敬を横切り、美麗は後ろにいる秋羅の元へ駆け寄った。
「美麗ちゃん達が、どうして?」
「美麗が、声が聞こえると言って声の主を探しに、ここまで来たんじゃ」
「今地下は危険です!」
「分かっておる、それくらい。
それで、今はどういう状況じゃ?陽介」
「全部隊に呼び掛け、場内を隈無く探索しているところです」
「そうか」
「蘭丸、早く声が聞こえる所に行こう」
「分かったから、少し待て」
「……?」
何かの気配を感じた美麗は、後ろを振り返った。
そこには、何もいなかった……いや、姿形が無かった。
「……!
秋羅!皆!ジャンプ!!」
その声に、敬を除く秋羅達は一斉にジャンプした。訳が分からなかった敬は、足に何かが当たったかのようにして尻を着いた。
「な、何だ!?今の」
「何尻着いてんのよ、アンタ」
「い、いや!さっき、何か足に当たって!それで!」
「くだらない言い訳はいいから、早く立て」
「くだら……
梨白!!人を馬鹿にするのもいい加減にし……うわっ!!」
「またコケましたね?」
「うるせぇ!!」
「何もいないのに、何かに当たる……梗介」
「アイアイサー!
おら、出て来い!!」
ポーチから出したペイントボールを手にした梗介ほ、それをそこら中に投げた。すると数個のペイントボールに、何かが当たり消していたその姿を、秋羅達の前に現した。
「み、見付けたぁ!!」
「馬鹿!大声を出すな!」
「で、デカい……」
金色の目を浮かべ、長い尻尾を持ち大熊の姿をした妖怪は、見上げている秋羅達を順々に見て行った。そして、美麗を見付けるなり彼女に歩み寄り、周りを歩きながら彼女の匂いを嗅いだ。
美麗の元へ駆け寄ろうとした秋羅を、蘭丸は差し止めた。
匂いを嗅ぎ終えた妖怪は、自身の頭を美麗の体に軽く当てた。尻を着いた彼女は、すぐに起き上がると頬を舐めてきた妖怪の頭に体を乗せ、遊びだした。
「な、何か懐かれてるな?美麗の奴」
「つか、遊んでるぞ」
「(まだおったか……)安心せい。
あの子は、美麗の友達じゃ」
「友達って……」
遊ぶ美麗の元へ、蘭丸は歩み寄った。寄ってきた彼を、妖怪は匂いを嗅ぐとすぐに心を許したかのようにして、頭を擦り寄せてきた。
「あらあら、監察官にまで懐いてるわね」
「陽介、全部隊に伝えろ。
妖怪は、捕獲したと」
「はい。梗介」
「今連絡してます!」
妖怪の上に乗っていた美麗は、背中から滑り降りた。降りた彼女の頭を、妖怪は前足を上げ鋭く伸びた爪で撫でた。
「美麗、声はどうじゃ?」
「ん?
もう聞こえない。代わりに『会えた』って!」
撫でてくる爪を掴みながら、美麗は蘭丸に答えた。
秋羅達と戯れる美麗を、園庭の水辺から地狐は帰ってきていた天狐達と眺めていた。
『すっかり元気になったな』
『そうだね』
『……記憶の方は、どうなっている?』
『一応、自分が『美麗』だと言うことは思い出している。晃のことは……多分、思い出していないと思う。
紅蓮が晃の時、ずっと『紅蓮』と呼んでたから』
『そうか……
とりあえず、制御装置は今後のことも考えてブレスレットの他に、アミュレットを作ってきた』
『また随分と』
『妖力を取り戻し、あの時の記憶を蘇らせるにはいかない。
やっとここまで、平和に過ごせたのだから』
『分かっているよ』