桜の奇跡 作:海苔弁
「あ、あのぉ……そろそろ、檻に」
「鎖付けるの?」
「まぁね」
「じゃあ嫌だ」
「おい!」
「蘭丸さん!美麗を何とかして下さい!」
「これじゃあ、怖くて何もできませんよ!」
「……全く、腰抜け共が」
文句を言う大地と翔に、グチグチと言いながら蘭丸は美麗のところへ行き、彼女に話し掛けていた。
すると、美麗は頷くと妖怪を檻を中へと入れた。
「な、何で?」
「どんな手を使ったんだ?」
「ほれ、突っ立とらんで早く枷を着けんか」
「あ、はい!」
檻の中へ二人が入ると、美麗の前にいた妖怪は唸り声と牙を剥き出しながら、攻撃態勢を取った。
「ヒッ!」
「ウッ!」
「こっち!」
二人を睨む妖怪の顔を、美麗は自身に無理矢理向けさせた。固まっている二人の尻を、蘭丸は軽く蹴った。
我に戻った二人は、急いで前足と後ろ足に枷を着けた。そして、残る首輪を持ち音を立てぬよう抜き足忍び足と歩み寄りながら、首輪を着けた。
「……美麗、そろそろ」
「ハーイ。
バイバイ。また来るから」
頭を撫で、美麗は蘭丸と一緒に檻を出た。全員が出るのを確認すると、扉を示し厳重に鍵を掛けた。
「フゥー。これで平気だと思うわ」
「今まで大人しかったのに……
それに、何で枷が外れたんだ?」
「さぁ。
無理矢理壊したか、老朽化か」
「まぁ、大事になってないから、早急に調べる必要は無いと」
「儂等は部屋へ戻るぞ」
「戻る前に、美麗!
実験に」
「嫌だ!」
蘭丸の腕にしがみつき、美麗は翔を睨んだ。
「実験など、やめておけ。
陽介と幸人が聞いたら、主等脳天ぶち抜かれるぞ」
「そ、それだけは……」
「なら、やめておくんじゃな。
美麗、戻るぞ」
歩き出した蘭丸と共に、美麗は二人を睨みプイッと顔を前へ向き彼に笑いかけながら、部屋へと戻っていった。
二日後のことだった……
幸人達が目を覚ましたのは。
「ママ!」
「……奈々」
目を覚ました保奈美に、奈々はすぐに飛び付いた。飛び付いてきた彼女を、保奈美はしっかりと抱き締め頭を撫でた。
「……あ!幸人、起きた!」
起き上がった幸人に、美麗は背を向けていた秋羅に声を掛けた。
「体、大丈夫か?」
「何とかな。
まだ怠さが残ってるが、それ以外は」
「そうか……」
「ねぇ、幸人起きたからもう帰ろう」
「今起きて、今からは無理だ」
「明日の夕方、帰ろう」
「あの部屋にいるの、もう嫌だ~!」
「文句言うな!天狐が帰ってくるまで、あそこにいろって言われてんだろ?地狐に」
「だって~……」
『風船みたいな顔、しないの』
後ろからやって来た地狐は、膨れる美麗の頬を後ろから、軽くつまみながら引っ張った。
「天狐は?」
『さっき帰って』
『遅くなった』
霧と共に天狐は、敬を踏み付けるようにして立ち、エルと共に現れ出た。
「天狐!エル!」
(な、何で俺の上に……)
『思ったより、時間が掛かった』
駆け寄り抱き着いてきた美麗を、天狐は撫でながら持っていた入れ物の蓋を開け、中を見せた。
「うわぁ、綺麗……」
入れ物の中には、二つのブレスレット、アミュレットが入っており、それら全て桜をモチーフに作られていた。
「あれ?ブレスレットだけじゃないの?」
『今回で、妖力がかなり溢れて出てしまったからな。
ブレスレット一つじゃ、抑えようが無い』
「いいなぁ……
アタシも欲しい!」
「似たようなのを、今度買ってあげるわ」
「ワーイ!」
「甘やかすな、お前」
「奈々はまだ子供だから、いいんです」
「子供って……
もう15になってんだろ?」
「そろそろ親離れしねぇとな?」
「変人不良に言われたくない」
「お前、口だけは達者だな?」
騒ぎ出した二人を背に、美麗はブレスレットを手に嵌め、アミュレットを首に掛けた。その時、三つの石から淡い光が放ったが、すぐに消えた。
『これで安定するだろう。
地狐、後は頼む。私は先に森へ戻る』
『了解
僕ももう少ししたら、帰るよ』
『分かった』
「仕事放棄か?」
『お前等人間みたいに、私達は暇じゃないんだ』
「ヘイ、そうですか」
『じゃあな』
白い霧を漂わせ、天狐はその場から姿を消した。
彼女が消えると、傍で大人しくしていたエルは、嘴で美麗の頬を軽く突いた。突いてきたエルの頬を、彼女は撫でた。
「失礼します!」
ノックと共に、戸が開き外から敬礼をする兵士が入ってきた。
「海影様!ご依頼の手紙を預かってきました」
「おや?何でしょう」
兵士から手紙を受け取ったアリサは、兵士に礼を言いながら戸を閉めた。
彼女から受け取った手紙を、マリウスは広げ読んだ。
「……フゥー。
面倒な依頼ですね」
「何ですか?」
「魔犬退治です」
「またですか?」
「まけん?
秋羅、まけんって?」
「字の如く、魔の犬。
この国で言う、犬の妖怪だ」
「英国では、最近魔犬被害が多くて……
そうだ……
月影、この依頼手伝ってくれませんか?」
「丁重にお断りだ」
「決定と」
「人の話聞け!!」
「火影に水影、金影に木影の依頼を手伝っておきながら、何故我々の依頼を手伝いをしてくれないのですか?」
「場所を考えろ!場所を!
テメェの国まで、どれだけ掛かると思ってるんだ!」
「何、西洋の竜に乗っていけばすぐに着きます」
「テメェはドラゴン使いか!!」
『東洋の竜も負けてませんよ?』
「張り合うな!!」
「起きて、そんなに喋れるなら、もう平気だね」
そう言って入ってきたのは、大地だった。彼の姿を見た美麗は、警戒しながら秋羅の後ろへ隠れた。
「何だよ、ド変人」
「変な呼び方しないで!
折角、薬持ってきてあげたのに」
そう言いながら、大地は持っていた鞄から注射針を取り出した。それが美麗の目に入る寸前に、地狐は彼女の前に立った。
「……地狐?」
『秋羅、美麗達を連れて園庭に行ってるよ』
「分かった」
『美麗、行こう』
伸ばしてきた地狐の手を繋ぎ、部屋を出ていった。二人に続いて、紅蓮もエルを連れて出て行った。
「あら?どうかしたの?あの子達」
「お前が注射出すからだ」
園庭へ来た美麗は、目に入った手作りのブランコに座った。ユラユラと漕いでいると、木の上にいたゴルドとプラタは降り、彼女が乗るブランコの紐を掴み揺らし始めた。大きく揺れてきたブランコに、美麗は嬉しそうに笑った。
しばらくして、蘭丸が園庭へやって来た。地孤は彼を見ると、軽く会釈をして遊んでいる美麗に目を向けた。
『そろそろ、僕も姉気味の所へ帰るよ』
「やはり、一緒にはいられぬのか……」
『森を、姉君一人じゃ任せられないよ』
「……」
『美麗!おいで!』
地狐に呼ばれた美麗は、ブランコから降りるとゴルド達と共に彼の元へ駆け寄ってきた。
「なーに?」
『僕もそろそろ、姉君の所へ帰るね』
「え~、帰っちゃうの?」
『また来るよ』
膨れる美麗の頭を、地狐は撫でると何かを訴えるようにして、蘭丸の方に目を向けた。彼は何かを捕らえたかのようにして、深く頷いた。
『それじゃあね。ゴルド、プラタ行くよ』
寂しそうな鳴き声で、自身に寄り添う二匹を美麗は撫でた。
「ほら、地狐が呼んでるから行きな」
そう言うと、挨拶のようにして二匹は頬を舐め地狐の元へ行った。彼は霧を放ちそして、そこから煙のように姿を消した。
地狐を見送った美麗は、少し寂しそうに俯いた。そんな彼女を蘭丸は、黙って頭を撫でた。
北西の森……
月明かりが照らす獣道を、地狐は歩いていた。
森を抜け、境目に建てられた柵の戸を開け、中へ入った。石で作られた花壇に木の柵で作られた花壇、柵に吊された植木鉢がいくつも置かれていた。しかし、その花壇と植木鉢には花は咲いていなかった。
『相変わらず、寂しい庭だね』
『仕様が無いだろう。
世話をする者がいないのだから』
二階建ての家から出て来た天狐は、足で玄関の戸を閉めながら言った。
『まぁ、そうだけど。
何か植えて育てれば?
麗桜がよく言ってただろ?
『草木を育てると、心が穏やかになる』って』
『勝手に言ってろ』
『お~、怖い』
『……
あの頃は、毎年春になると彩りの花々が咲いたな』
そう言って、天狐は過去を思い出しながら庭を見回した。雑草が所々に生え、近くに生えていた枯れた木に吊された手作りのブランコは、紐が切れ板が落ちていた。
『よく、遊びに来たよね。
覚えてる?あのブランコで、美麗と晃がよく遊んでたよね』
『……』
『まだ小さな美麗を膝に乗せて、晃が軽く漕いで……』
聞こえてくる小さな子供の笑い声……
壊れる前の姿になったブランコに、若い頃の晃が座り彼の膝に小さい美麗を置き、揺らしていた。揺れるブランコに、美麗はご機嫌だった。彼女に釣られて、晃も花壇の手入れをしていた美優と麗桜も笑った。
『……』
『……帰るぞ』
『うん……』
二人はその家を出て行き、森へと帰った。