桜の奇跡 作:海苔弁
朱いドラゴンの背には、幸人とマリウスと暗輝が、蒼いドラゴンの背には、秋羅とアリサと水輝が乗っていた。
「結局、英国に行かされる羽目になったか」
「文句は国に着いてから、充分に聞きますよ。ウイスキー用意して」
「ソーセージも用意しとけ」
「分かりました。
……それより、大丈夫なんですか?」
「大丈夫?何が?」
「あれです」
マリウスが指差す方向には、エルの背中から飛び降り、ネロの背中へ着地し、ネロの背中から飛び降り、エルの背中へ着地と交互に飛び移りながら遊ぶ美麗と、彼女を見守るようにして、傍でゴルトとプラダが飛んでいた。
「何危ねぇ事してんだ!!
秋羅!!今すぐ止めろ!!」
「いや、無理だろ!!いきなりは!!」
「美麗!!やめろ!!落ちたら死ぬぞ!!」
「平気!平気!」
「平気なわけねぇだろう!!
変人双子、どうにかしろ!!」
「いや、無理だから!!」
「いや、無理だろ!!」
幸人達が騒いでいる間に、ネロの背中に乗っていた紅蓮は立ち上がり、落ちてきた美麗をキャッチした。
『遊びは終わり。
エルの背中で大人しくしてろ』
「え~!もっと~!」
『地上に降りた時、幸人達から雷食らうぞ。それでもいいのか?』
「……嫌だ」
『じゃあ、大人しくしろ』
霧の都・英国
本部での会議から一週間後。
幸人達は、本部から直接マリウスが呼んだ二匹のドラゴンに乗り、英国へと行った。出発直前、エルに乗っていた美麗を、どこからかやって来たネロは銜え、自身の背中へ乗せた。乗せられた彼女の傍へ、ネロの子供のゴルトとプラダが駆け寄り、頬摺りした。
『……幸人、こいつ(ネロ)に乗って行くわ』
『ヘーイ』
ドラゴンに乗り、マリウス宅に着いた頃には辺りは暗くなり始めていた。広い草原に降り立ったドラゴン達は、首を降ろしマリウス達を下ろした。
「凄え。幸人達の家と同じくらい広いな」
「ドラゴン使いは、これくらいの領土を持っていないと、彼等を置いておけませんので」
遅れて降りてきたネロ……首を下ろす前に、美麗は紅蓮と共に飛び降りた。
降りた直後、美麗は幸人から強烈な拳骨を食らった。
「い、痛い……」
「そんな強く殴らなくても良いだろう」
「一発で済んだだけでも、有り難いと思え」
「相変わらず、厳しいことで」
痛がる美麗の頭を、水輝は撫でながら彼女を宥めた。
「しっかし、お前が竜使いだったとは……
いつからだ?」
「10年前からです。
師が亡くなる直前に、ドラゴンの扱い方を教えてくれたので」
「ワオー」
「弟子はいつからなの?」
「同じく10年前です」
「へー」
「先生ー!早く家へ入りましょー!」
裏口の門灯を点けたアリサの呼び声に、幸人達は家へと入った。
「どっかの御曹司の館みてぇな家だな」
「我々一族の遺産みたいな物ですよ」
「それじゃあ、花琳の奴もここへ来るのか?」
「月命日に。
彼女のご両親のお墓が、この敷地内にあるんです」
「それって、小さい森に立ってた四つの石?」
「……えぇ、まぁ」
「よく知ってるわね」
「空から見えて、気になってさっき行った」
「いつの間に……」
「でも、何であんな寂しいところに立てたの?
ここでもよかったじゃん」
「僕の両親も彼女の両親も、静かな場所が好きだったんだよ。だから」
「フーン」
「それより……
椅子の上で膝立ちするのはやめなさい!端たない!!」
「相変わらずうるせぇな、そういう所」
「あなたの躾が悪いからでしょう、月影」
「頭でっかちのテメェみたいに、俺はなりたくないんだよ」
「弟子にまで感染させてどうするんですか?」
「テメェに言われたくねぇんだよ!」
「まぁまぁ、もう夜遅いから喧嘩は明日な!明日」
暗輝が二人の喧嘩を仲裁している間に、秋羅は美麗を椅子に座らせた。
「外で膝立てはするな」
「家の中でも駄目なの?」
「余所の家は駄目だ!」
「というより、普通に座りなさい。あなた一応はレディーでしょ?」
「なあに?それ」
「っ……」
「アリサ、あまり気にするな」
「あ、は、はい……」
翌日……
霧が掛かる朝、幸人達は都心へと続く道を歩いていた。
「流石、霧の都。
凄え霧だ」
「本当」
「これだけ濃いと、どこに誰がいるか分かんねぇな」
「ミーちゃんに、紐着けといて正解だったね」
秋羅の手首に巻き付けられていた紐の先には、紐を腰に縛り辺りを歩き回る美麗がいた。
「案の定、動き回っている……」
「紅蓮達と一緒に、お空のお散歩の方が良かったかな?」
「そろそろ都心へ着きます。決して離れないよう、お願いします」
徐々に霧が晴れ、辺りが見渡せるようになった……それに合わせて、美麗は秋羅の元へ戻り羽織っていたポンチョのフードを被った。
石畳になった道を歩く幸人達。辺りには、路地裏で煙草を吸う者や、何かを狙っているかのように、ジッと見つめる者がそこら中にいた。
「この街路は、浮浪者が多くいます。
依頼人はこの街路の先にいます」
「危険な町だなぁ……」
「女子供で歩いてたら、あっという間に餌食になるね」
「まぁ、この辺りに殺人鬼が出没したって話は出てますけど?」
「ますます物騒だね」
「殺人鬼って妖怪なの?」
「いいえ。
生身の人間よ。5人以上の売春婦が犠牲になっているの」
「ばいしゅんふ?
それって、女が男に」
「それ以上言わなくて良し!」
「着きましたよ」
そう言って、マリウスはドアノックを叩いた。すると中から、メイドが現れ彼の話を聞き秋羅達を中へ入れた。完全にドアが閉まるのを確認した美麗は、被っていたフードを取り中を見回した。
「お待たせしました。
依頼主のアルフ・オルビーです」
「初めまして。祓い屋の海影です。
今回は魔犬退治ということで、仲間を数人呼びました」
「そうでしたか……
あぁ、どうぞ腰掛けて下さい」
6人が席へ着く中、美麗は部屋から出て行きどこかへ行った。それに気付いた水輝は、すぐに彼女の後を追い駆けた。
「……どういう躾をしてるんですか?
幸人」
「俺に振るな」
オルビー宅の中庭……
馬の水飲み場で、エルは水を飲んでいた。その隣で、人の姿となった紅蓮は、退屈そうに大あくびをしていた。
すると、扉が開く音がした。水を飲んでいたエルは、顔を上げ、扉の方を向いた。
中から出て来たのは、美麗だった。彼女の姿に、エルはすぐに駆け寄った。
(何だ……エル達の所に行きたかったのか)