桜の奇跡   作:海苔弁

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資料を読む幸人達。資料に沿って、アルフは淡々と話した。


「一ヶ月前から、魔犬が現れたと……」

「そして、同じ頃に殺人鬼が出没した……

偶然か?」

「分かりません……

ただ、私には接点が無いとは思えないんです」

「……」

「魔犬による被害は、まだ家畜程度ですけど……

殺人鬼による被害者は、5人ですね」

「はい……」

「魔犬の被害、広がる可能性は充分にあるな……

出る場所に、決まりや必ず出る所はありますか?」

「場所は転々としてますが……

出没するのは、霧が濃い日です。殺人鬼も」

「同時に出るんですか?」

「えぇ……

魔犬が出たと通報があり、そちらに行くんですが……その数分後に、殺人鬼が現れたと」

「殺人鬼が出る場所は?」

「主に市街地です」


魔犬と殺人鬼の出現

夕方……

 

依頼主の家を後にした幸人達は、近くのカフェテリアで資料を見ながら休んでいた。

 

 

「魔犬の最初の目撃は、墓場近く。二度目は公園。三度目は牧場」

 

「そして、殺人鬼は全て市街地。

 

見張る場所は、計4つだな」

 

「僕は単独で動きますから、残り三つはあなた方で」

「テメェは単独行動禁止だ。

 

美麗、紅蓮達と一緒に公園見張れ」

 

「分かった!」

「幸人!?」

 

「水輝はアリサと一緒に墓地に、秋羅は暗輝と一緒に牧場。

 

俺と湊都は市街地だ」

 

「月影!!その名前で呼ぶな!!」

 

「呼ばれたくなきゃ、単独行動するな」

 

「その前に、美麗を1人にして良いのか!?

 

下手したら、魔犬の餌食になるぞ!!」

 

『餌食になる前に、俺が魔犬を噛み殺す』

 

「わー、おっかねぇ」

 

「そういう事だ。

 

エルもいるし、何とかなるだろう」

 

「おい幸人、奏歌との約束覚えてるよな?」

 

「……あ、すっかり忘れてた」

 

「おい!!」

 

「俺が美麗と一緒に行動するから、エルは秋羅と」

 

「あ、はい」

 

「何で私じゃないの!?」

 

「エルがアリサの言う事聞くと思うか!?

 

だったら、確実に言う事聞く秋羅に任せた方が良いだろう!!」

 

 

正論を言われ、水輝は頬を軽く膨らませながらそっぽを向いた。

 

 

「ったく……」

 

「暗輝!公園!」

 

「分かったから、先に行こうとするな!」

 

「秋羅、危険だって思ったら、すぐ逃げろ。いいな?」

 

「了解。

 

エル、行くぞ」

 

「水輝さん、行きましょう」

 

「ハイヨー」

 

「オラ行くぞ、湊都」

 

「その名前で呼ぶなと言ってるだろう!」

 

 

幸人に怒鳴りながら、マリウスは市街地へと行った。まだ行っていなかったアリサは、水輝の方に向いた。

 

 

「あの、湊都って?

 

先生の名前は確か、マリウスじゃ」

 

「それは自分の師から、聞いた方が良いよ。私達じゃなくて」

 

「……」

 

「さぁ、行こうか……

 

墓地に」

 

 

少し怖じ気つきながら、水輝はアリサと共に墓地へ向かった。

 

 

 

夜……静まり返った夜の町は、薄霧に包まれていた。

 

辺りから聞こえてくるのは、酔っ払いの笑い声や怒鳴り声だった。

 

 

公園の茂みに身を潜めた暗輝達は、辺りを見ながら警戒していた。

 

 

「全然出ないね?」

 

「的外れか?

 

 

こちら暗輝、公園は異常なし」

 

 

自身の耳に着けていた無線から、暗輝は幸人達に連絡を取った。

 

 

連絡を受けた幸人は、返事をしながら市街地をマリウスと歩いていた。

 

 

「本当に霧の都だな。

 

右を見ても左を見ても、霧で覆われて」

 

「無駄な話をしないで、先程の話でもして貰いましょうか?」

 

「何だ?」

 

「あの名前は当に捨てた者です。

 

二度と呼ばないで下さい」

 

「そこまで恨まなくても良いだろう?

 

もう死んでんだしよ」

 

「恨むも何も、あれのせいで僕は酷い目に遭ったんですから……

 

施設の方々はもちろん、先生がいなければ今の僕はいません」

 

「でも、お前が改名したのは日本を発った後だ」

 

「……」

 

「とはいえ、あの施設も今じゃもう物家の空だしな」

 

「仕方ありませんよ。

 

妖怪の餌場になれば、誰だって近付きたくありませんから」

 

「……ま、そうだな」

 

 

「キャァアアア!!」

 

 

その叫び声に、二人はすぐに現場へと向かった。

 

 

遠くから聞こえた叫び声に、美麗は微かに響いてきた方向を向いた。

 

 

「美麗、どうかしたか?」

 

「叫び声が聞こえたよ」

 

「あぁ……確かに、聞こえたけど……

 

そこら中から、酔っ払いに絡まれて叫び声を出す女性達の声がするから、その声じゃねぇの」

 

「……?」

 

 

後ろから、何かの気配を感じた美麗は振り返った。後ろにいたのは周りに建っている二階建ての一軒ほどの大きさの、銀色の毛並みをした犬だった。

 

突然静かになった彼女に、暗輝は振り返り目の前にいる犬を目の当たりにした。

 

 

(あ、現れた……

 

は、早く幸人に連絡入れ……いや待て。

 

 

その前に、美麗をこっちに)

 

 

手を伸ばした瞬間、自身の前にいた美麗は近付いてきた犬の額に手を置き軽く撫でた。犬は気持ち良さそうな顔をしながら、その場に伏せた。

 

 

「……暗輝、こいつ全然大人しいよ!」

 

「み、みてぇだな……」

 

 

犬は美麗を許したかのように、頬を舐め大きい頭を擦り寄せた。頭に当たり尻を着いた彼女は、犬の頭を撫でた。その様子を伺いながら、幸人達に連絡した。

 

 

「こちら暗輝、魔犬に遭遇。

 

だが、危険性は無い」

 

《こちら水輝。

 

了解。すぐアリサと一緒にそちらへ向かう》

 

《こちら秋羅。

 

水輝さんと同様、そちらへ向かいます》

 

「了解。

 

 

おい幸人、聞こえてるか?幸人!

 

おっかしいなぁ……全然応答しない」

 

『無線機に出られない理由でも、あるんじゃねぇのか?』

 

「理由って?」

 

『さぁ……』

 

 

《こちら幸人!!応答しろ!!》

 

 

無線機から聞こえてくる声に、暗輝は耳を向けた。その間、美麗に懐いていた犬が、突然顔を上げると唸り声を出した。そして彼女を守るようにして、自身の足下へ隠した。

 

 

「?どうしたの?」

 

 

 

 

“ピチャン”

 

 

「?」

 

 

背後から聞こえてくる、雫が地面に落ちる音……美麗はゆっくりと、振り返った。




魔犬が現れる数分前……


女性の悲鳴を聞きつけた幸人達は、現場へ辿り着いた。

地面には、体から血を流し倒れる女性と、黒い服とマントに身を包み、シルクハットを被った者が血の付いたナイフを手に、彼女の前に立っていた。


「な、何だあれ……」

「全身を黒い服で包んでいる……

間違いありません。あれが殺人鬼。切り裂きジャックです」

『……何か用?』

(何だ……この禍々しい空気は……

足が鈍りみてぇに重い……)


振り返った殺人鬼から放たれる、禍々しい気配に二人は底知れぬ恐怖を感じ、動けずにいた。


『……?


美味しそうな気配が、公園からする……


また、殺せる』


不敵な笑みを浮かべた殺人鬼は、そこから霧を放ち姿を消した。いなくなってからしばらくして、動けるようになった二人は、すぐに殺人鬼の後を追い駆け、そのまま無線機に連絡を入れた。
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