桜の奇跡 作:海苔弁
「フゥー、疲れた~」
「暗輝達の容態は?」
寝起きだった幸人は、ソファに深く腰掛けながら質問した。水輝は、アリサが淹れた紅茶を飲みながら答えた。
「回復待ち。
幸い、二人共傷口が浅かったから大事に至らなかったって感じかな」
「いつ頃退院できるんですか?」
「まだ分からない。
二人共、私が帰るまで意識が戻ってなかったから」
「……」
「あれ?ミーちゃんは?」
「部屋でまだ寝てる」
「寝てるのか……じゃあ、安心だ」
「?どういう事だ?」
「ミーちゃん……
もしかしたら、現場見てるよ」
「え……」
「私達が駆け付けた時、ミーちゃんの顔には血が付いていた。
それに、相当怖がってた……耳塞いで、顔伏せて」
「……そういや、アイツ帰ってきてから一言も喋ってないですよね?」
「そんじゃあ、ちょっと様子見てくる」
そう言って、水輝はティーカップを置き二階へ上がった。
「……誰が、まだ寝てるって?」
誰もいない部屋を見ながら、水輝は隣に立っている幸人を睨んだ。睨まれた彼は、目を合わさないようそっぽを向いた。
「見た所、夜中に出て行ったという感じですね?」
「もしかしたら、エル達の所に行ったんだろうな。
幸人、俺森の方見てくる」
「頼む」
「1人は危険です。私が案内します」
「頼む」
「私も行くよ。
どっかの誰かさんが、ミーちゃんをほったらかしにしたから、今の彼女の状態がどうなのか知りたいし」
「お願いします」
アリサを先頭に、3人は庭へと出て行った。
庭を駆け、小さな森へ着いたアリサ達は奥へと行った。
木々に囲まれた小さな広場に、美麗はネロの鬣に顔を埋め眠っていた。
「やっぱりここで寝てたか」
その時、スッと目を開けたネロは、彼等の姿を見るなり唸り声を上げながら、首を起こした。寝ていた美麗は、ネロの体から転がり落ちムクッと起きると、あくびをしながら目を擦った。
目をパチパチとさせた美麗は、秋羅達に気付くと首を上げ威嚇しているネロを、宥めるようにして首を撫でた。我に戻ったネロは、唸るのをやめ美麗に頭を擦り寄せた。
「い、命拾いした……」
「だね……」
「……?
あ、秋羅。
……紅蓮は?」
「紅蓮は」
「紅蓮なら、怪我して病院に。
何の問題も無いよ」
「……病院行く」
「あとで一緒に行こう。
その前に、体洗おっか」
そう言って、水輝は美麗を立たせた。彼女の手には、自分が渡した大きめのタオルが握られていた。
「……さぁ、行こう」
ネロ達の頭を撫でると、美麗は水輝の元へ行き森を後にした。
マリウス宅へ戻り中へ入ると、応接室へ入って行く2人の男とマリウス達がいた。
「誰だ?あの人達」
「さぁ……
私はあの方々にお茶を出しますので、皆さんはリビングの方へ」
「分かった」
「シャワールーム、借りていいかな?」
「どうぞ。着替えとタオル、ご用意します」
「ありがとう」
キッチンへと行くアリサを見ながら、水輝は顔をニヤニヤさせて、秋羅の肩に手を置いた。
「嫁として、どう?」
「何でそうなるんですか?!
つか、アンタは母親か!」
「あれだけキッチリしてる子、滅多にいないよ!
だから、ここで一つ」
「変なこと考えるんであれば、美麗をこちらに渡して下さい」
「絶対嫌だ!」
応接室……
アリサが出した紅茶を一口飲んだ男は、口を開いた。
「昨夜の通り魔事件、あなたいましたよね?
裏通りに」
「いましたよ、仕事で。
証人なら、こちらの方が」
「……日本人?」
「えぇ。
今回の事件、殺人鬼及び魔犬退治のお手伝いに」
「そうですか……
話が逸れました。
実は、昨夜起きた事件の被害者が巨大な黒狼と男性日本人、そして売春婦の計3人」
「その内の2人……黒狼と日本人男性が被害に遭った場所には、女の子が1人いたと目撃情報がありました」
そう言って、若い男は美麗の横顔が描かれた紙を出し、幸人とマリウスに見せた。マリウスの紅茶を淹れていたアリサも、見せられていた絵をチラッと見た。
「その絵は、被害に遭われる前に、彼等を見掛けたという通行人の証言から描いた物です。
この少女が、昨夜あの現場にいたのなら、切り裂きジャックの顔を見ている可能性があるんです」
「見ていたとしたら、どうするんです?警察の方々は?」
「無論、話を聞きます。
どういう顔でどういう容姿をしていたか……」
「聞くのであれば、日を改めてお願いできますか?」
「何故です?」
「それは、ご自身で考えて下さい」
「……」
「さ、もうお帰り下さい。
これから、仕事の準備で忙しくなるのですから」
そう言って、マリウスは戸を開けた。二人は顔を見合わせ、軽く溜息を吐くと仕方なく席を立ち、家を出て行った。
「帰ったの?」
シャワーを浴びた水輝が、首にタオルを巻きながら部屋から出て来てた。
「一応な」
「事件を早く解決したいのは分かりますが、まだ整理がついていない子供に話を聞くなど……」
「こっちの警察も、うちと同じだな」
「だね。
あぁ、そうだ。今からミーちゃん連れて病院行くから」
「分かった。
秋羅、一緒に着いてってくれ」
「分かった」
「アリサ、あなたもご一緒に」
「それでは仕事が」
「昼間だけだ。
夕方頃に、また追って連絡する」
「分かりました」
「あの、失礼ですけど……
美麗はどこに?」
「二階。支度して待ってるように言ったから」
「水輝、行こう!」
二階から降りてきた彼女は、段を飛び降りると水輝の元へ駆け寄った。
「支度するから、玄関で待ってて」
「うん!」
数分後、スーツに身を包んだ水輝は、下ろしていた髪を結いながら外へ出た。
「そんじゃ、また夕方連絡する」
「あいよー。
ミーちゃんは、このまま私と一緒でいい?」
「構わん。
秋羅、連絡入ったらアリサ連れて、指定する場所に来いよ」
「了解」
「アリサ、秋羅の誘導に従って下さいね」
「はい」
「ねぇ!早く行こう!」
「分かった……って、先に行くな!!エルに乗るな!!」
空へ飛ぼうとするエルの手綱を、秋羅は握り止めた。その様子に、水輝はアリサを連れて病院へと向かった。
そんな彼等を、先程出て行ったはずの警察官達が、茂みから見ていた。
「あの子、似顔絵の」
「着けて、1人になったところで話を聞くぞ」
「はい」