桜の奇跡   作:海苔弁

88 / 228
翌日の早朝……髪を上に結い団子にした水輝が帰ってきた。


「フゥー、疲れた~」

「暗輝達の容態は?」


寝起きだった幸人は、ソファに深く腰掛けながら質問した。水輝は、アリサが淹れた紅茶を飲みながら答えた。


「回復待ち。

幸い、二人共傷口が浅かったから大事に至らなかったって感じかな」

「いつ頃退院できるんですか?」

「まだ分からない。

二人共、私が帰るまで意識が戻ってなかったから」

「……」

「あれ?ミーちゃんは?」

「部屋でまだ寝てる」

「寝てるのか……じゃあ、安心だ」

「?どういう事だ?」

「ミーちゃん……

もしかしたら、現場見てるよ」

「え……」

「私達が駆け付けた時、ミーちゃんの顔には血が付いていた。

それに、相当怖がってた……耳塞いで、顔伏せて」

「……そういや、アイツ帰ってきてから一言も喋ってないですよね?」

「そんじゃあ、ちょっと様子見てくる」


そう言って、水輝はティーカップを置き二階へ上がった。


英国の本官

「……誰が、まだ寝てるって?」

 

 

誰もいない部屋を見ながら、水輝は隣に立っている幸人を睨んだ。睨まれた彼は、目を合わさないようそっぽを向いた。

 

 

「見た所、夜中に出て行ったという感じですね?」

 

「もしかしたら、エル達の所に行ったんだろうな。

 

幸人、俺森の方見てくる」

 

「頼む」

 

「1人は危険です。私が案内します」

 

「頼む」

 

「私も行くよ。

 

どっかの誰かさんが、ミーちゃんをほったらかしにしたから、今の彼女の状態がどうなのか知りたいし」

 

「お願いします」

 

 

アリサを先頭に、3人は庭へと出て行った。

 

 

庭を駆け、小さな森へ着いたアリサ達は奥へと行った。

木々に囲まれた小さな広場に、美麗はネロの鬣に顔を埋め眠っていた。

 

 

「やっぱりここで寝てたか」

 

 

その時、スッと目を開けたネロは、彼等の姿を見るなり唸り声を上げながら、首を起こした。寝ていた美麗は、ネロの体から転がり落ちムクッと起きると、あくびをしながら目を擦った。

 

目をパチパチとさせた美麗は、秋羅達に気付くと首を上げ威嚇しているネロを、宥めるようにして首を撫でた。我に戻ったネロは、唸るのをやめ美麗に頭を擦り寄せた。

 

 

「い、命拾いした……」

 

「だね……」

 

「……?

 

あ、秋羅。

 

 

……紅蓮は?」

 

「紅蓮は」

「紅蓮なら、怪我して病院に。

 

何の問題も無いよ」

 

「……病院行く」

 

「あとで一緒に行こう。

 

その前に、体洗おっか」

 

 

そう言って、水輝は美麗を立たせた。彼女の手には、自分が渡した大きめのタオルが握られていた。

 

 

「……さぁ、行こう」

 

 

ネロ達の頭を撫でると、美麗は水輝の元へ行き森を後にした。

 

 

マリウス宅へ戻り中へ入ると、応接室へ入って行く2人の男とマリウス達がいた。

 

 

「誰だ?あの人達」

 

「さぁ……

 

私はあの方々にお茶を出しますので、皆さんはリビングの方へ」

 

「分かった」

 

「シャワールーム、借りていいかな?」

 

「どうぞ。着替えとタオル、ご用意します」

 

「ありがとう」

 

 

キッチンへと行くアリサを見ながら、水輝は顔をニヤニヤさせて、秋羅の肩に手を置いた。

 

 

「嫁として、どう?」

 

「何でそうなるんですか?!

 

つか、アンタは母親か!」

 

「あれだけキッチリしてる子、滅多にいないよ!

 

だから、ここで一つ」

「変なこと考えるんであれば、美麗をこちらに渡して下さい」

 

「絶対嫌だ!」

 

 

 

 

応接室……

 

 

アリサが出した紅茶を一口飲んだ男は、口を開いた。

 

 

「昨夜の通り魔事件、あなたいましたよね?

 

裏通りに」

 

「いましたよ、仕事で。

 

証人なら、こちらの方が」

 

「……日本人?」

 

「えぇ。

 

今回の事件、殺人鬼及び魔犬退治のお手伝いに」

 

「そうですか……

 

話が逸れました。

 

 

実は、昨夜起きた事件の被害者が巨大な黒狼と男性日本人、そして売春婦の計3人」

 

「その内の2人……黒狼と日本人男性が被害に遭った場所には、女の子が1人いたと目撃情報がありました」

 

 

そう言って、若い男は美麗の横顔が描かれた紙を出し、幸人とマリウスに見せた。マリウスの紅茶を淹れていたアリサも、見せられていた絵をチラッと見た。

 

 

「その絵は、被害に遭われる前に、彼等を見掛けたという通行人の証言から描いた物です。

 

この少女が、昨夜あの現場にいたのなら、切り裂きジャックの顔を見ている可能性があるんです」

 

「見ていたとしたら、どうするんです?警察の方々は?」

 

「無論、話を聞きます。

 

どういう顔でどういう容姿をしていたか……」

 

「聞くのであれば、日を改めてお願いできますか?」

 

「何故です?」

 

「それは、ご自身で考えて下さい」

 

「……」

 

「さ、もうお帰り下さい。

 

これから、仕事の準備で忙しくなるのですから」

 

 

そう言って、マリウスは戸を開けた。二人は顔を見合わせ、軽く溜息を吐くと仕方なく席を立ち、家を出て行った。

 

 

「帰ったの?」

 

 

シャワーを浴びた水輝が、首にタオルを巻きながら部屋から出て来てた。

 

 

「一応な」

 

「事件を早く解決したいのは分かりますが、まだ整理がついていない子供に話を聞くなど……」

 

「こっちの警察も、うちと同じだな」

 

「だね。

 

あぁ、そうだ。今からミーちゃん連れて病院行くから」

 

「分かった。

 

秋羅、一緒に着いてってくれ」

 

「分かった」

 

「アリサ、あなたもご一緒に」

 

「それでは仕事が」

 

「昼間だけだ。

 

夕方頃に、また追って連絡する」

 

「分かりました」

 

「あの、失礼ですけど……

 

 

美麗はどこに?」

 

「二階。支度して待ってるように言ったから」

 

 

「水輝、行こう!」

 

 

二階から降りてきた彼女は、段を飛び降りると水輝の元へ駆け寄った。

 

 

「支度するから、玄関で待ってて」

 

「うん!」

 

 

 

数分後、スーツに身を包んだ水輝は、下ろしていた髪を結いながら外へ出た。

 

 

「そんじゃ、また夕方連絡する」

 

「あいよー。

 

ミーちゃんは、このまま私と一緒でいい?」

 

「構わん。

 

秋羅、連絡入ったらアリサ連れて、指定する場所に来いよ」

 

「了解」

 

「アリサ、秋羅の誘導に従って下さいね」

 

「はい」

 

「ねぇ!早く行こう!」

 

「分かった……って、先に行くな!!エルに乗るな!!」

 

 

空へ飛ぼうとするエルの手綱を、秋羅は握り止めた。その様子に、水輝はアリサを連れて病院へと向かった。




そんな彼等を、先程出て行ったはずの警察官達が、茂みから見ていた。


「あの子、似顔絵の」

「着けて、1人になったところで話を聞くぞ」

「はい」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。