桜の奇跡 作:海苔弁
丁度そこに、水輝が暗輝の病室から出て来た。
「あれ?二人共、どうしたの?」
「美麗は?」
「地下で眠ってるけど……何?どうかしたの?」
「紅蓮も一緒か?」
「もちろん……
けど、少し様子が変だ」
「やっぱりか……」
「え?」
「水輝、紅蓮を外に連れ出せるか?」
「まぁ一応……担当医に確認取れば」
「今すぐ取れ!」
「え?何で?」
「説明は後だ!」
急かす幸人を気にしながら、水輝は首から下げていた無線機を耳に当てて、連絡を取った。
地下室……
紅蓮に抱き着き眠っていた美麗は、スッと目を覚ました。目を擦りながら、彼女は立ち上がり手にタオルを持って、ドアノブに手を掛けた。
「……あれ?
開かない……何で?」
開かないドアの前に、佇む美麗……不安と恐怖が押し寄せ、彼女はすぐに後ろを振り返った。
目に映った光景は、本部で過ごしたあの部屋が広がっていた。
「……紅蓮?
紅蓮!紅蓮!
っ!」
誰かの名前を言おうとした……だが、その名前が出て来なかった。怖くなり、耳を塞ぎながらその場に座り込んだ。
その時、服が何かに引っ張られ、美麗は頑なに閉じていた目を開けた。目の前には紅蓮がおり、彼は慰めるようにして体を擦り寄せた。
「……紅蓮」
泣きながら、美麗は紅蓮にしがみついた。その時、ドアの鍵が開く音がし、外から年老いた男が1人入ってきた。彼の姿を見た紅蓮は、唸り声を上げながら攻撃態勢を取った。
「あぁ!ちょっと、待って!」
奥から聞き覚えのある声が聞こえ、美麗はその声に耳を傾けた。年老いた男の後ろから、幸人と水輝が姿を現した。二人を見ると、紅蓮は唸るのをやめ美麗の傍に座った。
「ミーちゃん、この人は紅蓮を診てくれる医者だよ」
「医者?
暗輝じゃないの?」
「暗輝はまだ寝てる。
今から診察するから、お前は外に出てろ」
大人しくしている紅蓮の頭を撫でると、美麗は秋羅の傍へ行った。
紅蓮が診察されている間、秋羅は何かが気になり美麗の顔を見た。
「……美麗、泣いたか?」
「うん、少し」
「何か、嫌なことあったのか?」
「ドアの鍵閉まってて……出られないと思ったら、急に怖くなって」
「そうか……」
「でも、すぐに紅蓮が傍に来てくれたから平気になった」
診察が終わったのか、部屋から紅蓮が出て来て美麗に擦り寄った。一緒に聴診器をバックにしまいながら、男は水輝と幸人に二言話すと、その場を後にした。
「紅蓮の奴、何だって?」
「完全に傷口は塞がってる。
キッチリ飯を食べれば、元通りだとよ」
「さすが、黒狼」
「さてと、紅蓮達連れてさっきの所に戻るぞ」
「ちょっと!訳聞かせてよ!
何があったの?血相かいて来たけど」
「いたんだよ」
「?
いたって?」
「人の姿した紅蓮が、俺達が探索してた墓場に」
「!?」
その言葉に、美麗は咄嗟に紅蓮に抱き着いた。
「ど、どういう事!?」
「分からねぇんだよ、どういう事か」
「それで、ここにいる紅蓮を連れて来れば何か分かるんじゃないかと思って」
「……何だ?そのドッペルゲンガー現象は」
「説明は追々話す。
紅蓮達連れて行くぞ」
「了解」
外へと続くドアを開け、3人は表へ出て行った。
墓場へ着く幸人達……人の姿をした紅蓮は、木の下に座っており、傍にはアリサとマリウスが立っていた。
彼の姿を見た美麗は、黒狼の紅蓮と交互に見た。
「……そちらが、黒狼の紅蓮」
「あぁ」
「どうなってるの?
二つの姿が、同時に」
「何か喋ったか?」
「何も……」
一点を見つめる人姿の紅蓮……その姿を見ながら、秋羅は幸人に小声で話し掛けた。
「幸人、ちょっと話ある」
「あんならここで話せ」
「美麗に聞かれたくないんだ」
「……
マリウス、アリサ、話がある」
「美麗、ちょっとここにいてくれ」
「うん」
離れていく4人を見つつ、美麗は振り返り人姿の紅蓮に歩み寄った。彼女の姿に、彼は顔を上げソッと手を伸ばした。伸ばしてきた手を、美麗は握るとその手を自身の頬に当てた。
すると人姿の紅蓮は、美麗の頬を撫でた。
「……っ」
誰かの名が頭に過ぎった……それを言葉に出そうしたが、その名が思い出せない。
『……
君が覚えていなくても、僕は覚えてるよ』
「え?」
『おいで、美麗』
頬に当てていた手を伸ばし、人姿の紅蓮は美麗を抱き寄せた。抱かれた美麗は、どこか懐かしい温かみを感じ、彼の胸に顔を埋め、気持ち良さそうにした。その光景を見た黒狼の紅蓮は、大きくあくびをすると二人の傍で丸くなった。
離れた場所へ来た秋羅は、幸人達に晃のことを話した。
「……つまり、その美麗の家族である晃は、もう死んでる。
けど、生まれ変わって記憶と引き換えに『紅蓮』となり、彼女の傍にいると」
「あぁ」
「不思議な話ですね……」
「晃さんという方について、美麗は?」
「晃のことは、全部記憶に無い。
というより、記憶を封印してるって天狐達が」
「何故、封印を」
「さぁ……
その辺りのことは、何も話してくれなかったから」
その時、辺りに霧が漂った。
四人は霧が濃くなる前に、美麗達の元へ戻った。
眠る美麗を、地面に置き頭を一撫ですると、人姿の紅蓮は光の粒となり、その場から姿を消した。
同時に霧が晴れ、眠っていた美麗はスッと目を開け起き上がった。
「……」
「美麗!」
秋羅の呼ぶ声に、美麗は振り返りながら立ち上がった。
「紅蓮は?」
「ここにいるよ」
傍で伏せていた紅蓮は、大あくびをし体を伸ばした。
『何か、変な夢見てたな……』
「紅蓮が」
「元に戻った……」
「美麗、ここにいた男は?」
「男?
どっか行った」
そう言って、美麗は寄ってきた紅蓮の頭を撫でると、立ち上がり勢いを付けて背中に乗った。それに合わせて、紅蓮は立ち上がると、辺りを駆け回った。
『あなたには、本当に感謝します。
どうしても、彼女のことが気懸かりだったので……
けどまさか、あなたがここに来ていたとは……少し、驚きです。
約束しましたでしょう……
何があっても、美麗の傍から離れないと』
大丈夫……
どこにいようと、あなたは必ず私の手で守る。