桜の奇跡   作:海苔弁

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夕方……


暗輝の病室に集まる幸人達……先程目を覚ました暗輝は、傷口を縫った糸を水輝に抜糸して貰っていた。


「まさか、ここまで大怪我を負っているとは思わなかった……」

「無事で何よりだ」

「今日も見張るのか?」

「あぁ」

「今回は、墓場と市街地、公園の三点に絞ります。

墓場は僕が。市街地は月影。公園はアリサと秋羅でお願いします」

「あれ?美麗は?」

「ここで、暗輝達と待機だ」


窓の外で野良猫と戯れる美麗を、幸人は見た。


「殺人鬼の顔を目撃してる可能性がある。

そんな奴を1人にしておけない」

「まぁ、そうだな」

「牧場の方はどうするんですか?

確か、あそこにも目撃情報が」

「今回捨てる」

「……」


殺人鬼再び

夜……

 

 

暗輝の病室で、静かに本を読む美麗。

ベッドで横になっていた暗輝は、薬の効果で眠っていた。彼と同じように、薬を飲んだ紅蓮は美麗の傍の床下で眠っていた。

 

 

そこへ様子を見に水輝が、病室へ入ってきた。

 

 

「あれ?二人共、寝てるの?」

 

「うん。さっきまで起きてたけど」

 

「時間も時間だし、ミーちゃんも眠れば?」

 

「まだ眠くない」

 

(そりゃそうだ……

 

あれだけ昼寝すれば、眠いはずないよなぁ)

 

「……?」

 

 

何かの気配を感じた美麗は、窓の外を見た。彼女につられて水輝も外を見た。

 

 

漂う濃い霧……その時、美麗が首から掛けていた黒曜石が青く光り出した。すると、霧の一部が窓の隙間から入り込んできた。水輝は美麗を自身の後ろへ行かせ、隠し持っていたメスを手に握った。

 

 

『……ミ……レ……イ……』

 

 

優しい女性の声と共に、入ってきた霧は人の形を作り出した。水輝の後ろにいた美麗は、黒曜石を握りながら前へ出ていきその霧に近付いた。

 

霧は人の姿となり、そして現れた……桜色の髪に赤い目をした女性。彼女は近付いてきた美麗に合わせるようにして、しゃがみ込んだ。

 

 

「……?

 

 

ママ?」

 

 

首を傾けながら美麗は、そう言った。その言葉に、女性は力強く頷いた。

 

パァっと顔を明るくして、美麗は黒曜石を離し女性…美優に飛び付いた。

 

 

その様子に、メスを構えていた水輝は下ろし歩み寄った。

 

 

「水輝、ママが来た!」

 

「この人が……ミーちゃんの」

 

 

水輝はふと思い出した……以前、陽介が持ってきたぬらりひょんの妻の写真を。そこに写っていた女性が、目の前で自身の娘を愛おしそうに抱き締めていた。

 

 

その時、何かを感じた美優は険しい表情を浮かべた。その顔に水輝は疑問を持ったが、すぐに気付き後ろを振り返った。

 

 

『先回りされていたのか……』

 

 

閉められたドアの前にいたのは、黒い服とマントに身を包みシルクハットを被った男……彼の姿を見た途端、美麗は怯えだし後ろへ下がった。

 

 

『消えなさい……娘に触れさせない』

 

『それはどうかな?』

 

 

禍々しい波動が、男から放たれた。その瞬間、美優が消えてしまった。

 

 

「ママ!!」

 

『もう亡き者を、消したまでさ。

 

 

あと……

 

 

ちょっと、あなた邪魔なんだよね』

 

 

そう言いながら、男は水輝の腹部にナイフを刺した。着ていた白衣がジワジワと赤くなりながら、水輝はその場に倒れた。

 

 

「水輝!!」

 

『さぁ、これで邪魔者はいなくなった……

 

君の持ってる物、僕に頂戴』

 

「え?何を?」

 

『代わりに、君の記憶を蘇らせてあげるよ』

 

 

そう言って、男は手を差し伸ばしてきた。美麗は後ろへ下がろうとするが、壁でそれ以上後ろへ行けなかった。

 

 

『大丈夫。痛くないから』

 

「嫌だ……嫌だ……

 

嫌だ!!」

 

 

目の前現れる氷の柱……男は少々驚いたが、すぐに不敵な笑みを浮かべると再び手を伸ばした。美麗の頭に触れようとした瞬間、横から自身の手を止めるようにして腕を掴まれた。

 

 

『?』

 

『人の主に、汚ぇ手で触れるな』

 

「……紅蓮」

 

 

人の姿になった紅蓮は、妖気を放ちながら男を睨み付けた。彼の妖気に、男は身を引いた。

その時、激しく戸を叩く音が響いた。ハッと振り返ると、目を覚ました暗輝が備え付けてあったナースコールのボタンを押していた。

 

 

「観念しろ…殺人鬼が」

 

『僕は欲しい物を手に入れない限り、諦めはしない』

 

 

そう言って、男は窓から飛び降り暗闇に包まれた外へと姿を消した。それと同時に、ドアが開かれ外から幸人が駆け込んできた。

 

 

「幸人!?何でお前」

 

「魔犬についてったら、ここに来たんだよ。

 

そしたら、テメェの病室から禍々しい妖気感じたからそれで」

 

 

駆け寄ってきた美麗の頭に手を置きながら、暗輝に説明した。

 

 

「幸人…殺人鬼の顔見たから、似顔絵描けるぞ」

 

「湊都の家戻ったら、アイツに描いて貰うか」

 

「ねぇ、水輝が……」

 

「あぁ、平気だ」

 

「?」

 

「暗輝」

 

「ヘーイ。

 

 

水輝、早く起きねぇと美麗が泣き出すぞ」

 

 

そう言った次の瞬間、水輝は勢い良く起き上がった。その時に、暗輝の額に額をぶつけ2人はぶつけた箇所を抑えながら、その場に蹲った。

 

 

「何やってんだか……」

 

『何がどうなってんだ?』

 

「水輝の悪戯だ」

 

「悪戯?」

 

「こいつ、よく暗輝と一緒に死んだふりした遊びしてたから」

 

「な、名付けて……」

 

「死体現場ごっこ」

 

「嫌な遊びだな」

 

「でも、血……」

 

「あぁ、これ」

 

 

白衣を脱ぎ、着ていた服の裾を捲り上げると、そこには防刃ベストが着けられ、その上に穴が空いた輸血パックが着けられていた。

 

 

「何かあるなぁって思って、自分の血をこの輸血パックに入れて装備してたんだ。

 

そしたら見事に!」

 

「何ちゅう勘のいい女」

 

「女の勘という物だよ、幸人」

 

 

輸血パックを取りながら、水輝は立ち上がり腰に手を当てながら悪戯笑みを浮かべた。

 

 

「遊びも程々にしろ」

 

「ハーイ!」

 

「秋羅達に連絡してくるから、ここ頼んだぞ」

 

「う~っす」

 

「水輝、お前も早く服着替えろ。

 

美麗が怖がってるぞ」

 

「あ、そうか。

 

じゃあ、暗輝着替えてくるね!」

 

「とっとと着替えてこい、変態が」

 

 

血塗れの白衣を持ち、水輝は外へ出ていった。彼女が去った後、美麗は何かを思い出したかのようにして周りをキョロキョロと見た。

 

 

「美麗、どうかしたか?」

 

「……ママ、どこかなって」

 

「ママ?

 

確か、美麗の母さんって」

 

「ママは、私がまだ小さい時に亡くなった。

 

凄い優しかったんだ……いつも傍にいてくれて。

 

 

ママが作った林檎パイ、凄い美味しいんだよ!」

 

「そういや、お前林檎好きだもんな」

 

「でも……

 

雨の日、ママはいなくなった」

 

「……」

 

「雨の中、ママは土の中に埋まったの……

 

その上に、ママの名前と生きた月日が彫られた石が置かれて、その土の上に百合の花を置いた……」

 

 

ふと蘇る記憶……幼い美麗の隣に、誰かが立っていた。花を添える際、その者は彼女に背丈を合わせるようにして、しゃがみ込みんだ。

 

 

(……あれ?

 

隣にいるのって、誰だろう……

 

 

私、知ってる人なのに……名前が分からない。

 

何で……

 

何で……

 

 

この人、凄い大事な人なのに……何で)

 

 

自然と流れ出てくる涙……美麗は訳が分からず、その涙を拭くが止まる気配がなかった。

 

 

「美麗、大丈夫か?」

 

「分かんない……何か、涙出て来た。

 

何で……」

 

 

涙を流す美麗を、紅蓮は抱き締めた。抱き締められた彼女は彼の胸に顔を埋めながら、声を抑えて泣いた。




『ママはどこ?』

ママはもういないんだ……遠い所に行ったんだ。

『いつ帰ってくるの?』

帰って来ないよ……

『ママに会いたい……』

僕も会いたいよ……


月明かりに照らされた、池の畔に座っていた晃は自身の膝に置き抱いていた幼い美麗の頭を撫でながら、そう言った。


そんな二人を、近くの茂みから地狐と天狐、他の動物や妖怪達は見守るように見ていた。
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