桜の奇跡 作:海苔弁
退院し、マリウス宅へ帰ってきた暗輝は殺人鬼の特徴を言いながら、彼が最後に言った言葉を幸人達に話した。
「知らねぇよ。
いなくなる間際に、言ったんだよ。『自分は欲しい物を手に入れない限り、諦めはしない』って」
「欲しい物ねぇ」
「殺された人達からすると、アクセサリーのことかしら?」
「それはないと思うよ。
殺された被害者達の所持品を遺族の方に確認して貰いましたが、これと言って無くなった物は何も」
「じゃあ、何を……」
「考えても仕様が無い。
先に、こんな感じですか?殺人鬼の顔」
スケッチに描かれた絵を、マリウスは暗輝達に見せた。
「そうそう、そんな感じだった」
「さすがマリウス。相変わらず上手いな、絵」
「一応、似顔絵捜査官になろうとしてましたからね」
「そういや、そうだったな」
「まぁ、この顔を頼りに探せば何か分かるかも知れないな」
「この似顔絵、警官に渡すの?」
「渡すわけねぇだろう」
「手柄を横取りされては、困ります」
「あんな能無し、野放しにしとけばいいんだよ。
明日の朝一から探すぞ。
暗輝は秋羅と、水輝はアリサと、マリウスは俺と美麗で行動するぞ」
「何でミーちゃんと一緒じゃないの!?」
「殺され掛けた奴に、美麗を任せられるか」
「うっ……
死体現場ごっこしてただけなのに」
「身から出た錆だな」
ベッドに座る水輝の膝に頭を乗せ横になっていた美麗は、タオルを握りウトウトしていた。傍にいた紅蓮は、目を瞑り寝息を立てていた。
眠そうにあくびをした美麗は、重くなっていた瞼を閉じ眠りに付いた。
丁度そこへ、幸人が部屋へ入ってきた。水輝は静かにするよう人差し指を立てながら、眠った美麗の頭を撫でた。
「眠ったか」
「今さっきね」
「いつもなら一人で、すんなり寝るのになぁ……」
「殺人鬼に何かされたんだろうね」
「?」
「ミーちゃん、ずっとタオル握ったままだし……紅蓮と暗輝が目覚めれば、離すかなって思ったけど全然離す気配が無い」
「……嫌な光景でも、見ちまったかな」
「そうかもね」
「しっかし、よく残ってたな。そのタオル」
「長持ちいいでしょう?
暗輝もまだ持ってるよ」
「相変わらず、物は大事にするな。お前等兄妹は」
「まぁね。
母さんと父さんが遺してくれた物だから、大事にしたいんだよ……私も暗輝も」
眠る美麗をベッドへ寝かせ、布団を掛けながら水輝はどこか悲しい目をしながら、幸人に言った。
その夜、皆が眠りに付いた頃だった……
『……ミレイ』
「?」
眠っていた美麗は、誰かの呼ぶ声に目を覚まし起き上がった。部屋を見回したが、傍に人の姿は無く向かいのベッドでは、水輝が寝息を立てて眠っていた。
「……誰?」
『ミレイ……』
不意に開くドア……握っていたタオルを離し、美麗は閉まっていたドアをソッと開け廊下を見た。そこには、光る玉がふわふわと飛んでいた。玉は美麗を見付けると、彼女の周りを飛び回り、そしてついて来いとでも言うかのように、先をふわふわと飛んだ。
その玉に引き寄せられるようにして、美麗は部屋を出た。出て行く音に気付いた紅蓮は、起き上がると慌てて彼女の後を追い駆けていった。
玉は、裏庭へと出た。そしてまたふわふわと、飛んで行った。美麗は傍で身を低くしていた紅蓮の背に乗り、玉を追い駆けた。
塀を跳び越え、行き着いた先は森だった。風に揺れざわつく草木の葉の音に、美麗は警戒しながらその玉について行った。
玉はある広場に辿り着くと、フッと上へ上った。そこには、巨樹が生えており木の根元には、いくつもの光の玉が飛び交っていた。
「凄い……
こんな大きな木、北西の森以外で見るなんて……」
『精霊達が多くいるから、多分奴等の親なんだろう』
『ほら、見てみて!
綺麗な子でしょ?』
甲高い声と共に、複数の光の玉が美麗の周りを飛び回った。その光は、羽を生やした小人へと姿を変えた。
「……誰?」
『アタシはピクシー。
あなた達で言う、妖精!』
「妖精?
精霊のこと?」
『まぁ、そうね!
あなた、名前は?』
「夜山美麗だよ!
そんで、こいつは紅蓮」
『美麗と紅蓮か……
二人共、不思議な力を持ってるのね!』
『美麗は妖怪?それとも人間?』
「半妖だよ。クォーターって言った方がいいのかな?」
『クォーター?』
「うん。
ほんの少しだけ、人間の血が混じってるの」
『へー』
「ねぇ、さっき私のこと呼んだの誰?」
『呼んだ?』
『あぁ、呼んだのアタシ!』
「何で呼んだの?」
『あなた、不思議な力を持っているから、それで私達のお願いを聞いて貰おうかなって』
「お願い?」
『あなたの力で、あの怖いの倒してよ!』
「怖いの?何、それ?」
『人間達が言ってる、殺人鬼!』
「……」
『あなた、怖いのに何かされたのね?』
「え?何かって……
別に何もされてないけど」
『されてるよ』
『あなたの記憶に、彼の魂がしがみついてるもの』
「……え?」
『でも、それを誰かが阻止してる』
「阻止?誰が?」
『この人は多分……
!』
喋っていた妖精達は、突如口を閉ざした。その様子に美麗は、妖精達が見ている方に振り向いた。
そこにいたのは、人の姿をした紅蓮だった……だが、彼は黒狼の姿で美麗の隣にいた。
「……どうなってんの?
何で、紅蓮が二人?」
『妖精さん、お喋りは程々にね』
『は、は~い』
『美麗』
「?」
『ちゃんと、見てるからね』
「……うん」
そう言うと、人の姿をした紅蓮は光の玉となりその場から消えた。隣にいた黒狼姿の、紅蓮は頭を軽く振ると美麗に擦り寄った。寄ってきた彼を、美麗は座ると体に顔を埋めなが抱き締めた。
とある古い屋敷……
蝋燭の灯が灯る部屋の中、殺人鬼は刃を研いでいた。
『欲しい……
彼女の力が……
妖精王の力が……
アイツの力があれば、もっと殺れる……
記憶を蘇らせれば、その褒美に貰える……』
研いた刃に、殺人鬼の不敵な笑みが写された。
妖精達が集う森の中……
美麗は、手から氷を放ち妖精達にショーを見せていた。彼等は楽しそうに、そのショーを観覧しており、賑わう声に誘われてか、茂みから動物達が集まりそのショーを見た。
『美麗、凄い!』
『氷なら、私達も!
皆、いくよ!』
一人の呼び掛けに、氷使いの妖精達が一斉に美麗達の周りを飛び交った。そして、氷の粉を振らしながら、氷の結晶を作り、ショーに参加した。
妖精達が加わったことで、その場は更に盛り上がった。
「何か、いい!
悲しき水の精霊よ、我が失いし心の傷よ、古き契約に従いて、わが意に従い、嵐を運べ !!」
氷で作った陣が、青く光り出した。美麗はポーチから水の入った瓶の蓋を開け、中身を撒いた。それは一つの球体となり、宙に浮いた。
「清らかなる水よ、それは天の恩恵なり、天より雨を降らし給え!」
球体は空へと上がると、雨雲を引き寄せた。雷を鳴らしながら広がる雨雲から、やがて雨が大量に降り出した。
「命の源、天の恩恵よ、我が手に集え!」
降り出した雨の一部が、天に上げた美麗の手に集まった。集まると彼女は、それを氷と共に地面へと叩き付けた。すると水飛沫が凍り付き、彼女を中心にした場所に水の王冠が出来た。
『美麗、凄ぉい!!』
『天才じゃん!』
『美麗、格好いい!』
褒められ、照れなが喜ぶ美麗……そんな彼女の様子を、紅蓮は近くから眺めていた。