桜の奇跡 作:海苔弁
「は?美麗がいなくなった?!」
起きた水輝は、幸人達の部屋に来てそう言った。3人はすぐに2人の部屋へ行き、中を見た。確かにいなくなった彼女のベッドは、物家の空になっていた。
「朝起きたら、物家の空になってて!!
どこに行ったのか、さっぱり……」
「布団がもう冷たい……
出たのは多分、夜中」
「もしかして、エル達の所に」
「でも、昨日は紅蓮が一緒だったよ!」
「今秋羅に見に行って貰ってるから、それまで」
「幸人!こっちにいなかった!
そっちは!?」
その言葉を聞いた彼等は、膝を付き落ち込んだ。
巨樹の根に出来た、穴に紅蓮と美麗は静かに眠っていた。その時、白い霧が辺りに漂った。霧は人の形へとなり、そして姿を現した……
『……美麗』
現れ出たのは、美優だった……彼女は穴へ入ると、傍に座り美麗と紅蓮の頭を撫でた。気持ち良さそうにする、彼女の顔を見て美優は微笑みそして、そこから姿を消した。
『だから、不思議な力を持ってたんだ』
『王女様の子供だったんだね、美麗』
『王女様、やっぱり死んでたんだね』
『生きてると思ってたのに……』
『でも、子供はいるよ!
皆で、美麗を守ろう!』
『そうだね!』
『ここにいる間は、守ろう!』
外へと出る幸人達……
「とりあえず、殺人鬼捜しながら美麗を探す。
もしかしたら、紅蓮と一緒に町に行ったのかも知れない」
「分かった。
私とアリサは、留守番してるよ。皆が捜索中に、帰ってくるかも知れないから」
「頼む、水輝」
「美麗も探すと言うことですから、一人行動をお願いします」
「暗輝、お前はエルを連れて、美麗を中心に探してくれ」
「え?何で?」
「殺人鬼はお前の顔を見ている……
見れば、多少油断するだろう」
「本当かぁ?」
「感だ」
「感で済ますな!」
「時間があまりないんで、そろそろ行きますよ」
「湊都、無茶はするな」
「月影、いい加減その名前で呼ぶのやめて下さい。怒りますよ」
騒ぎながら、四人は町へと向かった。見送りに出ていたアリサは、少し心配そうに彼等を見た。
「……あの、美麗は本当に大丈夫なんでしょうか」
「え?」
「二度も殺人鬼に襲われて……
ここにいたくないから、別の場所に逃げ隠れたんじゃ」
「それはないよ。
ミーちゃん、怖いことがあった時は、絶対に幸人達の傍から離れないから。
そう……
必ずってほど、嫌なことされたり怖いことがあると、いつも私の傍に」
「水輝さん?」
まるで別人の様に見えたアリサは、尽かさず水輝の手を握り、名を呼んだ。彼女はハッとしたかのようにして、アリサを見た。
「……私、何か変なこと言った?」
「いえ……ただ、一瞬水輝さんじゃない人が、そこにいたような気がして……」
フラッシュバックで蘇る過去……思い出したアリサは、握っていた水輝の手をギュッと握った。
「全く、どういう躾をしているのやら」
道を歩きながら、マリウスは深く溜息を吐きながら幸人に言った。
「俺はアイツの親じゃねぇ」
「責任逃れする気ですか?
いいですか?弟子だろうと保護した子供だろうと、成人を迎えてない子供を傍に置いている時点で、親も同然です」
「説教じみたこと言うなよ」
「って言っても……
美麗の奴、躾けようがないんだよなぁ……
ずっと森で住んでたって事もあるから、自由行動が多いし。
けど……無断で行くような事はなかったんですけど」
「無断で行ったのも、初めの内だけだしなぁ。
後から、俺等に断り入れてから行動するようになったし」
「躾が行き届いてないって事じゃないんですか?」
「……」
すると、一緒に歩いていたエルが足を止め、耳を立てながら辺りを警戒した。
漂う霧……その中に、人影をエルは見付けた。その人影は手招きをし、エルを呼びつけた。エルは鳴き声を発しながら、急に駆け出した。
「え、エル?!うわっ!」
「暗輝!どこ行く!?」
「俺が知りてぇ!!」
「追い駆けるぞ!」
「言われなくとも!」
「暗輝さーん!!待って下さーい!」
駆け出したエルとエルに引っ張られて行った暗輝の後を、3人は追い駆けていった。
濃霧を駆け晴れた先に見えたのは、どこかの森だった。エルは走るのをやめ、ゆっくりと歩き出した。そして、ある広場へと出た。
「……何だ?ここ」
「こんな所に、森があったなんて……」
エルに乗っていた暗輝は、降りながら辺りを見回した。彼が降りたと同時に、エルは巨樹の元へ駆けて行った。
「あぁ、エル!!」
駆けて行ったエルの先にいたのは、美麗だった。
「美麗!!」
「?
あ!暗輝!幸ひ」
名を呼んでいる途中に、幸人は美麗の頭に拳骨を食らわせた。もろに食らった彼女は、頭を抑えながら涙目で駆け寄ってきた秋羅の元へ行った。
「幸人、殴らなくてもいいだろう!」
「心配させた罰だ」
「その辺りの躾には、厳しいようで?」
すると、幸人の頭に何かが落ちてきた。ぶつかった個所を抑えながら、彼は上を見上げた……だが、そこには何もいなかった。
「……何だ?」
「ピクシーが幸人の頭に、石落っことした」
「ピクシー?」
「妖精です。
あなた方の国でいう、精霊です。
普通は、このリングを通さないと姿が見えないはずなんですが……」
「美麗には見えてるな」
自身の周りを飛び回っているのか、美麗は首を左右に回しながら何かを追って見ていた。
「……?」
「霧だ」
「美麗、こっち来い」
手招きする秋羅の元へ駆け寄った美麗は、辺りを見回した。濃くなっていく霧は、形を作りそれは魔犬へと姿を変えた。
「魔犬……」
「って事は!」
各々の武器を構え、四人は辺りを警戒した。霧から出て来た魔犬は、体を振ると美麗の元へ寄ってきた。
寄ってきた魔犬を、美麗は手を差し出し頬を撫でた。魔犬は気持ち良さそうにし、地面に体を伏せた。
「……何か、大丈夫そうだな?」
「……」
『ウィルは、この妖精の森の守り犬だよ!』
突然聞こえる声……すると、彼等の前にあのピクシーが姿を現した。
「妖精が……人前に姿を現した……」
『あなた達が鈍いから、見えるようにしたのよ!』
「魔犬があなた方の守り犬とは、どういう……」
『ウィルは、あの怖いのが出ると、私達の森に行かせないように、姿を現して出入り口を塞いでくれているのよ!』
「出入り口?」
『この森は、私達妖精だけが住む妖精の森。
ここに入れるのは、私達妖精が許した者だけ』
『それに、この森には人が欲しそうなお宝や不思議な力が、一杯眠ってるの!』
『それを全て、妖精王が守ってたんだ』
『だけど、今はいない』
「いない?何で?」
『ずうっと昔に、亡くなったの』
『ご子息が森を出て行ってから、数年経った頃に』
『ご子息も風の噂で、亡くなったって言うし』
「……」
『ウィルは、代々妖精王にずっと仕えてる不死身の魔犬なの。
だから、亡き王の後もずっとこの森を守っているの!』
嬉しそうに、妖精達は幸人に話した。話を聞いた幸人は、小声でマリウス達に話しかけた。
「どうやら、魔犬は殺人鬼と関係無さそうだな」
「そのようですね」
「なぁ、殺人鬼が現れるようになったのは、いつ頃からって分かるか?」
『ずっと前からだよ』
『そうそう!
ウィルが人間の前に姿を現すようになった時からだよ!』
「となると……
一月前からになりますよ」
“ピチャン”
「?」
水音に、5人は池の方を向いた。
腰まである長い紺色の髪を揺らし、赤い目を光らせながら水面に立つ、男……彼の姿を見たウィルは、尻尾を振りながら駆け寄った。
「誰だ?あいつ」
『妖精王だ!』
『王が帰ってきた!』
そう喜び叫ぶ妖精達は、彼の元へ行き周りを飛び交った。
擦り寄ってきたウィルの頭を撫でると、妖精王はゆっくりと美麗に歩み寄った。寄ってくる彼に、美麗は怖がり秋羅の後ろへ隠れた。
王がしゃがみ込み、ソッと手を差し出した。ヒョッコリと秋羅の後ろから顔を出した美麗は、差し出した手と王を交互に見てそして、恐る恐る自身の手を王の手に置いた。
『妖精王!この子、王子のお孫さんですよ!』
『王子の孫が、ここへ帰ってきたんです!』
「王子の孫?」
「どういう事だ?」
微笑みを浮かべる妖精王……
だが、次の瞬間険しい顔つきになり、ウィルと共に立ち上がった。
「ウィル?どうしたの?」
『……!!
あなた達、他に仲間は!?』
「え?」
「マリウスさんの家に、水輝さんとアリサが」
『早く戻って!!
怖いのが……怖いのが、その二人の所に行こうとしてる!!』