桜の奇跡 作:海苔弁
そこは、妖精達だけが住む森。人が決して入ることの出来ない森。だが、妖精が導けば、人は森へ行ける。
森には、妖精達の不思議な力や欲深い人が欲しがるような秘宝が眠っているという、噂がある。
それらを手にした者は、全てを操ることが出来るという言い伝えがあった。
……お母様?どうしたんですか?
アリサ、お返事をして。
お母様、アリサはここにいます。
アリサ、どうしてお母さんの言う事が聞けないの?
お母様、アリサは……
アリサ……アリサ……アリサ……アリサ……
“コンコン”
ドアをノックする音が、家に響いた……その音でハッと我に返ったアリサは、部屋を出て玄関へ行った。階段を降りると、そこには水輝が既に出ていた。
外にいたのは、あの二人の警官だった。
「……何か用ですか?」
「先日お目にかかった、子供にお話を聞きたくて」
「まだ無理です。
というより、今出掛けています」
「どこへ出掛けたんです?
まだ無理だというのに」
「仕事です。
彼女は一応、祓い屋の子ですから」
「でしたら、ここで待たせ」
途中で言葉が切れる警官……そして、彼の足下に垂れ落ちる血。
ハッとした水輝は、目線を上げ前を見た。恐怖で震えている部下の隣に、いつの間にか立っていた……殺人鬼が。殺人鬼は、警官の背中に刺したナイフを抜き取ると、刃についた血を一舐めした。
『やぁ。
僕、あの女の子に用があるんだけど……いるかな?』
「……」
『何か、おかしいなぁ……
君、刺したはずなのに……
何で、生きてるの?』
「アリサ!!二階へ行って!!
早く!!」
怖じ気付いていたアリサは、水輝の声でハッとしすぐに階段を駆け上った。次の瞬間、殺人鬼はアリサ目掛けて刃を向けて突進してきた。すぐに水輝は、手に隠し持っていた寸鉄で、ナイフを持つ手を叩き阻止した。
『他人を守るなんて……初めてだよ』
不敵に笑みを浮かべる殺人鬼……水輝は息を整えながら構え、そして彼に攻撃した。
二階へ行き、自身の部屋へ戻ったアリサは窓から外へ飛び降りた。そして、裏庭で何かを察していたのか、飛ぶ準備をしていたドラゴンが、アリサに向かって鳴き声を放った。
「お願い!先生達を探して呼んできて!」
頬を撫でアリサがそう頼むと、ドラクエは翼を羽ばたかせ空へと飛んだ。ドラゴンに合わせてネロ達も飛んで行った。
その頃、幸人達はまだ妖精の森にいた。
「幸人、早く戻らねぇと!」
「この森から湊都の家まで、どれくらいあると思ってんだ!」
「けど!」
「エルに乗って、先に誰か行くって言うのは!?」
『そんな面倒なことしなくても、私達があなたの家まで送るわよ!』
『そうそう!』
「え?」
「どうやって?」
妖精達が何かをやろうとしたが、それを妖精王が阻止し上を指差した。一同が見上げると、空からドラゴンとネロ達が舞い降りてきた。
「ネロだぁ!」
降りてきたネロの元へ、美麗は駆け寄り頭にしがみついた。ドラゴンは鳴き声を発しながら、身を伏せそれを合図にマリウスと幸人はドラゴンへ飛び乗った。同じように、エルに秋羅と暗輝が飛び乗り、彼等は一斉に飛び立った。ネロは紅蓮に向かって鳴き声を発すると、美麗を銜え勢いをつけて投げ自身の背中へ乗せた。そして翼を羽ばたかせ飛び立った。彼等の後を、妖精王は光の玉となり追い駆けていった。
裏庭へ着いた幸人達……そこへ着くと、マリウスと幸人はドラゴンが着地する前に飛び降り、家の中へと飛び込んだ。次の瞬間、ナイフが二人の間をすり抜けた。
投げたのは殺人鬼だった……
「幸人!マリウス!」
『へー……こんなに早く、助けが来るなんて……?
やっと、あの子を連れてきてくれたんだね』
「え?」
「幸人!!ミーちゃんをここから離れさせて!!こいつの狙いは、彼女だ!!」
そう叫んだ瞬間、殺人鬼は二人を張り倒して表へ出た。丁度そこへ、裏庭にネロが着地し、美麗を下している最中だった。
『やぁ、お嬢さん』
「……」
突然目の前に立った殺人鬼に、美麗は恐怖で震えだした。別の場所で降りていた秋羅は、すぐに彼女の元へ駆け寄ろうと駆けだした。
「秋羅!!早くミーちゃんを!!」
『さぁ、僕のために死ね!!』
勢いよく振り下ろされるナイフ……美麗は、小太刀の柄までは掴めてはいたがそれを引き抜くことが出来ずにいた。怖気ついている彼女の前に、紅蓮は守るようにして立った。
その時、水輝の周りから強烈な光が上がった。その光の中で、彼女の体から何かが抜け出ていき、光の速さで美麗の元へ行った。
“パーン”
宙を舞い、地面に刺さるナイフ……光に驚いた美麗は、地面に尻をついて顔を上げた。
銀髪の長い髪を耳下で結い、青色の目に討伐隊の制服を着た女性が、殺人鬼の喉仏に銃口を向け引き金に指を構えていた。
『な、何だ!?こいつは!!』
『……この子に傷を付けてみろ……
貴様の喉仏から、血の噴水を見ることになるぞ』
『……
邪魔が入ったから、今回は退くよ。
お嬢さん、次こそあなたが持っているものを貰いますからね』
不敵に微笑みながら、殺人鬼はナイフを拾い霧を放ち姿を消した。
殺人鬼の姿が見えなくなると、美麗は立ち上がりそして目の前に立っている女性に抱き着いた。
「……誰だ?あの人」
人の姿だった紅蓮は、いつの間にか狼の姿へとなり女性の傍へ擦り寄った。
「紅蓮に懐いているという事は……
美麗の知り合い?」
「月影、どうな……?」
目を見開き、驚く幸人……そして、知らずの内に彼の目から一筋の涙が流れ出た。
「月影?どうした?」
「……あり得ねぇ……」
「?」
「何で……何で……」
「月影?」
放心状態になっている幸人の耳に、マリウスの声は聞こえていなかった。
自身に擦り寄った紅蓮の頭を撫でると、女性は抱き着いていた美麗を抱き上げた。抱き上げられた美麗は、彼女の胸に顔を埋め嬉しそうに頬を擦った。
美麗を抱えながら女性はネロの傍へ行き頬を撫でた。ネロは鳴きながら、撫でてきた彼女に擦り寄り頬を舐めた。
「スゲェ……ネロの奴が、懐いてる」
『貴様、名は?』
「え?」
抱えていた美麗を下ろしながら、女性は秋羅の元へ歩み寄り話しかけてきた。
『……質問しているんだが?
貴様の名は?』
「えっと……
月影…秋羅です」
『月影?
幸輝の弟子か?』
「こうき?
誰?」
『……時代は随分進んだもんだなぁ。
まぁ、詳しい話は幸人から聞くとしよう』
「幸人を知ってるんですか?!」
『知っているも何も……
私は、幸人の曾祖母・大空天花だ』