桜の奇跡   作:海苔弁

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マリウス宅……


椅子に座る天花……テーブルを挟んで向かいに幸人と秋羅が、中心にマリウスが天花の隣に美麗が座っていた。ソファーでは、気を失った水輝と、彼女の看病をするアリサと暗輝が座っていた。


「……で?

どういう状況?」

「一旦整理しましょう……


目の前にいる、この女性は月影と大空の曾祖母に当たる人」

『その通りだ。

何故だか、昔の姿……というか、若い姿でここにいる』


隣でじゃれる美麗に構いながら、天花は話した。


「記憶はどこまであんだ?婆」

『貴様等二人に見取られた所までだ。

そこからは……


まぁ、記憶がハッキリしない。

気が付いたら、その女に取り憑いていた』

「いつからだ?」

『この地に来た時からだ。

その間は……覚えていない』

「……


駄目だ……まだ、頭がこんがらがってる」

『こんがらがるのも無理は無い。


幸作(コウサク)が、生き返ってきたのかと思ったわ』

「こうさく?」

『幸人と陽介の曾祖父さん。

つまり、私の旦那だ』

「へー……」

「天花ぁ!外行こう!」

『今大事な話をしてるから、先に行ってて。

後で行くから』

「うん!」


嬉しそうに返事をし、美麗は裏庭へと飛び出した。彼女のあとを、大あくびし体を伸ばした紅蓮は追い駆けていった。


殺人鬼の秘密

『さて、世間話はここまでにして……

 

 

本題に入ったらどうだ?』

 

 

目付きを変え、天花は3人を見た。急に変わった空気に、その場にいた一同は彼女の方に目を向けた。

 

 

『貴様等に問う。

 

あのイカレタ野郎は、何者だと思う?』

 

「え?

 

 

普通の人間なんじゃ」

 

「いや違う」

 

「じゃあ、妖怪?」

 

「正解……

 

 

というより、元々は人間だったが何だかの理由で妖怪になった人間だ」

 

『正解だ、幸人。

 

あれは血に飢えた妖怪』

 

「血に飢えた……それならなぜ、男を狙わず女しか狙わないんです?」

 

『貴様はどっちを選ぶ?

 

 

濁った水と透き通った水があり、そのどちらかを飲めと言われたら?』

 

「……透き通った水を」

 

『だろう?

 

妖怪も、その考えだ』

 

「つまり、女の血の方が綺麗ってこと…ですか?」

 

『そうだ』

 

「美麗が狙われているのは、そんな理由ってこと?」

 

『半分正解だ』

 

「半分って……もう半分は?」

 

『どっちを選ぶ?

 

 

金貨と銅貨が地面に落ちていたら、どっちを拾う?』

 

「そりゃあ、金貨なんじゃ」

 

『全くその通り。

 

 

あの殺人鬼からすれば、美麗は金貨……いや、高価な宝石なんだ』

 

 

窓から見える美麗の姿を見ながら、天花は言った。外にいた彼女は、ネロの頭に乗りピョンピョンとジャンプをしながら遊んでいた。

 

 

「でも、何で美麗を……!」

 

『美麗はぬらりひょんの子供……

 

 

さらに、血筋を調べると面白いことが分かった』

 

「何です?」

 

「……!

 

まさか、美麗は」

 

『幸人の思惑通り。

 

美麗の母親の父親……つまり、美麗の祖父はこの英国に住む妖精王の息子。

 

言いたいこと、分かるよね?』

 

「美麗は、妖精王の力を継いでいる」

 

「殺人鬼は、どういう訳か喉から手が出るほど妖精王の力を欲してる」

 

「しかし、その力を手に入れるには、直接妖精王に会わなければならない……

 

けど、もう亡くなっている」

 

「その血を引く息子も死に、孫も死んでいる」

 

「残るは、曾孫である美麗ただ一人」

 

「だから、狙っている…ってか?」

 

『大正解。

 

というわけで、美麗には私が付いているから貴様等はとっとと殺人鬼の情報集めてこい。

 

幸人、手伝え』

 

「勝手に決めるな!婆!!」

 

『親に向かって何だ!!その態度は!!

 

ちょっと、一緒に来い!!』

 

 

幸人の耳を引っ張りながら、天花は痛がる彼と共に外へ出た。

 

 

「き、肝が据わった人だ……」

 

「口調は陽介ソックリだな」

 

 

「何?何かあったの?」

 

 

額に置かれていたタオルを抑えながら、目を覚ました水輝は起き上がった。

 

 

「おぉ!目ぇ覚めたか?」

 

「一応」

 

「ご気分の方は、いかがですか?」

 

「頭がボーッとする」

 

「そりゃそうだ。

 

いつからか分からんが、ずっと幽霊に取り憑かれてたんだから」

 

「幽霊?

 

 

あぁ、それ多分暗輝達が殺人鬼に襲われた時からだよ」

 

「え?」

 

「自覚あったのか?」

 

「薄々。

 

自分の中に入ってきた時、追い出すかどうか迷ったけど……何か、別に私やアンタ等に害があるわけじゃ無いから、いいやって」

 

「そういう適当なところ、昔と変わりませんね」

 

 

 

 

裏庭……

 

 

引っ張られた耳を触りながら、幸人は地面に座っていた。

 

 

「まったく、何でこの歳になってまで耳を引っ張られなきゃいけねぇんだが……」

 

『貴様が、チャンとしないからだ』

 

「スラム街の様な所で育った俺と、貴族だらけの所で育った陽介とは育ちが違うんだよ」

 

 

「スラム街って何?」

 

 

天花の隣で、紅蓮の顔を撫でていた美麗は首を傾げながら質問した。

 

 

『貧しい人達が住んでいる街のこと』

 

「それプラス、無茶苦茶危険だ。絶対行こうとするな」

 

「ハーイ」

 

『それで、どうやってあの殺人鬼を倒す気だ?』

 

「現れたと同時に、やりあって……弱ったところを、封印しとどめを刺す」

 

『さすが、曾孫。考えが一致するな』

 

「何とでも言え」

 

「あれと戦うの?」

 

「そうだ」

 

「……」

 

『美麗、一つ聞いていい?』

 

「?」

 

『あの殺人鬼に、何かされた?』

 

「え?」

 

『話せるなら、話してごらん。

 

誰も、怒ったり怒鳴ったりしないから。無論嫌な事も。ね?』

 

「……記憶」

 

「?」

 

「アイツに会った時、見覚えの無い記憶が流れてきて……

 

それが流れた途端、頭痛がして……それと同時に、怖くなって」

 

『そっか……分かった。

 

いいよ、もう無理に思い出そうとしなくて』

 

 

しゃがみ込んだ天花に、震えていた美麗は抱き着いた。天花は彼女を宥めるようにして、頭を撫で抱き締めた。

 

 

その時、足音が聞こえてきた。その足音に天花は立ち上がった。

 

 

「……婆、ここ頼む」

 

『分かった』

 

 

家の中へと入った幸人……玄関へ行くと、マリウスが怖じ気つき身動きが取れなかった警官と、別の警官が立っていた。

 

 

「殺人鬼の顔を見たと、部下から聞きまして……

 

すぐに似顔絵制作するので、覚えている特徴を全て話して下さい」

 

「と言いましても、目撃した人はまだ眠ってますし……

 

 

アリサ、覚えてますか?」

 

「……い、いえ」

 

「と言う返答なので、またの機会で」

 

「……」

 

「では、我々は少し用があるので。

 

先程、殺人鬼に刺されたお巡りさんには、お大事にとお伝え下さい」

 

 

そう言ってマリウスは、警官が何かを言おうとする行為を阻止して戸を閉めた。

 

 

「さすがマリウス」

 

「巻き込みたくありませんからね」

 

「だな」

 

「けど、本音は?」

 

「警察が死んだら、僕等の評判がガタ落ちです」

 

「だと思った」




古い屋敷……


ボロボロのカーテンがある部屋で、殺人鬼は鼻歌を歌いながら、別の服を着ていた。そして、壁に立て掛けていた大きな鎌を持ち、刃を触りながら不敵な笑みを浮かべた。


『さぁて……


あの子の記憶をしっかりと思い出させて、それから力を貰おう。




ようやく、長年の夢だった妖精王の力が、僕の物に……』
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