桜の奇跡 作:海苔弁
辺りは、光一つない暗闇に包まれていた。
「……真っ暗だ……」
『美麗』
「!紅蓮!?」
どこからか聞こえる紅蓮の声に、美麗は辺りを見回し彼の姿を探した。
「紅蓮!どこ?
紅蓮!」
『大丈夫。
姿が見えないだけで、僕はすぐ傍にいるよ』
「……」
美麗がいた場所を中心に、獣と共に辺り一面に闇の霧に包まれていた。
「な、何だ……あの霧は」
『今は殺人鬼に集中しろ!!
幸人!』
天花の呼び掛けに、幸人は両脚に着けていたケースから2丁の拳銃を取ると、すぐに殺人鬼目掛けて銃弾を放った。殺人鬼は、軽々と鎌で回し防ぎ飛び上がると、幸人目掛けて鎌を振り下ろした。
「幸人!!」
(使いたくなかったが……
こうするしかねぇ!!)
“キーン”
「!?」
「え?」
「あれは……」
『……幸人……貴様』
振り下ろしてきた鎌の先には、赤色に染まった大剣が殺人鬼の攻撃を、防いでいた。
『へ~、祓い屋が妖刀を出せるなんて……
しかも、目まで妖怪化してるよ?』
鎌を持ち、後ろへ下がった殺人鬼を、紅く光る目で幸人は大剣を肩に担いだ。
その頃、美麗は暗闇の中、紅蓮の声を頼りに中にいる獣の攻撃を避けていた。
「紅蓮!キリが無いよ!
何とかならない!?」
『光があれば、君に攻撃が出来るんだけど……』
「光……!
(そうだ!これなら!)
悲しき光の精霊よ、我が失いし心の傷よ、古き契約に従いて、わが意に従い、嵐を運べ !!」
美麗が前に出した手から、手の平サイズの光の玉が出て来た。
「明瞭たる光よ、闇夜を照らせ!」
辺り一面に、光った玉が照らした。闇から現れ出た獣を見た美麗は、自身の周りに無数の氷の刃を浮かせた。
「大気に満ちる空気よ凍れ、氷の刃となりて、切り刻め!!」
四方から飛び交う氷の刃に当たった獣は、悲痛な鳴き声を発しながら美麗を睨んだ。
彼女の額から、あの雪の結晶の模様が光り出し、体全体に広がっていた。赤く光る目で、美麗は獣を睨み返した。
『美麗、心を落ち着かせてね』
「大丈夫。全然落ち着いてるよ」
光る玉に怯える獣……その時、美麗の背後に妖精王が姿を現した。彼女は振り返り、彼を見上げた。
「妖精…王?」
『……ソナタに力を貸す。
さぁ、その闇の者を倒せ』
妖精王から譲り受けた美麗は、強大な妖力を自身を中心に放ち風を起こした。その風は、美麗達を包んでいた闇を吹き払った。そこは、地の無い空の上だった。
「……空の上?何で?」
『美麗、これは殺人鬼が見せている幻術だよ。
この獣を倒せば、幸人達の所へ帰れるよ』
眩く光る玉を持った美麗は、獣の方を向いた。光に怯んでいる獣は、鳴き声を発しながらずっと彼女を睨んでいた。
「……光を遮る見えなき闇よ、光なくして闇は在らず、聖なる光で闇夜を薙ぎ払え!!」
天へと上げた玉から強烈な光が放たれ、辺りにまだある闇をその光で覆い尽くした。獣は悲痛な声を上げながら、闇の粒となりそこから姿を消した。
「消えた……」
『闇の世界へ帰ったんだ……
美麗と言ったな?』
「?」
『この力で、あの者を導いてくれ』
そう言って、妖精王は光の玉となり、美麗の体の中へ入った。
「凄ぉ……
力が漲る!!」
ジャンプをしながら、喜ぶ美麗を紅蓮は微笑みを浮かべながら眺め見ていた。
すると突然、喜んでいた美麗は飛び跳ねるのをやめた。
「?
何だろう……この妖気」
『どうかしたか?』
「近くから変な妖気が感じる」
『変な妖気?』
「何か、人と妖がごっちゃ混ぜになったような……そんな感じ」
『……幸人達に何かあったのかもな。
美麗、すぐにこの闇を払って、あいつ等の所に行くぞ』
「うん。
悲しき光の精霊よ、我が失いし心の傷よ、古き契約に従いて、わが意に従い、嵐を運べ !!
明瞭たる光よ、闇夜を照らせ!」
宙に浮いていた光の玉が、再び眩く光り辺りの闇を吹き払った。
美麗が地面に足を着いた時、横から何かの衝撃波が彼女の髪を靡かせた。美麗は恐る恐る、横を向いた。
自身に向く大剣の尖端……その先には、目を赤く染めた幸人が立っていた。
「……幸…人?」
「……」
その時、立っていた美麗の首に腕が周った。すぐさま紅蓮が背後の者に襲い掛かろうとしたが、逆に敵の攻撃を食らい飛ばされた。
「紅蓮!!」
『さぁ、どうする?
僕を殺そうとすれば、この子の命は無いよ』
美麗の首にナイフを当てながら、殺人鬼は不敵な笑みを浮かべながら幸人を見た。
ナイフを見た美麗は、何かを察したのか殺人鬼の体事、前へ倒れた。その瞬間、彼が手に持っていたナイフの柄に、銃弾が当たりナイフを投げ飛ばした。
腕が緩んだ隙を狙い、美麗は彼から素早く離れると駆け寄ってきていた秋羅の元へ行った。
『親友の女を、人質に取るとは良い度胸しているな?貴様』
『クッ……』
『幸人!!とっととその男を、あの世へ逝かせろ!』
「……」
『やれるものならやってみろ!!
僕は不死身だ!胸を刺されようが、頭を貫かれようが!!死ぬ事なんて、無いのさ!』
「なら、この光はどうだ?」
その声と共に、強烈な光が差し込んだ。光の方に全員が目を向けると、そこには光り輝く妖精王を背に美麗が立っていた。
「み、美麗?」
『何だ!?その光は!!
ち、近付かせるな!!』
「『ソナタの魂を、黄泉へ送る。
永遠に復活せぬように』」
美麗の口から出る声は、別の声が聞こえてきた……その声に応じるようにして、彼女の周りに妖精達が姿を現した。
「何か、ミーちゃんじゃないような気が」
『彼女の中に、妖精王の魂が乗り移っているんだ』
「と言うことは……」
「憑依されている」
『妖精王は既に亡くなっているが、恐らく彷徨う殺人鬼の魂を気にして、あの世へ逝けなかった……だから曾孫である彼女の体を借りたんだろう』
スッと目を開ける美麗……
辺りは闇に包まれており、傍にいたはずの秋羅がいなくなっていた。
「……秋羅?」
『美麗』
「?」
『ソナタの体を、しばらく借りる』
「……」
何かを言い掛けた時、後ろから肩に手が置かれた。ハッとして振り返ると、そこには美優が微笑みながら立っていた。
「ママ!」
『美麗……』
抱き着いてきた美麗を、美優はしかりと受け止め頭を撫でながら話した。
『大丈夫よ。
妖精王は、あなた達の味方だから』
「味方?
ママと同じ力を持ってるから?」
『そう……だから、終わるまで待ってましょう』
そう言いながら、美優は美麗を自身の膝に乗せ抱き寄せた。美麗は気持ち良さそうにして、彼女の胸に顔を埋めた。