桜の奇跡 作:海苔弁
マリウス宅の裏庭を、エル達と駆け回る美麗。その様子を天花は、体を伸ばしながら眺めていた。
するとそこへ、家の中から林檎を持った水輝とアリサが出て来た。
『お疲れ』
「お、お疲れ様です」
『そう堅くならなくていい。
たかだか、幸人の曾祖母と言うだけだ。それ以外は何も無い』
「あの陽介の曾祖母であるとなると……敬語しか、出ないんですよね~」
『ハッハッハッ!
アイツは、貴族共がいる中で育ったからな。あの口調は馬鹿息子と馬鹿孫譲りだ。
して、今陽介はどうしてるんだ?』
「討伐隊の大佐に」
『流石陽介。
宣言道理になりやがって……
あぁ、そうだ。
水輝だっけ?服、貸してくれてありがとな』
「サイズ合ってよかったですよ!
戦闘時ならともかく、普段まであの討伐隊の制服は……」
『貴様等には、そうだろうな』
話す自身の元へ、駆け寄り飛び付いてきた美麗を天花は受け止めた。
『だが、この子にはあの格好は日常だったからな』
「……」
「あぁ!林檎!」
「おやつにどうぞ」
「ワーイ!」
アリサが下ろした籠の中から、数個の林檎を取った。
「そんなに沢山」
「エルー!ネロー!
行くよー!!」
美麗が空高く投げ飛ばした林檎を、飛んできたエルとネロは軽々と口でキャッチした。
さらに3個投げ飛ばすと、今度はゴルドとプラタ、紅蓮が口でキャッチした。
「す、凄い……」
「ヒャー……高々と投げ飛ばすねぇ、ミーちゃん」
『相変わらず、上手に取るなぁ……エルは』
外から聞こえる笑い声に、幸人は目を覚ました。
「……」
「お目覚めですか?」
上半身を起こし、声がした方に目を向けるとそこにはマリウスが立っていた。
「……あぁ、さっきな」
「4日間、眠ってましたよ」
「だろうと思った……
目が覚めたらちゃんと光があって、少し安心した」
「……地獄の祓い屋」
「?」
「昔、そう呼ばれてましたよね?
秋羅君を傍に置く前、大剣を片手に数多くの依頼を熟し、妖怪を斬るその姿はまさに地獄から蘇った祓い屋」
「そんな昔のこと、とうの昔に忘れた」
「おやそうでしたか……
しかし、あの大剣振っただけで、こんなに寝込むとは……」
「寝込むようになったのは、ここ三、四年だ……
多分、体がついていかなくなったんだろう。年のせいだ」
「……」
「そういうお前は、どうなんだよ」
「あなたみたいな、特異体質じゃないんで……僕は」
「悪かった、特異体質で」
「それに、君の妖力には愛する者の魂があり、その者が妖力を抑えている……僕には、そんな人いませんよ」
「……」
服の下から、幸人は手の平サイズのペンダントを二つ取り出した。一つは冥王星のマークが刻まれて、もう一つは月のマークが刻まれていた。
「……冥影の紋章、あなたが持っていたんですか」
「捨てられるわけねぇだろう……
捨てたら、アイツの存在が消えそうで」
「……」
『話の途中で申し訳ないが、少し席を外して貰おうか?
海影』
開けっ放しになっていた戸を叩を叩く、天花がそこに立っていた。
「美麗は良いのか?婆」
『海影のドラゴン達と、空の散歩だ』
「だから笑い声か……秋羅は?」
『その付き添い。
水輝は暗輝と一緒に、病院に行くって言ってたかな?』
「おや?アリサは?」
『秋羅達と一緒』
「……珍しいこともあるものですね。
彼女、少々大人びているところがあるので、そういう遊びには付き合わないので」
『まぁ、半ば美麗が強引に誘ったんだがな……
で、そろそろいいか?』
「はい。
それでは月影、また」
「あぁ」
天花に一礼すると、マリウスは部屋を出ていった。幸人と二人っきりになった天花は、戸を閉め窓の外を眺めがら口を開いた。
『私がこの姿でいるのは……おそらく、美麗が持っている私の小太刀があったからだ』
「小太刀に、当時の魂の欠片があったからか?」
『私はそう考えている。
そして、何故私がここにいるのかだ……
おそらく、晃の力だろう』
「晃……」
『……美麗の義理の兄であり、生きていた頃の私の唯一の理解者であり、親友だった……』
「……そういや、よく話してくれたよな。
変人親友の話」
『本当に変わった奴だったからな。
蝶が羽化するまで、そこに留まったり……面白い本を見付けると、欠かさず私に教えて3時間、その本について語られたり……
雨の日なんて、突然森に行こうって誘ってきたりで……あの頃、本当に楽しかった。暇な日なんて、1日も無かったくらいだ』
「まるで、美麗だな」
『だろう?
よく、変人兄妹とからかったもんだ』
嬉しそうな笑顔を、幸人に見せながら天花は話した。だが、その笑顔はすぐに消え、どこか悲しげな表情で再び外を見た。
『……けど、そんな幸せな時間は、長くは続かなかった』
「……」
『……私は、あの二人を不幸にしてしまったんだ』
「何があったんだ……
二人に」
『……悪いが、私の口からは言えない』
「……」
天花が眺める外では、上下に揺らすネロの尻尾に、美麗はしがみつき、笑い声を上げながら遊んでいた。
笑い声を上げ、楽しそうにする美麗の姿に彼女は微笑んだ。
「……話戻すが、晃の力が発動した理由は?
それに、晃の力って」
『発動した理由は、おそらく美麗が倭国を離れたから。
何があるか分からない場所に、紅蓮とエル達だけでは不安だったんだろう。晃だけでなく美優さんも。
晃は、昔から不思議な力を持った奴でな。物に宿っている、魂を人に蘇らせることができるんだ』
「それで婆を」
『その通り。
消えないのを見ると、多分……まだ、海外の依頼があるんじゃないか?』
裏庭……隅に置かれていたベンチに、疲れたのかアリサは深く座り、履いていたブーツを脱いだ。
「お疲れみたいだな?アリサ」
「当たり前よ。
こんなに走ること、あんまり無いもの」
「なるほど……貴族のお嬢様は、あまり走らないのか」
「そ、そういう意味では!」
「ヒヒ!悪い悪い、からかっただけだ」
「……」
心地良い風が、草木を揺らした。原っぱで遊び疲れたのか、美麗はエルの胴に頭を乗せ眠り、彼女の傍に寄り添うようにして、紅蓮やネロ達が座り伏せていた。
「何か、とても15歳には見えませんね」
「え?」
「まだ10歳にも満たない子というか……
心がまだ、5歳とか6歳くらいの子というか……」
「……それはあるかもなぁ……
美麗、俺達に会うまでずっと森に住んでたって言うし。
100年前は、幸人の曾祖母さんと蘭丸さん、あと晃さんとしか、触れ合ってなかったみたいだし……
多分、年は取っていても、体と心はガキのまんまって事なんじゃねぇの」
「……
聞いてもいいですか?」
「ん?」
「美麗ちゃんのご両親って、どんな方だったか、ご存じですか?」
「話でしか聞いてないけど……
父親は、前に話した通り妖怪の総大将・ぬらりひょん。
母親は、初代祓い屋で自身も半妖だった人。名前は弥勒院美優。
美麗の話だと、母親は凄い優しい人で、綺麗な人だったらしい。膝に乗ると必ず、本を読んでくれてたって」
「……愛されていたんですね」
「だろうな。
でなきゃ、あんな笑顔見せないよ」
「秋羅のお母様は、どんな方ですか?」
「え?俺?
少し性格キツかったけど、優しかったなぁ。
アリサのとこは?」
「……私の家は、貴族の家でした。
父親がこの国の、軍の高層部にいた人で……母親はその軍の医療部にいた人でした。
その間に産まれた私は、厳しい英才教育を受けながら育っていました。
それがある日、一変しました」
「?」
「……父が、殉職したんです。
妖怪に襲われて……父が率いていた隊は全滅。任務は失敗。その全責任を、残された私達家族に被されました。
母は父が死んで僅か数ヶ月後に、精神を壊しました。傍にあった私の人形を、私だと思い込んでしまうほどに……
結果的に、母は親戚の方が引き取り精神病院へ入れられ、現在も入院中。
引き取り手が無い私を、先生が引き取ってくれたんです」
「親戚がいるなら、その人達に引き取って貰えれば」
「嫌がったんです。
私を引き取るのを。嫌でしょう?
任務を失敗して隊を全滅させて、その挙げ句に妖怪に食われて死んだ男とその女の子供なんて」
「……?」
空から聞こえる竜の鳴き声に、アリサと秋羅は上を向いた。上空を飛ぶ二匹の竜が、裏庭に舞い降りてきた。
「……何だ?あれ」
「おそらく、花琳さん達かと」
「え?何で?」
祓い屋は、紋章を持っている。
名前にある星の色事に、星のマークが刻まれている。
形はペンダントであり、首に掛けている者もいれば腕に嵌めていたり、腰に着けていたりと様々である。