糸使いちゃんの逆行物語   作:96ごま

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お ま た せ ((

最近ずっと更新ペースが落ちていてほんと申し訳ないですが、無理して体調崩したら本末転倒なので今後もゆっくりになります、すみません…(汗)

では、新章ナイトレイド編をどうぞ!!


ナイトレイド編
新たな出逢いを斬る


__帝都のとある貸本屋。そこは普通の書店に見えるが、裏では隠れアジトとして活用されている。外装も内装も前世と全く変わらない、ナイトレイドの憩いの場の一つだ。

 

そんな貸本屋のカウンターで、掻き上げた長い緑の前髪をピンで留めて眼鏡越しに本を読んでいるのは、表稼業としてこの店を経営している俺、ラバックである。

 

俺はエスデスに気に入られていたせいで帝国軍の奴らに顔を覚えられている可能性があるから本当はやらない方が良いんだけど、顔バレしてない他のメンバーにこの簡易拠点の管理を任せるには不安があるっていうか……。まぁ本音を言うと、この貸本屋で働くのが好きだったからもう一度やりたかっただけなんだけどね。

 

革命が成功したらこの貸本屋を全国チェーン店にするという昔からの……一周目の頃からの大きな夢も、今度こそ叶えたい。その為にも俺は今、兵士時代の顔見知りにバレないようにする対策として、皮肉な事にまた少し大きくなってしまった胸をサラシでキツく締め付け、更にはサイズ違いのダボダボな服を着て女性の象徴である胸を隠し、男を装っている。

 

……元々男だったのに男を装うってなんだよってツッコミたい気持ちは俺が一番わかってる。だから皆まで言うな、これでも真剣に考えた結果なんだよ…!

 

とにかく!きっかけはこの件についての会議中にすんごい面倒くさそうな態度で言ったマインちゃんの「そんなにやりたいなら男装でもすれば?」という発言だけど、帝都で活動する際は性別と名前を偽っていれば、最悪顔見知りに会っても他人の空似程度で済むんじゃないかという結論に至ってこのような男装をしているのだ。

 

因みにこの服や眼鏡は前世でも使ってたお気に入りで、サイズも当時と同じ。前世でもわりと細身な方だった筈だけど、こんな大きかったっけ?って思うと、改めて更に小さくなった自分の身体を自覚して溜め息を吐いてしまうのも、最近の悩みの一つでもある。

 

そんな密かな悲しい気持ちを抱きながらいつも通り働いていた今日この頃。この日は、思わぬ珍客がこの貸本屋に訪れてきた。

 

「いらっしゃーい……って、なんだ、兄さんか。おかえり」

 

「なんだ、って酷いなぁ……。店員だからって素っ気ない態度しないで、もっと可愛い笑顔でお兄ちゃんをお出迎えしてよー」

 

「やだよめんどくさい」

 

呑気に笑って現れたこの貸本屋の店員は、俺の実兄、リネット。

 

普段と変わらず他愛もない会話を交わすが、一つ違和感を感じた。その理由は、彼の後ろに見慣れない二人の若い男女の存在。

 

一人は艶のある長い黒髪に花飾りを付けた女の子。もう片方の男は額に手拭いのような布を巻いているのが特徴的で、パッと見た感じはどちらも俺と同年代のようだ。

 

「兄さん、そこの二人は?」

 

「ん?ああそうそう!彼らの事で君にちょっとお願いがあるんだ!」

 

「……なにそれ。嫌な予感しかしないんだけど」

 

ナイトレイドの中でも特に面倒事を起こすトラブルメーカーの一人であるこいつの事だ。どこかでまた何かやらかしてその尻拭いを俺にも手伝わせようとしてるに違いない。そう思ってジト目で見ていたら、彼は「まぁ話は最後まで聞いておくれよ」と言って、改めて喋り出す。

 

「この二人とはさっき知り合ったんだ。でね、二人は兵士になって田舎にお金を送る為に上京してきたらしいんだけど、帝国軍に志願しに行ったら断られちゃったみたいでさ……。だからさ、この子達をここで働かせてあげられないかな?」

 

「…………は?」

 

兄が何を言ったのか理解するまで、思わず数秒固まる。

 

「はあああああぁぁッ!!?」

 

怒鳴り声に等しい絶叫が、店の周囲にまで響き渡り、近くの鳥達が一斉に羽ばたいた。

 

店の客や通行人がザワザワとどよめき始めたのに気付いた俺はハッ!とし、兄さんをカウンター裏へと連れて一緒にしゃがみ込む。

 

「何言ってンだよあんた!?ここがどういうとこだかわかってて言ってンのか!?」

 

「そ、そうだけどさぁ……なんか、初めて帝都に来た時の自分を見てるみたいで放っておけなくて……」

 

ひそひそと小さな声で話す俺と兄さんの会話は、恐らく誰にも聞こえていない。

 

この店で見知らぬ人間が働き始めたら、どうなってしまうか。それを考えるのは容易い。我らナイトレイドのロマンある秘密基地のような地下の簡易拠点がバレ、最悪の場合はナイトレイドだけではなく革命軍との関係性や情報が帝国に渡ってしまう恐れもある。

 

あと数日もすればあいつ(・・・)がナイトレイドに加わるというのに、このアホ兄貴はまた面倒事を増やす気か。

 

しかし店内で戸惑ってる様子の二人に目配せする兄さんは彼らと自分を重ねてしまっているらしく、折れてくれる気配が全くない。

 

「……あの、リネットさん。その人迷惑そうにしてますし、私達、別の仕事を探します」

 

そう言ったのは、黒髪の女の子。するとその隣に居た男がぎょっとして慌てる。

 

「なっ!!?いいのかよサヨ!?やっと帝都で働けるチャンスだったのに…!」

 

「イエヤスは黙ってなさい!せっかくご親切にしてくれたのにすみません、リネットさん。弟さんも、いきなり来て迷惑掛けちゃって本当にごめんなさい」

 

「えっ?いや、そんな迷惑だなんて……」

 

迷惑じゃない、と言ったら嘘になるが、女の子にこうして頭を深々と下げられるとこっちが悪いような気がしてしまう。

 

「ほんとに良いのかい?かなり困ってたみたいなのに……」

 

「大丈夫です。野宿なら慣れてますし、暫くはなんとかなると思います。ね、イエヤス」

 

「うぐっ…!はぁ…またあの寒空の下で寝なきゃいけねぇのか……」

 

兄さんが心配そうにするが、女の子は気丈に振る舞い、男も夜の寒さを思い出して身震いするも、仕方なく彼女の意見に賛成している様子。

 

だが、そのまま「失礼しました」と言って去ろうとしていく二人の背中がなんだか悲しそうに見えてきた俺は、

 

「ちょっ、ちょっと待て!俺はまだダメとは言ってないだろ!?」

 

と、まるで自分が悪者になったような謎の罪悪感に負けて、勝手に話を進めていた二人を思わず引き止めてしまう。

 

すると女の子は勢い良くこちらに振り向き、俺の顔とぶつかるんじゃないかってくらいに一気に距離を縮めてきた。

 

「働いて良いんですか!?ありがとうございます!!」

 

「えっ?あ、う、うん……っていうか近い近い近い……!!」

 

ギュッ!と両手まで強く握られて。キラキラした瞳で心底嬉しそうに言われたらもうYESと頷くしかないだろう。

 

にしても、よく見るとこの子結構可愛いな……。地下の存在がバレなきゃ良いわけだし、ここでバイトさせるのは悪くないかも……。

 

なんて内心で生まれ付きの女性好きが発動しつつも、問題が起きたらその時始末すれば良いかと殺し屋の身分を忘れていない自分もしっかりとそこに居る。

 

「はぁ、しゃーねぇな……。リネット兄さんからもう聞いてるかもしんないけど、俺は弟のクロース。ここで働くと言ったからにはただでは辞めさせねぇから覚悟しとけよ」

 

『クロース』というのは、俺の帝具、クローステールの名前から取った偽名だ。安直だけど、わりと気に入ってる。

 

ただ、偽名だけではなく、兄と一緒に名乗る度に妹だと言い慣れてしまったせいでそっちも間違えないように注意しないといけないのが結構大変だ。いつもごっちゃになって、自分で言っててわけがわからなくなる。

 

男装は自分の意思でやってるから自業自得だけど、俺の性別ってなんでこんなにややこしくなっちゃったんだろ…?

 

「私はサヨ。こっちは……」

 

「イエヤスだ。これから世話になるぜ、クロース」

 

改めて二人との自己紹介を済ませ、握手を交わす。

 

……あれ?そういやサヨとイエヤスって名前、どっかで聞いた事あるような…?

 

いつどこで聞いたっけ?それともまた違う何かとイントネーションが少し似てただけか?と考えてみるが、兄さんが微笑ましそうにニコニコ笑っているのに気が付き、その思考は露へと消えていく。

 

「良かったね、二人共。ラ……クロースも承諾してくれてありがとう。二人の事は僕が責任を持って面倒見るよ」

 

「はいはい、もう勝手にしてどうぞ。……でも、後で帰ったらみんなにこの事報告するからな」

 

軽くいなしてから二人に聞こえない小声で兄を咎めると、返す言葉もない彼は気まずそうに頬を掻きながら苦笑していた。

 

とまぁそんな感じで二人を貸本屋で雇う事になり、その後二人には、宛がないならこのバイト代で近くの宿に暫く泊まると良いよと伝えて、以降はそこからうちの店に通って貰う事にした。

 

 

 

 

 

そしてその数日後のとある月夜。赤く輝く満月を背に、俺達ナイトレイドが夜の任務を終わらせてアジトに帰還しようとしたその時。前世と同じように、姐さんがあいつ(・・・)を連れて来た。

 

「__今日から君も私達の仲間だ!ナイトレイドに就職おめでとう!!」

 

「なんなんだよこの展開ーーッ!!?」

 




連載が始まったばかりの頃は、逆行中のラバとシュラはどちらもサヨとイエヤスとは全く無関係な人間だったから二人の救済は無理かな…と若干諦めてましたが、完全にフリーなオリキャラことリネットのおかげでこの救済ルートが決まりました。ありがとうリネット兄さん!!

だがしかし今後二人をどうするかはまだ未定((

救済の需要なんて知るか!!アカ斬るキャラが一人でも多く幸せになってくれりゃあ僕はそれで良いんだよ!!つまりこれは作者である僕の自己満足さ!!!

……と言っても、タツミやオリ主ではなくラバックが主役という作品の都合上、全員救うのは無理なんですけどね()

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