糸使いちゃんの逆行物語   作:96ごま

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早く原作軸書きたいって散々言ってましたけど、いざ書くとなるとかなり難しいっすね。
どの場面を使うかとか、どこをどう変えるかとか……とにかくめっちゃ苦戦してますけど楽しいので今後も頑張ります←


奇襲を斬る

深夜、辻斬りを恐れる住民が家で大人しくしている就寝時間。警備隊達が慌ただしく走り回る音が遠くから聞こえる。

 

今回ナジェンダさんから与えられたナイトレイドの仕事は、『首斬りザンク』の討伐。その名の通り人の首を斬り続けている辻斬りの帝具使いとの戦いだ。

 

だが前世でアカメちゃんが葬った事を唯一知る俺は、今回も彼女達に任せておけば良いと少々気楽な調子でいた。

 

 

 

その慢心のせいで後々思わぬ不意討ちを受けると知らずに……。

 

 

 

「住民が外に出ないなら動き易いかと思ったが、これじゃあ首斬りザンクとやらは探せねぇな」

 

警備隊達に見付からぬよう路地裏で隠れている中、隣でつまらなさそうにぼやいたのは俺とタッグを組んでいるシュラ。

 

こいつは相方の援護どころか猪突猛進で動くその単独行動のせいで他のメンバーとあまり噛み合わず、おまけに本人が俺以外と組む気がないときて、普段から仕方なくこうして行動を共にしている。

 

「どうせ一周目みたいにアカメちゃんがザンクを始末するんだから、どっちにしろ俺らにやる事がないのは変わらねぇよ。暇だろうけど我慢しろ」

 

「ちっ、久々の帝具戦で思いっきり暴れられるチャンスだったってのに。結果がわかってるのもつまんねぇな」

 

離反前と比べて娯楽が少ない事に不満を抱くシュラの苛立ちは増す一方。顔バレや立場のせいで常に行動も制限されている彼のストレスも、そろそろ限界が近いのかもしれない。

 

「そんなにストレス発散したいなら、お前もブラートさんと練習試合でもしてみれば?あの『百人斬り』と戦える機会なんてなかなかないだろ?」

 

「それは断る」

 

俺の提案を青褪めた顔で即座に断ったシュラに、だと思った、と鼻で笑う。

 

ホモ疑惑があるブラートさんを極力避けるシュラの気持ちはよくわかる。でも今の俺ににとっては他人事。彼に怯えるこいつの姿を陰から見てざまぁ見ろと嘲笑うだけだ。

 

「…………暇」

 

「だからって俺に抱き付くな、ウザい」

 

セクハラ常習犯(残念な事に俺限定だが)のこいつに抱き付かれるのは、不本意ながら大分慣れてしまった。

 

でも体格差のせいであまり抵抗出来ないこの体勢が好きではないのは変わらない。というかこいつに触られる事自体がやっぱり嫌だ。

 

今だってさりげなく腰を撫でてくるし、こいつへの嫌悪感が増していくのは当然の事だと思う。

 

「おい、いい加減にしろダンナ。触り方がキモい」

 

「最近タツミの奴ばっかり気にして俺に構ってくれねぇんだから、こんくらい良いじゃねぇか。久々に外でヤろうぜ」

 

「別に俺はタツミに構ってるわけじゃ……って、隙あらば脱がそうとしてんじゃねぇよこの変態ッ!!!」

 

「ごふッ!!?」

 

俺のズボンのベルトに手を掛けていたシュラの脇腹に、キツい肘鉄砲を一発食らわせる。

 

よろけた奴の腕から抜け出した俺はすかさず離れ、天敵に威嚇するように睨み付けた。

 

「ったく、こっちは触られるのを我慢してやってるんだから、てめぇもちったぁその性欲抑えろよ」

 

「あ?男ってのは女を抱くのが生き甲斐だろうが」

 

「童貞のまま死んで悪かったな!!!」

 

一度も女性を抱く事なく最期まで初恋を大切にしていた俺にとって、童貞を侮辱するその台詞は禁句だ。

 

なのによりにもよってこんな奴に貞操を奪われたなんて……屈辱的にも程がある。

 

「あーくそっ!なんで童貞は卒業出来なかったのにあんな早い段階で処女を失ってるんだよ俺は!!これじゃあもうお婿に行けねぇじゃねぇか!」

 

「お前は将来俺の嫁になるんだから婿にはなれねぇだろ」

 

「誰がてめぇなんかに嫁ぐかハゲ!!」

 

「ああ!?俺様のどこがハゲてンだこのクソアマ!!」

 

こいつに嫁ぐのだけは死んでも絶対に御免だ。俺の人権を奪って弄ぶだけ弄んで、飽きたら捨てるという未来しか想像出来ない。そんな地獄みたいなとこに行くくらいなら死んだ方がマシだ。

 

しかしそうやって任務中にも関わらず騒いでいたその時、

 

「「ッ!!?」」

 

突如真上からゾクリとした不気味な殺気を感じ取り、シュラとは別々に飛び下がる。

 

そしてそんな俺らの間に降り立ったのは……。

 

「セリュー・ユビキタス……!?」

 

前世でシェーレさんを殺したイェーガーズの一員、セリュー・ユビキタス。生物型帝具の『ヘカトンケイル』を連れた彼女が、建物の屋上から俺ら二人を襲い掛かってきた。

 

何故ここに、と一瞬疑問に思うが、現時点のこいつはイェーガーズではなく警備隊の一人。ナイトレイドと同じくザンクを捜索していたのかもしれない。その途中で面が割れてるシュラを見付けてこちらを優先した、といったところか。

 

「顔の十文字傷…手配書と一致。ナイトレイドのシュラと断定!そして一緒に同行している女もナイトレイドの仲間と断定!」

 

ぐしゃりと握り締められた紙は、恐らくシュラの似顔絵が描かれた手配書だろう。

 

憎き相手に漸く出逢えた喜びなのか、小刻みに震える彼女は狂気に満ち溢れた歪な笑みを見せる。

 

「帝都警備隊セリュー・ユビキタス!絶対正義の名の下に悪をここで断罪する!!」

 

「……こりゃあ、かなり厄介な相手に会っちまったな」

 

直接会った事はないが、セリューの情報は前世でマインちゃんから聞いてる。セリュー自身の強さや、ヘカトンケイルの奥の手。そして何よりあの気配の消し方。

 

今まさに突き刺すような殺意を向けているというのに、相手に悟られずに襲撃してきたそれは俺達暗殺者と変わりない。だから全く気付けなかった。

 

「へぇ…ちょうど良い。さっきから暴れたくて仕方なかったんだ、久々の帝具戦といこうじゃねぇか」

 

冷や汗をかく俺とは対照的に、うずうずしていたシュラは戦う気満々な様子。既に臨戦体勢に入ってる。

 

本当なら奇襲を食らって崩れたこの陣形を直したいところだが、目を光らせるセリューの前では別の区域に居る仲間を呼びに行く隙も無さそうだ。

 

「しゃーねぇ…顔も見られちまったし、これも何かの縁だ。お前にはここで死んで貰うぜ、セリュー!」

 

キュルキュルと金切る音に近い音を鳴らしながら、指先の鈎爪から糸を放出させ身構える。

 

二周目の今とは関係がないとしても、一周目の彼女がシェーレさんを殺した事に変わりはない。復讐心を抱いているのはお互い様だ。

 

それに、ここでセリューを始末すればシェーレさんが死ぬ未来を変えられる。こうなった運命にむしろ感謝したい。

 

 

 

出逢う筈のなかった帝具使いとの死闘が、静かな夜の街中で幕を開けた。

 




少し長くなりそうなので何話か分ける予定。

正義厨のセリューはよく嫌われたりしてますけど、僕は好きです。
というか間違った道に進んだセリューだけじゃなく、シュラさんを始めとした根っからの悪人とかも結構好きなんですよね(笑)

アカ斬るに限らず、救いようがないくらいに腐った敵キャラはファンに嫌れる程輝くものだと僕は思ってます。

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