糸使いちゃんの逆行物語   作:96ごま

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今回はモブキャラとオリキャラが登場します。
オリキャラといっても、タグを付ける程のキャラではないですが……。


人助けを斬る

「本ッッッ当にすまなかった!!」

 

「だ、だからもういいですってば!お願いですから顔を上げて下さいナジェンダさんっ!!」

 

起床したエスデスに一言伝えてから、心配しているであろうナジェンダさんにコートを返して謝罪もする為に彼女の執務室に行ったら、逆に頭を下げられてしまった。

 

俺の部屋を荒らしてしまった事に対して何度も謝る上司の姿を見ていられない俺は、急いで話題を変えようとする。

 

「そ、それよりも!昨日は俺に何か用事があったんですよね?」

 

「あ、ああ…そうだったな……。取り乱してすまない」

 

漸く顔を上げてくれたナジェンダさんは、コホン、と咳払いをして自分の失態を誤魔化す。

 

「仕事とは全く関係はないんだが……最近お前の様子がおかしかったから直接聞こうと思ってな」

 

「えっ、俺なんか変でした?」

 

「ああ。陛下達との食事会以降、任務以外でも何かに怯えるように警戒していたぞ。……まさか、あの後からあのゲス野郎に脅されていたのか…?」

 

さ、流石ナジェンダさん……勘が鋭いな。

 

「ま、まぁ……そんな感じ、ですね」

 

「やはりそうだったか…!くっ、ブドー大将軍に邪魔されていなければ昨日の内に抹殺出来たというのに……!!」

 

悔しそうにダンッ!と机に拳を叩き付けたナジェンダさん。エスデスのせいで若干忘れ掛けてたけど、昨日の恐怖を思い出して少し身震いする。

 

気持ちは物凄く嬉しいんだけど、また暴れる気かこの人……。でも、それよりもその頭に巻かれている包帯とかを見てるとこっちが心配してしまう。

 

「そういえば、昨夜はどこで寝ていたんだ?一人で野宿なんてしていないだろうな?」

 

「任務でもないのに寒空の下での野営なんてしませんよ…。今はエスデス将軍に捕まって強制的に軟禁生活みたいなのをさせられてます」

 

「は…?」

 

溜め息を吐いて今の困った状況を話すと、ナジェンダさんはポカン、とした顔をしていた。

 

 

 

 

 

__とまぁ今回も色々あって、鬼の形相でナジェンダさんが急いで俺の新しい部屋の手配をしてくれると言ってくれて、午前中の任務も早めに終わらせた午後。

 

「……なんでこんなに不運が続くんだろうな、俺は……」

 

エスデスの部屋にはまだ戻りたくないと思い、一緒に任務を行っていた同僚達との解散後に帝都の街を彷徨いていたら、路地裏でいかにも頭の悪そうなチンピラ達に絡まれてしまった。

 

と言っても、涙目で助けを求める一人の小さい女の子を、そいつらが大勢で囲んでいたから俺が声を掛けた、というのが正しいんだが。

 

昔は他人相手ならこういうのに関わりたがらないタイプだったけど、前世でナジェンダさんやナイトレイドのみんなと一緒にいる内に俺も随分とお人好しになったもんだ。特に、あの中で一番正義感のあるタツミからの影響が強いんだと思う。

 

「なんだぁ?この姉ちゃん。俺等に何か用でもあンのかぁ?」

 

「その格好、帝国軍か?こりゃちょうどいい。よく見たら可愛い面してるし、こいつの服全部剥いで可愛がってから帝都で悪名を上げてやるぜ」

 

あー……ちょっと訂正。頭悪そうじゃなくて、こいつ等完璧にバカだ。ここまでわかりやすいバカはそうそう居ないな。定番なモブキャラ過ぎて危機感全く感じねぇわ。

 

「顔に傷は付けんなよお前等ぁ!」

 

剣を握りながらそう叫んで突っ込んで来るチンピラその1……モブAとでも名付けよう。

 

しかし単調過ぎるその攻撃は横に半歩下がって重心を傾けるだけで回避出来た。

 

「帝都で悪名を上げたいならもっと腕を磨くんだな、ロリコン共」

 

すぐに振り返ってモブAに剣を振るう。でも殺しはしない。鞘に入れたまま打撃を与えただけだ。

 

その後も残りの数人が飛び掛かって来たが、軽くあしらってやった。先輩兵士達から真面目に剣を習って正解だったぜ。

 

全員が倒れたのを確認してから、呆気に取られた様子の少女の側に屈む。

 

「もう怖がらなくても大丈夫だぜ。立てるか?」

 

「う、うん……ありがとう、お姉ちゃんっ」

 

やっぱり怖かったのか、涙目のまま飛び付く女の子。

 

パッと見た感じだと、恐らく5~6歳くらいの年齢だろう。俺にしがみ付いて泣きじゃくるその少女の背中を擦って宥めるけれど、なかなか泣き止んでくれる様子はないみたいだ。

 

どうしたもんだか、と悩んでいたその時。背後から殺気を感じた。

 

泣き続ける女の子に気を取られて気付くのが一瞬だけ遅れてしまった俺は、その子だけは守ろうと咄嗟に庇う体勢になる。しかし、

 

「ぐはっ!?」

 

その呻きは俺の声ではなく、男の声だった。では誰の声なのか?それを確かめる為に後ろを振り向くと、そこに居たのは……。

 

「雑魚が俺の玩具に手ぇ出してンじゃねぇよ」

 

「シ、シュラ!?」

 

目の前に立っていたのは、俺の一番嫌いな相手、シュラ。そして先程の呻き声の正体は、そいつの足下に倒れている男。さっきのチンピラの一人だ。

 

「なんでお前がここにいるんだよ!?」

 

「あ?助けてやったのにその態度かよ」

 

「うぐっ、……ま、まぁ一応感謝はしといてやる」

 

こいつに礼なんて言いたくないけど、確かに助けてもらったのは間違いないから渋々感謝する。でもなんか変な萌えキャラみたいな口調になってしまったのがかなり恥ずかしい。

 

グイッ、と裾を引かれたのをきっかけに、女の子へと目を向ける。するとその子は潤んだ目で今にもまた泣き出しそうになっていた。

 

「だ、大丈夫!この悪党面の兄ちゃんは大丈夫だから!ほんとはロリコンかもしれないけど泣かないでっ!」

 

「あぁ!?誰が…~~~ッ!!何しやがるンだてめぇ!!」

 

「お前が喋ると余計に怖がっちまうから黙ってろ!!」

 

足をグッと踏み付けてシュラを黙らせてから、慌てて少女を再び慰める。

 

「あ、そうだ!君、名前は?お父さんとお母さんはいる?」

 

「うっ、…ひっぐ……、ルミ…っ、…。ママ、いるけど…どこにいるか、わかんない……っ」

 

嗚咽しながら言葉を紡いでくれた女の子、ルミちゃんは母親とはぐれてしまった迷子らしい。

 

恐らくさっきのチンピラ共は、まだ幼い彼女が一人でいたから襲おうとしたのだろう。そう考えるだけで、返吐が出そうだ。

 

「んじゃあ、俺とこの兄ちゃんも手伝うから、一緒にママを探そう?」

 

ルミちゃんの頭を撫でる俺の発言に、シュラがギョッとする。

 

「はぁ!?なんでこの俺がこんなガキの親探しなんか……」

 

「どうせ暇だからここに居たんだろ?なら手伝えよ、おにーさん?」

 

悪戯っぽく笑うと、暇だったのが図星だったのか、シュラはぐっと狼狽えた。

 

「よし、決まりだ!ほら、この子が周り見やすくなるように肩車してやれよ」

 

「勝手に決めんな!誰がそんな事……」

 

ルミちゃんを抱き上げてシュラに近付けると、彼の顔が怖いのかまたうるうるとし始めた。

 

「あーくそッ!!やりゃいいんだろ!?いちいち人の顔見て泣くんじゃねぇよこのくそガキ!!」

 

「だから怖がらせるなっつってンだろうがこの悪党面!!」

 

泣かれた事に苛立って怒鳴ったシュラの脛を蹴る。そしてそれによって蹲るシュラの肩に、俺はルミちゃんを乗せてやった。

 

「~っ、後で泣かせてやるから覚えとけよこの野郎…!」

 

「はいはい、ベタな捨て台詞はいいからさっさと立てよお兄さん」

 

「ンだとてめ…っぐ!?」

 

シュラが勢い良く立ち上がると、怖がって目を瞑ったままのルミちゃんが彼の髪を強く握って引いていた。……内心ざまぁみろと思ったのは内緒だ。

 

「ルミちゃん、怖いかもしれないけど、この方が君のママが見付かると思うから、一緒に頑張って探そ?」

 

帝都の人混みの中じゃあ、背の低いルミちゃんは自分の母親を探せない。だから少しでも彼女が周りを見渡せるように、背の高いシュラに肩車をさせたのだ。

 

それが不満だと言うような表情をしているシュラが俺を睨んでいたが、キッと睨み返して再び黙らせる。

 

そして俺の言葉に頷いたルミちゃんは、恐る恐る瞼を開けた。

 

「わーっ!高いっ!お兄ちゃんおっきいから遠くまで見えるっ!」

 

余計に怖がってしまうのではと少し心配だったけれど、むしろ初めて見る高い視線の光景にキャッキャッと喜んでくれているようだ。

 

喜ぶ彼女に相槌を打ちつつ、「あんまり髪を引っ張らないであげてね」と優しく注意をしておくと、ルミちゃんは元気良く返事をしてからシュラに「ごめんね」と謝る。

 

「…ちっ、暴れたりしたらすぐに落としてやるからな」

 

そう言ってルミちゃんを肩車したままの状態で先を歩いて行くシュラ。渋々でも了承してくれた事が意外過ぎて、俺はついキョトンとした顔をしてしまう。

 

もしかして、純粋な笑顔を見せるルミちゃんに毒気を抜かれたのだろうか。

 

……けど、もしそうだとしても、こいつが悪人だという事実は変わらない。前世で彼が行ってきた数々の悪行は、絶対に許される事ではないから。

 




幼j((
女の子にラバの事を「お姉ちゃん」って呼ばせたかった。ただそれだけ()

ナジェンダ将軍の仕事がどんどん増えていく……(白目)

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