とある淘汰の転生憑鬼   作:syuu

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25本編 児童期10 物理力的に

あぁ、そう来たか。と、灰神は内心の焦りを制して状況を整理する。

 

先ず、食蜂の能力が自分に対して無力であるか或いは耐性がある事が窺え、(当然、単純に不発しただけという可能性も捨てられないが)その原因について食蜂は灰神が高位の発電系能力者だと誤解しているようである。

自分も彼女の能力が効かなかったことについて驚いており、すぐさま心理掌握(メンタルアウト)についての知識を引っ張り出し一通り吟味すると、幾つかの仮説に辿り着いた。

 

彼女の心理掌握(のうりょく)は、人にのみ効果を発揮し、動物や機械には全く干渉が出来ないという最早『弱点』と言って良い程の特性がある。

対して二觭人(ディクロニウス)である灰神には、普通の人間(ホモサピエンス)と異なる点が幾つかあり、その中に脳内の松果体(5mm)が卵程に肥大しているという特徴がある。

 

つまり、二觭人(ディクロニウス)は普通の人間とは異なる脳内構造をしているため心理掌握(メンタルアウト)の効力対象外であるという仮説。

事実上、同系統の能力者(テレパス)で、特定波長下の対象にのみ強度(レベル)以上の距離での意思の疎通や、逆に特定の動物にのみ能力が働くとういう能力も書庫(バンク)の中を漁ってみるとそれなりの人数が確認できる。

もしかしたら、対ディクロニウスの精神干渉系の能力者がこれから先現れるのでは?こういった可能性についても、いつか検討する必要があるかもしれない。

 

もう一つが、これは一番不確かな予想だが"纏"―オーラ("魔力"を『ガソリン』に例えるのなら精製する前の"生命エネルギー"・・・つまり『原油』に当たる)を自分の体に纏った状態のこと―が発電系能力者(エレクトロマスター)の電磁バリアと同じ効能を偶然果たしたのでは?という仮説。

オーラそのものについてはまだ不明な点が多く本当に(、、、)"ハンターXハンター"と同質なのかさえまだ分かっていない。

一応、現段階で判明していることは、物理的エネルギーの増幅、意思による形状、濃淡変化や体内移動(自分の肉体の硬化、腕力等の身体能力の強化※ベクターを含む)。

"凝"―"練"によって増やしたオーラを自分の体、或いは触れているモノ(服や武器)の一部にオーラを集める事。目に集めると隠されていたり、物体に籠められている僅かなオーラを視認できる―による他人や動物の生命エネルギー(オーラ)の視認。

などしか未だはっきりしていない、・・・そのうち仕事で抹殺予定のターゲットを何体か使って臨床実験する必要があるな。と、少し危ない思考に走るも彼は直ぐに頭を切り替える。

 

 

 

そして最後に、能力そのものは灰神に有効であったとしても、灰神の精神内にいる第二の人格(コウキ)を通じて世界中にいるディクロニウス達の生体情報網(ネットワーク)を丸ごと請け負おうとし、演算が間に合わず容量(スペック)を越えて能力そのものが不発してしまったという単純な力不足という仮説。

心理掌握(メンタルアウト)にも射程や干渉個体数に限界があり。応用範囲の広さが裏目に出てしまったのが今回の現象の要因ではないのか?

 

と、灰神はそれらの仮説のどれか、若しくはその全てが当て嵌まったので食蜂の能力が通じなかったと

 

 

勘違い(・・・)をしてしまった』。

 

 

「え?・・・・・・・(あっ!!そういうことか)うーん、どうなんだろう?ごめんね。私はまだ(・・)能力開発を受けたことがないから、ちょっと分からないかな」

 

 

灰神は食蜂が自分の能力が通じない理由を灰神が発電系能力者(エレクトロマスター)だと当たりを付けているこの状況を楽しみながら、多少はぐらかしを入れながら事実のみ(・・・・)を話し謝罪をする。

 

実際、灰神は超能力を得るための催眠術、首や脳に直接電極を刺し刺激を与える、薬品の投与といった能力開発(カリキュラム)を一切受けていない。

理由は幾つかあるが、その中のひとつに木原一族に対する嫌悪感から来る物がある。

彼ら(きはら)にとって、科学によって生み出された能力者は格好の観察対象であり、それらの『行動』を『現象』を『思考』を『意思』を全て各々の『木原』という信条を用いて科学的にパターンを解析しデータ化させ即座に対策を練り上げる。

言わば能力者の天敵そのものなのである。

と、まあそれ以前に灰神は、乳児期から約三年間、木原等比にトラウマを心と肉体に刻み込まれているので木原の危険性誰よりも理解し恐れている。だからこそ木原(かれら)実験動物(オモチャ)にされないよう実戦を想定した半ば訓練や測定のようなカリキュラムしか受けていない。

 

そんな気苦労を察することなく食蜂は、不機嫌な顔をして。

 

 

「・・・わたしに嘘を言ってもムダなんだゾ☆」ピッ

 

 

自分の目の前で自販機の誤作動を引き起こしておいて何を言っているのか。それとも、さっき能力が効かなかったのは偶然だったのか?と、彼女は別のリモコンへと持ち替えて、再び灰神に向けて能力を行使する。

が、しかし。

 

「!! 記憶を見ることも出来ない!? アナタ・・・・・・何をしているの?」

 

二度目の能力発動も最初の時と同じく、目の前の年上の少年に対して何も変化を与えず自分の能力が無力であることを理解する。

しかし、何も知らずに引き下がるのは、プライドが許さずせめて原因だけでも、と探りを入れる。

 

「ふむ、『何をしている』か。・・・そうだな、その質問に答えることは出来ないけど、敢えて言うのなら・・・私は一体何でしょうか(・・・・・・・・)?」

 

二度にわたり心理掌握(メンタルアウト)が通じなかったことを機に完全に自分がディクロニウスであったから能力が通じないと勘違いをしたまま、得意気に両手を広げ唄うように自分をアピールする。

 

「それって、どういう意味ぃ?」

 

「今は別に深く考える必要は無いよ。というより、君の能力の事なのだから君が一番よく分かっている筈さ。じゃあね。・・・あ!!そうそう、いくら研究所通いだからといって運動を疎かにするともっと運動神経が悪くなるぞ」

 

「・・・はァ――?はァァ―――??誰の運動神経がw――~~~」

 

一瞬惚けて先程の失態を指摘され、食蜂は動揺し、文句を言おうにも言葉に詰まる。

普段なら相手の記憶を弄って終わせられるのだが今回は、それが出来ない。そういった現実に羞恥を感じて頬を赤く染める。

 

「・・・アナタの頭に能力が効かないのなら物理力的に解決するまでよぉ!!」ピッ!ピッ!!ピッ!!!

 

一通り悶えると、乱暴な手付きでリモコンを持ち替え、前方斜め前の壁に・・・より正確にはその向こう側の室内にいる研究者達に向って能力を振るう。

能力開発のどさくさに細工され既にその機能を失い、仮装パーティの衣装レベルに堕ちたメンタルガードに彼女の能力を妨害することなど出来る訳がなく。研究者達は洗脳を施され、彼女の完全な戦奴となる。

 

「えっと、もしかして焚き付けちゃった?」

 

五秒と経たないうちに廊下の扉から、食蜂に洗脳され目に星の入っているであろうと思われるヘルメット(メンタルガード)集団七人が、手に機器のコード、分解された鋏、人を撲殺出来そうな分厚い資料、カッターナイフ、切っ先の尖った傘、ノートパソコン、煙草の灰皿をそれぞれ持ち灰神目掛けて走り出す。

 

「つっ、危な!?」

 

「記、憶、を、失ぇぇぇえええ!!」ピッ!!ピピッ!!

 

「イヤイヤ、今の攻撃、記憶どころか命失うからな!!」

 

食蜂の指の動きに合わせて洗脳された連中は、拙いながらも格闘ゲームの仲間キャラ同士が攻撃を受けないように調節された連携を組み、灰神の頭に狙いを定め、凶器を振るい時には投げつけ襲い掛かる。

灰神は、仕事の標的ではない研究所を血の海にしないように注意しながら、自らの身体能力と、ベクターを使い自分の体を支えながら彼らの攻撃を曲芸師のように軽やかに躱す。

二、三十秒程戦劇を続けると食蜂の指捌きに切れが無くなり隙が出始めてきた。

当然、灰神がそんな好機を見逃す筈もなく一本の(ベクター)を食蜂の頭に透過させ直接衝撃を与えて脳震盪を起こさせ演算を妨害するとリモコンを床に落とし倒れ込む。

 

「ぁぐ、ぎもぢわ・・・うう」

 

「『・・・・・・・・・』」

 

「やれやれ、案外子供っぽい所もあるんだな」

 

「誰、が・・・お子様・・・ですっ、てぇ?」

 

急に食蜂の能力が切れた所為か七人の研究員達は無言で倒れ尽くし、何人かは無理して体を動かしたのか痙攣もしている。

彼女は脳を揺さぶられ座り込み頭を押さえながらも灰神を睨み付けた。

 

「一回目の御茶目だし、ここの研究所はまだ標的にされてないから見逃すけど・・・次また同じことをしたら・・・」

 

「!?あ・・・ぁ?」

 

彼は、そんな彼女に生暖かい視線を送りながらすぐ傍まで近寄りしゃがみ込むと、今度は何もせずにただもう一度、背中から(ベクター)を伸ばし、彼女の頭へと透過させそのまま口元を歪ませ警告と挑発の言葉を送る。

 

「殺しちゃうぞ♪」

 

「・・・」コクコク

 

「今度こそじゃあね・・・・・・食蜂ちゃん」

 

 

灰神が(ベクター)を体内に引っ込めた後、彼女は灰神が去ってから五分ほどリモコンに手を付けず、違和感の走った額を押さえ小さくひ弱な子猫のように体を震わせ尽くすと小さな声で誰もいなくなった廊下に向って疑問を漏らした。

 

「・・・・・・・・・・・・なんで、わたしの名前を知っているの?」

 

 

 

 

 

 

人心応研を出た灰神は悠然と軽い足取りで次の目的地である自身の所属先の研究所の傘下である山下大学付属病院へと行くために学園都市の観光バスを利用しようと歩き続ける。

 

 

(ひぇぇぇえええ、マジで何なのあの子ぉぉおおお。もう既に暗部の鱗片に触れている所為なのか、まだ命に対して理解しきれていないのか分からねぇけど、さっきのは明らかに冗談抜きで人が死ぬぐらいの攻撃が混ざっていたぞ!!しかも無意識なのか知らんが、オフィス内の衝動的に利用される七つの殺し道具を選ぶとは。食蜂操祈・・・恐ろしい子。

つーか、なんでもう既にメンタルガードのセキュリティーが無効化されちゃっていやがるのですか!?早過ぎだろ!!)

 

 

 

・・・・・・・・・少なくともそう取り繕っていた。

 

 

 

 

山下大学付属病院

 

「きみが灰神(はいかみ)(やなぎ)君だね」

 

「はい」

 

「まさか、小学生だったとは・・・。いや失礼」

 

「よく言われます」

 

次の目的地である病院のフロントで雑誌を読みながら依頼者を待っていると、案内人の男性医師が迎えに来て灰神を筋ジストロフィーの患者をまとめて治療している病棟へと案内をしながら世間話をする。

 

「この度は、DNAマップの提供を、それと筋ジストロフィー疾患の患者さん方の治療に協力してくれてありがとう」

 

「いいえ、仕事ですし。それに、私も自分の能力が他の人たちの役に立てて嬉しいです」

 

念動能力(サイコキネシス)を用いて神経細胞を刺激して活性化を促す。・・・そのような応用が可能だとは。流石、学園都市が誇る超能力者(レベル5)といったところかな?」

 

「ええ、この手の能力は工業や軍事兵器系統の方面に応用されがちで、医療分野ではややマイナーですよね。・・・・・・私は毎回測定の(たび)に伊豆舞さん・・・担当者の経絡やツボをマッサージしていますけど」

 

「ハハハッ。確かに、ほかの同系統の能力者は早く強度(レベル)を上げようと精密性(コントロール)より威力(パワー)を重点的に鍛えるから繊細な能力の使用を疎かにしがちだからな」

 

医療関連に応用できる灰神の能力を誉めた男性医師は、どこか疲れた顔をしていう灰神の呟きに苦笑し能力を手に入れた学生たちの能力開発(カリキュラム)の専攻分野の実態を語る。

やはり、どの子も夢物語でしか手に入らない超能力に一度触れてしまうと、どうしても強大なチカラを振るってみたいと強く願うものなのだろう。

 

「そうですね、異能力(レベル2)くらいになったらスプーン曲げより卵のような壊れやすいものを持ち上げるような時間割(カリキュラム)をもっと積極的に取り入れても良いような気がしますね」

 

「ふむ、卵か・・・おっと、それではここが今回の治療を受ける子達の病棟だ」

 

 

 

 

 

患者衣を着込んだ少年が松葉杖を看護師に預け。小枝の様な手足を10mほどの長さの歩行補助の手摺りに掴まり一歩、二歩と自分の足でフラつきながらも歩み続ける。

 

その様子を上の階からガラス越しで見続ける小学校低学年のアホ毛が特徴的な少女が無邪気な瞳で見下ろす。すると、この病院の医師が看護師を引き連れて少女に向って話し掛ける。

 

 

「君が、御坂美琴君だね」

 

低能力者(レベル1)発電系能力者(エレクトロマスター)、御坂美琴。彼女は呼びかけた医師に下の少年について質問する。

 

「・・・あの子、ケガしているの?」

 

「いや、彼は筋ジストロフィーと呼ばれている病に侵されているんだ」

 

「きん、じ?・・・あっ!」

 

ドタッ、と下にいた少年が手摺りの途中でバランスを崩し、倒れ込む。「触らないで、」と近づこうとした介護士の女性に向って言い放ち、自分の力で立ち上がろうと手足を奮い立てた。

 

「筋肉が徐々に低下していく病気だよ。彼はそんな理不尽な病を背負ってこの世に生を受けた。だからあのように努力して病気と闘っているんだ」

 

ゼェ、ゼェ、と息を上げ全身から汗を流しながらも彼は一人で立ち上がった。

上で見ていた御坂も両手を強く打握りしめ、再び彼が歩き続ける姿を見て感動し笑顔が零れる。

 

「しかし、たとえどんなに努力しても筋力の低下は止まらない」

 

彼女の表情が一瞬固まる。それは残酷な現実を突き付けられた悲しい事実。

 

「現代の医学では根本的な治療法が無く、やがて立ち上がる事も出来なくなり、最後には自力での呼吸も心臓の活動さえ困難になる」

 

表情が暗く、無意識のうちに視線がどんどん下へと下がる。

 

「だが、それはあくまで今現在での話だ。君の力を使えばかれらを助けることができるかもしれない」

 

医師は語る(騙る)自分の能力を『解明』し、生体電気を操る能力を彼らに『植え付ける』ことができれば正規の神経ルートを経由せずに筋肉を動かすことが出来る。

そうすることで筋ジストロフィーを克服できる・・・と。

 

「君のDNAマップを提供してもらえないだろうか?」

 

彼女は、すぐ下の少年だけでなくフロア全体を見渡し、他の患者も彼と同じように細くやせ細ったような姿を見て思う・・・。

見知らぬ他人のために、何か出来る。

苦しんでいる人たちに希望を持たせることが出来る。

 

心優しい彼女は、決心する。

 

「・・・うんっ」

 

「ありがとう」

 

彼女は知らない。

自分の瞳に映った感謝の言葉を送るその医師の笑顔は欲望に塗れた仮初の仮面でしかないことを。

 

 

 

 

「あれ?」

 

ふと、下のフロアを見ると自分より五、六歳年上のニット帽を目深に被った長袖長ズボンの少年が医師に連れられ仰向けに寝かされている子の前に座り手を(かざ)していた。

 

 

「ん?どうしたのかな」

 

「あの人はなにをしているの?」

 

「誰のことかな?」

 

「奥で寝ている子のそばにいるボウシを被っている子」

 

「ああ、『彼』のことだね。彼はこの学園都市の頂点である超能力者(レベル5)の一人。最強の念動能力者(サイコキネシスト)灰神(はいかみ)(やなぎ)君だね」

 

超能力者(レベル5)!?」

 

「彼もまた君と同じように此処の患者の為に来院して来たのだよ」

 

「へー、始めて見たの」

 

医師の言葉は彼女の頭を素通りして行き、ニット帽の少年に釘付けになっていた。

 

「・・・・・・下に降りてみるかい?」

 

「うん、いく!!」

 

 

 

 

 

下のリハビリフロア

 

「何処か痛むところはありますか?」

 

「ううん、何かが手や足の中で蠢いているのは感じるけど・・・」

 

仰向けに寝ている子が少し不安げに灰神の方へと視線を寄せる。

 

「大丈夫。私の能力で神経を軽くなぞるようなものだから注射や点滴みたいに痛くなることはありませんよ」

 

下の階では灰神が筋ジストロフィーのくせ毛の子にベクターマッサージをしようとしている所だった。

彼は明るく、でもゆったりと丁寧に安心と安定を与えるような表情を向けながら二本、三本とベクターを患者の少年の体内に透過する。

 

「あっ、本当だ。全然痛くない」

 

「でしょう?後もう少しだから動かないように・・・・・・はい、お疲れ様」

 

「あ、の・・・その」

 

「どうしたのかな?」

 

「ありがとう。・・・その、この学園都市(まち)に来て初めて見たから・・・超能力、を」

 

くせ毛の子は恥ずかしげに言葉を必死に紡ぐも窄んでしまう。

 

「っ、・・・どう致しまして」

 

それでも、灰神は彼の言いたいことを理解し笑顔で返す。

せっかく学園都市に訪れているのにも拘わらず超能力を見ることさえできない子供。

ただ回復する見込みもなく、二、三十年進んだ医療による延命だけの日々。

灰神のような暗部に携わる置き去り(チャイルドエラー)達とは違う不幸を科せられた者による純粋な感謝の言葉が心に響いた。

しかし、同時に先程から彼の頭の中では今回の依頼に対して疑問が浮かび上がっていた。

立て続けに依頼が舞い込んでくること自体は珍しいことではないが、どれもその前の任務の(ついで)のような似通った物で、今回のようなほぼボランティアみたいな表側の仕事が急に回ってくることなど無かった。

 

 

「みんな、一度集まって貰えるかな?今日は―――」

 

と、そんなこんなと考えているうちにさっきまで居なかった男性医師がリハビリをしている子達と看護師を全員集めて誰かを紹介するような流れになり、灰神も遅れて皆の後ろの方に立とうと近づく。しかし、次の医師の言葉で全て理解する。

 

「―――入って貰えるかな()()君」

 

「!?」

 

茶髪のアホ毛が特徴の少女が緊張で顔を固くしながら控えめに近づいてきたその姿に灰神は心の中で頭を押さえていた。

 

考えてみれば、簡単なことだ。この依頼は、慈善活動などではなく裏は真っ黒な立派に暗部を通された物であり。この依頼そのものは将来を約束された哀れな少女を騙す為の巨大な罠の一部。

 

ただ、困っている人たちの助けになるのなら・・・。

 

そんな少女の思いをより強固にするための灰神(レベル5)

自分だけじゃない。と、大義名分を作り出すためだけの超能力者(はいがみ)

 

(俺は序の寄せ餌に過ぎないってか?)

 

「ありがとう、ミサカさん」  「ありがとう」 「あ・・・りが」

 

看護師と患者の子達が一斉に拍手し感謝の意を表す。

 

その中で灰神は、彼女を連れてきた男性医師に八つ当たり同然だと分かっていながらも睨み付けずにはいられなかった。

 

 

 

 

しばらくして、適当な紹介が終わり患者の子達がそれぞれの病室に戻り、一旦DNAマップについて書類の手続きと毛髪(サンプル)の提供を済ませ。第一〇学区の火葬場に行こうと出口に向かっている途中でエレベーターの中で乗合わせとなり御坂美琴と二人きりとなった。

 

「あ! あの、こんにちは」

 

「・・・こんにちは」

 

「さっき、手を前に出して何をしていたの?・・・デスカ」

 

「プッ、・・・無理して口調を変えなくていいよ。御坂ちゃん」

 

敬語に慣れていないのか、取って付けたようなデスマス口調が返ってきて思わず吹き出す。

 

「あぅ、ごめんなさい」

 

「さっきのあれの事かな?能力を使って神経に沿って体内に直接、物理的に刺激して筋力が低下して弱体化した細胞の活性化を促した・・・って、ちょっと難しいかな」

 

「ええっと、半分くらいは」

 

「要は、見えない手を使って手足をマッサージしたってことだよ」

 

「ああ、なるほどー。だからママいつもケンコウキグを離さないんだ」

 

何か少しずれた認識をしている御坂を置いて灰神は出口へと歩き始めドアの前に立つと、体を半分だけ後ろに向けて別れの挨拶をする。

 

「じゃあ、私は次の予定があるから」

 

「あの、また会えるよね?」

 

「さあ?学園都市は狭いようで結構広いからね。“運が良ければもしかしたら”、程度に考えておいた方がいいんじゃないかな」

 

特に、表と暗部の溝は・・・ね。

 

最後の言葉は、口内に飲み込み。そのまま早歩きで外へと歩き続けると廊下を通る途中に開いていた病室をチラッと覗いた。

 

 

「ん、ユリの花・・・か」

 

ふと、彼は呟き。病室のお見舞いの百合の花束を尻目に病院の自動ドアを潜り抜け外へと繰り出すと携帯を取り出すと所属先の研究所に連絡を入れる。

 

「もしもし、如月さん。伊豆舞先生は起床していますか?」

 

 

 

 

第一〇学区某火葬場 第六 火葬炉エリア

 

決して質素で無機質なだけがその場の寂しさを作り上げていないそこには、表情が堅く何処か暗い影が差しているユリの花束を持った一人の少年が立っていた。

彼の後ろには荷台に積まれたそれは、遺体の顔を見られるように専用の蓋で開く小窓さえない小さな、それこそ片手で持てるほどの(キリ)の木棺が五十四個、全て綺麗に並べられており、それには木の匂いの他に薬品の臭いが混ざっていた。

 

木棺の中身はこのエリアに入る前に伊豆舞に頼み込みこの施設に持って来させた未成標本(ディフォームド)と名付けられたディクロニウスの胎児たちが一つ一つの柩に一人ずつ丁寧に入れられていた。因みに瓶と木棺の数が一致していないのは、双子の胎児(ディクロニウス)が一組、一緒の瓶に収納されていた為だ。

 

「・・・・・・始めようか」

 

彼が小さく呟くと彼の後ろの木棺とユリの花が浮かび上がり、棺一つに付き一本。簡素な蓋の上にユリが置かれる。

背中から伸びた(ベクター)が壊れ物を扱うように静かに彼に見える前方の開いている『断熱扉』を通り抜け一つまた一つと奥へと置く。しかし彼の不可視の(ベクター)はその奥に置かれた木棺をずっと掴み続ける。自分でも離したほうが早く全ての木棺を運ぶことが出来ると分かっている、分かっていても彼は絶対に木棺から(ベクター)を離さなかった。

 

最後の一つが扉の奥へと消えても自分の(ベクター)はどれ一つ頑として掴んでいた木棺から離れず、自分と扉の奥との間に透明な束が繋がりを保っていた。

 

背中から更にもう一本、(ベクター)が別方向へと伸び。フロアの裏手に設置されている、手で掴んで操作するタイプのブレーカーレバーを掴み、下へと落とす。

電動式の断熱扉が地響きのようなくぐもった音を出しながら閉まると、レバーの隣に点いていた赤いランプが緑色に変わった。

 

「さようなら・・・」

 

灰神は、そのまま火葬炉を点火させ、視線を上にただ天を仰いでいた。

ベクターで掴んでいた木棺に着火し形が崩れ始める。

 

「la-la-la―lala、la-la-la―la-la-la-la――――――」

 

五分ほどそのままの状態で立ち続けていると両目から涙を流しながら、その小さな口からどこか悲しげな旋律を口ずさんでいた。

ただ静かに、一人きりで。誰もいないこの施設の中で。

 

 

 

能力者のDNAや服用薬品を解析されないよう、残さないように調整された学園都市の火葬炉に置かれた胎児たちは遺骨を残すことなく全て灰になるのにそう時間は掛からなかった。それは、ベクターをずっと伸ばし続け、形が無くなる瞬間まで離さなかった灰神自身が一番理解していた。しかし、彼は最後の木棺が焼き崩れた後も断熱扉の横に座り涙を流し小さく歌い続けていた。

 




やっと、・・・・・・原作(過去編)に則った場面に至りましたぁぁぁああああ!!(歓喜)
ここまで、長かったお~(黄昏)
↑※まだ原作に突入すらしていないことに付いては触れないでやって下さい by灰神



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追伸、灰神君が口ずさんでいたのは勿論、エルフェンリートのOPである『Lilium』 です。
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