26番外編 1原作五年前 目がぁ・・・
「るーるーるーるんるんーるーる―――――」
「ワンッ、ワゥゥウウ」
灰神が堕胎児達の火葬をし、涙を流していた丁度その頃。
ある施設の小部屋に収監された一人の少女が、その純粋であるが故の発想と自らの本能に従いある『思い付き』を実行しようと、本当に楽しそうに足首に留められている金具と鎖をジャラ付かせ揺らしそれに合わせて小さく口ずさむ。・・・差し詰め、今生の別れとなる者達への最初で最後のプレゼント。
暗く出口のない小さな部屋には彼女の他には、小さな子犬が一匹。彼女のハミングに併せようとしているのか必死に吠えて彼女の傍をグルグル走り回っていた。
「うん、うん、大丈夫だよ、ワンタ。だって、わたしは
犬を抱き寄せて仰向けに寝転がり、誰もいない天井を見据えながら誰かに話しかける少女の側頭部には一対の突起のような角が生えていた。
鎖に繋ぎ止められた少女の名は木原円周。
六年前にある組織に連れ去られた木原偶接の娘である。
彼女は、変わり者と言われる自分の一族の中でも特に異質な生い立ちであった。
彼女の父が、非常識的な一族の中でも煙たがれる
そう、普通なら。
しかし、生まれてきた娘には自分たち一族とは別の方向で異常な一族の身体的特徴を持っていた。
角が生えていたのだ。
彼は後にこう語る「出産の通達が来てから自分の子を見るまでの数時間が人生で一番幸せであった」と。
妻は、「ただの個性だ」と気にしてはいなかったが、自分の親戚一同の思考を懸念し、一族には、間違いであったと嘘を吐き。病院のシステムにハッキングし記録を誤魔化す。
これで、少なくとも数日は稼げる。と一先ず冷静になりこれからすべきことをより短時間で済ませるように思考の渦へと入り込み、一通り心当たりを調べ上げようと、早速立ち上がった。
彼は自分と妻の家系を何世代も辿っていき徹底的に調べ上げ原因を特定しようと解明しようと頑張った。
頑張った結果、・・・・・・皮肉にも自らが自分の娘が現在の遺伝子学では『ありえない』存在であることを証明してしまった。
彼は、一族の誰かに娘を
灯台下暗し、下手に遠くへと逃げるよりも見知った場所で静かに、目立たず、過ごせるのなら、と。不慣れな外国へ行き出産で体の弱った妻に無理をさせんと危険を承知で日本に留まりひっそりと暮らし始めた。
結果、思うより事がうまく運び。二年間、自宅近くで塾講師の仕事をし、学園都市に連れ戻されることもなく幸せな日々を送っていた。
しかし、『一族』という集大成から外れたが故に彼の娘は狙われた。
常識的。
若しくは正義を語る側、そうした者たちにより木原円周は誘拐され。ただ痛めつけられるでもなく、精神的に追い詰められるでもない、小部屋の中を動き回れる程度の長さの鎖に繋がれ、外部との接触を断たれ小部屋に閉じ込められただ平淡な生活を強いられた。
それが、どれほど愚かな行動であったか彼らは知らず。木原円周が閉じ込められてから六年間。彼女がどのような精神状態であり、何を思い、何を考えていたかを知るのは彼女自身と『もう一人』・・・ある意味彼女自身でもある『紅鬼』しか知らなかった。
そして・・・。
施設の長い通路を一組のスーツ姿の男女が歩きながら、男の方がキャリアウーマン風の女性に向って不安げに話し掛け女性の方は彼の意見を往なしながら目的の場へ向かっていた。
「本当にあいつを出す気なのか?相手はあの『木原』の子なんだぞ」
「そんなに心配することは無いわよ。『木原』としての天性の才能を潰す為に教育らしい教育を一切受けさせず、攻撃的な嗜好を連想させる機材、遊具、色彩、形質のあるものは全て撤去させているの。
モニター上では臆病な犬猫をあやすぐらい大人しい性格の普通な女の子よ」
「しかし、万が一という事があるだろう」
「だから、
「?」
廊下の突き当たりに行き着くと、施設の関係者IDを扉の横に設置されているカードリーダーに翳しモニタールームに入る。奥へと進むと白衣を着た三つ編みの女性が手にカルテを持ちながら二人が入って来たことに気付きそちらを向く。
「斉藤さん、準備はできている?」
「モニター上では特に問題はありません。ただ、小さな頃からずっと室内に閉じ込められていましたから免疫力や筋力はそれ程強くはないと思われます。・・・あの、円周ちゃんを此処から出すんですか?」
「えぇ、行けますか?」
「はい、毎日スピーカー越しにですけど話し掛けていますし。円周ちゃんの方から返事が返ってくることは殆どありませんけど私のこと「お母さん」って呼んでいるんです。ふふ、変でしょう?私、生き別れた娘に会うような気持ちなんです」
彼女は、恥ずかしそうに笑いながら情の籠った視線をモニターに映っている少女に向ける。
先程まで心配で落ち付かずに入ってきた男性の顔色が納得したものへと変わる。
「なるほど、懐かせているのか」
「『木原』と言っても二歳の頃からずっと科学が何であるかを教わらず、親の温もりも知らずに生きてきた八歳の子どもなのよ?心の支えがなければ生きて行けないわ」
そう、ソレが普通の子どもならば間違った認識ではない。しかし、彼女は、木原円周は木原であり更にディクロニウスでもあるのだ。
彼らの間違いは『木原』という存在をその知恵と探究心の足りない常識に捕らわれた頭脳で理解しようとしたところから始まっていた。
『木原』は『木原』の中で生活することにより木原らしくなる
習慣や常識を幼少期身に付けるように。
少年兵が殺しを覚え、殺人に対し罪悪感が薄くなるように。
医大生が血に慣れるために死体を解剖するように。
『木原』から引き離して生活すれば『木原』らしくなくなるという予想の元。「木原」という一族を非常にサディスティックな思考を持つ一種の精神疾患として捉え。『木原』そのものを危険分子として処理し、社会に適応させんと彼女を科学から遠ざけ、『木原』である父親から「保護」したという訳だ。
しかし、実際は、どこか歪んではいるものの数々の天才を輩出する「木原」を疎んだ何者かが自分よりも『低能』な『木原』を作り上げ自己満足に浸ろうと必死に足掻いていただけであった。
皮肉にも、「木原」のなかで最も一般的な気質を持つ者から引き離したその結果は根が純粋な彼女にとって最悪な環境を作り上げていた。
彼女は木原である前に
即ち、『DNAの声』との二人切りの対話。
物心付いた三歳から四歳までの間、木原円周は自身の『木原』を存分に解放し、様々な研究を開始し始めた。
文字を十分に教わらずとも、計算の仕方を習わずとも、彼女独自の記号や表現を持って色々な理論の証明式や現物を生み出した。
正義を名乗る側の者が愚かでなければ、壁に描かれた文字の羅列は冷凍睡眠装置の基礎理論を証明していたし。何者かの注意力がもう少し高ければ彼女の精神情勢を安定させるために与えた子犬は軍用犬顔負けの従順さで彼女の命令を聞いていた。
『木原』であることに『木原』を学ぶ必要は一切無い。『木原』は『木原』であるだけで『科学』という概念に一途に愛される。
科学というのは、教科書や書類の中だけでなく鎖の錆具合から金属音、形。光が通る影の濃さ、水の一滴に床の感触まで含まれる。『全て』の存在を『現象』として捉え、研究し証明していく。彼女から科学を引き離すには、文字通りこの世から全てを取り上げる必要があるのだ。
部屋一杯の研究素材を漁る中、彼女はふと、自分自身に付いて研究を始めようとすると、何者かに意識を持って行かれる。気が付くと彼女の意識は永遠と続く黒い世界で、自分と同じく角を生やした年上の少年の姿をした『存在』と出会った。
彼は、小さな小部屋の事しか知らない彼女にとって、未知の世界を、知識を、与えてくれる兄弟であり、先生であり、友人であり、また神にも等しい存在であった。
そして彼の様々な話を聞いて彼女は自分をこの狭い世界に閉じ込めた連中の陳腐な復讐劇をより面白みのあるものへと変えるため、第二の父であるオリジナルの助け話を聞いた後もこの小部屋に居続けることを選んだ。(もっとも、研究素材そのものはたくさんある小部屋に閉じ込められている自身の状況そのものには何ら不満はなかったのだ。彼女の足首に繋がれている拘束具も
母親面した女と愚者達の安易な判断能力、そして自分の持つ常軌を逸した
その時の彼女の顔は「思い付いちゃった」と誰かに自慢したい気持ちを抑えるような笑みが輝いていた。
そして、連れ去られてから六年後の今日ついに自身の
鎖の鍵が外され、出口の無かった部屋の壁が動き出口が出来る。
「円周ちゃんいらっしゃい。もう出て来られるはずよ」
「ワンタ、ここで『待て』だからね?」
「ワン!!」
自分を呼ぶ声を無視して彼女は楽しそうに笑いながら子犬を部屋の隅に待つように命令し。彼女は、ここに縛り付けた大きな
「ふみゃカレぶっ!!」
部屋と外との境の仕切り溝に躓き盛大に転んだ。
「円周ちゃん!?」
斉藤と呼ばれた三つ編みの女性が床に顔面をぶつけた彼女を気遣い抱き寄せて自分の膝の上に置く。
「うう、目がぁ・・・」
「大丈夫、額を少し切っただけよ」
顔面の激痛に相まって血が目に入り沁みるのか彼女は両手で顔を押さえ込み、斉藤がポケットからハンカチを出し額に当てる。
「あんなに近寄らせて平気なのか?」
「あなたは、少し怯え過ぎよ」
「お前はあいつらの頭の螺子が『飛んで』いる瞬間を見ていないからそんな風に楽観していられるんだ!!」
「だから、平気だって・・・」
後ろは後ろで盛大な意見のぶつかり合いが起きていた。
痛みが引いて来たのか円周は顔にあった手を退かして自分を抱き上げる斉藤をじっと見つめる。
「あなたは、・・・」
「わたしのこと、わかる?」
斉藤は、自分を見つめる少女の顔を見た途端に胸が熱くなり両目には涙が溜まり、零れ始める。
「だぁれ?」
「え?」
円周が言い終わると同時に斉藤の胴回りが歪み内側から人体模型を破裂させたように
「「へ?」」
口論を続けていた二人が同時に惚けたまま固まる。
対して木原円周は
―――行き成り、初っ端から
「うん、うん、ごめんなさいコウキさん。私たちの『腕』のことは普通の人たちには内緒だったんだよね。でも、どうしてもほかの人の『中身』がどうなっているのかこの目で見て知りたかったの」
―――・・・どうしよう、柳。俺、この子を指導しきる自信なくなったよ。
「大丈夫!!ここで起きたことは、ぜぇぇんぶ
―――え?
「クソッ、だから言わんこっちゃない。逃げるぞ」
「え、え?何??何がどうなっているの?」
男性がまだ、状況が理解しきれていない女性の手を引きこの施設の中で一番の安全地帯へと離れていく。
「あ、おじさんたち。まって・・・行っちゃった」
彼らは円周が、純粋に二人に対してこれまで見たことを誰にも言いふらさなければ助ける『約束』をしようと声を掛ける前に一目散へと駆け出してしまった。
二分後
彼女は、自身の『木原』と紅鬼から教わった『知識』を組み合せ自身の『
用いて施設の壁に三カ所、衝撃を与えてビルの爆破解体作業の要領で自分といつも一緒にいた犬以外の生命体を全て『潰した』。
「これから、どーしよーかなー」
「くうぅぅぅん」
彼女の眼には当然、罪悪感などなく自身に甘えてくる子犬の顎を撫でて地面から視線を離す。その新しい興味は施設だった瓦礫の遠くから見える民家に向いていた。
―――だぁぁあああ、一応、柳にお前の処遇をどうするのか聞いとくから!!手当たり次第動こうとするなぁぁああ!!
灰神院紅鬼は、円周の精神から流れる純粋な好奇心に『恐怖』し。
「はーい」
―――やけに、嬉しそうじゃないか?
「だって、初めて『お父さん』に会うんだもん。楽しみに決まっているじゃない」
―――・・・一応、確認のために言っておくが柳は「三分の一の遺伝子しか継いでいない、でしょ?」そして、お前のちゃんとした親は別にいる。
「うん、私はそっちの方のお父さん、お母さんと一緒に暮らすんでしょ?」
―――生きていたらな。
「大丈夫、ちゃんとわかっているよ。それでも・・・それでも家族に会えるって嬉しいんだもん」
―――そうか。
黒い世界に佇む彼は円周につられて『人』の親のように笑った。
ディクロニウスの本能である紅鬼も各ディクロニウス達の体験を通じ『学習』し『成長』を始めていた。
二時間後、学園都市から超音速旅客機(パラシュートなし)で降りてきた灰神に円周が「お父さん」と抱きつき三十秒程硬直したのは言うまでもなかった。
最初は那由多ちゃんにしようかな~と思っていました。
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