「ありがとうございましたー」
研究所を出た灰神は学区を越えてチェーン店に入り食料の買い込みを済ませる。資料を見ながら確認作業をするため片手で食せる
「こっちの脇道を通り抜けた方が近いな。よっと」
少々時間を食ったので食料がぐちゃぐちゃしないでかつ早く帰るために近道であるビルとビルとの間の裏路地を通り抜けようと右手にぶら下げたハンバーガーと飲料の二つのビニール袋持ち小走りで進んでいった。
思えばこのルートを使ったのが『彼女』と出会うかどうかの決め手であった。
「気温・・・の上昇、による発汗、体温調整の新・・・陳代謝の不具合を確・・・・・・認。意識及び・・・生命活動維持に支障を・・・・・・来たすレベルに、まで達した為
掃除用ドラム缶が通れないほどの細い道を三、四回曲がり薄汚れた壁に触れないように体を少し右前に傾けながら行く内に女の子の声が途切れ途切れにか細く今にも寿命の来そうな豆電球のフィラメントと同じくらい頼りないくらい、しかし言葉そのものはしっかりと発音している矛盾した独り言のようなものが聞こえてきた。
細い道といえるのか微妙なビル間の通りを抜け、大通りと直接繋がっている裏路地に出ると進行方向にビルの陰に紛れて全体に白い服を着た人影が直立不動に俯き状態で壁に寄りかかっていた。
それは一見すると、真夏のドッキリ番組でゲストや通行人を驚かす幽霊役の人がよくやるものに似ていた。日はまだ高く、昼時を少し過ぎたくらいなのでお化けのコスプレをして驚かすには違和感があった。
「・・・!!必要供給量の水分を確認、摂取を開始します」
グルンと、首をこちらに向けて機械を連想させる精密さの口調のまま白い少女は無表情に意志の感じられない冷たい、効率のみを求めた必要最小限の動きで走り寄る。
「え? ち、ちょっとふわぁ、ぎゃぁぁあああ」
その、人を思わせない強烈な急な動きに灰神は単純に恐怖した。まだ、日の高い時間帯であろうとその少女の容姿と人形のような動作は日陰に包まれた路地裏に不気味さが相俟って年甲斐もなく叫び声を上げる。
「目標を捕獲し」
「ッフン!!」
灰神の右手にぶら下がったビニール袋を目掛けて手を伸ばしていた少女は数々の戦闘経験によって培われた反撃による『
ドゴッ、と少女が仰向けに大の字に人型の跡を作り、どういう原理でコンクリートの中にのめりこんだのか色々と突っ込みたい灰神だが、よく少女の
「??・・・対象の取得に対する障害を確認。自己の生命維持及び十万三千冊の保護のため障害の排除を実行し「待てぇぇぇっぇええええい!!」・・・」
少女の正体を知っている灰神は、彼女の言う『排除』は物理的に消されることを意味すると知っているため早々に白旗を上げてるため休戦を求める。というより魔神相手に生き残れる自信がない。
「今私は、過剰発汗による水分不足により生命活動の危機に瀕しています。できればあなたの所持している飲料水を私に譲渡して下されば幸いです」
「あれ? あー、その大丈夫か?」
念を込めたパンチが効いていないのか?灰神は急いで目にオーラを集めて『凝』で彼女を見るとオーラとは違う異能の力が彼女を守るように白い修道服を包み込んでいた。幸か不幸か、彼女の
これが魔力結界ってやつなのか。灰神が気を落ち着かせて順当に考える。
過去に学園都市に侵入した魔術師を相手取った時に魔力を『凝』で目視できることは確認済みなのだ。
当時は魔力とは
「?あなたが私に負わせた攻撃は『歩く教会』がすべて受け止めたので体に傷は確認できません」
白いシスターの少女は、灰神が何を心配しているのかわからないのか、のめり込んだ壁からどこかのホラー映画顔負けの(壁や床を砕きながら出てくるアレ)シチュエーションでコンクリートの粉を撒き散らしながら路地へと這い出る。
「いや、平気ならそれはそれでいいんだけど・・・急に力が抜けるとか意識が遠くなるとかの症状は無いよね?」
「はい、ですが後二十五分以内に必要最低限の水分を摂取しなければ私の体内の身体機能に支障をきたしマナの生成が不十分となり絶命します。そういう意味であれば後者の症状はいずれ該当することとなりますが」
「そ、そうか。こんな
冷静に自分の寿命を淡々と宣言するシスターに引き攣った笑みを浮かべ、一応嗜好品だけど飲ませていいのかな?と若干思いながら2ℓのペットボトルを一本ビニールから取り出しシスターに渡す。
「ありがとうございます」
これほどまでに機械的な感情の篭っていない感謝の言葉を送ると事務的な動作で飲み物の味を味わうことなく一気に飲み干すと。
「必要最低限の水分摂取を確認。生命危機回避したので
一瞬シスターが瞬きをするとそこには、
「えっと、君
「あ、さっきはありがとう。修行中の身であるこの私に施しを分け与えてくれたあなたに祝福を」
と、一応身元確認を行おうとした灰神の存在に気付いた白いシスターは手を組み祈りを奉げようと十字架を切ると。
-グギュルルルルルルルルルル-
竜の
ある意味お約束のようなシチュエーションに灰神もシスターも恥ずかしげに顔を逸らし二人とも迂闊に発言できない妙な空気が更に沈黙を誘う。
そんな中、最初に動いたのは灰神であった。
「・・・・・・飲み物だけじゃきついだろうし良かったら
元気な腹の虫のことを気遣いつつ、その事実に触れずにあくまで
「ウン」
白い顔を真っ赤にしたシスターは唇を硬く閉じながらも相槌を打ちまだ暖かいジャンクフードに齧り付いた。
「んぐ、んぐ。ぷはぁぁー。おいしかったご馳走様」
「信じらんねぇ、マジで全部食いやがった」
灰神の呟きは七十個のカロリーの塊というか質量が消えていくさまを目の前で見せられて唖然としていたのであった。
所変わって灰神たちは、買いに行ったチェーン店とは別のハンバーガーショップの二人掛けのテーブルを三つ繋げてトレーの上で包み紙の山を積み上げていた。
あの後、シスターは灰神の持っていた二十個のハンバーガーを喰らい尽くし再びお礼を言おうとしたのだがまたしても地響きが路地裏に広がり灰神が見かねて携帯で検索し近くの店に入り込んで取り合えず五十個ほど注文し(飲み物は氷水)食わせるだけ食わせて見たのだ。
「で、シスターさん。ご満足頂けましたか?」
「うぐ!?うん、体のほうも熱が下がったしだいぶ良くなったかも」
「ハハ、そりゃ良かった」
満腹にはなっていないのですか。カップに残った氷をバリバリ齧る姿に降参気に力なく笑った。
灰神がこのシスターに対してこうも気前よく振舞っているのにはあわよくばこの少女との
勿論、噂に違わぬ大食漢であるのか、胃袋の限界に興味があったなどといった下心などは一切ない。嘘ですちょっと試したくなりレジの人に在庫を聞いて買えるだけ買ったのがこの惨場であったのだ。
「この街に来てから何も食べてなかったから色々と危なかったかも」
「へー」
こちとら、現存する魔神クラスの攻撃を受けかけたけどな、と愚痴りかけた言葉と顔を出さずに曖昧な笑顔で対応する。
チラリと、灰神のディクロニウスとしての殺人衝動がシスターに向かう。
十中八九、このシスターはこの世界の物語の重要人物である『彼女』で相違ないであろう・・・・・・。
「あ」
「どうしたの?」
急な何か思い出したような声に白いシスター姿の少女は自分の命の恩人を気遣う。
彼が、ほんの一瞬だけ自分の命を狙う敵になっていたとは露とも思わずに上目遣いで灰神の顔を覗き込む。
後の灰神は自分が何故にこういった思考に陥ったのか非常に悩んだ。
もし、
上条当麻は魔術関連の事件にかかわらずにアレイスターのプランの中でこの学園都市の中で成長を続けるのだろう。
もしかしたら科学サイドの深い闇の部分に関わり事件に突っ込みそれを解決するようになるのだろう。
第三次世界大戦も起こらずにもっと小規模な事件でことが完遂するかもしれない。
物語のタイトルになっていてもそれに見合う活躍が異常なまでに少ないヒロインだそうじゃないか、ベクターで■した場合少なくとも魔術側にとっては病死にしか見えないぐらいの正確さで偽造することができるし、外に出すという名義で
完全に危ない方向へと思考が駆け巡る。
彼の意に反応したかのように不可視の腕が背中から伸び出て空中をうねりながらゆっくりと獲物に喰らいつく蛇のようにシスターの周りを囲い始めた。
「そういえば自己紹介がまだだったよね!! 私の名前はインデックスっていうんだよ。見ての通り教会の者です」
ナプキンで拭いた両手を軽く叩き灰神が何か困惑していた様子を見て自分が彼に対して何も情報を与えていなかったと。にっこりと笑いながら自己紹介をした。こうして見ると本当に悩みを聞いてくれる修道女のようだ。
「あ?ああ、そうだったな。初めまして、インデックス。俺は灰神だ」
邪気の無い純粋な声に意識を戻す。
何を馬鹿なことを、と灰神は自身の思考に失笑した。彼女ほど魔道書図書館に相応しい人物など皆無であるというのに。次代の禁書目録が彼女のように表向きだけでも普通の人間として扱われる保証などないことに気が付き気を沈ませる。彼女の、インデックスの急な自己紹介に灰神は取り憑かれたかのようにボーっとしていた意識が覚醒しベクタ-が勝手に出てきていることに驚き、慌てて仕舞いながらこちらも無難な自己紹介をする。
がインデックスは、更にその続きを促していった。
「ねえ、名前は?」
「ん?」
「だから、ハイガミのファーストネーム!
「ああ、
一瞬何のことかわからずになにを答えればいいのかと日本人特有の愛想笑いを浮かべながら首を傾げていると、インデックスは灰神の下の名を知りたいと伝えられて、改めて氏名を名乗る。外国の方では、やはり名前で呼ぶのが一般的なのか? インデックスが特別名前を呼ぶのか?と下らないことを考える。
「へえ、いい名前だね」
その言葉に灰神はフッと軽く息を吐いた。
「おいおい、インデックス」灰神は自嘲に笑いながら。「『柳』の言葉の意味を知っているのか? 胸の悲しみ、愛故の悲しみ、憂い、哀悼、そんな負のイメージが湧くこの名が本当に良い意味で捉えられるのか?」
その自分の吐いた言葉に言い終わった後になってから自分の発言に驚いていた。こんなに感情的に話をするのは何年ぶりだろうか。
「確かに日本語での意味はそんな感じだけど、十字教本来の意味では『神の福音』を表すことから木材を御守りや厄除けの素材に使ったりするんだよ」
というより、アジアで柳を主題とした悲恋や悲哀の物語が多いのが原因かも、とインデックスはまた氷を噛み砕く。
「厄除けね・・・じゃあ、差し詰め私は厄払いといったところか」
「どうしてそんなにも自らを卑下に扱うの?」
「・・・どうしてだろうな。普段なら、いるかもどうかわからない親から貰った名前のことなんて気にしないんだがな」
手を頬に当てテーブルに肘を付け軽く息を吐いた。少し、ほんの少しだけ灰神の涙腺が緩み目に湿り気が入り潤む。
「・・・・親がいないの?」
「そうだが、この学園都市じゃ、
「そう、私も自分の親のことはよく分からないから同じだね」
そうか、とだけ灰神が口を閉じるとしばらくインデックスは、氷を多めに口に含み中で飴を溶かすように転がしながら考え込むように腕を組んでいた。
「・・・・・・ヤナギは気にしないんじゃなくて気にしないようにしていたんじゃないのかな?」
「どういうことだ?」
一分か五分かそれほど長い時間ではなかったと思う、考え込んでいたインデックスは灰神の顔を真っ直ぐ見て誕生日プレゼント母親のエプロンに仕掛けた子供のように笑う。
「もしかしてヤナギは、自分の物を大切にする人なんじゃないかな?でなきゃ、自分の名前の意味を詳しく知ろうとなんてしないよ」
そんな本当の修道女のように暖かい言葉を掛けられた灰神は彼女に釣られて自分でも気付かないほど自然な動作で口元をゆがめていた。
「まあ、ちょっと人と容姿とかが違う所為であまり深い人間関係は築いていないが、けち臭いといわれるくらい自分がエコロジーだなと思ったことはあったな。けど・・・・。
少なくとも私は『人』には愛され難いかな」
それは、誰に対して言った言葉なのだろう?
自分を捨てた両親に対してなのか?
それとも、人を信頼することのできない自分自身の本音が漏れたものなのか?
灰神はさらに気を落としながらネガティブに考え続ける精神を落ち着かせるために水を飲もうと手を前に出した。
その手をいつの間にか積み上げられていた
「あなたは、決して愛されない存在なんかじゃない。神の御加護は、善人悪人、清濁問わずに太陽の光りの如く平等に与えられるモノなんだよ。だから、あなたが自分を咎める道理は絶対に無い。罪を悔い改めることは、罪業を行うことを決めた人たちがすること。・・・・・・あなたは、生まれたことに罪の意識を持ったみたいだけど。修道女であるわたしはあなたが生まれ名を与えられたことを祝福します」
「それに」インデックスは続けて「あなたはこんな見知らぬ私にご飯をいっぱい食べさせてくれた。その優しさを与えた心は本当に大切な人生の財産になるよ。きっと」
「インデックス・・・」
「なぁに?」
「あ、いや・・・ありがとう」
「どういたしまして!!」
予想以上に常人的なシスターらしい(本物)受け答えに、つい出た謝礼の言葉にインデックスは朝日のような笑顔で答えた。
「!?」
しばらくして、インデックスにはこれから離れても先ほどのような
「どうした?」
「逃げなくちゃ」
小さな声で、だがはっきりと焦りを浮かばせながら呟くとインデックスはガタっと立ち上がり急ぎ出口へと向かって行くと慌てて灰神はテーブルに残っているゴミをベクターで片付けながら彼女を追う。
「オイオイ、インデックス急にどうしたんだよ」
ありがとうございましたーと、灰神は自動ドアを出て店員が声をかける頃にはインデックスはすでに大通りを目指し人気の多い所へと向かっていた。
「ヤナギ、おいしいご飯をありがとう。さっきはいい忘れていたんだけど、私追われているの。だから絶対付いてきちゃ駄目なんだよ」
インデックスは、言うだけ言うとそのまま人の波に飲まれ灰神が駄目元で追いかけるも彼女の姿は煙に撒かれたようにすっかり足取りを追うことは不可能となっていた。
「・・・・・・本当に遁走の天才だったんだな」
彼女のあまりの逃げ足の速さに出た独り言には純粋に彼女の能力の高さを称賛する思いがあった。
ファーストコンタクトはインデックスかと思いきやペンデックスさんでしたー。
次は上条さんかな?(流れ的に)