とある淘汰の転生憑鬼   作:syuu

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12:00に間に合わなかった(悔しい)


34本編 原作編5 私、灰神と言います

薄暗い部屋の中一人、灰神の呼吸音の他にはマウスのスクロール音とパソコン起動の冷却ファンの回る音だけが静かな部屋にひっそりと響いていた。

 

「ふぅ―――――・・・・・・」 

 

そこに八時間誰も入ることなくウィンドウと睨めっこしていた彼はデスクワークに用いられる事務椅子の背もたれに寄りかかりながら脱力し大きく息を吐いた。

 

「・・・・・・あああぁぁぁあああ畜生、どこにも碌な情報が無い!」

 

疲れが溜まっているのか、誰もいないからか灰神は年甲斐も無く大声で愚痴を零す・・・というより叫んでいた。

ここは研究所の中でも特に暗部資料を閲覧するためだけ(・・)に作られた部屋であり専用のキーと声紋パスがなけば入ることが出来ない場所であり、盗聴対策に防音壁が施され、電子的情報の漏洩を防ぐための外部からのハッキングだけでなく発電系能力者(エレクトロマスター)精神感応(テレパシー)対策に彼らの超感覚に不快感を与える妨害電波がこの部屋の機具を起動させるのと同時に発せられているため一人を除き(・・・・・)灰神の普段とは違う素の状態を知りうることはありえない。

 

―――大丈夫か、柳ぃ~。

 

「全然駄目。心が折れそう、あ。今折れた」

 

彼自身(DNAの声)である灰神院紅鬼以外は。

 

インデックスと別れて再び食料を調達した後、貰った資料には自分のクローン計画といった類いのものはなかった。そもそもDNAの声を基盤に構築されている生体情報網(ネットワーク)に何らアクションの無い時点で元々信じてなかった。というより信じたくなかった。例えクローンと言えど自分と同じ顔のしかも複数存在することに違和感程度の不快があるものの、その不安の大半はクローン達から伝播されるベクターウイルスが完全なものであるのか?と、いうものであった。

 

「なんかスッゴク仕事して疲れたサラリーマンみたいにやる気が萎んできやがる・・・・頭の休憩ついでに気分入れ替えるか。久しぶりに『修行』でもしーよっと」

 

一息付こうと、ウィンドウと電源を落とし砕けた口調のまま情報端末を抜き取るとすぐさまベクターで掴んだカードリーダーを翳し部屋の出口を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

所定の手続きを踏み絶対能力進化(レベル6シフト)計画の関連組織メンバーのリスト情報を一通り洗い終えた灰神は、精神的疲労を発散させるため部屋の外へ出た後、買い溜めしたジャンクフードを10分で喰らい尽くし、外に出てみると真夏の所為か午前五時であっても、既に薄明るく空が黒から青白く移り変わろうとしていた。ストレスを発散しようと『念』の修行を行うためだけに建設させたベナートの隠れ家の一つに赴いた。

 

そこは、箱庭学園理事を務める『不知火』傘下の元能力開発研究所内。

 

 

機械音声と起動音が響くアリーナでマス目状の壁がうねり的の模様を作り上げていた。海の中で敵に出会った蛸が色素胞を拡縮させて威嚇するような滑らでいて細かな壁の動きはナノデバイスを応用したものだ。

 

「始めろ」

 

灰神は一人、中央で指で銃を模した形を作り右手を前へと伸ばし時代劇のガンマンのように構え訓練開始の合図を送る。

 

『パターン35番・・・スタート』

 

「ス――――ッ。フンッ」

 

深呼吸のように息を吸い体を一瞬硬直させながら一気に息を吐き左手で右手首を押さえ力を込めると指先からナニカが射出されその延長上の的壁に衝突し岩をぶつけたような鈍い音と共に蛍のように発光させる。室内は一般的な照明を使用しており、けして暗い訳ではないのだがその中で光っていると認識できた。

その壁の素材は圧力や衝撃を光エネルギーに変化させる衝撃発光板(クラッシュライト)

本来は、光源のない真っ暗闇でしかその発光を確認できないほどの物であるため橋や高層ビルの支柱に組み込まれてどの位置に一番付加が掛かるのかを調べるためのものだが。

 

「フン、フン、フッ」

 

灰神がごっこ遊びで打つような動きに合わせてナニカを射出し壁を、床を、天井を打ち抜き、衝撃が走ると激しく発光する。的に当たる一発一発が大砲の着弾を連想させるほどに大きく的を壁ごと凹ませていた。

つまりそれだけのエネルギーが衝突していることを意味している。

的を30ほど打ち抜くと、ビィーとけたたましいサイレンが鳴り響きモニターに射撃記録が提示される。

 

『パターン35番クリア

反応平均速度1,1秒

射撃命中達成率97パーセント

衝撃観測ランクA』

 

「チッ」

 

構えを解き不満げにモニターをにらめ付けた。

 

「反応速度が遅い、初撃のチャージに時間が掛かり過ぎている」

 

灰神は、自らが打ち出した記録に苦い顔をし胡坐を掻くと悩ましげに頭を抱えた。いつの間にやら灰神にナニカを打ち込まれて凹んでいたアリーナの壁や床が破損部分を呑み込み新しく真っ平らに修復されていく。

 

「しかも」

 

見慣れた様子なのか灰神は不自然に膨らむ壁や床の動きを気にせずに座ったまま先ほどの訓練で打ち損じた的に向けて再び銃を象った手で狙いを定めた。その指先には先程とは打って変わり肉眼で確認した現象が確かなものであるなら、黒いテニスボール程のエネルギー球体が浮いていた。

 

非殺の一弾(ガント)!!」

 

その球体は灰神の掛け声と共に射出されずに空気を入れすぎた風船のように四散し、その姿は跡形も無く消えさっていた。

 

「相変わらず効果付きの『発』は、放出系でもやっぱり駄目か」

 

顔色を変えることなく落胆しない様子からこの現象は彼にとって日常的な現象であるのだろう。専門用語の混ざったその発言を理解できる者は超能力という異能を扱う学園都市でもある組織に属している者たちしかいない。

そんな不機嫌な灰神の頭に、何が楽しいのかは理解できないが自分と同じ声の主。紅鬼が恨めしくつぶやく灰神の口を挟む。

 

―――おう、おうおうおう。ヤーバイんじゃねーの柳?

 

「うるさい紅鬼。俺だって自分の念能力の必殺技が完成できていないことについては焦っているんだ」

 

―――つーか、これって逆に心労増やしていね? 休憩の意味ないじゃん。

 

「いーいのいいの。細かいデータ漁りなんかより修行(こっち)の方で悩む分にはストレスはあんまし溜まらないから」

 

―――ふーん、じゃこれ聞いても平気かな?

 

「何だよ」

 

―――いやさぁ、最近『ベナート』関連で半袖が、よく話し掛けて来ているんだけどさ。

 

「詳しく話せ」

 

 

『ベナート』。

 

灰神柳が作り出したその組織に属した者の大半は嘗て学園都市に不利益を生じさせる外部のテロリスト(魔術師)、機密情報や流出禁止技術の横流し屋、企業スパイなどといった非公式の治安部隊に、暗部に消される『狩られる者達』であった。

彼らは、灰神の依頼の標的であった者達であり彼の持つ生命エネルギーそのものを操る技術を無理矢理習得させられて生き残り、裏切らない者が組織の駒として生き続けることが出来た。

この生命エネルギー『オーラ』を操る技術を『念』と言い、世間一般でいう天才や仙人と謳われる者達が無意識に使っていることが多く。それを意図的に自由に扱える者を『念能力者』と呼ばれる。念能力者となった者は超人的な身体能力を有し個々の特別な力、『発』を扱える。

『発』は、千差万別で直接的な破壊力を持つモノだけでなく御伽噺でしか存在しないアイテム(あくまでそれに近いモノ)や超感覚的現象といったサポート専門の能力も含まれる。

 

『ベナート』の初期の目的は、灰神自身が念の集大成である『発』が何らかの理由で使えない原因を探るためと、ついでに戦力増強のため、学園都市統括理事会御用達の非公式治安維持部隊と勝手に銘打って処分を言い渡されたターゲットを強制的に念を覚醒させ『他者の"念"覚醒実験および性能確認』を主題とした私設部隊である。

 

当然、彼らは表向きには死んだことになっている上に脱走を試みた者は全員灰神の(ベクター)によって処理されていった。幾ら身体が銃弾程度で死なないと言っても基本的には一般人と身体のつくりは同じ人間であるので念による特別な肉体改造を施しでもしない限り息し、心臓に血の通った存在である。脳の血管を1㎜動かすだけで十分致命傷となりうるのだ。

 

現在、その組織構成は通常の暗部のそれと異なり裏の情報としては戦闘向けの『発』を持つ上位四名を正式構成員とし、サポート型の念能力者は下位組織に属するという形を取りその能力の存在を『保護』し十全に使わせている。所謂、擬似的な多重能力者集団であるため、その存在を隠蔽するために彼らの任務は灰神が本来受け持つ依頼をそのまま委託する形で成り立っている。

灰神自身は、金と時間を掛けて滞空回線(アンダーライン)の対策をしても別ルートで統括理事長(アレイスター)にその存在を感知されると踏んでいるため、向こうから接触が無い限りこちらも感化しない方針を取っている。設立から早四年、当時のメンバーの八割は修行半年辺りから念能力の利便性に気付き外部の仲間や組織との情報伝達、接触等の未遂を繰り返したので去年纏めて、他のメンバーの目の前であくまでナノデバイスの機能として処理(首チョンパ)し徹底的に脅したのだ。

 

因みに、今ではある超能力者(レベル5)が仮配属という形で協力しているため無能力者(レベル0)以外でも精孔を開いても『奴』の指導によって念能力者として生き残ることが可能となった。

 

 

「・・・・幻想御手(レベルアッパー)の噂でベナート(うち)の情報と曲がりなりにでも合致するサイトを確認した、か」

 

―――結構やばくね?

 

「アレイスターの野郎。警告のつもりか? それとも」

 

若干怒気の含まれた呟きが右ポケットに入っている携帯の振動に灰神が気付いたことにより一旦黙り込むとメール欄のアイコンを押し内容を流し読む。

 

―――仕事か?

 

「ああ、なにやら護衛系のモノらしいんだが。伊豆舞博士が資料に不振な点があって直接俺に確認したいことがあるそうだ。……それと不知火にこの施設のグレードをもう少し上げて置くように言っておいて」

 

―――鬼かお前は

 

「『鬼』はお前だろう?」

 

 

やれやれと、大きく伸びをして身体を解し紅鬼に言付け頼むと灰神は真夏の日差しを浴びながら研究所に歩き出した。

 

 

 

 

 

 

「失礼します。昨日振りですね」

 

少々ストレスが発散されたのか灰神は伊豆舞の部屋に着いた頃には明け方とは打って変わり顔色が少し良くなっていた。

 

「あ、灰神君……ちょっとそこの椅子に腰掛けて頂戴」

 

伊豆舞は、灰神を呼び付けたのにも拘らず自分のパソコンとタブレット端末を見比べながら首を傾げていた。

 

「はぁ、別に構いませんけど先ほどのメールはどういう意味なのですか?」

 

「……あ、ゴメンね急に呼び戻したりなんかして」

 

「それより、今回の依頼についてなのですが。護衛系の依頼で間違いないのですね?」

 

「ええ、間違いないんだけど、どうも納得が行かないところがあったのよ」

 

彼女のどこか含みのあるその様子を見るに余程の外れを引いたのかと灰神はどこか諦め切った哀愁を漂わせ背もたれに深く寄りかかる。

 

「対象に何か問題があるタイプのやつですか。そうですか」

 

「あ、いや対象には問題が無い訳じゃないと言うか。何も無いのが問題というか」

 

落胆の様子を見て慌てて否定しようとしているのかそれを肯定するのか抑揚の激しい要領を得ない口調に灰神は苛立ったのか早急に結論を求めた。

 

「はっきりしませんね、詰まる所どういうことですか?」

 

「それが……ただの一般学生なのよ」

 

「一般………ああ希少能力系統の護衛という意味ですか」

 

話の内容と今までの経験を重ねて今回の依頼は一筋縄では行かない厄介なタイプであると断言する。

 

「違うのよ、全然違うの。否、希少という意味ではそうなのかもしれないけどバリバリの無能力者(レベル0)の子よ。勿論、どこかの理事会に通じる大企業の御子息だとかの情報も無し。通っている学校もこれといって特徴の無い平凡校、資料だけでこの子の立場を予想するに不良(スキルアウト)一歩手前?」

 

しかし伊豆舞は投げやりに灰神の言葉を否定し、パソコンを操作して灰神に護衛対象の書庫(バンク)一覧に記載されているデータとどうやって抜き取ったのか学校の担当教師が付ける個人情報(セイセキ)を送る。

 

「…………凄いというより酷い経歴ですね。全科目平均以下、特に歴史は壊滅的。遅刻は当たり前の上に一学期でこの無断欠席が合計一ヶ月分って……よく教育指導の呼び出しが掛かりませんね」

 

「まあ、部外者である私たちですらそう思うんだから担任教師にとっては目の敵か視界に入らないようにしているのかのどっちかだと思うんだよねー。ってそれも気になるんだけど、私が気にしているのはもっと根本的なことよ。灰神君」

 

「はい」

 

疲れ果てて放心の適当な受け答えをしていたときの緩みを引き締め声を強張らせる。

 

「あなた、置き去り(チャイルドエラー)で間違いないのね?」

 

「はい。普通の学生の生い立ちが少し違いますけど概ね、そのようなものです」

 

 

「そう。じゃあ『これ』を見せても驚かないでね」

 

「いや、驚くも何も話の流れが理解できないんですけど……!?」

 

渡すわよと、灰神の端末に送られてきたのは対象の映像データであった。集合写真であろうか、おそらく所属している学校の校舎を背景(バック)にしているのだろう。最前列はしゃがみ込み、二列目で膝を押さえて腰を低くし三列目と最後列がそれぞれ段差に乗っている四列に真新しい真っ黒な学ラン、セーラー服姿の一年生集団写真に無粋に赤く枠切られた、一人の男子生徒が欄外に大きく映し出された。

 

「『上条当麻』。この子が今回の護衛対象よ」

 

「……はあ、随分と平凡そうな方ですけどこの上条さんが何か?」

 

「よく顔を見て御覧なさい」

 

詰問されるような物言いに眉を顰めるも伊豆舞が何を伝えたいのか分からず取り合えず見たままの感想を答える。

 

「……左米神にガーゼを張っていますね。入学早々何をやらかしたんだか、アレ? この映像って入学式のものですよね?」

 

「ちがぁぁぁあああああう。よく自分の顔と見比べて見てなさい!! これとかすっごく似てるでしょ!?」

 

「そうですか? あんまし似てないと思いますけど……それに仮に似ていたとしてだから如何だっていう感じなのですが? 昼ドラのような展開でも期待していたんですか? って、この写真、箱庭学園の監視カメラの映像じゃないですか!!」

 

「あ!」

 

思っていたような反応を得られなかった所為か伊豆舞は調子に乗って見せた写真が所謂盗撮、ハッキング、ストーカー、個人情報保護法に抵触する代物を見せてしまう。

尽かさず灰神のベクターによって没収された写真を奪い返そうとしたがいつも以上に無表情な灰神の冷たい視線にぐうの音も出ず、目の前で刺身のツマのように細く切り裂かれた。どのルートでこの映像を手に入れたのか。まだ自分の知らない映像があるのかと灰神に問い詰められる。

 

「あ、あれ? ここは生き別れた兄弟の感動の再開に引き合わせた養親である私の胸で泣き崩れながら感謝感激の言葉をのシーンでしょ?」

 

「何をふざけているんですか気持ち悪い。さっさと依頼の詳細を送ってください。後この映像データは全部削除して下さいよ!!」

 

「うう、いい感じで盛り上がってきていたのにどうしてこうなっちゃったのかしら」

 

頭を押さえる彼女に頭が痛いのは此方だと睨み聞かせると、灰神は受け取った資料を自身の端末で読み進めるとその内容に激昂する。

 

「しかも七月十八日って今日じゃないですか。時間に余裕を持たせるくらいの気配りがあっても、っあああ大体何なのですかこの依頼内容は!? 対象の容姿よりもこちらの方が数倍怪しいじゃないですか。"灰神柳は指定された時間内に対象と接触しつつ且つあくまで一般人として振る舞いその護衛に全力を尽くす"って何故に名指し?」

 

「……さあ? でも灰神くんはこういうの興味有るんじゃない?」

 

「あなたに聞いた私が馬鹿でした。とりあえず、この依頼丁重にお断りさせて貰います」

 

「なっ!?」

 

いつもの従順な返事を予想していた伊豆舞は驚き、両手でパソコンと書類の塔で埋もれているデスクを叩きながら立ち上がった。一瞬言い放った言葉の意味を理解しつつ怒鳴りそうになるも追い討ちをかけられる。

 

「嫌ですよ護衛なんて面倒くさい」

 

確かに、討伐や敵勢力との戦闘と比べると護衛とは報酬に比べて労力を大きく消費しさらに護衛対象によってはその行動を大きく制限される場合も少なくない。

前に、学園都市へ視察をしに来た某国の大統領を護衛した時は何度此方が暗殺者に代わって討ち取ろうとしたことか。

灰神はそういった過去の経験からもう二度とこの系統の依頼は受諾しないことを決めていたのだ。

 

「そうは言ってもこうも名指しでオーダーされている以上、他の連中に任せられないのは分かっているでしょ?」

 

聞き分けのない子供を言い聞かせるように伊豆舞は灰神にことの重大さを説くも。

 

「……嫌なものは嫌です」

 

「今回はやけに食い下がるじゃない」

 

「別に今回の対象のことを調べるだけなら暗部の情報網からいくらでも引き出せます。ですから当人と接触する必要性が感じません。後内容が胡散臭い」

 

「うっ、確かに。じ、じゃあ報酬の方はどうなの? 時給として考えてみればこの内容としては破格でしょう?」

 

資料の最後に依頼達成時の報酬を餌に誘惑する。特殊な依頼内容であるためか、通常の額より三倍から五倍程の金額が報酬として渡されるようだ。

 

「うーん、確かにこの金額は魅力的ですけど……やっぱり無理です」

 

灰神はじっと名残惜しそうにその金額と依頼内容を見比べ目移りさせるも、最後は自身のベクターを使い常人では到底不可能な凄まじい逃避運動で扉を開けて飛び出す。

 

「うわひゃんっ!!」

 

「あ!? ちょっと、もう何だってのよ!」

 

灰神が伊豆舞の部屋を出る際、食器(コーヒーカップ)の回収に来た如月とぶつかりそうになるも天井に伸ばしたベクターを収縮させ上昇し上を通り過ぎて廊下の窓から飛び降りていってしまった。

 

 

 

 

 

 

「あのぅ……伊豆舞博士、灰神くんと何かあったんですか?」

 

いきなり上司の部屋から飛び出してきた灰神の様子から不穏な空気を孕んだ室内へと入ると案の定、床に散らばった書類を哀愁漂わせながら拾う博士がいた。

声は掛け辛かったが二人の様子を見るに後々なって大問題になるようなことになると一応この施設内で二番目に権力のある自分も後始末に出る可能性は十分ある。なら、そういう状況になる前にできるだけ被害の波を小さくしようと現状を把握するために愚直なまでに率直な質問をした。

 

「ごめんね。如月ちゃん、ちょっと暗部関連で変わり種の依頼が舞い込んで来てちょっと意見が食い違ってね」

 

「え? でも確か暗部の依頼って」

 

「そ。基本、依頼側がキャンセルしない限り此方はそれをどんな手を使ってでもこなすことに命を掛けるしかないわ。拒否なんて以ての他、最悪敵対勢力として始末され兼ねない行動よ」

 

「よろしいんですか?」

 

「ん? 何が?」

 

溜まっていた物を吐き出したおかげなのか入ってきた時は見違えるほど落ち着いた伊豆舞であるが、言っている事の内容と表情がかみ合っていないのが気になる。

パソコンと書類の塔の谷に埋もれているカップを取りトレ-に載せてタブレットに記載された資料をざっと見る。

 

「見たところ統括理事会から直接の依頼のようですけど」

 

「そうなのよねー。どっかの研究機関からの斡旋みたいなやつだったら適当に煙に巻いても良かったんだけどねー。まあ、最悪私が泣きつけばあの子はなんやかんやで引き受けてくれることを祈りましょうか」

 

「そ、そんなアバウトな対応で大丈夫なんですか? もっとこう万が一に備えて他の非公式部隊を送り込むとか」

 

以外にも余裕を見せる見せる上司の対応策の内容が泣き落としという一種の捨て身と聞いて妥当な打開策を提案するも彼女は軽い口調でタブレットを弄りながら手を振った。

 

 

「ああー平気へいき、あの子ああ見えて結構お人好しなのよ」

 

「……あの子、暗部出身ですよね。そりゃまあ、挨拶をしたらいつも笑顔で返してきてくれますけど、ただの処世術の一環ですよね?」

 

「それがそうとも言えないんだよね~これが。見よ!!」

 

悪戯っ子のような笑みを浮かべながら先ほど弄っていたタブレットを如月の前に差し出しそのフォルダーに保存されている映像をみて如月は固まる。

 

「こ、これは」

 

「YES!! これは先月のかしら? あの従順優等生ぶった灰神くんが今時、公園の隅に置かれたダンボールの中に捨てられた子犬達に行き付けの精肉工場から貰ったホルモンで自作したドックフードを上げる激レア映像なのだ」

 

なんだ、可愛いところあるじゃないと感心していた矢先ふと手が止まる。

 

「博士、この映像のデータはどこから?」

 

ギギィっと油を差し損ねたブリキの人形のように自慢をしてくる当人のパソコンをにらむ。

 

「ちょっと警備員(アンチスキル)本部に保存されている監視カメラのデータベースから写し取っただけよ。あ、ほらこれ懐かしい~まだ中学一年の時のよ!」

 

「へぇ、そうだったんですか」

 

如月は灰神があんなアクロバティックな家出をした理由がわかり若干目が死んでいた。

そんな部下の気苦労を察することなくデータの伊豆舞は椅子に寄り掛かりため息を吐く。

 

「ああ、いつものなら二つ返事で了承してくれたあの頃はどこに行ったのかしら……」

 

「反抗期ってやつじゃないですか? 後、仕事してください博士」

 

「そうだった! 如月ちゃん」

 

「はい?」

 

「さっき見せた護衛の対象学生!! 私が灰神くんを研究所に呼びつけた理由がその事なんだけど。この子と灰神くん見比べてどう思う?」

 

カップを回収して部屋を出て行くついでにしっかり仕事を進めておくように釘を刺す如月を自分のパソコンの前まで引っ張るとタブレットと二つの画面で映像を見比べさせる。如月は、二つの映像を見せつけられ息を呑む。

 

「……っ!? 髪や瞳の色の違いで最初はわかりませんでしたけど、顔立ちとか結構似ていますね。博士、これって」

 

「やっぱり、そう思う?」

 

 

同意を求めるその口元は大きく弧を描いていた。

 

 

 

 

 

 

「やっちまったよ」

 

伊豆舞研究所を(物理的に)飛び出し再び何かに取り憑いたように念能力の修行に入り体を苛め抜き水分不足で熱中症になりかけたところで紅鬼が無理やり体の主導権を奪い取り強制的に休ませるまで止まらなかった。

意識を落とされ目が覚めた時に時計を見れば時刻はすでに正午を過ぎていた。灰神は気だるい疲労感に苛まれながら外へと繰り出し練乳サイダーを片手に駅の広場に設置されているベンチに座り込み気を沈ませていた。

 

―――とか言いつつ、全然後悔していないその心情が訳分からんのだが。

 

「後悔はしてないよ、お金がちょっと勿体無かっただけで」

 

―――やっぱり後悔してんじゃん!?

 

「仕様がないさ。時期が時期だ、下手に今上条(ヤツ)と関わり合いになれば此方の命のほうが持たない。……それに蔵間が話してきたあの記事についても調べ上げないとな」

 

灰神は伊豆舞に彼、『上条当麻』の顔写真を見せられたときは血が凍るような衝撃に包まれていた。それもそのはず、本来灰神自身は御坂美琴や上条当麻とは絶対能力進化(レベル6シフト)計画に介入し彼らとのパイプを繋ごうと考えていたのだから。しかし、度重なる想定外の接触や事態に頭を悩ませていた。

 

「紅鬼、現段階で第三位のクローンに接触しているディクロニウスの個体は確認できないんだな?」

 

―――勿論、そんな異常事態になればすぐにでも柳に伝えるよ。何なら今から確認するからちょっと待っててくれ。

 

紅鬼が気を利かせて調べてきてくれるらしく頭に響く声がなくなり夏日差しで暖められた風が木々を揺らす音しか聞こえなくなった。再びのどの渇きを感じ練乳サイダーを口にする。くどい甘さが炭酸ではじけ飛び口当たりは悪くない。

 

―――あー、柳?

 

「どうした?」

 

それから五分足らずで紅鬼が歯切れの悪い困り声で話し掛けてきた。灰神は尽かさずいつものにやけた元気が

ない様子に疑問を持った。

 

―――予想通り、第三位のクローンと接触した子達は確認できなかったんだけどさ~。なんというか……これ絶対に言わなきゃ駄目だよね。

 

「はっきり言え」

 

―――暗部の依頼で護衛対象だった上条当麻と第三世代の硲舎って子が現在進行形でショッピングを楽しんでいるだよね。

 

灰神は、盛大にむせ込み呼吸を落ち着かせると先日と同じようにビルの屋上間を跳び回りながら二人のいる第七学区へと向かい携帯に手を伸ばし今朝業務放棄を言い渡した上司の番号に電話をかける。

 

「伊豆舞さん!! 今回の依頼なんですけど――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、オジイチャン」

 

上条当麻は下校途中、案内図の前で何度も往復しウロウロしていた小学二、三年生の少女、硲舎佳茄(はざまやかな)にどうしたのかと声をかけると硲舎は最近テレビで話題のセブンスミストにコウキという人と一緒に向かおうとしていたと話を聞いたのだ。

しかし、途中で相手の都合が悪くなってしまったらしく別れて一人で買い物を済ませようとしたのだが、いつもは一三学区寄りの公園や駅の周囲までしか来たことがなく、地図の前で立ち往生していたのだ。

本来なら、こういった学園都市内の迷子指導や道案内は、風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)の領分なのだが近くにそういった人員がいなかったため上条が品物(バーゲン)の下見ついでに硲舎に道案内を申し出たのだ。最初は恥ずかしがるも年下の従妹の相手に手馴れている上条の姿勢に次第に彼女は懐いていった。

 

 

そんな一緒に買い物をしている最中に脳が正しく認識変換出来ない単語を拾った。

 

―--オジイチャン。

 

確かに世界には様々な御家庭がある。

まだ十代なのに親の兄弟姉妹の年の差が原因で親戚の子に叔父さん叔母さんと呼ばれること自体はそう珍しいことではない。

まあ、大抵は甥姪よりも弟妹のように振る舞うのが一般的であろうが……。

極稀に複雑な家庭の事情により(養子とか再婚とか)自分より若い義理の親や離れ過ぎている弟妹が家族として籍を入れることも世界や歴史、一部の血や権力を重んじる貴い一族の方々の御家事情によっては当然のように行われることもある。

だが、今買う服を選んでいる少女は進行方向に向けて何と言った?

 

「オジイチャーン」

 

やはり聞き間違いなどではなく通常自分より二世代以前の親族やご老体に向けて発するあの「お爺ちゃん」で正しいのだろう。先ほど手に取った夏物の黄色いワンピースを持ったまま親しみ気にスキップを挟みながら走り寄る。

上条が店舗の外側へと向かう硲舎を目で追い、彼女の向かう先の出口付近を見渡し首を傾げる。

どこにも、そんな年を召した年配がいないのだから当然の疑問である。

と、硲舎が学園都市の学生であるのなら知らぬものは先ずいない白を基調とした制服に藍色のニット帽を被った上条より少し背の高い高校生の右足に抱きついた。

 

「やあ、硲舎ちゃん。今日は買い物?」

 

「うん、今日テレビでやってたおしゃれのお店で買いものしてわたしもおしゃれするって決めたの!!」

 

「ぇ!? な、え………な??」

 

上条の常識という壁が大きく音を立てて皹を作っていた。驚愕のあまり「な」と発音しようとする口が固まった状態のまま二人を凝視する。

すると抱きつかれた男子高校生が固まっている上条を見て困ったように硲舎に彼の立場を聞いた。

 

「ええっとそこの人は?」

 

「わたしがみちに迷っている時にここまで一緒に来てくれたお兄ちゃんなの」

 

「そう、従妹(・・)の面倒を見て下さりありがとうございます」

 

「あっ、いえ。ん? 従妹?」

 

深くご丁寧にも同年代であろうと敬語を崩さない姿勢に上条はこれがエリートと一般人(ノーマル)との教育(ソダチ)の違いかと若干凹みながら強調された単語に疑問を浮かべる。

 

「私、灰神と言います。高校二年です」

 

そんな上条の疑問声を遮る様に灰神と名乗る学生は自己紹介を始め、苗字を名乗り右手を前に出し握手を求めてきたので上条もそれに応じる。

 

「やっぱりイッコ上だったか……どうも上条です」

 

これが、科学と魔術のが交差する世界の在り方を変える両者の最初の出会いであった。

 

 

―――――――――――――――――――

非殺の一弾(ガント)

 

放出系念能力。灰神にはベクターにオーラを纏って殴るだけで十分な攻撃手段となっているので何らかの補佐能力が必要と考え、考案した能力のひとつ。

北欧系魔術の体調を崩す呪いをベースに編み出した非殺傷の拘束主体とした『発』。

本来は、対象の体調を崩しそれを極めたモノに物理的破壊を可能とする呪術の一種。だが、念弾(※オーラの塊)を放出すること自体既にオーラを纏っていない物や垂れ流しで纏えない生物の体を破壊するのに十分過ぎる威力を持つので灰神は生物以外には効果がない。物理的干渉特性を持たない。等の制約を立てて能力を開発するも失敗。

 

他にも過去に考案して最後まで発動しなかった発は三十を超える。

 

 

灰神曰く『ガントであって決してガンドではない』 とのこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




作者「年下の親戚に○○オジちゃん、オバちゃんとか言われるって結構胸に響くんだよね(まだ1○歳なのに)」

柳・紅鬼「「え!?」」
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