箒ちゃん育成計画(仮)   作:通りすがりの外典アイランド仮面

1 / 2


 

 

 

「おめでとう。君に教えるべきことはもう存在しない」

 

 おめでとう、と言うのに。その男は欠片も嬉しそうではない。俺はそんな男を怪訝に思って見つめる。

 

「......いや、すまない。喜ぶべきなのだろうが、驚きの方が大きくてね。まさか三年──君にとってはそうではないのかもしれないが、"僅か"三年で免許皆伝に至るとは」

 

 参ったなぁ、と男は呟いた。

 

「僕から見ても何も問題はない。これからは君が師範となるのも良いし、或いは新たな傍系の流派を創っても良い。君の実力は既に僕よりも上さ」

 

......確かに、そうなのかもしれない。傲慢でも満身でも計算違いでもなく、己はこの男より強いのだという実感は確かにある。手傷こそ負うかもしれないが、何の問題もなく勝利できるだろう。

 

「本当に......まさか三年で越えられるとは思わなかったよ」

 

 苦笑混じりに溜め息を吐く。それは嫉妬ではない。いや、それはむしろ──。

 

「君の才能は本物だ。天才的を越えて怪物的とすら言える。剣だけじゃない......間違いなく、君は"戦闘"に関しては世界でも十指に入る天才だ。常人とはまさしく次元が違う」

 

 だからこそ、と男は続けた。

 

「惜しい。本当に惜しい。百鬼(ナキリ)くん、君は──」

 

──生まれる時代を間違えた。

 

「あと百年早く生まれていれば、君は間違いなく英雄になっていた。その怪物的な才能で世界を制覇していただろう。世が乱世ならば天下すら獲れていたかもしれない。だが、君は......この時代に生まれてしまった」

 

 この平和な時代に。銃がモノを言う時代に。ともすれば人が直接争うことすらなくなるやもしれない時代に。

 

「君は生まれるべきじゃなかった。君はいるべきじゃなかった。貴様()の居場所は、この世界にはない」

 

 変質する。言葉も空間も、何もかもが牙を剥いた。爛々と光る眼が俺を睨む。煌々と光る眼が俺を糾弾する。存在を否定する。

 

「死ね。死ね。死ね。死んで詫びろ。或いは地獄を作り出せ。貴様が本来在るべき場所を、地獄を地上に作」

 

「うるせぇよ、鬼」

 

 

 剣を降り降ろす。回避不可能な一撃は男の──己が師の皮を被った存在を両断する。叩き割られた頭蓋から垂れる脳裝を舐めとり、其はげらげらと笑った。

 

「貴様は逃げられんよ。嗚呼、哀れよなぁ──」

 

 

 

 

 

「......胸糞悪ぃ」

 

 目覚めた直後、抱いた感想はそんなものだった。それも当然だろう──恩師との思い出かと思いきや途中からクソみたいな悪夢になったのだから。ほんとクソだった。

 半ば呻きに近い声を洩らしながら立ち上がる。家賃が死ぬほど安いプレハブ小屋は酷く冷えるため、寝袋から出るとその寒さに思わず鳥肌が立った。もう季節も冬に近い。これなら九州まで南下しとけばよかったかなぁ、と溜め息を吐く。

 

 安物の時計を確認すると、時刻はなんとも中途半端な午後の十一時。しかしあんな悪夢を見た後ではもう一度寝れそうにもない。

 

「......少し散歩でもしますかね」

 

 伽藍とした部屋の中を見回し、俺は独り言をぽつりと洩らした。本当、独り暮らしに慣れると独り言が増えるからいけない。

 

 

 

 俺──つまり百鬼(なきり)セキはフリーターだ。高校にこそ通っていたが大学にも進学せず、とくにやることもないままバイト生活営みつつ各地を転々とする23歳である。相棒はおんぼろスクーターと真剣が一つ、そして明日のパンツと少しの小銭だ。何処ぞの仮面ライダーにそっくりではあるが、別に正義の味方擬きをしているわけではない。銃刀法違反でいつパクられるのかと戦々恐々しながら今日も今日とて日銭を稼ぐ毎日だ。

 

 まあ──あの500年前に錬金術で創られた不思議アイテムで変身する主人公の言う通り、確かに小銭と明日のパンツさえあれば生きてはいける。スマホも何もないが、別に多くを求めなければ存外しぶとく食い繋げるものである。

 

「や、でも寝袋は必須か」

 

 訂正しよう。やっぱ明日のパンツと小銭じゃ無理だわ。野宿率結構高いから寝袋は必須。あとはホームレス狩りをしている餓鬼にちょっと灸を据える程度の実力さえあれば何も問題ない──。

 

「......って、思った端からこれか」

 

 顔をしかめる。冷えきった夜風に乗って、風上からよく知った音が聞こえてくる。悲鳴、そして肉を打つ音。察するに棒か何かで殴っているのか。

 しかしそこでふと違和感に気付いた。悲鳴の種類が一つではない。これは複数人のものだ。私刑(リンチ)ではなく、むしろ逆。

 ()()()()()()()()()()()()

 

「チッ......」

 

 どうやら少し面倒な事が起きているようだ。舌打ちと共に、風上の方向へと走り出す。ここらの地理は粗方頭に入れているため、何処が悲鳴の発信源なのかはすぐに予想がついた。恐らく解体工事中の廃ビル──地元の不良が入り浸っている、元フィットネスクラブの建物だ。

 

 軽く跳躍して塀の上に着地し、更に跳んで屋根伝いに目的地を目指す。正直民家の瓦屋根等は滑りやすくてあまりお薦め出来ないルートなのだが、四の五の言っていられない。再度、僅かに聞こえてきた野太い悲鳴に眉をひそめた。

......悲鳴の質がおかしい。これはただの喧嘩ではない。言ってしまえば()()()()()だ。痛めつけるためのものではない、殺すための暴力に直面した人間の叫びだ。

 

──故に止めなければならない。

 

「全く、何処の馬鹿が暴れてるんだか」

 

 二分ほど走っただろうか。

 ようやく辿り着いた俺は、()()()()()()()()()()()()()。そのまま目的の廃ビル、解体作業によって骨組みが見えてしまっている三階へと転がり込んだ。三点を利用した回転によって衝撃は殺すが衣服は汚れる。

 そして立ち上がり、砂埃を落として階下を覗き込んだ瞬間、

 

「がっ......ああああああああ!」

 

 思わず顔をしかめた。人の悲鳴を聞いて悦に浸る、なんてサディスティックでバイオレンスな性癖は持っていない。

 そんな俺の視界にあるのは、夜陰に紛れる人影が少年を踏みつける姿だった。恐らく、というか間違いなく骨を砕いたのだろう。涙を流しながらのたうち回る少年を無造作に蹴り飛ばし、更に追撃するべく何かを振り上げ──。

 

「そこまでだ、阿呆」

 

 俺が投擲したコンクリートの小片を叩き落とし、その人影はこちらを向いた。よくよく見れば手に持っているのは木刀であり──驚くべきことに、それを手に持っているのは女だった。立ち姿と輪郭からはっきりと女であることを理解する。

 

 だからこそ、その獣の如き気配に戸惑いを隠せなかった。

 

「......喧嘩、ってわけじゃあなさそうだが。そろそろ止めにしねぇか? そこの奴等に何されたか知らんが、鬱憤は晴れただろう」

 

 女である、という事実から何があったかは想像に難くない。大方それで返り討ちにあったのがそこで転がっているガキ共なのだろう。しかし、些か以上にやりすぎだ。

 

「これ以上やったら、下手すりゃこいつら死ぬぞ? ここは一旦手打ちで、」

 

 手打ちでどうだ、と。

 そう続けようとした口をつぐみ、迫る剣先を掴みとる。摩擦で皮が擦れる感覚に内心で舌打ちしつつも表には出さず、動揺した様子の女を睨み付けた。

 

「......随分な返答だな。それとも、この街じゃそれが普通なのか?」

 

 返答はない。だが状況判断は早いらしい。単純な虜力では敵わないと悟ったのか、木刀から手を放すが早いか、地面に転がる同じような木刀を拾い上げる。僅かに射し込む月光の下、白磁のような少女の頬が幻想的に浮かび上がる。

 

──面倒な、と呻いた。

 

「おいおいおい、ガキだとは思っていたが......まさか中学生だとはな」

 

 高校生ですらない。艶めいた()()()()()黒髪を揺らし、制服に木刀という珍妙な出で立ちの少女が俺を睨んだ。ゆっくりと振り上げた木刀はそのまま構えへと移行し──構え?

 

「まさか、お前」

 

 瞠目する。よく見知った構え──否、それは既に俺が()()()構えだ。中段と上段の中間のような独特の型は、あらゆる状況に対応するための基礎的な型であり。

 

「篠ノ之流......!」

 

 剣道ではなく()()。まさかこの場で見るとは露とも思わなかった古流剣術の一つを前にして息を飲む。

 

 だからこそ──俺は目の前の少女の異変に気付くのが、一瞬遅れた。

 

「......貴様も。貴様もか」

「何?」

 

「姉さんは、私と関係ないだろうがッ──!!」

 

 知らねーよ。

 

 全く以て俺と無関係であろう言葉と共に木刀が振るわれる。反射的に奪い取っていた木刀で応じ、硬い木が衝突する高い音が響いた。

 

「チッ......何処の馬鹿だ、こんな奴に剣術を教えたのは!」

 

 剣道ならばともかく、これは"剣術"だ。スポーツとして洗練され特化した剣道とは異なり、その本分は本当の意味での戦いにある。

 よく小説等で勘違いしているものが多いが──正直な話、剣道が実戦で役立つことなどほぼ存在しない。確かに気迫はそれっぽく身に付くかもしれないが、それもあくまで仮初めのもの。勝利ではなく、如何にして敵を害し殺すかを意図とした場では間違いなく萎縮する。

 

 そもそも竹刀と真剣では重さが違う。剣道と剣術では構えが違う。その構えには気構えも含まれるが、最も単純なのがこれだ──。

 

()()()()()()、か。お前、真剣を振っていたな?」

 

 跳ね上がる剣をいなし、逸らし、叩き落とす。一切の容赦なく放たれる技には突きすら含まれており、こちらを本格的に殺しに来ているのだと実感する。

 故に、こいつに剣術を教えた奴は馬鹿だな、と確信した。この少女は最も重要なことを知らない。剣術を知るのなら、決して踏み越えてはいけない一線を知らない。

 

「剣道ならば、許そう。かじった程度の剣術ならば、譲歩しよう。だがお前は強い。ああ認めるよ、お前はその歳にしちゃ強い方だろうさ」

 

 力を示したいのだろう。鬱憤を暴力で晴らしたいのだろう。暴れたいのだろう。理解はする。

 だが、それとこれとは話が別だ。

 

「だがなぁ......一般人に剣を向けるのは、そりゃ少し話が違うだろう」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()。人の皮を被った獣と何が違う。強者だから弱者を蹂躙していい? ふざけた話があったものだ。暴力で弱者を屈服させ、従わせ、それでどうする。強者ならば納得しよう。だが戦い方すら知らない者をいたぶることに何の意味がある。

 

「今のお前は畜生同然だ」

 

 修羅ですらない、獣の目をした少女の剣を押し返す。何があったかは知らない。だが、()()()()で弱者を痛めつけることは絶対に許さない。それはきっと、己が師の望むところではない筈だから。

 

 

「あ、あアァァァァ!」

 

 迫る剣に本来の鋭さはない。ならば本物の篠ノ流を以て返礼と為そう。

 

 

()()()()()()()、二ノ型十三番」

 

──剣を側面から圧せば、いとも簡単に剣撃は外れる。

 子供でもわかる理屈だ。横のベクトルを加えてしまえば剣は当たらない。しかしそれは剣の極致の一つであり、篠ノ之における二ノ型の本質は"後の先"に在る。

 放たれる剣先をそっとずらせば、目的地を失った剣は地を叩く。剣が届くことはなく、それは夢幻を斬るかの如く──故に其は霞である。

 

「......【雲霞】。寝てろ、阿呆が」

 

 あらぬ方向へ剣を振るった少女が驚愕に目を見開く。その間抜けな顔へ剣を打ち込む──ことはなく、鳩尾に軽く拳を叩き込んだ。

 かは、という音と共に瞳が光を失う。転がった木刀を横目で見ると、はぁ、と俺は溜め息を吐いた。

 

 

「どーすっかなぁ、これ」

 

 死屍累々な上に、危険物取扱注意な少女が一人。さてどうしたものか、と俺はがりがりと頭を掻くのだった。

 

 

 

 






>>篠ノ之流真刀術
 やべー剣術。極めればISとかガストレアとか色々斬れるようになるらしい。残念ながらビームを出す技はない。鎌鼬なら出せるから許して。
 本来は悪鬼羅刹を斬る為の討魔の剣だったらしい。が、完全な習得者は篠ノ之柳韻、織斑千冬を含めた数人ほどしかいないとか何とか。つまり全員人外のやべーやつである。

 ちなみに篠ノ之流神槍術や壊拳術もあったりする。篠ノ之すごい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。