箒ちゃん育成計画(仮) 作:通りすがりの外典アイランド仮面
「ん、ぅ」
ぼんやりとしていた頭が、そんな声によって目覚める。俺以外にこの部屋に人がいるはずはない──そんな思考によって一気に目が冴えたが、直後に昨日のことを思い出して脱力する。
そういえば俺、あのJC拾って帰ったんだったわ。
「......?」
「よう、ようやくお目覚めか」
寝ぼけ眼な少女にそう声をかけると、胡乱げな瞳でこちらを見やり──そして硬直した。
「な、ぁ、え......」
混乱した様子で殺風景な部屋の中を見回す。勿論その手中に木刀はなく、俺は欠伸混じりに立ち上がる。
「......よし。取りあえず、君も飯食うだろ?」
目を白黒させて見上げる少女にそう告げて、昨日の晩から保温にしていた炊飯器へ向かうのだった。
「ほーん、成る程ねぇ。篠ノ之箒、か」
適当に作ったお茶漬けをかきこみながら、篠ノ之箒を名乗る少女へそう返す。篠ノ之、篠ノ之......しののの?
「って、お前柳韻さんの娘なの!?」
「あ、ああ。父のことを知っているのか......ですか」
「知ってるも何も......篠ノ之流を俺に叩き込んでくれたのは柳韻さんだぜ、箒ちゃん。あと敬語は苦手ならなくても構わんよ」
「箒ちゃん......」
何とも言えない表情で俺の顔を見る箒ちゃんに首を傾げる。何かおかしな事でもあっただろうか。
「それで......肝心の柳韻さんは何処にいるんだ? ちっとばかしお話ししたい事があるんだが」
主にそこの不良娘について。
しかし。その言葉を聞いた瞬間、無言で俯いた箒ちゃんの様子に眉をひそめる。
「......父は、いない。一人暮らしだ」
「何だって......?」
一体どういう事だ、と。そう尋ねる前に、少女は震える声で告げた。
「何処にいるかも......何をしているのかもわからない。父も、母も......あの姉も!」
絶句する。そこに込められた激情は如何ほどのものなのだろうか。
しかし──姉? 篠ノ之箒の姉とは──いや、まさか。
「......あれか。ISとかいうものを作った、確か──」
俺より一つか二つ下くらいの女。柳韻さんから免許皆伝を貰った直後に轟いたその名は。
「篠ノ之......束。血縁上、私の姉だ」
血縁上、という言葉からは怨恨すら感じられる。なんとなくこれは突っ込んじゃダメなやつだな、と察して頷くに留めた。
「成る程ねぇ。姉があんな事をやらかして、ってことか」
篠ノ之束は稀代の天才だ。しかし同時に国際犯罪者としての扱いも受けている。各国がISを利用しているというのに、その産みの親が犯罪者扱いとは皮肉を通り越して呆れてしまう。
だが、確かにあの理不尽なまでの強力さを見れば指名手配してまで篠ノ之束を捕らえようとする動きも理解できた。あれは本当に強い。
「貴方は......父が何処にいるか、知っているのか?」
「悪いが全く以て知らん。というか日本に戻ってきたのはつい半年前くらいでな......こうして細々と暮らしながら各地を転々としてるよ」
そうか、と言って箒ちゃんは肩を落とす。その様子に同情しないこともない──が。
「確かに箒ちゃんの状況は異常だ。可哀想だとも思うしどうにかしてやりたいとも思う。だけどさ......それでもアレは駄目だろ」
ばつが悪そうに視線を落とすその姿は反省しているように思える。だがいつかまた必ず暴発するという確信が俺にはあった。
暴力は理性によって統制されるべきではあるが、そう簡単に出来るものでもない。暴力による安易な解決を知ってしまえば、人はなかなかそれから抜け出すことは出来ない。力を振るう優越感は一種の麻薬的快楽ですらある──が、それは極めて刹那的なもの。巡り巡って己の首を絞めることになる。ソースは俺だ。......まあ、今はその事はどうでもいい。
しかしそうは言っても、やはり理屈では理解してもはいそうですかと行かないのが人間だ。だからこそ他者が叩き込む必要がある。
武の在り方を──剣を握る者の鉄則を。
「箒ちゃん、その剣は柳韻さんに教えて貰ったんだろう?」
「......教えて貰った、というよりは
「何だって?」
眉をひそめる。その様子に慌てたのか、箒ちゃんは早口で言葉を紡いだ。
「い、いや! 確かに剣道を教えてくれたのは父だが、ああいう技を教えてくれることはなくて......遅くに型稽古をしているのを盗み見ていた、というか」
──成る程、そりゃ持て余すわけだ。思わず内心で舌を巻く。教えられる云々以前に、自分で学んだ類らしい。
「......そうか。じゃあ、今日から少し稽古をつけるぞ。ちなみに異論反論抗議質問その他諸々一切受け付けない。これは確定事項だ」
「え──あの、学校は」
「今日は休め。そんな事よりその病んだ精神で半端な剣を振るう方がヤバいわ」
要するに、この少女は
柳韻さんがやらなかったのならば、その役割を俺が担うしかあるまい。
「木刀あるだろ? それ使うぞ」
目を白黒させて頷く箒ちゃんを連れて、俺はアパートを出るのだった。
人目につきにくく、尚且つある程度の広さを確保できる場所。現代においてそんな場所はなかなかないが、このクソオンボロプレハブ小屋の裏手にある山はなかなかどうして適した場所だ。
「どうした、ほら──打ち込んでこい」
「く......怪我しても知らないぞ!」
舐められていると思ったのだろう。きっと此方を睨み、中学生とはとても思えないほど完成された剣が放たれる。立てられた刃筋はしっかりと意識されており、頭部にでも当たれば昏倒は免れない。
それを、昨日と同じようにして逸らす。
「......!」
「一撃で終わるな。先を意識して振れ」
連続して仕掛けられる技を凌ぎながら、俺は淡々とその技量を分析する。印象としては剣術混じった剣道、といったところか。中途半端に取り込んでいる結果ところどころ歪だが、それを持ち前の才能と反射神経、無意識の先読みでカバーすることにより独特のテンポをもったモノとなっている。
恐らく同年代でこれを凌げる輩は皆無に近いだろう。剣道の全国大会にでもぶちこめばあっさり優勝をもぎ取ってくるに違いない。
「なら、これはどうだ?」
木刀を弾いて隙を作り、そこから一転して俺は攻勢に出る。フェイントを交えて体勢を崩し、そして──大上段から振り下ろした。
「く、ぅ......!?」
恐らく見えなかったはずだ。手に持っていた木刀は叩き落とされ、痺れたのか箒ちゃんは右手をさすっている。俺はだらりと構えを崩し、そして笑った。
「うん、合格。箒ちゃんは強くなれるぜ、確実にな」
打ち込んだ瞬間、不完全ながらも側面から刃を差し込むことで受け流していたのだ。完全ではないからこそ木刀は弾かれたが、それでも俺の動きを見ただけで模倣するとは──予想していたとは言え、随分と目が良い少女だ。
「二ノ型は後の先を取る剣だ。箒ちゃんと相性が良さそうだし、すぐ会得できるだろうよ」
その才能を正道で鍛え上げれば比類なき剣となるに違いない。やはり篠ノ之の血族、ということなのだろうか。
「ふむ......音速越えるのに何年かかるかな」
「えっ」
なに言ってんだコイツ、みたいな顔してるけどさ、箒ちゃん。君の親父さんの剣って音速越えてるから。
清く正しく剣術を学べば病みかけのモッピーもまともになるんちゃう?という表面上まともっぽさあるオリ主。
なお第一世代のISくらいなら頑張れば倒せる。千冬ちゃん生身で殴り合えるしこのくらい普通だよね!