全ての人間が持つ当然の権利。
しかし、遠い場所の人間同士で行われた醜い争いが、一人の少年の人生を歪ませる。
初投稿ですので、至らぬ部分が沢山あると思いますが、見て頂けると幸いです。
また、亀更新ですので、お気を付けください。
ジリジリと真夏の日差しが照り付ける中、公園の中でサッカーをしていた少年達。
「まこと!しゅーとだ!」
「いっけぇぇぇ!」
銀髪の少年のパスを受けて、茶髪の少年が蹴ったボールがゴールネットに吸い込まれた。
「やった!ぎゃくてんだ!」
「ありがとう。つかさくんのおかげだよ」
大量の汗を流しながらも、努力して手に入れた1点に歓喜の表情を浮かべる。
相手のチームと一進一退の攻防を繰り広げていたが、メンバーの一人である少女が転んで怪我をして、今日の試合は中止になった。
「どんくさいよな。さくやは」
「うっさい!」
「いたい!」
意気消沈しながら帰路についていた3人。
司と呼ばれた少年がオカッパ頭の少女に愚痴を零す。
その言葉を聞いて、佐久夜という名前の彼女は、膨れっ面になり彼の頭を勢い良く叩いた。
「さくやちゃんはだいじょうぶ?」
「まぁね。アタシとしたことがどじっちゃった」
普段通りの遣り取りに苦笑しながら、怪我した箇所について尋ねる。
絆創膏を貼った場所を触りながら、元気良く答えていた少女。
「それじゃあ…またあしたな~」
「ねっちゅうしょうにきをつけなさいよ」
「うん…またね」
三叉路に出てから、司と佐久夜の2人と別れた真。
夏特有の蒸し暑さの影響で額に大量の汗が滲む。
そうして、自宅の近場に位置する住宅街に差し掛かった所で…
「あれ?なんだろう?」
電柱の隅に赤い宝石の様な物体を発見する。
「なかになにかあるのかな?」
宝石を手に取って注意深く見てみると、中に何かが入っている事に気付く。
しかし、中の物体が小さすぎる為、ソレが何なのか分からない真。
「おとしものだったら、おまわりさんにとどけないと」
近場の交番に落し物を届ける為に、宝石をポケットに入れて歩き出す。
目的地に向けて歩いている途中、意識が朦朧とし始めていた為、近くに設置してあるベンチに座る。
鞄からペットボトルを取り出そうとするが…
「(あれ?からだがうごかない…それに…ねむ…い…)」
体が自分の意思に反して、全く動かない事に加え、異常な程の眠気に襲われる。
5歳の少年がこの状況に耐え切れる筈も無く、そのまま意識を手放したのだった。
「軽い熱中症ですね。水分補給をこまめに行い、日陰で意識を失った事が幸いしました」
「ありがとうございます…」
海鳴市にある大学病院の診察室で、眼鏡を掛けた初老の医者から説明を受けた後、息子が眠っている病室に向かう。
ベッドの上で静かな寝息を立てる彼の頭を優しく撫でていた高町桃子。
「真…」
母である彼女と長男の恭也と長女の美由紀は、ケーキ屋を開店する準備に勤しんでおり、次女のなのはの面倒は次男の真が見ている。
その為、普段から年相応に遊ぶ機会に恵まれず、友人と呼べる人間も少なかった。
夏休みである今日は、息子の親友である司と佐久夜がサッカーに誘い、桃子はなのはを連れて買い物に出掛けていた。
夫の士郎は仕事の都合で海外に赴いており、近い内に帰ってくるとの連絡を受けていた。
「ごめんね」
幼い息子と娘に構ってやれない。
しかし、今の彼女は謝る事しか出来ない。
自らの力不足を実感しながら、彼の頭を撫で続けていた。
「ここは…どこ?」
ベンチで意識を失った筈なのに、燃え盛る市街地にいた高町真。
人々の叫び声が木霊して、人の死体が道路に転がっていた。
今まで『死』とは無縁の生活をしていた少年には衝撃が強過ぎた。
「たすけて…こわいよ…だれか…」
悪夢としか言えない光景を直視して、膝から地面に崩れ落ちて、大粒の涙を流して助けを求める真。
「こっちだ!奴を発見したぞ!」
(ひとの…こえ…)
突然、男性の声が耳に入り、溢れる涙を拭って立ち上がり、ゆっくりと声がした方向に進む。
「いた…」
漸く人間を発見した真はその人物に近付こうとしたが、気付かれていないのかその場から立ち去ってしまう。
「まって!」
今の状況に耐えられないからこそ、やっとの思いで見つけた男性を必死に追い掛け、途中で何度か転んで膝を擦り剥く。
痛みと恐怖で涙が止まらないが、それより孤独の方が恐ろしかった。
半ばパニックになりつつも動き続け、大人の女性を発見して心の底から安堵する。
その大人に助けを求めようと近付いた時、彼女の視線の先を見た瞬間…
「…ひっ!!?」
あまりの恐怖に顔面は蒼白になり尻餅をついてしまう。
『ソレ』は怪物だった。
6階建てのマンションに匹敵する大きさ。
皮膚の色は黒く大量の刃物が突き刺さっている。
巨大で鋭利な爪は血に塗れており、地面に向けて滴り落ちていた。
背中に生えた翼は傷だらけで一部が切り落とされているかの様だった。
胸部には琥珀色の球体が埋まり禍々しい光を放っていた。
顔には5つの赤い瞳がついており、それが忙しなく動き回り、鋭い牙からはギチギチという音が鳴っている。
その足元には血塗れの死体が大量に転がっていた。
中には自分と同年代位の少女の亡骸があり、生気を宿していない瞳を直視してしまう。
「う…」
あまりにも凄惨な状況にその場から一歩も動けず、込み上げてくる吐き気に限界を迎えてその場で吐いてしまう。
「ウゥゥ…!」
「この悪魔め!!よくも仲間を殺してくれたな!!やれ!!」
巨大な化け物を取り囲んで、男性の言葉と同じタイミングで猛烈な攻撃を加える人々。
杖から放たれた様々な色の閃光が直撃してもその動きは衰えず、武器を肉体に突き刺しても苦しむ様子も無い。
怪物の反撃により大人達は次々と絶命し、血液が周囲に飛び散り鉄臭い匂いが充満していく。
その光景を呆然と眺めていた真だったが…
「ウォォォォ!!!」
「あ…あたまが…いたい…いたいよ…!」
その雄叫びと同時に頭が割れそうな痛みに苛まれる。
人生で初めて体験する激痛に胸を抑える。
朦朧とする意識の中、何故か家族と友人の顔が思い浮かぶ。
「ウォォォォォ!!!」
もう一度、醜悪な怪物の咆哮が周囲に響き渡り、少年の意識は深い闇の中へ沈んでいった。
「真。気が付いたのね」
高町桃子が病院に到着して2時間後、ベッドで眠り続けていた少年が目を覚ました。
息子の意識が回復して安堵した彼女は、頭を撫でながら優しく話し掛ける。
「軽い熱中症ですって。恭也達が心配してたから、早く安心させてあげないとね」
素っ頓狂な面持ちの真を見て、苦笑いしながら事情を告げる。
しかし、母親から何が起きたか聞いても、少年の顔から動揺が消える気配が無い。
ぼくは…
この…ひとは…
だれ…なんだろう?