三日後、司・エメリッヒと紅神佐久夜を自宅に呼び、息子の記憶喪失を明かした高町桃子。
その傍らには、怯えている高町真の姿が見られた。
我ながら残酷な結論を選んだと再認識している彼女。
真の親友にいつまでも隠し通せる道理は無い。
記憶があると嘘をつき、そのまま引き摺るよりは、真実を告げた方が後の負担は少ない。
現在、少年の記憶喪失を知っているのは、桃子と恭也と美由紀のみであった。
高町なのはにも近い内に告げるが、今は彼等に話す事が先決であった。
真を友達として支えてくれるのだろうか?
それとも見捨てられるのだろうか?
桃子の胸中に渦巻いていた不安。
2人がどちらを選んでも責める事など出来ない。
頭に疑問符を浮かべながら話を聞き終えた司・エメリッヒと紅神佐久夜。
そして、持って来る物があると告げて、自宅に戻って行った2人。
「大丈夫…大丈夫だから」
俯いて怯えていた少年。
息子の体を抱き締めて背中を擦って言い聞かせていた母。
「きょうやおにいちゃん?おねえちゃん?」
その頃、買い物に出掛けていた高町恭也と高町美由紀と高町なのは。
兄と姉の様子がおかしい事に気付いて尋ねていた妹。
不安で堪らない。
会話の内容を聞かれない為の行動であるが、気になって仕方が無いのが本音だった。
1時間が経過して、息を切らした司・エメリッヒと紅神佐久夜が戻って来た。
少年は『青汁』と書いてある箱を持っていた。
少女は五円玉に糸を垂らした物を高町真に見せた。
「これをよくみておきなさいよ」
「?」
彼女の言葉に従って、糸に繋がれた五円玉を凝視する。
唐突に手に持っていた糸を振り回した佐久夜。
目で捉えられそうもない五円玉を必死に視界に収めようとした真。
「おもいだしたでしょ?」
「…ごめんなさい」
(使い方を間違えてるけど…)
自慢気に聞いてくる彼女に対して申し訳無さそうに謝る少年。
使い方を間違えているが、その事を指摘しなかった桃子。
「じゃあこれをのむぞ!」
「みどりいろだけど…」
「えぇ~」
項垂れる佐久夜に代わって、青汁と書いてある箱を開ける司。
濃い緑色の粉末を見て、顔を引きつらせていた2人。
青汁を作る為に部屋を出て行った少年と桃子。
「かんぱ~い!」
「か、かんぱい…」
「うぅ…」
グラス一杯の青汁を突き合せて、覚悟を決めて喉に一気に流し込んだ。
「にがい…」
「げほっ!」
「おいしいだろ?」
渋い味に舌を出して悶え苦しんでいた真。
咳き込んで涙目になっていた佐久夜。
そんな少年と少女とは異なり、涼しい顔で飲み干していた司と桃子。
「まずいわよ!」
「いたたた!はなふぇ!」
(…たのしい)
その言葉を聞いて、額に青筋を浮かべて少年の頬を抓った少女。
記憶を失い初めて見る光景なのに、自分でも意識しない内に自然と頬が緩んでいた。
(本当に…ありがとう)
息子が笑った。
数日前は普通に見られた光景。
幼い彼等が真の記憶喪失を、正しく理解しているか否かは問題ではない。
ただ、受け入れてくれた事が嬉しかった。
「ここは?」
「わたしのいえだよ」
「きおくがもどるように、おいのりするんだってさ」
紅神佐久夜と司・エメリッヒが持って来た物に効果は無かった。
その為、彼女の実家である神社に向かう事にした面々。
参拝客の姿は見られなかったが、綺麗に掃除してある境内に、立派なご神木が立っており、軽く圧倒されていた高町真。
「おさいせんをいれるわよ」
「うん」
「よし」
賽銭箱の前に立って、財布から小銭を取り出す。
10円玉を投げ入れるが、上部の桟に当たって弾かれてしまい地面に落ちる。
「う…」
「よくあるよくある」
「つかさもおとしてるでしょ」
情けない姿を見せて落ち込む真を元気付ける司。
慰めていた彼も小銭が弾かれており、その事を指摘していた佐久夜。
「さくやなんていれてすらないだろ」
「わたしはみこだからいいの」
賽銭箱のお金を入れなかった少女を非難する少年。
彼の言葉に対して、この神社の人間である自分は、入れる必要は無いと断言する。
「それでいいの?」
「だめだろ」
「うるさい」
「ほっぺをつねるなよ!いたいっての!」
「のびちゃうよ‥」
どうしても納得出来ずに食い下がらかった2人。
そんな彼等の頬を引っ張って、無理やり黙らせた佐久夜。
一悶着あったが、賽銭箱にお金を入れて、目を閉じて願い事を心の中で唱える。
用事を終えた少年少女達は、近場の公園に移動して、ベンチに座って話し込んでいた。
「つかさのぱぱって、かめらまんなのよ」
「なんだかかっこういいね」
「そうか?しゃしんをもってるからいっしょにみようぜ」
カメラマンという響きに率直な感想を述べた真。
父親の職業に対する好意的な意見を聞いて、嬉しそうな顔でポケットから写真を取り出す。
「うわぁ…すごいきれい」
差し出された写真を食い入る様に見つめた真。
「わすれてた。あたらしいしゃしんをもらったんだ」
「どんなしゃしん?」
彼等が写真を見ていた最中、忘れていた事柄を思い出した司。
新しい写真という言葉に興味を抱いた少女が尋ねる。
「これだよ」
「…たまご?」
「どういうこと?」
そして、彼が真と佐久夜に見せた写真は、地面に突き刺さった巨大な卵の様な物体だった。
「このまえ、ちべっとでみつかったもので、30めーとるのおおきさらしいんだ」
「うそでしょ!?」
何が何だか分からず困惑する2人に詳しい説明をする少年。
冗談染みたサイズを聞いて、驚きを隠せる筈もない。
「ほら。もういちまいあるぞ」
「…つかさのぱぱじゃない!」
卵の周囲に複数人の姿がある事から、その大きさに嘘は無いのだろう。
司が見せたもう一枚の写真には、彼の父親がが卵と一緒に写っており、激しく動揺していた佐久夜。
(あれ?どこかでみたきがするけど…きのせいだよね)
少年と少女とは異なり、謎の卵を過去に見た気がした真。
しかし、チベットで発見された物を、記憶を失った自分が知っている道理は無い。
降って湧いた疑問を無視して、今は友達と一緒にいる事を選択したのだった。
その頃、多様な機材が並んでいる部屋で、白衣の研究員達が慌ただしく動いていた。
「進展はあったか?」
「いえ。やはり何も分かりません」
巨大な卵が映るモニターを一目見て、顎鬚を蓄えた男性が、眼鏡を掛けた青年に尋ねる。
その返答が予想出来ていたのか、男性も顔に変化は見られない。
「フム。アレが怪獣の卵だったら夢がある。そうは思わんかね?」
「まるで怪獣映画に出て来る物ですからね。親がいて襲って来たら洒落になりませんよ」
青年の隣で忙しなくキーボードを叩いていた青髪の女性に話し掛ける。
冗談交じりの言葉に対して、苦笑いしながら答える彼女。
まるで、怪獣映画に出て来る様な物体で、現実離れしている事は誰の目にも明らかだった。
もし、映画のセオリーに従うならば、卵を産んだ親が出現して、調査を行う人間に容赦無く襲い掛かるのだろう。
和やかな雰囲気を醸し出しながら、謎の物体の解析作業に没頭する研究員達だった。
日も暮れた時間に、謎の卵の正面に佇んでいた2人の女性。
長髪の女性は黙々と機材を操作して、短髪の女性は謎の物体をマジマジと眺めていた。
「該当する生物の卵は存在しない。魔力も無いわね」
「ねぇアリア。これって生物なのかな?機械なのかな?」
「私も知らないわよ。父様の故郷は管理外世界なのに、こんな物が見つかるなんて…」
「何だか気持ち悪いよね」
碌な情報も得られずに苛立ちを顕にしながら呟いていた。
巨大な卵を小突いて反応を確かめるが、鈍い音が聞こえるだけだった。
物体の色は純白でありながら、異様な気味の悪さを感じる2人。
シュウフク リツ 15 パーセント
マリョク ハンノウ アリ
キワメテ ヒクイ スウチ ヲ ケンシュツ
キョウイ ニハ ナリエナイ
ハイジョ ノ ヒツヨウ ハ ナシ