初めてと言ってもいいでしょう。私が流行に乗り、その時代の作品の同人を書くのは。前回も前々回も時期外れだったのですが、今回は違います。
もうアニメも始まり、原作も少し前に出た、灰と幻想のグリムガルです!
アニメ見て、続きが気になったんで小説読んだら、そのまた続きが気になりました。が、流石に最新刊の後日譚を書ける自信がなく、だったらと思い、あまり語られていない数日間のオークの街での偵察の話を書いてみました。
あ、毎度毎度申し訳ありませんが、ネタバレがあるかもしれません。いや、ネタバレの塊です。ですので、そういうのをお断りの方は遠慮をお勧めします。まぁ、個人的には読んでもらいたいですが。
それと、遅くなってすいません。完全にサボってました。まぁ、趣味でやってるのでサボるも何もないと思いますが、きっと、たぶん、誰かが待っててくれたんだろうと思うので、誤らせてもらいます。すいません。
では、楽しんでください!

そういえばPixivに小説を載せて、もう直ぐ一年になります。
今までお世話になりました。(やめませんよ)
ありがとうございます。

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この作品は2016年2月12日に執筆した二次創作です。期待はしないでください。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


まるで、あの時の君のようだ

黄昏世界(ダスクレルム)からの出口を探し、ハルヒロ達とノノ&ララは夜の世界(ナイトレルム)、じゃなくてガルングガルに潜り込んだ。

 

 といっても、これは今からすれば昔の話。でもそこまで昔というわけじゃなく、そこそこ昔、数か月前だ。精密にはウンジョー氏にヘルベシトの町とオークの巣を教えてもらった数日後の話。

 一度イド村に帰り、もう一度出直す準備をし、今ちょうどその道のりの途中。

 ロゴクやニィヴルなどの生き物とも出くわさずに順調に進んでいた。まぁ、順調は順調なんだけど、やはり気になってしまう。というより、気にしてしまう。

 クザクから話を聞いたのは結構前、まだ亡者の都で金を儲けていたころの話。知らぬ間に告白して、知らぬ間に砕けたらしい。

 

 ハルヒロは溜息をつくそうになり、口を押えてぐっとこらえた。リーダーが溜息なんか吐いてどうするよ。皆に心配されるだけなのに。……やはり、合わないんだよ、リーダーなんて。

 未だに自分がリーダーに相応しいのか、これから仲間を率いていけるのか、皆生きて帰れるのかという疑問を抱いていた。答えなど知ってる。相応しくない、率いる自信がない、生きて帰れる保証は出来ない。でも、これも知っている。自分がやらなきゃダメなんだってことを。マナトがいない今、皆が頼れるのはハルヒロしかいないってことを。

 まぁ、流石に皆もハルヒロはリーダー向きではないし、それに全て任せても構わないとは思っていない。でも、信じてくれる。だから、ハルヒロはリーダーになったんだ。

 

 相変わらずの温泉に皆を待機させ、ハルヒロはオークの街に偵察しに行った。

 隠形で足音を立てないまま移動し、徐々に街の奥深くまで侵入していく。今日も前回と同じでオーク達の配置は同じだ。出来れば配置を把握している間にここを突破してこのガルングガルを抜け出したいが、急がば回れ、焦ってはいけない。慎重に精密に情報収集し、どんなイレギュラーな出来事が起きても抜け切れるようにしないといけない。

 約束したのだから。

 

 ソウマさんと、今生きてグリムガルで待ってる人達と、生きて帰るって約束したから。

 誰も死なせない、誰も死なない。その内にはもちろんハルヒロ自身も含まれてる。でも、ハルヒロはこうも考えてる。

 一人が犠牲になって仲間が助かるのなら、ハルヒロは自分の命など軽々と捨てられる。六人全員が死んで全滅するより、一人死んで五人生きた方がいいでしょ?

 でも、これもダメなんだ。ハルヒロ達は知ってる。マナトを失くした後のあの虚無感を、あの無気力さを。自分達が一人じゃどれだけ無意味で無価値で無力だったのかを。まぁでも、流石にハルヒロが死んでもマナトくらいの喪失感はないはずだ。だって、マナトは何でもできる、ハルヒロ達のリーダーだったのだから。

 だから、死んじゃいけない。誰も。自分さえも、誰一人として死ぬことなくグリムガルに帰るんだ。

 今日の偵察は何事もなくスムーズに終わりを告げた。見つかることなく内部の情報を収集し、ハルヒロは皆のいる温泉へ戻っていく。

 

 

「あぁ、温泉気持ちいなぁ」

 

 温泉に浸かった瞬間、力が足元から抜け全身を温もりが覆った。このまま寝てしまいたいと思ったハルヒロは首を横に振り気を確かに持つ。

 温泉で寝て死んだりでもしたら、恥ずかしくて死んでも死ねねぇよな。

 

「お疲れさまっす、ハルヒロ」

「おめぇ、何勝手に温泉に浸かってんだよ。このランタ様が先に入ってから来るのが礼儀ってもんだろ」

 

 もう疲れてるんで突っ込みもしたくないんだランタ、ほっといてくれ。内心溜息を吐き体を休ませる。ランタがなんの前触れもなく湯に飛び込み、案の定水しぶきが四方に飛び散った。当然それはハルヒロとクザクの方にも飛び散る。

 

「っは、俺様の華麗なる飛び込みを見たかパルピロ、クザッキーッ!礼儀知らずには罰をってな」

「ランタ、もう少し行儀よく入れないのか?」と、思わず絞めていたはずの口が開いてしまった。

 

 クザクは「やれやれ」と言いたいような顔でハルヒロを見ていた。知ってるよクザク、お前に言われなくても。もう、いやだ。このクソ(ゴミ)を強襲(アサルト)で殺してやろうか?あぁ、一発でもいいから殴りたい。ダガーで。

 

「行儀よく?おいおいパルピロ、俺様の何処が行儀悪いんだ?俺様の行動は全てのマナーの元になってるっつぅの。食事のマナーも寝る時のマナーも○○クスのマナーだって俺様が元なんだ。そんな俺様の行動は全て善だ。善そのものだ」

「いや流石に最後のは無いんじゃないっすか?童貞だし」

 

 おいおいクザク、お前も突っ込んでどうするよ。かわいそうに、絶対長引くぞこの会話。

クザクを見てみると、何と言うか見ずとも想像できていたというか、顔が歪んでいた。苦笑いともいうかもしれないが、これはそれの比じゃない。歪んでいると言った方が逆に解りやすいだろう。

 

「お、お、お前も童貞だろっ!お、お前には解んのかよ、セッ○○のマナー!」

「……いや、解らないっすけど。ランタクンと同じで俺、童貞ですので」

「は、はぁっ!お、俺がいつ童貞って言ったんだよ!」

「いやさっき、「お前も」って言ってたよな」

「お前には聞いてねぇんだよ、パァルゥピィロォ」

 

 何でおれに対してそんなに厳しいんだよ。いやま、おれだけじゃないんだけどね。基本的に皆に同じだし。生(ゴミ)みたいな態度は。

 

 

 

 省略するとそれから三十分間、ランタは何故自分が童貞で今までそれを貫いてきたのかを説明していた。当然ハルヒロもクザクも聞く耳を持たず、ただ温泉を堪能していただけなのだが。説明に飽きたのか、話し終えた直後に風呂場を退場し、その流れでクザクも出ていった。

 ハルヒロはまだ疲れがたまっていて、もう少しここに居たいと言い残し、先にクザクを行かせた。

 

 

 何故か一人になると落ち着く。誰もいないから弱音も吐けるし、独り言もたっぷり言い尽くせる。まるでロビンソンの気持ち……って、『ろびんそん』って何だ?まぁいいや。別にロクでもないことでしょう。

 

「あぁ、疲れた。本当に辛いっていうか。神経尖らせて辺り見るだけでも頭が痛いのに、それを時間単位で見まわしてるんだ。そりゃ頭痛が酷くもなるよ。あぁ、誰か変わってくれねぇかな」

 

 なんて、言ったところで誰かが変わってくれるわけでもない、変わるわけでもないけど。あいや、メリィとかなら自ら志願しそうだな。まぁ、その時は止めるけど。

 

 

 

 ガルングガルに来て数か月。徐々にグリムガルに戻りたいという気持ちは薄れていき、逆にこのガルングガルで生きていてもいいのではないかという思いが強くなっていく。そりゃ最初は暗くて何も見えなかったけど、何か月か経てばそりゃ慣れるって。それに金欠問題だって解決できたし、逆に儲かってる方だし。特に戻る必要がないんだ。

 だって、戻るにしたって、グリムガルは別に故郷じゃない。だったらそんな場所を、帰る場所と呼べるのだろうか?

 こんなことを思うたび、思い出す。あの約束が。誰かが、ハルヒロ達を待っている。あの、グリムガルで。ハルヒロ達が出会い、勇気を出し、涙を流し、死を迎え、新たな仲間を引き入れ、また旅を続けた場所で、皆が待っている。だったら、別に故郷じゃなくてもよくね。それだけでも、充分帰る理由にはなるよな。

 

 

「はぁ、おれももう少し肯定的な考えが出来ればな。だったらもっと皆をいい方向に持っていけるは――っ!」

 

 体が脳が反応する前に動いた。いや、脳は反応したけど、それに対して自分が反応できてないだけだけど。

 温泉の入り口が開いた音がした。仲間には流石に今の事は聴こえてたら困るからな。何だよクザク、忘れ物でもしたのか?それともランタの所為でゆっくり入れなかったからもう一度入るのか?まぁ、別にそれでもおかしくはないか。だって、あのランタだし。しょうがないよ。

 

 

 温泉の真ん中には大きな岩があって、入り口に背を向けているハルヒロはクザクからは見えなく、それはハルヒロも同然で、ハルヒロの方からもクザクは見えない状態だ。

 温泉に体が浸かる音がする。ゆっくり岩まで歩いて背中を預けたようだ。

 

「どうしたんだよクザク。また入ってきて」

 

 ゆっくり立ち上がり、クザクの方へ歩いていく。

 岩を半周してその場に座り込みクザクの方を見た。

 でも、そこにはクザクはいなかった。それじゃ、誰?ここに居るのは誰ですか?

 

 

「ハ、ハル?!」

 

 あ、誰か解ってしまった。男性には出せないハイピッチな声。これは女性の者だ。そのうち、ハルヒロのパーティには女性が三名しかいない。ユメとシホルとメリイ。ユメはハルヒロの事を「ハルくん」って呼ぶし、シホルは「ハルヒロくん」だし、だがメリイは「ハル」だし……

 あ、はい。解りました。これは、まずい、ですねっ!

 

「メ、メリイ?!何でここにいるの?!女子はもう風呂上がったって!」

「……い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 案の定、というのだろうか。左頬に重い一撃が炸裂する。平手なのか、グーなのかは正直判断が付かないくらいの打撃。そりゃそうですよね。毎日、錫杖もってシホル守ってるですもんね。そりゃ千回、万回振っていれば女の子でも剛腕は作れるでしょ。たぶん。いやでも、華麗に飛んでるな。あはは、飛んでる、飛んでるぞ!まるで人が――

 

「ゴミのようd――っ!」

 

ランタが飛び込んで来た時以上に、水しぶきが四方八方に散った。いや、水しぶきって言ったらなんか失礼だ。そうだな。言うならばタダの転輪破斬(サマーソルトボム)のようだった。失礼メリイさん。貴方を侮っていたのかもしれません。

 

「ハ、ハル?!大丈夫?って、こっち来ないで!」

「いや、明らかにメリイがこっちに来て、おれを避けてるだけでしょ」

 

 両者とも体を隠すものなど何一つもない。だって、異性が来るだなんて予想もしなかったさ。それも寄りによってメリイが来るなど、ハルヒロには予想とかの領域じゃないだろう。

 

「メリイこそ、何でここにいるの?!もう女子は風呂上がったって、ユメから聞いたけど」

「わ、私は後から入ろうとしたんだ。だ、だから、男子が出るのを見計らって、入ろうと、思ったのに、で、でも、ハ、ハルが、いて、ん?何でハルが居るの?あれ、私、夢?」

 

 あぁ、これは大変だ。ビックリしすぎて頭が回っていない。ちょっと落ち着かせないと。

 

「メリイ、ちょっと落ち着いて!な、深呼吸、深呼吸だ。少しは落ち着いて。そして出来れば座ってっ!」

「――っ?!」

 

 一瞬の如く、メリイはその場に座り込み緊張を解そうと深呼吸をした。

 

「ハーハーハーハー」

 

 どこからどう見ても荒呼吸にしか見えないそれを、メリイは深呼吸だと思ってるらしい。どんだけ緊張してるんだよ。

 

 

 メリイってこんなだったっけ?結構前も似たような状況で裸を見そうになったけど、その時はまぁ治療が先だったから焦っていたのだろうけど、ここまで変わるもんなんだ。

 

「メリイ、少し落ちつこう。おれも落ち着く。ほら、深呼吸。すーはー、すーはー。どう?」

 

 ハルヒロに続いてメリイも深呼吸し、少しは落ち着きを取り戻したみたいだ。

 

「大丈夫、メリイ」

「……ごめんなさい、取り乱して。ちょっと緊張してたみたい」

 

 チョッとどころの騒ぎじゃなかったような。それに、なんか敬語になってるし。

 

「ま、まぁ、あれだ。うん、おれ、先に出るよ。うん、そうした方がいい」

 

 そういって立ち上がろうと右手を底について立ち上がろうとする。だが、体はいう事を聞かず、ハルヒロの体は倒れ込んだ。起き上がり見てみると、右腕が曲がっていた。曲がっちゃいけない方向に曲がっていた。きっとさっきの一撃だろう。感心してしまう程、すげぇよ。

 

 

「ハ、ハル!腕がっ!ちょっと待ってて!今、治療するから」

 

 またその場でメリイが立ち上がり、裸体が露になった。でも、メリイはそんなこと気にする事無くハルヒロに近づく。メリイに見えてるのは、怪我しているハルヒロの腕だけだ。

 

「光よ、ルミアリスの加護のもとに!光の軌跡(サクラメント)!」

 

 仕組みはハルヒロには解らないが、徐々に曲がった腕は元の形を取り戻していき、やがて今まで通りの腕へと変わった。驚いたは驚いたのだが、そんなことより、メリイがハルヒロの真横まで来ていることに、ハルヒロは驚いた。ビックリもするよ。こんな美人が目の前に居るんだから。濡れた綺麗な髪はメリイの体を流れ、暗いのにも関わらずハッキリと見えるその細い、でもしっかりした綺麗な腕、暗い夜に輝きを齎す蒼い瞳。

 

「綺麗だ」

「……え?」

「――あ」

 

 

 し、しまった。口に出てしまった。

 

「あ、そ、そうだね。空綺麗だね、ハル。ここから見る空もいいね!」

 

 これは、セーフなのだろうか?いや、うん、きっとセーフだきっと勘違いしてくれた。うん、絶対そうに決まってる!

 何か、恥ずかしい。どんなに自分に言い聞かせても、明らかにメリイ、動揺してるじゃん。気づいてるじゃん。そのうえで自分を騙してるじゃん。

 

「そ、そだね、そうそう、空!空、綺麗だね!」

 

 流してまった。あぁ、死にたい。自分に強襲(アサルト)仕掛けて死にたい。

 

 腕の治療が終わり、ハルヒロとメリイはまた離れてしまう。体を水面下に隠して移動するメリイは恥ずかしさを隠しきれず顔を真っ赤に染めていた。お互い視線を合わせないように、視線を下に向けて、黙った。

 不味い、タイミング逃した。と、ハルヒロは咄嗟に思い知らされる。メリイが入り口の方に居座っているからだ。お願いしたらそりゃ退いてくれるだろうけど、何だろうこの雰囲気。何も口に出せない。

 沈黙状態が続いてハルヒロとメリイはその場で十五分を共にした。

 

「あ、あの」

 

 ハルヒロが先に声を上げる。流石に長時間温泉に浸かってるため限界が来たのだ。それと、色々不味い雰囲気から逃れなければならないという一種の使命感もあった。

 

「あ、うん」

「おれ、先に出るから。ごめんな」

 

 出来るだけメリイを避けてハルヒロはやっとの思いで風呂場から退席した。いや、やっとの思いなのだろうか。結構悔しいんじゃないか?たぶん、そうかもしれない。

 だって、その後布団に入って睡眠を取ろうとしても、一睡たりとも出来なかったんだから。正直辛い。

 

 翌日、ハルヒロはまた偵察に行き、その間他の仲間は周りの敵から金を巻き上げる―傍から聞くと悪徳集団がやりそうな行為だが―ことにした。

 もう慣れてしまったこの偵察も正直退屈だ。

 そう思ってしまう自分に言い聞かせる。調子に乗るな、お前はまだ低レベルの義勇兵だ。そんなお前が気を抜けば死ぬぞ。休むな、気を巡らせろ。

 よし、今日も偵察頑張りますか。

 

 

 今日の所、昨日とそれ以前とは余り相違点が見当たらなかった。見張りはいつものオーク達で、その周りを数人のオークが行き来している。少しフォーメイションが安定してきたかと、思った最中、事は起こった。

 どこかでオークの鳴き声が聞こえる。耳を澄まして確認してみたが、どうやら入り口付近らしい。まぁ、遊んでるのだろう。だったら何で、鋼が交わる音が聞こえるんだろう。

 根拠なんて無かった。でも、体が勝手に動いている。そして思うんだ。何かがあると。ハルヒロは足音を立てることなく現在の場所から離脱し、入口へと向かった。

 悪い予感しかしない。絶対、何かが起きてる。

 その予感は当たった。オーク三体が一人と戦っていた。

 

 

「メ、メリイッ!」

「ハル!」

 

 何で、メリイがここにいるんだよ。ランタ達と一緒じゃなかったのかよ。何で神官が仲間を置いてここに来てるんだよ!

 メリイを助けたいという気持ちよりも、何故かメリイに対する愚痴が先に出てきてしまっていた。

 でも、今はそんな場合じゃない。愚痴は後でたっぷり言える。でも、今助けなければ、その愚痴さえも言えないじゃないか!

 線は見えない。

 だけど、刺す場所は知っている。三体中の一匹に向かって走り出す。

 

蜘蛛殺し(スパイダー)ッ!」

 

 背中にしがみ付き、喉にナイフを立てて奥まで抉る。曲げて傾けてかき混ぜて。一度離れて、背中に[[rb:背面打突 > バックスタブ]]を喰らわせた。刺さったナイフをそのまま上に上げ通り過ぎる内臓を切断する。

 オークは血を流し、息の根を断たれた。

 その死様を真横で眺めていた他のオーク達も直ぐにハルヒロに駆けつけてきた。

 盾役のクザクもサポートのシホルも誰もいない。そんな最中で、背中だけを見つめて蠅打(スワット)していたら、メリイが死んでしまう。

 約束したじゃないか、必ず生きて帰るって。自分に誓ったじゃないか。誰一人死なずにグリムガルに帰るって。どうなるか考えたじゃないか。リーダーのハルヒロが死んだら、マナトを失った時のように皆が離れて空中分解しかねないって。

 だから、死ぬわけには行かない。ハルヒロも、そしてメリイも。

 

 

強襲(アサルト)ッ!」

 

 両手に武器を持つ。自分が怪我しようと血を流そうと、もう知らない。死ななければいい。誰一人、死ぬことなければそれでいいんだ。

 何度も殴った。何度も切り刻んだ。何度も何度も何度も何度も。血が出るまで、悲鳴を止めるまで、息の根を断つまで。

 倒れたオークに馬乗りし、それでも叩き刺す。

 決着は数秒でついた。もう二匹目のオークは原型を留めていない。生前何だったのかも判明出来ないくらいだ。

 残り、もう一匹。

 その一匹はメリイに襲い掛かっていた。スタッフでどうにかオークの攻撃に対抗しているとしても、やはり無理がある。自分の死なんて怖くない。今は、メリイを助けるだけに、集中しろ。

 知らなかった。いつの間にか体は動いていた。ナイフを片手に、オークの横腹向かって差し込む。勢いでオークも地面に倒れる。その間際、ハルヒロはオークの持っていた剣の一振りを喰らい、別の方向へ飛ばされた。

 

 

「ハ、ハル!!」

 

 メリイの声は既に裏返っていた。神官が居ながら、パーティを怪我させて治療も出来ないんだ。緊張する、涙が流れる、怒りが襲う、恐怖が骨に染みる。

 直ぐにハルヒロは立ち上がった。お互い、感じるのは同じなんだ。目の前のオークに恐怖し足を震わせる。でも、立ち上がるしかない。だって、仲間を死なせるわけには行かないんだから。

 オークはもう既に体制を立て直していて、剣を片手にメリイに襲い掛かった。剣を盾だけではなく横、斜めなどの角度から切り刻んでくる。それをメリイは死ぬ気で防いでいた。

 でももう無理だろう。徐々にメリイの動きが乱れ始め、大きな隙が生まれるようになる。そして最後、メリイのスタッフが県に弾かれて、メリイの胴体は空になった。

 死んでしまう、メリイが、死んでしまう。

 いやだいやだいやだいやだ、死なないでくれ、メリイッ!

 立ち上がって走る。遅れるかもしれない、間に合わないかもしれない。でも走るしかないんだ。今は、それしか出来ないんだ!

 もう直ぐオークの剣がメリイの腸に届く。いやだ、走れ。見たくないなら、メリイが死ぬ様を見たくないなら、走れ!

 間に合うとは走ってる途中で分かってきた。でも、問題はナイフを使ってオークを怯ませることが出来ない。だったら、だったら、もう決まってるだろ。ハルヒロは考えることを諦めて、全て自分の体に任せた。

 

 

「ハ、ハル、ハルッ?!」

 

 背中が熱い。こんなに暑かったっけ、今日?

 ハルヒロには、メリイを庇って攻撃を身代わりになるしかなかった。一筋の攻撃を背中で受け止めて、ハルヒロとメリイは倒れた。出血が止まらない。どろどろと赤い液体が流れだしてくる。

 

「ハル!今治療するから待って!光よ、ルミアリスの加護のも――」

「……や、やめろメリイ。治癒するな。今は、何とかアイツを足止めしてくれ。少しの間でいいんだ。だから、速く」

「で、でも、治療しないと!」

「いいから速くっ!」

 

 その瞳に、メリイは決心した。今は我慢だ。ハルヒロの目を見て、単に威張っていることでは無いことはハッキリしているが、それ以上に、瞳はこう語っていた。

 やらなきゃ、死ぬぞ、と。

 メリイは立ち上がる。スタッフを持ち直しオークの攻撃を受け流す。ハルヒロが立ち上がるまで、ハルヒロが準備出来るまで。

 ハルヒロはもうどうでもよかった。生きているだけで、息をしているだけで充分だった。痛みなんてどうでもいい。辛さなんてどうでもいい。今はこいつを殺す事だけに専念しろ。

 ナイフを持ち立ち上がる。息は荒いし、体は今でも倒れそうだ。でも、やらなきゃいけない。殺さなきゃいけない。だから、立ち上がるんだ。メリイを守るため。誰一人死なずにグリムガルに帰るため。

 

 

 線が見える。

 

 

 そう気づいた瞬間、ハルヒロはもう既にオークの喉元にナイフを刺していた。オークが足掻き、暴れる。でもハルヒロはオークが動くたびそのナイフをもっと奥深くまで食い込ませる。速く死ね、速く死ねと呪いながら。

 数秒後、オークは屍となり、肉塊となった。

 

「ハル!光よ、ルミアリスの加護のもとに!光の軌跡(サクラメント)!」

 

倒れたハルヒロに直ぐ治療を開始したメリイはハルヒロに近づいた。

 

「メ、メリイ、何でここに、来たんだ。ランタ達はどうした」

「喋らないで、どんなに光の軌跡(サクラメント)でもこの傷は治るのに時間が――っ」

「答えろ!何でランタ達を置いてきた!メリイ、お前は神官なんだぞ、仲間の命を救う人間なんだ!そんな奴がこんなところに居てどうする!」

「――っ」

「お前は、おれなんかを守る前に、守るべき仲間がいるんだよ、そいつらを先に守らないと。おれなんて、別に死んだって――っ」

 

 

「死ぬなんて言わないで!」

 

 メリイが叫ぶ。心の底から全てを吐き出すかのように。

 ハルヒロからはメリイの顔は見えないけれど、解ってしまう。メリイの、今にでも泣きそうな顔が。もう、誰も死なせたくなと語るようなその顔が。もう、仲間の墓場など見たくないと願うようなその涙が。

 

「死ぬなんて言わないで!もう私は誰も死なせない!誰一人として死ぬのを見たくない!だから、死ぬなんて言わないでよ、ハルッ!」

 

 暖かい温もりを感じた。メリイの腕がハルヒロの背中に回り、ハルヒロを抱きしめている。メリイが流す涙が傷に染み込むにも関わらず、ハルヒロは平然とした顔でいた。

 この涙にはどんな意味が込められているのだろう。リーダーであるハルヒロが死ぬのを嫌がるのだろうか、盗賊であるハルヒロが死ぬのを嫌がるのだろうか、それともハルヒロ本人が死ぬのを嫌がるのだろうか。

 でも、正直そんなのどっちでもいい。誰かに、こんなに思われているだけで。はっきりしないが、好きな人に大切に思われてるだけで、充分なんだ。

 眠たくなってきた。瞼が徐々に閉じようとしている。その力に抗うことも出来ず、ハルヒロは目を閉じた。

 

「メリイ、少し寝てもいいか?眠いんだ」

「……うん、お休み、ハル」

 

 

 ハルヒロはその返事に笑みを浮かべて、安らかに眠りに付いた。

 それから数分後、ハルヒロの傷は全て塞がり、光の奇跡の効果も切れてしまった。メリイはハルヒロを背負って、皆の求め向かった。

 その途中、ハルヒロがメリイの耳元で「ありがとう、メリイ」と言ったことは、未だメリイしか知らない。

 

 

 それから数日、いやまた数か月たったかもしれない。

 ハルヒロ達はオークの街をノノ&ララ達と抜けた。

 だがハルヒロの目の前にはもう仲間はいない。何処にいるのかも、自分の居場所さえも解らない。

 でも確かなのは、すぐ傍に虹が差し込む入り口があること。グリムガルに帰る、入り口があることだけ。

 きっと、ここで待っていれば来るでしょう。それか明日起きて探せばいい。起きられるかなぁ?解らない。

 でも、今はそんなことより寝よう。もう死にそうだ。

 誰か、子守歌でも歌ってくれればいいのに。

 一人は寂しいな。だから嫌だ。

 誰か、いないのか。誰か、いてくれよ。頼むよ。

 誰か……傍に居てくれよ。

 ここにいるだけで、いいから。

 

 

“――目覚めよ。”

 

 聞き覚えのある声。でも聞こえたわけじゃない。きっと幻だ。幻聴なんだ。これは夢だ。

 でも、何でだろう、足音が聞こえる。五人だ。徐々にこちらに近づいている。

 何かを言っている。でも、よく聞こえない。でも確かに、これはメリイの声だ。

 

「ハル!今すぐ治療するから待って!ハル、聞こえる?!大丈夫だから!みんな、いるから!」

 

 メリイがハルヒロを抱きしめた。あぁ、やっぱりメリイだ。この髪の毛も、この声も、この肌も、この瞳も、全部メリイのだ。

 こうされてると、あの時の事を思い出すよ、メリイ。あの時はごめんね。直ぐ謝るから、必ず謝るから。

 今は、寝てもいいかな。

 


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