東方蒼夢録   作:音無雨芸

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紅魔館編
9話 突撃威圧の昼ご飯


 

相変わらず此処(草原)は静かな場所だ。集中するのには最適だと思う。

 

そんなことを何度考えただろうか、自主練習を命じられ早数分、こんなものでいいのかと疑問を抱きつつも、変わらず力を練り上げることを試みる。

 

が、一向にその気配はなく、時間をただただ無駄に垂れ流し、体内には虚無が渦巻く。

 

「…はぁ」

自分の無力さに思わずため息が出てしまう。

いったいこの妖力やら霊力やらは何なのだろうか?いったいどんな感じで宿っているのだろうか?

 

……あ、

思い出した、幽香さんが最初私に無理やり妖力流してきたっけ。

あの時は流れ込んできたものが私の中で危うくはじけ飛びそうで怖かったけれど力が宿っているってああいうことを言うのだろうか…?

 

でも、ほかにも方法がないから試してみる価値はあるかもしれない。

私は今度はあの時感じた力の本流を、自分の中にあるものだと"仮定"してイメージし、再び意識を集中させる。

 

 

 

 

 

 

ピリッ

「ッ!?」

 

 

突如として肌から伝わる緊張感、

今にも押しつぶして来そうな威圧感、

 

今目の前に"敵意"がいる

 

目を見開き、身構える

しかし眼前には"敵意"は見当たらない。

 

辺りを見渡すが、どうしても視覚出来ない。

しかし"敵意"は間違いなく側に居るのだ。

 

「ど、何処に…?」

背中に冷や汗が伝う。

この感覚はあの獣の妖怪に襲われた時以来...いや、それ以上の危機が迫ろうとしている気がした。

 

このままでは一方的にやられてしまう…

今頼れる人(幽香さん)がいないため、いま襲われてしまえば確実にやられる。

どうにか…どうにかしなければ……

 

 

 

 

「………………?」

来ない………?

 

 

しかし相手は、私が未だに視認していないこの好機に乗じて攻撃して来なかった。

それどころか私を威圧する空気も綺麗さっぱり無くなっていた。

 

「……どういう…こと?」

私を狙うのをやめたのだろうか?

それとも気まぐれで私を脅迫していただけなのだろうか?

 

もし後者だとしたら本当に心臓に悪いのでやめてほしい。あの時襲われたのがトラウマになりかけているというのに…

 

暫く気を張って周りを注意して見たが、本当に何もくる気配がなかったので、腰掛けていた岩へ戻ることにした。

 

緊張感からか、どっと疲れた。

本当にやめてほしい。だからと言って襲われもしたく無いのだが、

 

「はぁ〜ぁ……ん?」

岩に腰掛けると、手元に黒い…布?のようなものに触れた。

どうやらそれは隣に伸びていて、その先には金髪の少女が共に岩に腰掛けていたのである。

 

 

 

 

 

「こんにちは、貴女は食べてもいい人類?」

完全に油断しきっていた私の意識はこの言葉の後、しばしの間掻き消えた。

 

 

幽香は、太陽の畑から少しばかり離れた人里を訪れて居た。

いつもは週に一度、花屋に自宅で育てた花の納品をし、食材などの日用品を買い足すだけなのだが、今日はこれから向かう場所への手土産を買うためでもあった。

 

「いらっしゃいま…あ!幽香さん!」

「お邪魔するわね、これ今週の分の」

「いつもありがとうございます!幽香さんの花、とても綺麗で評判いいんですよ!」

「そう、ところでここで美味しいお茶請けを売ってる場所を知らないかしら?」

「あ、それでしたら店を出て左側に進んで、右手側にいいお店がありますよ!あそこはオススメです!」

「ありがとう、じゃあそろそろ行くわね」

「ありがとうございましたー!」

 

人里と言っても、普通に妖怪が出入りしている。ここの人達は上手く妖怪と付き合っているようだ。妖怪も、ここの人達を襲ったら何処からともなく妖怪の賢者が現れ退治されるか、博麗の巫女に退治するかのどちらかなので、そんな馬鹿げた行為はしない。

 

「このお菓子下さい」

 

寺子屋も半分妖怪の人間が教師をしているらしいし、幻想郷中で見ても、この里は相当異質だろう。元はと言えばこの幻想郷は妖怪は人を襲い、人は妖怪を恐れて成り立っている。消費者と生産者の関係に似ている。

 

だが、ここはその概念に囚われて居ない場所である。全く恐れて居ないわけでも無いのだろうが、他の里と比べて警戒しているレベルは低いだろう。

 

(ここなら藍里も馴染めるだろうか)

 

私は奨められたお菓子を買うと、店を出ると再び日傘をさし、里を後にした。

 

 

「……………ふぇぁ!?」

私は目を覚ました。

いつの間に眠ってしまって居たのだろうか?

だが先程まで見て居た悪夢が今でも脳裏に焼き付いて居て本当にトラウマになりそう…

 

というよりなった。今にも泣きそう。

そんなの卑怯だよ、完全に来ないって思ったもん。

 

「はぁ〜夢でよかった…」

「へぇ、どんな夢を見てたの?」

「突然いまにも襲ってきそうな雰囲気を感じたから、周りを見渡しても誰も居なくて、そしたら突然食べてもいい?とか言われ…て…?」

「ふーん、それで?」

 

そもそも私は最初、此処に"1人"出来ていたはずなのに

なぜか私は寝転がったまま、話を聞いてくれる心優しい誰かさんに、先ほどの悪夢を語っていた…

 

 

 

しかしどうだろう、その悪夢本人が顔を覗き込んでいた。どうやらその悪夢に私は膝枕されているようだ。

「うーんと、ここはまだ悪夢の中?それとも死後の世界で貴女は天使?」

「貴女面白いこと言うのね、残念ながら現実で現世よ。後天使じゃなくて妖怪」

 

どうやらさっきのは悪夢ではなく、現実で

私は有ろう事に気絶してしまい、更に気がつくまで様子を見てもらっていたらしい。

 

「いやーさっきは面白かった、やたらと気を張ってるから挑発してるのかと思って、こっちも妖力で牽制したら貴女は威圧感出すのやめちゃって、今度は気配を消して観察したらこっちに気づくなり気絶するなんて」

「う、うぅ…」

 

ぐぅの音も出なかった。

いや誰だって私と同じ境遇で同じ状況下だったら気絶すると思うの、言い訳とかじゃなくて

 

決して言い訳とかじゃなくて。

「すみません…襲われるかと思ったので…」

「まぁ襲おうとしてたんだけどね」

「そ、そんなっ!」

「すっかり襲う気失せちゃったから安心して

 

…あー」

「どうしたんですか?」

「でもやっぱお腹すいてきちゃった」

「さ、サンドイッチあげるので勘弁して下さい!」

「じゃあ頂こうかな」

 

慌てて持ってきたお弁当からサンドイッチを取り出し渡そうとすると、彼女の表情はニヤニヤと笑みを浮かべながらこちらを見ていた。

 

………もしかしてこれは

 

「…言ってみただけとか無いですよね?」

「どうでしょう?」

 

そう言うと彼女はアーンと口を開けてきた

やり切れない気持ちをどうにか抑えて、彼女の口にサンドイッチを入れてあげた。

 

少女食事中…

 

「ふんふん…中々ね」mgmg

「ありがとうございます」

 

どうやらお気に召してくれたようで一安心だ。これで食べられるなんてことはないだろう。多分

 

「そうだ、私は藍里と申します。よかったらお名前聞かせてもらってもよろしいですか?」

「一緒にご飯食べた仲じゃない、そんなかしこまらなくていいよ、私はルーミア。

美味しいご飯ご馳走様」

「わかりました、ルーミア」

「ところで…おかわりない?」

「ありますよ、はいどうぞ」

 

サンドイッチを食べる2人を、太陽は傾きながら、暫し見守っていた。

 

 

湖の向こう、過去に紅霧異変を起こした張本人の住む赤い館、紅魔館に訪れていた。

 

「幽香さんですよね、話は伺っております」

 

門前に立つ中国風の格好をした門番、紅美鈴に出迎えられる。

 

「通らせてもらうわよ」

「はい、こちらへどうぞ」

 

ギィィィィ

と、重々しい音とともに門は開かれた。

中庭へと足を進めると周りには花壇があり、そこには色とりどりの花が綺麗に咲いていた。

 

「花の専門家に見てもらうほどじゃないですけど、私がここのお世話をしています」

 

花を見ていたのに気づいたのか美鈴が頭を掻きながら恥ずかしそうに言った。

 

「そう…よく世話されているわ」

「あ、ありがとうございます!」

 

美鈴は予想外の反応に戸惑ったのか、反応が少し遅れていた。

こんなので門番が務まるのだろうか。

すると、先ほどまでなかったはずの気配が、館の入り口の方にいた。

 

「ようこそおいで下さいました、紅魔館へようこそ。 私は十六夜咲夜です」

 

完璧で瀟洒な人間メイド、十六夜咲夜が深々とお辞儀していた。

 

「お邪魔するわよ。 あ、これ手土産の御茶請け」

「わざわざ悪いわね、さ、こちらへ。大図書館まで案内いたします」

 

咲夜は私からお菓子を受け取ると、白黒や紅白も見習ってもらいたいわね

と言っていたような気もするが、気にしないし興味もなかった。

 

 

館を進んで行くと、廊下の突き当たりに大きな扉が現れた。

 

「こちらが大図書館となっております。

中の利用に関してはパチュリー様に話を通してありますので、どうぞごゆっくり」

 

案内を終えた咲夜は、次の瞬間には目の前から姿を消していた。

決して比喩などではなく、彼女は"時を操る"ことができる為、時を止めて移動したのだろう。

それほど仕事に追われているということなのだろうか。

 

 

いや、そんなことより用事を済ませよう

 

私は向き直り、扉を開ける。

ギィィィィと音を立てて開かれた扉の先には、

見渡す限りの本、本、本。

 

そしてその囲まれた空間の中に彼女はいた。

 

「ようこそ、花の大妖怪さん」

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