東方蒼夢録   作:音無雨芸

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負傷のルーミアと昏睡状態の藍里を連れて幽香さんが向かったのは近くにあった紅魔館。そこで治療してもらう代わりに幽香さんはとある仕事を果たすことに。

今話も皆様に楽しんでいただければ幸いです。


13話 紅魔の新人メイド

「……………う、うぅんぁ……」

目を覚ますと、なんとなく見覚えのある建物の天井が見えた。その天井に暫く目を泳がせていると、気を失う前の記憶が蘇る。

 

「そ、そうだ! 藍里は!?」

周囲を見渡そうとすると、チルノから受けた腹部の傷が痛む。

しかしそんなことはどうでもよかった。

するとすぐに、隣のベットに静かに横たわっている藍里を見つけた。ベットから跳ね起きて駆け寄ろうとするが、身体の痛みが全身に回り、思うように動けない。ふらふらになりながらも藍里の元までたどり着く。

 

息は浅いが、しっかり呼吸をしていた。

ほっ、と息をつくと、藍里の手が布団から出ているのに気がつく。しまってあげようと思い手を伸ばすと、先には別の手が握られていた。

 

その手の主は、ベットに顔を突っ伏してうずくまりながら寝ていた風見幽香だった。

少し驚いたが、私は自分が寝ていたベットからタオルケットを持ち出し、幽香に掛けてあげる。

 

きっと、一晩中看病していて疲れていたのだろう。

 

うっすらある記憶の中、幽香はボロボロの私と、氷塊になってしまった藍里の元へ来た。

その時に、彼女の表情に余裕がなかったのを覚えている。あの大妖怪でもこんな表情をするのか、と。

 

それほど彼女が心配だったのだろう、今はゆっくり寝かせてあげよう。

 

そう思い、私は

 

 

「ごめん、幽香」

 

 

言葉とは相手に自分の意を伝える為のだが、相手に聞こえない、矛盾な言葉を残して私は部屋を出た。

 

外は、私の闇を包み込んで消してしまいそうなくらい、眩しくて、温かかった。

 

 

「………いっつぅ……」

どうやら、レミリアとの話をつけた後、

私は藍里の様子を見に来てそのまま眠ってしまったらしい。身体を起こすと、肩から掛かっていたタオルケットが床に山を作った。誰かがかけてくれたのだろうか。

 

「そうだ藍里は…?」

ふと、昨日の夜中から気がかりだった少女の様子を伺う。自分の手を頭につけ、体温を診てみると、だいぶ体温は戻って来ている様だった。寝息もゆっくりと、でも着実に時を刻んでいた。

 

「ふぅ…………

全く世話がやけるんだから。」

 

どんな毒づきとは裏腹に、私は安堵していた。

 

さて…と

私は身体を持ち上げ、全身を伸ばしほぐしていく。どうせ次の瞬間に訪れる人と厄介ごとに対応するために。

 

コンコン

「入るわよ」

「出来る事なら入ってこないでもらえると嬉しいわ」

正直、あんな事したくないので逃げたい。

 

ガチャ

「何だ、起きてるんじゃない」

「私の言葉は無視か」

「メイドの朝は早いのよ」

「意味わかんないし」

 

いくら毒づいても、この銀髪メイドは流してくる。寧ろ口元がニヤついてるのを私は見逃さないぞ十六夜咲夜。

 

「さぁて、着替えましょうか」

「………別にこのままでもいいのだけれど?動きやすいし慣れてるし」

「貴女がやるのは"メイド"よ? メイドがメイド服着ないでどうするの」

「…………………」はぁ

「逃れようったってそうはいかないわ、貴女に勝てる機会なんて滅多にないもの」

 

 

このメイドこの状況を心底楽しんでやがる。

 

 

「……わかった、わかったわよ…やればいいんでしょう?」

「それでいいのよ、さぁ案内するわ」

そうして私のメイド生活が(不本意にも)幕を開けてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………

瞼が……眩しい………

 

朝になったのかな……

確か………氷の中に………

氷の中でも……朝日って……わかるのかな………

 

透明だし……太陽の……温かい光ぐらい………

 

 

 

 

ん?

"温かい"?

 

ガバッ

「……………………」キョトン

 

こ………こ………

「ココドコ………」

目を開けると、私はデジャブさえ感じるほどに見慣れた状況である、ベットでの目覚めであった。

 

しかし眼に映る景色がいつものと違う。

何だかホテルの客室みたいな部屋だ。

どう考えても幽香さんの家ではないことは明らかだ。

 

……何だか幻想郷に来てから気を失っては別の情景になってるなんてことが多々あるせいで目覚めの頭にあまりよろしくない。状況がつかめない。てかどうして助かった私。

 

わからないことが多すぎて、稼働が完璧ではない脳では処理しきれなくて仕事を放棄しだしている。

 

取り敢えず、生きているみたいだしもう少し頭がスッキリしてから置かれてる状況を把握しよう。

 

そう、私は思…おも…ぉ……

 

「クシュン!」

 

…………あー

ティッシュないかな……

 

 

何とか頭を動かして、状況を把握するために活動を開始する。取り敢えず此処はどこなのだろか?

部屋を出てみないことには何もわからないので行動を起こしてみる事にした。

 

何だろう、きっと人の家なんだろうけど、やっぱり知らない人の家だから恐る恐る移動していく。扉の前まで来たので、静かに扉を開けてみると、

 

 

「あら、目が覚めたのね、気分はどう?」

………メイド?がそこには立っていた。

ちょうど布巾を持っていたので、窓の掃除でもしていたのだろう。

 

しかし私はあろう事になぜかそのまま扉を閉めた。この時私は何を思っていたのだろう。

全然わからない。無意識って、怖い。

 

「ぇ………ちょ、ちょっと!?」

「………ハッ!ご、ごめんなさい!」

 

我に帰った私は慌てて扉を再び開ける。

改めてそこには、銀髪のメイド服を着た女性が凛とした佇まいで、表情は微妙そうに立っていた。

 

私の奇行のせいで流れる微妙な空気。

その空気をメイドさんが断ち切ってくれた。

 

「……いいかしら?」

「あ、はいすみません……」

「ようこそ、紅魔館へ。 私は此処のメイドをしている十六夜咲夜と申します」

「あっ、はいえと…藍里です」

 

紅魔館

まだ聞いたことのない建物だった。

と、言うより幽香さんからも人里と神社があるくらいしか此処(幻想郷)の場所を聞いたことないので当たり前ではあるのだけれど。

 

「…え、…えっと…」

「安心して、此処は危険なところではないし、貴女はとある妖怪の依頼によって保護されてるだけだから」

どこから聞こうか、悩んでいると咲夜さんが簡単に今の状況を教えてくれた。

「そ、そうなんですね……

 

あ、あのとある妖怪って言うのは」

「はい、貴女は怪我人なんだからもう少しゆっくりしていなさい。」

「わわっ」

 

依頼主が誰なのか聞こうとしたら、咲夜さんに部屋のベットまで押し戻されてしまった。

「もう少し此処で安静にしていなさい」

「は、はい……」

「私は他の仕事があるから行くけれど、貴女に付き添いのメイドを付けるから何かあったらその子に言ってね」

 

そう言うと、咲夜さんはいつの間にか目の前から姿を消していた。残像が見えた、とかそんなレベルじゃなくて、まるでワープしたかのようにいなくなってしまったのだ。

 

「あ、あれ?」

 

部屋には、突然の出来事に困惑する私だけが取り残された。

 

……………………

 

あれ、足音が聞こえる…?

こっちに向かってるみたい……

てか走ってる!?

 

 

バン!!

「藍里!!」

「ゆ、幽香さん!?」

 

すごい勢いで扉を開け開いた足音の正体は、何故か咲夜さんと同じようなメイド服を着た幽香さんだった。

 

 

「入るわよ」

「あ、どうぞ」

 

メイドの格好をした幽香さんが、お盆を片手に部屋に入ってきた。

 

「はい、お粥」

「ありがとうございます…」

 

私が目覚めて、幽香さんが部屋に飛び込んできたときは本当に驚いた。何故此処にいるのかもそうだし、何よりも格好に。

 

「…あのー幽香さん、どうしてメイドの格好をしてるんですか?」

「そんな事より早く食べちゃいなさい」

「…はい」

僅かに顔が赤みががって居たので、不本意なのだろう。

 

「いただきます」

ベットの上で体を起こしたままいただく。

お粥には、溶き卵が水分を含んだお米に絡みついて、とても美味しい。

お粥なんて久しぶりだなぁ………

 

 

 

 

いいや、(藍里)は初めて食べたな。何言ってるんだ私。

 

 

 

 

一瞬生まれた心の歪みを、その事象ごと無かったかのように呑み込もうとお粥をかき込んだ。

 

「!?……ゲホッ、ゲホッ!」

「何やってるのよ…全く……」

 

そう、幽香さんは嘲るように言い放ったが、すぐ安心したような顔になる。

 

そうして(藍里)は「エヘヘ…」と惚けるのであった。

 

 

「ふぅ……ごちそうさまでした」

「具合が悪そうではないわね」

 

私はお粥を完食し、スプーンをお盆の上に置き

幽香さんに渡す。

 

「ちょっと失礼」

「わっ」

急に幽香さんは、私の前髪を退けたと思うと彼女の手を額に当ててきた。

 

「……だいぶ熱も戻ってきたわね」

 

きっと"高熱"からではなく、"低熱"だったからなのだろう。まだ少し寒さを感じるがだいぶマシになったらしい。

 

「さて…もう動けそう?」

「あ、大丈夫だと思います」

 

そう言って、ベットから降りると、少し立ちくらみがした。

 

「おっとっと」

「……本当に大丈夫?」

「だ、大丈夫です!」

「無理はしないで頂戴」

「ハイ………」

「…じゃあちょっとこのお盆しまって来るからちょっと部屋で待ってなさい。

その後にレミリアの所に一緒に来てもらうわ」

「れ、れみりあ?」

「レミリア・スカーレット、この館の主人よ」

「わ、わかりました」

 

了承すると、幽香さんはお盆を片手に部屋から出て行った。

 

館の主人かぁ…この館の内装凄く綺麗だし凄く高貴な人なんだろうなぁ…きっと住む世界も違うんだろうなぁ…

主人って言うくらいだから男性の方なのかな、

いやでも名前的に女性なのかも。

 

そんな思いを馳せていると、ノックが再び聞こえて来た。

 

「藍里、そろそろ行くわよ」

「わかりました」

せめて身なりだけでも失礼がないようにしなくては。

 

ベットのそばに綺麗に折りたたまれていた私が生まれ落ちた時から来ている服を着て、幽香さんを追った。

 

 

「目を覚ましたか、気分はどうだ?」

「だ、大丈夫です、お気遣いありがとうござます」

私たちは長机が一つ置いてある広い部屋に来ていた。椅子もたくさん並んでいるので恐らく食堂なのだろう。その一番端の席に座る彼女が

レミリア・スカーレットさんなのだろう。

 

 

 

失礼かもしれないが、思っていたのとだいぶ違う。こう…もっと貴婦人みたいな人を想像していたが、彼女の容姿は、お世辞にもそんな事を言えず、小学生のような見た目をしていた。

むしろ可愛らしい。

 

 

 

そんな事を口になんて口が裂けても言えないけれど。

「今すごく失礼な事を考えなかったか?」

「い、いえ!滅相もございません!」

「……そうか」

その言葉とは裏腹に少しジト目で此方を睨んでくるレミリアさん。鋭すぎます。

 

「まぁいい…でだ、藍里と言ったか」

「は、はい」

「早速だが、あの時何があったのか説明させてもらおうか?」

「説明…ですか…」

…助けてもらったし、それぐらい知る権利あるよね。

 

私は後ろの壁に寄りかかり、腕を組んでいる幽香さんを見る。彼女はそれに気づき、何も言わずに頷いた。私も頷き返し、館の主人の方に向き直る。

 

「わかりました、お話しします」

 

少女説明中…

 

「恐らく水色髪の少女っていうのはチルノで間違いないでしょうね」

「そうだな…だが彼奴にあそこまでの力があったか?」

「…………」

一通り、あの日起こった出来事を話した。

皆の反応を見る限り、彼女にはあそこまでの力も無いし、初対面の相手を凍らせるような冷徹な性格も持ち合わせていない上に、隣に友達(ルーミア)がいた上での出来事だ。

"本来の"彼女だったらありえない事だったのだろう。だが、

 

「彼女の羽が"紅かった"って言うのは…」

「やっぱりそこだな…」

「………………藍里」

「は、はい」

 

すると、黙って話を聞いていた幽香さんが突然口を開いた。

 

「さっきの話だと貴女、"飛べる"ようになったような口ぶりだったけれど」

「え…?確かにそうですけど…」

幽香さん達なら造作もない事でしょう?

そう、言おうとして、視界に映る変化に口を噤む。

 

 

 

先程から冷静を保ち、表情一つ変えずにレミリアさんと話していた咲夜さんが驚いた表情で此方を見ていた。

「あ…あの……何かまずいことでも?」

「い、いえ…特にはないです」

そう言うと彼女は咳払いを一つ、すぐ元の冷静な顔を装った。

……一体なんだって言うのだろうか?

 

「……だいたい事はわかった、それでは此方も約束を果たすとしようか」

「…約束…ですか?」

「あぁ、お前が悠長に眠りこけっている間にな、とある妖怪と約束をしたの」

そうしてニヤリと笑うレミリアさん。

なんだか私を見ているようだけれど、

うーん…微妙に違うような…?

 

「私の親友のパチェに色々頼んであるから、貴女は大図書館に向かってもらうわ。

そこにいる彼女に色々教わりなさい」

「は、はぁ…」

なんだか話が飛んでよくわからないことになってきた。けど何かこの世界について知ることがあるなら知っておいて損はないのだろうけれど…

 

「咲夜、案内してやれ」

「かしこまりました、では藍里様此方へ」

「は、はい」

そう促され、私は部屋を後にした。

 

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