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読書疲れか、藍里は借りている部屋で眠っていると一日中眠っていたらしい。気怠い体を引きずり外に出ると、館の主レミリア・スカーレットに何やら深刻な顔で呼び止められ部屋に案内された。
今回も、楽しんでいただければ幸いです。
「嫌です」
「え…?」
私のその一言によってレミリアの表情筋はこの上なく引き伸ばされている。そんなにも私が快く引き受けてくれると思っていたのだろう…
少し心が痛むが、私はここで屈して本音を言わないわけにはいかない。
「そ、そんな悪い子じゃないわよ?確かに少し鼻につく言動もあるかもしれないけど…」
「いえ…あのだから…」
そう言いかけると、彼女の再構築されつつあったカリスマは音を立てて崩れ去って、そこには何故だかわからないと言った様子の幼子が居るのみだった。
…ようやく私の話を聞いてくれそうだ。
引きつらせた次は、表情を凍らせ視線を落とす彼女に向かって先ほど言いそびれた事を付け加える。
「どうして…」
「…私が"嫌"と言ったのは、そんな形式ばった"友人関係が嫌"、って意味です」
「……?」
「まぁ…機会があるのはいいとは思いますけど…それは本人同士の問題であってそんな最初から友人として接するなんて嫌ですし無理です」
「………」
「レミリアさん、こんな言い方はあれかもしれませんが……貴女が彼女を外から遠ざけてませんか?」
「………!」
「彼女は…
彼女自身が望んで自らを隠したのですか?」
「………………」
私のただの憶測だったのだけれど、彼女の図星だったようだ。
「そんな外からの一切を遮り、貴女によって厳選された物だけでを与えられる…
そんな与えられるだけのものを得て生きて行くなんて…そんなのペットと一緒です」
「!!」
レミリアさんは急に机を割れんばかりの力で叩き、立ち上がった。表情は先ほどの青ざめ絶望した少女の顔ではなく、憤怒に満ちていた。
今にも襲いかかって来そうなその態勢に身動ぎしてしまいそうになる。
「違うッ!フランは私の家族だッ!」
「じゃあなんで見ず知らずの私なんかに解決を求めるのですか」
「ッ…」
私の言葉に怒りのやり場を見失ったレミリアさんはさらに拳の力を強める。口元は、今にも唇を噛み切ってしまいそうになる程食いしばっている。
「わかって居たのではないのですか?今のままではいけないってことぐらい」
「じゃあ…じゃあ私はどうすればよかったのよ!どうするのが正解だって言うのよ!
それが貴女にはわかるって言うの!?
赤の他人の貴女が!!」
「……わかりませんよ」
「はぁ!?」
「わかり得るはずがないですよ、"これまで貴女がどうすれば良かった"なんて…
でも一つ確かなのは、
貴女が家族の為にこんなにも苦しんでいると言うことと、頼られたからにはなんとかしたいと言う私のこの気持ちです」
私も言葉に熱が入り、思考に歯止めが効かなくなる。
レミリアさんは私の思いを聞き、フゥーフゥーと息を荒げて此方をまっすぐ凝視してくる。
「今までの貴女の行いが合ってるかなんて間違ってるかなんてわからないし知ったことではありません。ただ失敗したのなら直せばいい、
それだけのことだと思いますよ」
「簡単に言ってくれるわね」
レミリアさんは嫌味を言いつつも、落ち着きを取り戻してきたのかゆっくりと席に戻って行く。
「すみません、身勝手で」
そう、私は身勝手なのだ。
繋がりを切ってきた高校生時代。
そんな自分が嫌で存在を否定している今。
私は自分の都合だけで周りのことを考えない
俗物なのだ。
それなのに私は今度は助けになりたい、なんてまた身勝手を言っている。
高校生時代よりも
「はぁ……なんだか気が抜けたわ」
「スッキリしました?」
「全く…貴女は…」
すっかり落ち着きを取り戻したのか、腕を組みそっぽを向いている。先程の熱の余韻か顔が少し赤い。
「私は…身勝手なりに…助けになれるのならなりたいです」
「そう…それで?形式ばった友達じゃ無いのならどうするわけ?」
「うーん…まずレミリアさんを助けたいです」
「…はぁ?」
予想外の返答に、彼女は笑い混じりに聞き返して来た。
「いやいや、私じゃなくてフランを…」
「貴女だってずっと思い悩んで苦しんでるじゃないですか」
「それは私が悪いから…」
「だからってずっと自分を責めても救われません」
「…………」
「フランさんは私が直接会って、私が友達になるかどうかは決めます。会っても無いのに友達になんて私には到底無理ですし、気が合わ無いのならそこまでの事です。
…でもレミリアさんとは今こうして会って、話をして、私は貴女とは仲良くなれると思っている。だから私は貴女を助けになりたい」
「フッ…ぽっと出の三流が……言うじゃない」
キザなセリフを言いつつも、心なしか顔が嬉しそうだ。後ろの羽がパタパタと小刻みに動いている。
「だからレミリアさん」
「?」
「これからも宜しくお願いします」
「………えぇ…貴女を"身勝手な知り合い"とまでは認めてあげるわ、藍里」
ふふっと、2人から笑みがこぼれる。
こんな私でも、相談相手になれたのかな。
こうして私の初めての、知り合いが出来た。
・
・
…………
「じゃあまた後でね」
「わかりました、レミリアさん」
「……はぁ」
「?」
「仮にも私が知り合い、と認めたのだから私と関わるに当たってそれ相応の態度をしなさいよ、藍里」
「………………、わかったわ、レミリア」
「そ、それでいいのよ!」
ギィィィィ、バタン。
「わ、わぁぁぁ…やっぱりあれは怖かった…」
私は扉を出て、数歩廊下を歩いたところで膝が笑い始めて、急に立てなくなってしまった。
本当のところ、あのレミリアの激怒には圧倒されてしまった。よく今まで恐怖心を押しとどめていられたなぁ…
きっと彼女は、レミリアはそれほどフランさんを大切に思っているのだろう。
いったいどんな子なのだろう?
「いや廊下で何してるのよ藍里」
「あ、レミリア…………」
・
・
・
私はレミリアさんと別れた後、自室として使わせて貰ってる客室に一旦戻って来ていた。
今日もパチュリーさんに貰った本を読んで過ごすつもりだが、部屋で読むかなぁって思って持って来ているので、この本を取りに来たのだ。
「あれ、メモ?」
戻って来たときに置き書きがあることに気がつき、手紙の内容を見てみると、差出人は幽香さんだった。
内容は簡単なもので、
「私は先に帰ってるわ、用が済んだら帰って来なさい」
とだけ書かれていた。
幽香さんの言っている用というのは何を指しているのかよくわからなかったけれど、新たに用ができて帰るのがしばらく遅れそうなので、心の中で謝罪しておく。
さて…
手紙を読み終わった私は本を回収し図書室へと向かった。
・
・
・
「あ、藍里さん なんだかお久しぶりな気がしますね」
「す、すみません……どうやら丸一日眠っていたみたいで…」
「よくそんなに眠れましたね……」
「流石に起きた時は滅茶苦茶気持ち悪かったです、まともに歩けない程………あれ?」
「どうしました?」
「そういえば、あんなにも気持ちが悪かったのにレミリア…さんと話をしたときにはすっかり消えてたなぁって」
「へぇぇ……」
今考えるとすごく不自然だ。
なんで急に不快感が消えてこんなにもスッキリしたんだろう?
「もしかしたら藍里さんの能力なのかもしれませんね」
「え?」
「まだわかってませんよね?藍里さんの"程度の能力"」
「あー……」
ここ、幻想郷における実力者で、個人の特殊能力をここでは"程度の能力"と呼んでいる。
先程聞いたレミリアの妹さん、フランさんはありとあらゆるものを破壊する程度の能力、お世話になっている幽香さんは花を操る程度の能力など、今の所2人からしか聞いていないが恐らく多種多様な能力があるのだと思う。
みんながみんな持っているとまでは聞いていないので私にはそんな程度の能力があるかどうか怪しいのだけれど。
「うーん、ただ外の空気吸ったってだけなんですけれど…」
「いえ、意外とそういうのも馬鹿にならないわよ」
「パチュリーさん」「パチュリー様」
小悪魔さんと話していると、奥からパチュリーさんが会話に割り込みながら此方へと向かって来た。
「貴女は植物から生まれているからあながち空気や太陽が能力に関係してたっておかしくはないわよ」
「空気や…太陽?」
確かにあの時は窓を開けた時、空気の他にも朝日が身体を差していた。
それが私の体調不良改善に繋がるって…?
「ま、もうすぐね 頑張って考えてみなさいな」
「え?教えてくれないんですか?」
「悪いけど私は教育を任されているから」
ふふっと微笑み、元いた机へと翻して行く。
小悪魔さん軽く会釈をし、ついて行ってしまった。
どうやらパチュリーさんは私の能力に検討がついたような様子だったけれど…
いったい私の程度の能力って…?
・
・
・
暫くして、私は図書室から白の本を持ち出して中庭に出ていた。いつも通り本の続きを読んでいようと思っていたが、どうしてもパチュリーさんの言葉が気になり、その手がかりが掴めるかもしれないと思い、外に出て来てみた。
出てすぐの所に大きな噴水を見つける。
流石洋館といった感じに中々豪華な作りをしているなぁと少し関心。
その周りには花壇がいくつもあった。
種類は数える程しかなさそうだがどれも生命力に満ち満ちている。
全体を一瞥し、私は噴水の淵に腰掛け本を開く。日はもう頂天より少し傾き始めているが、まだ爛々としていて、暖かい。
「あれ、誰ですかこんなところで」
ふと、声をかけられ本から顔を上げると、目の前には緑色のチャイナ服を着た女性が此方を覗き込むようにそこに立っていた。
「あ、え、えと、藍里です」
「紅美鈴です、んー貴女を何処かで見たんだよなぁ…何処だっけなぁ…」
どうやら彼女は私のことを見たことあるらしい。私は当然のごとく無いけれど。
「あ!幽香さんが連れてた子だ!もう大丈夫なの?」
「はい、お陰様で」
私の意識がない時に幽香さんにここに連れてこられたらしいのだがその瞬間を見ていたようだ。
「紅美鈴さんもここの住人なのですか?」
「そうですよ、ここで門番をやってます」
「へぇ…門番…」
どうりで会ったことがないはずだ。
入ってくる時は気を失ってたし、目覚めてからここに来たのは初めてだし。
「まぁ、たまに居眠りしててそのまま侵入されたりしちゃうけど…」
「えぇ…」
門番さん、いいのかそれで。
えへへと頭をかきながら説明する美鈴さんに心の中でツッコミを入れる。
そんなたわいない話をずっと続けていると、私の腹時計が夕刻を告げたので、美鈴と共に西日に照らされる紅魔館へと戻っていった。