ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なんとか負傷したレミリアの連れて逃げ出したものの、ついに咲夜に追いつかれてしまう。一室に逃げ込んだものの突破されるのは時間の問題。そこでレミリアはこの状況を打破するために、藍里から吸血するとんでもない策を決意する。
・この話には過激な表現が含まれています。読む際はお気をつけください。
目の前に差し出した左腕をレミリアはそっと両腕で口元まで運ぶ。
緊張からか、全身の神経が今までにないほど敏感になっていて、腕を触られただけでもビクッと反応してしまった。
だが、今更引き返すわけにもいかない。
「本当に…いいんだな…?」
その言葉に呼応するように奥歯が力み、口にくわえたハンカチに歪みが生じる。
「それじゃぁ…いくぞ」
プシュ!
手の届く範囲に聞こえる破裂音。それと同時に痛覚が全身に流れ込んで来る。
「ッッ……!」ギリッ………
より一層力がこもり、口内で布が擦れる音が止まない。
そうして出てきた血をレミリアは吸い出していく。なんとも言えない吸引感は、ただでさえ心地の良いとは言えない流血を加速させて行く。
血が抜かれて無くなっていく感覚なんて、正直わからないけれど、確実に無くなっていっているという「事実」の方が、私を恐怖へと叩き込む。全身から冷や汗が止まらない。
……………
数秒、レミリアに吸血されていると徐々に身体の気怠さを感じ始めた。何故だか息苦しいし目の前も霞んできた。全身から生の気が抜けていく、と言った感じだろうか。
歯をくいしばる力も徐々に抜けて来て、自然にハンカチが自分の服の上に落ちる。しかし私にはそれを目で追う余裕すらない。
それに気づいたのか、レミリアは慌てて私の腕から口を離す。
「あ、藍里! しっかりして頂戴!」
「…………ぁ……ぅ……」
うまく口が動かず、言葉にならない。
レミリアが私の両肩を掴み、揺らしているのだろうか?視界のピントが定まらずよく見えない。
私の血を吸ってレミリアはけがは治ったのだろうか…?
…あれ…なんでけがしてたんだっけ…
よく…おもい………だせ………
・
・
・
「藍里ッ!藍里ッッ!!
すぐ戻るから…勝手に逝くなよ!!」
バァァァァン!
私の吸血のせいで衰弱した藍里を呼び覚まそうとした時に身体を浮遊感が包んだ。
2人でやっと抑えていた扉を咲夜が突破したのだ。
扉にもたれかかっていた為、扉が突破された勢いのまま、私達は部屋の奥へ投げ出されてしまう。私はとっさに回転して床に着地したが、藍里はあり得ない程の勢いで扉と反対側にある壁に吹き飛んで行く。
このままだと、壁に叩きつけられてしまう…!
吹き飛び方の異常性を疑うよりも私は身体を動かしていた。
翼を広げ、床を思い切り蹴り、藍里の元へ飛び込む。
「何よ……これ…」
藍里を受け止め空中で身を翻し、壁に立つようにして勢いを受け止める。そして彼女の異常性に、レミリアは驚愕した。
彼女は私達異形の姉妹を恐れることなく向き合い、下手をしたら死の可能性もある事にも飛び込んで来た。
自分が死ぬかもしれない時、自分の行動を慎重に考えなければいけない重要案件である事は誰にだってわかる。
しかし彼女は、自分自身にとってあまり賢いとは言えない方の行動ばかり選択して来た。いつ、どんな目にあってもおかしくはないのに。
しかし、そのお陰で、彼女の賢くはないその無茶な行動のおかげで私は身の詰まった果実を手にすることが出来た。ずっと至る事はないと思っていた場所が、手を差し伸べてくれたのだ。
私のために実を実らせてくれたというのに、なのに…それなのに…
「どうして…どうして貴女は…こんなに軽いのよッ…」
彼女の実りは、あまりにも貧相なものではないか。
それとも、私が喰らってしまったとでもいうのだろうか?
「させない…させないわよ」
床に降り立ち、全身に補充した妖力を巡らせて負った傷を塞いで行く。銀のナイフで負った傷も音を立てながら塞がって行くのが自分でも感じ取れた。
「さて…」
破壊された方向の扉を見やると、右足で扉をローキックした咲夜が、足を床に戻して再びこちらに構えなおしている様子が見て取れた。
次の瞬間、私の眼前にあの忌々しい銀のナイフが複数出現しこちらへと飛来する。
それを藍里を抱えたまま難無く回避しする。左腕に藍里を預け、お返しとばかりに空いた右手で弾幕を放つ。
咲夜は部屋の中にまでは侵入してきていなかったので、廊下に出てそれを回避する。
私はすかさず藍里を近くの壁にもたれかけ、部屋を飛び出した。
廊下に出ると、咲夜が再び部屋に突入せんとばかりに身構えていたが、飛び出してきた私を見るなりにバックステップで距離を取り、手にナイフを構える。
「時間が無いわ、これで終わりにしましょう」
「………」
私は、一枚のスペルカードを構え宣言する。
彼女も床を蹴り、ナイフを突き出し突進してくる。
ボォゥウウウウン------
運命「ミゼラブルフェイト」
私の足元に魔法陣が出現し、そこから鎖が出現し、咲夜に向かって伸びて行く。
しかし咲夜は、鎖が絡み付こうとした瞬間に目の前から消え去ってしまう。そして背後にまた咲夜の気配を感じた。
「………2度は喰わないわよ」
私は振り向きもせず、思い切りバックステップした。咲夜が別の戦略を組み立てて来ているのなら私はここでお終いだったが、そうはならなかった。
「…………!」
下がった後に頭上を見上げると、私が先程まで立っていた場所には銀のナイフを床に突き立てた咲夜がかがんでいた。すぐさま新たなナイフを準備し、こちらに向かって来ようとするが、
ギシギシと音を立て、それが叶う事はなかった。
「掛かったわね」
私が先程まで立っていた場所。足元に生成した魔法陣から鎖が出現し、咲夜の足に絡みついていたのだ。そうして足を取られた咲夜は、次々と生成される鎖に拘束されて行く。
「……チェックメイト」
「…………」
動けはしないものの、咲夜はまっすぐ此方を凝視したまま動かない。意外な事にも、操られているので敵意をむき出しにして息をあらげているものかと思ったけれど、そういったわけでも無い。一体操り主は何が目的なのかしら…?
コツッ
「………」ビクッ
私が咲夜の方に一歩踏み出すと、僅かだが咲夜が身動ぎをしたように見えた。
一歩、また一歩と近づくにつれて心なしか彼女の顔から恐怖の色が見え出した。
「さっきまでの暗殺者っぷりはどうしたのよ…」
「…………」
先程までと様子が明らかに違うのだが、相変わらず此方と意思疎通はしないらしい。
私が目の前にまで到達した時には、昨夜からは恐怖に強がる幼子のような様子を伺えた。
「…………」
「…………」
「…………」バッ
「!」ビクッ
ぎゅぅ
「………?」
「別に貴女をどうこうしようなんて考えてないわ、さっきまでのを咎められると思ったら大間違いね。貴女は間違いだと思って止めようとした。自分が間違っていると分かっていて私に止めてもらうのを求めた。だから、貴女は何も間違えていないわ」
「…………」
咲夜を抱きしめた私の方には、何か熱いものがポタリポタリと落ちてくるのが分かった。
流れる涙は私の服に染み渡るので直接肌に触れる事は無いので大事には至らない。
「…吸血鬼は、涙にも弱いのかしらね」