東方蒼夢録   作:音無雨芸

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音無です。皆様、お待たせしました。なかなか内容が思いつかずに遅くなってしまいました、申し訳ございません。もう年末、もしくは年始ですね。今後ともこの小説を続けていきますのでよろしくお願いいたします。

それでは、今回もお楽しみいただければ幸いです。


25話 苦労の絶えない下積み時代

「さぁ、始めるわよ」

私とフランは藍里の身体に手をかざし、魔力を流し始めた。フランは血液の通る循環器系の保護を行う。対して私は心臓を保護しつつ、その収縮運動を無理やり頻度を上げるべく、魔障壁を張り巡らせた。決して強すぎても弱すぎてもいけない。丸底ボウルに入った少量の水を全力でかき回す勢いで、かと言って遠心力で水が一滴も出ないように。

 

両手が塞がっているのでレミィには人工呼吸を頼んだ。彼女も二つ返事で藍里の口元に回り、空気を送り込む。すごい勢いで流れ込む血液に対して、剥き出しの肺が耐えられるはずもないので血管と同じ様に魔法を施している。が、保護する魔障壁が災いし、肺の伸縮性が損なわれ、思う様ように酸素が入ってこない。

 

「フラン、肺の部分だけ魔障壁を解除して頂戴」

「そ、そんなどうやって!」

魔障壁を張る際の方法は主に2つある。1つはイメージとしては4点を定めて、そこから対角線に引き延ばす様に壁を展開する方法。もう1つは魔法をかける対象を形取る様魔障壁を展開する方法である。

 

前述の方法より後者の方法が魔障壁が湾曲するので難易度が上がり耐久性は劣るが、自由が利く方法で、現在藍里の循環器系を保護しているのはこの方法である。

 

蛇口を捻って流れ出すとめどない水。この流れを遮ることはなく濡れない空間を作り出す。

 

私が今要求した「肺の部分だけ魔障壁を解除する」というのは、簡単な言葉にして説明するとこのようになる。

 

しかし魔法というのはそのような説明で理解ができるほど単純なものではない。そこには世の理に生きるものではまず発想に至ることのないような世界が広がっている。

 

そんな法術を緊迫した状況で理解し、実行することなんてまず不可能である。

 

それなのに私は素人に突然「魔障壁を解除しろ」だなんて。

私は自分が行った無茶な指示を後悔した。

 

「いや、フラン今の言葉は忘れなさい。このまま続けて」

「で、でもッ」

「いいから続けなさい」

私は言葉をもみ消すと、両手で行っていた伸縮運動を片手ですまし、空いた片手の二本指で肺を包むフランの魔障壁を自分の魔法で分散させる。

 

そして、肺が集束する部分で再びフランの魔法を再構築する。残りの三本指で心臓と同じような魔障壁を張る。

 

そう。なにも魔障壁をすべて消し去る必要はない。流れる要素を極限までに分解し、そこに干渉できるだけの余地を与えてやればいい。

 

その作業は本来片手で行うような作業量ではない。操る魔力も膨大であるのに加えて繊細な調節を要するため片腕を襲う圧迫感は想像を絶する。血管が魔力の圧迫により浮き上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシッ

魔力を集中させていた手をレミィに突然握られた。

「…ごめん、私が言ったのにね」

彼女はいまだ口を合わせ空気を送っていたので返事はなかった。

 

ありがたくレミィの妖力を使わせてもらい、魔障壁を構築する。自分の魔力を伸縮運動の制御だけに集中させられる、これだけでも随分と楽になる。

 

がしっ

するともう片方の手もフランに握られる。

「パチェ、大丈夫。わかってきたから任せて」

「…わかったわ、じゃあ分散部分をお願いするわ」

「うんっ!」

 

全く…先ほどヒト(レミィ)にもっと頼れと言っておいて、私が見失っていては笑いものじゃない。私も改めなければね。

 

 

さて…反省会もほどほどに

「さぁ、もうひとふんばりよ」

 

 

 

 

 

泉を飛び越え、草原を割り、人里に突風を巻き起こし、私は駆ける。

紅魔の主のために、レミリアのために。

 

途中、白黒魔法使いの

のわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」といった叫び声が聞えた気がしたが、今はそれを気にしている暇はない。

 

そうして駆けているうちに永遠亭のある迷いの竹林が見えてきた。そして私は姿も見えないうちから、とある人物に大声で呼びかける。

「妹紅さーん!足を止めるのも惜しいので私につかまって道案内してくださーい!」

 

迷いの竹林と呼ばれるその場所は、いつも深い霧が立ち込め、竹の成長も早くこれといった目印がなく簡単に迷子になってしまう。しかしこの幻想郷に病院と呼べる施設は指で数えるほどしかなく、迷いの竹林の中にある永遠亭を頼るしかない人里の人もいる。そういった人を無事に送り届ける案内人が彼女、藤原妹紅なのである。

 

私の呼びかけが通じたのか、竹林の入り口で空に向かって朱が走った。

それを確認し、スピードを下げることなく合図の出元へと突っ込む。すると、いつでもこい と言わんばかりに身構えている藤原妹紅の姿を認識する。二人の距離はあっという間に詰められて行き、手を伸ばし、

 

 

 

 

 

 

「うぉ!?」

彼女を小脇に抱えて竹林に突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の案内もあり、私は永遠亭に到着した。手短に要件を伝えると、輸血の道具一式を持った医者の助手(鈴仙・優曇華院・イナバ)を派遣してくれることになった。藍里の血液型を聞いていなかったので、準備できるだけの用意をする羽目に。おかげでかなり荷物が多くなってしまったが問題ない。

 

今度は妹紅の代わりに鈴仙を小脇に抱え、荷物を背負い、永遠亭を後にした。

「きゃぁぁぁぁぁぁ!?」

「…がんばれ鈴仙」

「いくら何でも女の子を小脇に抱えて運ぶって…」

 

 

 

 

藍里の延命処置をし始めてから小一時間ほどたったであろうか。魔障壁の展開や伸縮運動の作業は幾分か安定してきたが、不慣れな作業のため魔力の浪費が激しく、枯渇するのも時間の問題だった。

 

レミィとフランの表情の蔭も濃くなるばかり。彼女たちは元々魔力を持っていないので、妖力を魔力に変換して作業にあたっている。しかしエネルギー効率はあまりよくないので、私より疲弊しているはずだ。

 

このままでは時間の問題ね…

美鈴お願い、間に合って…

 

 

 

 

 

 

 

そんな私たちを光の主がのぞき始めている。美鈴が開け放った扉を通り抜けて原始の炎がうっすらと降り注がれる。扉側に近かった助手から少し焦げ臭いにおいが立つ。

 

「フラン、焦げてるわよ。移動しなさい」

「…っ、わかってる。でも今気を抜いたら…」

「移動するぐらいなら私の魔力ならもつわ、だから大丈夫」

フランも私の言葉に反論する余裕がない状況なのがわかっているのか、そのあとは何も言わなかった。

 

フランが展開している魔障壁の上から循環器を保護する魔障壁を展開する。今まで以上の重圧が私の腕を襲う。

「ぐっ…」

再び血管が浮かび上がり、奇妙な青紫の線は順に手から腕へと走り出す。

フランも急いで日の当たらないように回り、私の隣に付く。

 

「パチェ、もう大丈夫だよ」

そう言われ、魔障壁を解除する。展開や解除を繰り返していると気が緩み、うっかり余計な部分まで魔法を解除してしまいそうになる。

精神も魔力もすり減り、限界も近づく。

 

このままじゃ…

 

部屋に侵入した光は、まるで天に迎えるかのように徐々にその魔の手を伸ばす。

私たちの努力を影に落とし、無意味の象徴をまるで強調するかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ…」

「……」

正直、返事する余裕も無かった。今はこの作業を寸分の狂いなく遂行することに全神経を集中することで精いっぱいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「微かに、血管の圧力が強まった気がする…」

「なんですって…!?」

血管の圧力が増えた、ということは…

彼女の中で血液が…増えた?でもなぜ…

なにか要因があるはず…これを見極められれば…!

 

 

 

 

 

 

 

私たちの勝利だ

 

 

 

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