翌日、お礼も兼ねてまたあの木を訪ねることにした。そもそも会いに行くという約束があるため行くことには変わりないが。
「あら、何処行くの?」
しまった、幽香さんに何て言おう…?
木との約束があるから?
ある意味引き止められそうだな…
知り合いに会いに行く?
出かけても無いのに知り合いができるはずがないし…
どうしよう、何て答えても白い目をされる気しかしない。正直、これで外に出してもらえるか怪しいけど…これしかない…か。
「ちょっと…そこまで散歩に…」
「あらそう、行ってらっしゃい」
「そうですよね、ダメですよね…えっ?」
「もう日は登り始めているし、妖怪もそんなに活発に行動はしないでしょ、でも一応気をつけなさいよ?』
「…はい、行ってきます」
予想外にも、幽香さんは外出を許可してくれた。いやまぁダメだったら困るのだけれど。そうして私は扉を閉め、胸を撫で下ろし花畑を抜けて行った。
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「おっ、ちゃんと来たね〜」
「昨日はどうも、その口ぶりだと私が来ないみたいじゃないですか…」
「いや普通は木に喋りかけられたら相当不気味だと思うのだけれど」
それは、まぁそうなのだが…
「命の恩人の約束を無下には出来ません」
「人じゃなくて木だけどね〜」
「…………」
なんだろう、幽香さんと同じ香りがするぞこのヒト…じゃなくて木。
「ごめんなさいね、喋れる相手を見つけたのは久しぶりで」
表情は見えないが、クスクス笑っているのだろう。
「…やっぱり、先程仰ってたように…」
「そうね、私の声が聞こえると言うことはだいぶ特殊ね」
そうなのか…確かに普通ではない、だいぶ異常である。まさか生きている間に木と喋ることになろうとは。
「私達植物だって聞こえてないだけで意思伝達くらいするわ」
「そ、そうなのですか…」
「さて…本題に入りましょうか」
「あ、はいお願いします」
元々、稽古に苦戦している私のためにこの…木さんが稽古をつけてくれると言うのだ。またそれも唐突な話だとは思うのだけれど。まぁでも断るっ理由も特に無いのでお世話になる。
…そういえば名前聞いてなかった。
「すみません、お名前伺ってもよろしいですか?」
「あら、名前を聞くときは名乗ってからが基本でなくて?」
「それもそうですね…私は藍里と申します」
「ご丁寧にどうも…困ったわね、こんなこと言っといて私名前なかったわ」
「えぇ…」
…この木わざとやってるな、私をからかって楽しんでるな
「ごめんごめん、そんな顔しないでっ、ね?」
「………
「…へ?」
「今日から貴女は
…ってダメですよね、勝手に名前つけちゃ…」
「…いいわよ、気に入ったわ」
「…え?」
「気に入ったわ、その飾りっ気のないそのまんまな感じ」
「馬鹿にしてません?」
なんだろう、幻想郷の住人ってみんなこんな感じなのだろうか?どこか抜けていると言うか何と言うか…こっちの調子が狂わせてくる…
「さて…改めて、私は木よ よろしくね藍里」
「(本当にそれでいいんだ…)よ、よろしくお願いします」
「…敬語」
「え?」
「貴女は私に名前をつけた、もう他人の関係ではないわ。なのに敬語どうしなのはどうなのかしらね?」
「…わかったよ、木」
「それでいいの」
「…………」むぅ
やっぱりからかわれている。
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「…ねぇ、木」
「ん〜?」
「これ修行になってるの…?」
「そ、黙って続ける」
「…………」
内容は、ただただこのだだっ広い草原でゆっくりする、と言うものだった。
内容が内容なので、聞いたときは困惑した。もう一度聞き直しても帰ってくるのは同じ内容。
最初は、修行っぽく座禅を組み、それっぽい事をしようと努めたが、阿呆らしくなってやめてしまった。
青い原っぱに四肢を放る。
ゆっくりしろと言われたので転がってみる。
…実際修行って言うのはこう言うものを指すのかな。
身体を鍛えたり、技を磨いたりするのが修行だとばかり思っていたが少なくとも私が今感じているのは一番修行っぽいかもしれない。
…辛い
勿論肉体的な意味ではない。
特に「〜しろ」とかならまだいいがゆっくりする事を義務化されるとなると言うか…
まぁ勿論ゆっくりするだけではダメなのだろうけど…
「別に何してても構わないわよ〜寝たっていいわよ?貴女の寝顔可愛いと私は見たわ!」
…不安だ
本当に何を考えているんだか。
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「すぅ………」
「…予想どうりやっぱり可愛いわね」
「すぅ……すぅ……」
「…………頭で考えているようじゃ、まだまだ先が長そうね」
「ん…ぅぅ……」
「さて…このままじゃ風邪引いちゃうわね」
「やっぱりここにいた」
お、丁度いいところに
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藍里が散歩するなんて言い出すなんて本当に唐突ね…まぁあのこともあったしあまり離れたところに行ってはいないだろうけれど。
…ついでに私も久々に出かけてみるかな
自分の家の扉をくぐり、私のひまわり畑をお気に入りの日傘を片手に抜けて行く。少し傾いた日が、向日葵を輝かせてとても綺麗だ。
少し誇らしげに歩みを進めると広い原っぱが見えてくる。何気無くいつも此処を通るのだが、たまには此処で過ごす日も悪く無いだろうと思い、あたりを散策してみる。
アイツがいるのってこの辺だったかしら。
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暫く歩くと、一本の年季の入った大木と、そのふもとにうずくまる青い少女を発見した。
「散歩の目的は貴女だったのね」
あら、私に会いに行くことはこの子言ってなかったの
「大方、木と話してくる…なんて言ったら白い目で見られるんじゃないか、と言ったところかしら?」
心外ね〜失礼しちゃうわ
「…普通貴女と話すのは普通あり得ない事だから」
まぁね〜、っとこの子を探すためだけにわざわざ?
「白々しいわね、妖力を地面に伝せて私に知らせたくせに」
なんのことかしら〜?
「まぁいいわ、誰かさんのせいで暫く起きそうに無いから連れて帰るわね」
そうして〜誰のせいかは知らないけど〜
「全く…」
「すぅ…すぅ…」
……………
ゆらゆらと揺れる空間の中
虚ろに象る私を、優しく日の花の匂いが
ゆったりとなぞる。
光源から発せられる恵の光は
周りに漂い、次第に私に集束し
目覚めへと向かう
「うぅん……」
気がつくと、腕は蹲るように折りたたまれ、足は誰かによって抱え込まれてる。
「わっ!?、なっ!?」
今自分が置かれている状況にようやく気がついた
私は今、おんぶされている。
「ゆ、幽香…さん?」
「寝てていいわよ、むしろ寝てなさい………恥ずかしいから…」
最後の方はよく聞こえなかった。けどなんだか体も気怠く感じ、素直に言葉に甘えることにした。幽香さんの体は暖かく、優しくて安心する匂いがして、再びまぶたを閉じるのには惜しいほど心地がよかった。
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次に目が覚めたら、私はベットの上にいた。どうやらここまで運んでくれたらしい。寝てていいとは言え、ここまでされてもらっては申し訳がない。
どうやらぐっすり眠ってしまったためか、いつの間にか地平線から太陽が顔をのぞかせている。
ここに来てからというもの、時計を一切見ていないから正確な時刻がわからないが、特に不便といった事もなかったので気に留めていなかった。
幽香さんはまだこの時間は寝ているだろうか?
昨日、寝てていいとは言ってくれたものの、まさか朝まで目が覚めないとは…
ここまでしてくれた上に、私も住まわせて貰っているのだから家事の手伝いをするのは当たり前だなと思い、私は幽香さんが起きる前に朝食を作ってあげることに決めた。
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朝食を作り終え、盛り付け、テーブルに並べる。
「…んー…何かが足りない」
数秒悩んだ末に出た答えは、
「お茶を沸かし忘れた」
…とだけの平和な悩みに過ぎなかった
のだが
「お茶って…どう入れるんだろ…?」
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見よう見まねで何とか問題を突破し、
やっと朝の風景を作り出すことに成功した。
後は同居人が来れば完璧なのだが…
「幽香さん…なかなか起きないなぁ…」
朝とは言え、体感ではもう7、8時頃だ。幽香さんは朝に弱い人間…いや妖怪なのかな?
可能性は大いにある。妖怪とは、基本的に夜行性で文字どうり夜中に掛けて行動が活発になり、凶暴になる。人間が最も襲われるのは夜が多い
と、幽香さんから教わった。
例外もあるのだろうが、話の限り大体が夜行性なら、夜が明けるに掛けて大人しくなる。
と、言うことは必然的に朝に弱くなる。…と思う。
そうでなくて、もしただ寝ているだけだったら…?気持ちよく寝ているところを起こされて機嫌を悪くしない人なんて居ない。
「貴女は野外でも寝かせてもらえるのに、私は室内ですら寝かせてもらえないのね」
…なんて言われたら苦笑いすら浮かべる自信がない。
あぁでも
起こさなかったら起こさなかったで
「どうして起こして来れなかったのかしら?」
…と文句を言われそう。
どうしよう、これはどうするのが正解なのかな…?
「私の部屋の扉の前で何をしているのかしら?」
「うひゃぁ!?」
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「うん、美味しいわ」
「よ、よかったです…」ドキドキ
「…悪かったわよ、そんなにびっくりすると思わなかったもの」
幽香さんは、私の作ったスクランブルエッグと焼きベーコンをトーストに乗せて少し不貞腐れながら頬張っている。
「まぁいいわ、ありがとうね」
「よ、喜んでもらえて何よりです!」
何とか朝食を喜んでもらえて、胸をなでおろす。
「あ、そうだ 。今日も出かけるのかしら?」
「あっ…そうだった、結局寝てしまって…」
何もしなくてもいいとは言え、修行中に寝てしまうという失態を犯したばっかりだった。
…結局
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「それじゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
そう言うと、藍里は出かけて行った。
…何だか朝から嬉しいやら不服やら複雑な気持ちだった。
恐らく朝早くから花の世話をするために外に出ているのに彼女は気づいて居なかったのだろう。私の部屋の前でノックしようとして止まっていた。
起こそうか起こすまいか迷って居たのだろうか、でもあんなに驚くことは無いだろうに。
「素直に喜んだらいいのに」ムシャムシャ
「何で貴女が此処に居て私のパンを食べている?」ギリギリギリ
「ギャー!痛い痛い!!少なくともあの子が作り置きした物だから貴女のものでは無いでしょう!?」
「少なくとも貴女が食べていいものでも無いわ」
1人しかいないはずの家に音も無く侵入し、挙げ句の果てにパンを横取りしている紫に制裁を加える。
「で、何かわかったの?」
「いてて…その前に何か言うことは無いのかしら?」
「パン返しなさい」
「形状を留めていないけれどいいかしら?」
「ぶっ飛ばすわよ」
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「来たわね、昼寝姫め」
「…ね、眠るつもりなんて…」
「素直になりなって〜 眠かったら眠ったらいいのよ♪」
「………」
悔しい、すごく悔しい
何だか凄く負けた気分。
「さっ、今日も始めましょうか」
「の、望むところ!」
「何でそんなに力んでるのかな〜?」
「い、いいでしょ!」
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「…すぅ……すぅ…」
「結局眠ってるし」