「……先輩……」
「ん……」
「……先輩、そろそろ起きないと……」
「んん……」
誰かの呼ぶ声で、目が覚める……でも、四葉の声じゃ無いみたい……
え?
目を開けて驚く。私は、布団で寝ていない。しかも、辺りは少し薄暗くて埃っぽい。
あれ?ここ、部屋じゃ無くて土蔵の中みたいな……
「どうしたんですか?先輩?」
「せんぱい?」
そう呼ばれ、声のする方に顔を向ける……
誰?
見た事も無い顔が、目の前にあった。
年は、1~2歳下だろうか?紫がかったストレートヘアの、清楚でおとなしそうな女の子だ。
「本当に、どうしたんですか?先輩?」
どうしたと言われても、あなたに“先輩”と言われるいわれは無いのだけれど……
「……とにかく、ご飯ですから着替えて居間に来て下さいね。」
少し戸惑いながらも、そう言い残して彼女は去った。
私の方は、相変わらず戸惑って動けない。しかし、いつまでもこうしている訳にもいかないと思って立ち上がろうとすると……
え?
何か、体の感じがいつもと違う。体全体はいつもより重く感じて、胸の辺りは妙に軽い。
自分の胸に手を当ててみると……
無い!ある筈の、胸の膨らみが無い!別に豊満な胸では無かったけど、一般女子高校性の標準レベルくらいはあった筈……何で、何にも無いの?
更に、股の辺りにも違和感を感じる。恐る恐る触ってみると……
?!
女には無い筈のものが……ある!
慌てて飛び起きて、土蔵を出る。そこには、全く見た事も無い景色が広がっていた。
広い庭、大きな日本家屋、立派な塀と門、どっかの地主の家か?ここは?でも、今はそんな事より……
大急ぎで家屋の中に入り、洗面所を探す。ようやく見つけて中に飛び込み、鏡に自分の姿を映す。
「こ……これが、私?」
そこには、これも見た事が無い顔が映っていた。
茶髪がかった短い髪、わりと精悍でイケメンの顔付、何処から見ても男の子だ。
「わ……私、男の子になっとるの?」
これは夢か?ほっぺを抓ってみたが、普通に痛い。夢じゃ無いの?
いつまでも呆けていても仕方が無いので、さっきの娘に言われた通り着替えて居間へ行こうと屋敷の中を徘徊した。散々迷って自分の部屋を見つけ、学生服に着替え、また迷って居間に辿り着く。
「おそ~い!何やってたのよ、士郎!」
居間に入ると、さっきの女の子と、もうひとり女性が居た。ショートヘアの、活発でノリの良さそうな人だ。
この人がお母さん?でも、ちょっと若過ぎない?もしかしてお姉さん?
「ご……ごめんなさい……」
とりあえず、下手な事は言わない方がいいと思い、そう答えて食卓に付く。
「どうぞ、先輩。」
さっきの娘が、ごはんをよそってくれる。
「あ……ありがとう……」
それを受け取って、ごはんを食べる。
お……おいしい。四葉の作る朝食より、ずっとおいしい。中々の腕だわ、この娘。
「桜ちゃん!おかわり!」
「はい!」
横の活発そうな女性が、おかわりを要求する。よく食べる人だな、食べるのも早いし……
この女の子は、“桜ちゃん”って言うのか?この男の子の妹……のわけは無いわよね。だって、“先輩”って呼んでるし……
その後の会話で、桜ちゃんは隣の女性を“藤村先生”と呼んでいた。後で部屋で学生証を確認しところ、今の私は“衛宮士郎”という男の子になっているようだ。苗字も違うし、藤村先生はこの家に住んでいる訳でも無かったので、お母さんでもお姉さんでも無い。
今の私、“衛宮士郎”には既に両親も居ないようなので、姉代わりというところなのだろうか?でも、藤村先生は、朝食を食べたらそそくさと学校に行ってしまった。これじゃあ、ただ朝御飯を集りに来ているだけじゃないだろうか?
私は朝御飯の片付けを手伝って、その後桜ちゃんと一緒に学校に向かった。
全く見ず知らずの地で、自分とは性別までも違う人間になって学校に行くというのは非常に抵抗があったが、桜ちゃんに誘われてうまい言い訳もできないので、渋々承諾した。
藤村先生は姉代わりの集りとして、この桜ちゃんは何なのだろう?
何で、朝早くから先輩の家に朝御飯を作りに来てるの?女の勘で分かる。この娘、絶対にこの“衛宮士郎”に気がある。本来の衛宮くんは、この娘のことをどう思ってるの?どう扱ってるの?そう考えると、うかつにものが言えない……
「先輩?」
「え?……は……はい……」
「今日は、何も喋らないんですね。どこか、お体の調子でも悪いんですか?」
「い……いや、そんなこと無いわ……無いよ。」
つい、女言葉が出そうになる。
そんな気まずい感じで、散々怪訝な顔をされながらも、桜ちゃんに案内されて無事学校に辿り着いた。
学校に着くと、朝練があると言って桜ちゃんは弓道場に向かった。桜ちゃんの話では、今の私“衛宮くん”も弓道部だったらしいが、今は辞めてしまったようだ。
「衛宮。」
桜ちゃんと別れた後、後ろから声を掛けられた。しかし、自分の名前では無いので、最初は気付かなかった。
「おい、衛宮!」
ようやく自分が呼ばれている事に気付き、振り向くと、眼鏡を掛けた勤勉そうな男の子が立っていた。
「おはよう、衛宮。」
「お……おはよう……」
挨拶は返したが、その後の言葉が出て来ない。だいたい、名前も分からない。
「今日の昼、生徒会室で待ってるぞ。また、見てもらいたい物があるんでな。」
見る?何を?今の私、あなたの知っている“衛宮士郎”じゃ無いんですけど……
?!
その時、背後に視線を感じて振り向く。すると、校舎の端の方にひとりの女子高生が立っていた。黒髪でツインテールの、顔立ちの整った綺麗な女の子だ。どことなく、桜ちゃんに似ているような気もする。
「げっ!遠坂!」
横の、メガネの男子が言う。
その女の子は、こちらの反応に気付くと直ぐに後ろを向いて立ち去ってしまった。
遠坂というのか……何で、私(この衛宮くん)を見ていたんだろう?
その後は散々だった。
教室に入っては、自分の席が分からず。
クラスメイトに話し掛けれては、まともな返答が返せずに怪訝な顔をされ。
ところどころ女言葉が出てしまい、変な目で見られ。
昼に生徒会室に行けば、いきなりストーブの修理を任され。
それが満足にできないと“お前、本当に大丈夫か?”と心配された。
生徒会室のストーブの件に関わらず、何かと人に頼み事を押し付けられるのが多かった。それに対して嫌そうな顔をすると、“今日はどうしたんだ衛宮?”と心配される。
いったい、衛宮くんってどんな人なの?困った人が居るとほっとけない“お助けマン”なの?
最後に、帰ろうとした時に髪にウェーブの掛かった、感じの悪そうな男子に声を掛けられた。
「よう、衛宮。ちょっと僕の頼み事も聞いてもらえないか?」
私は、もういい加減疲れ果てていた。だから、
「悪いけど、他をあたって。」
と言って、そのまま去ろうとした。
「な……お……おい、待てよ!衛宮!」
「何よっ!」
気が立っていたので、つい声も荒くなる。
「ぼ……僕に、そんな態度をとっていいのか?」
「知らへんわよ!あんた誰や?もうええ加減にしてっ!」
もう男言葉を使うのも忘れ、言いたい事だけ言って私はそそくさと立ち去ってしまった。
その男の子は、茫然と佇んでいるだけだった。
私は、もう頭に血が上って、怒りながら家路に就いた。その日は、生徒は部活動も中止して直ぐに帰宅するように校内放送があった。何でも、近頃猟奇的な殺人事件が頻発していて、未だに誰の犯行かも分からないらしい。ここは私の住んでいた糸守と違ってずっと都会だから、そんな事件も多いのかもしれない。糸守だったら、そんな事件を起こせば直ぐにでも犯人像が浮かんで来るだろう。
真っ直ぐ帰るつもりだったんだけど、朝は桜ちゃんに頼っていたので道を良く覚えていなかった。途中で迷い、どう行っていいのか全く分からなくなってしまった。
このままうろうろしても、帰り着けるとは到底思えなかったので、私は一旦学校に戻る事にした。
学校で、何か理由を付けて先生にでも送ってもらえば。もしかしたら、藤村先生がまだ居るかもしれないし。
それでもかなり迷ってうろうろしていた時、坂道の上にひとりの女の子が立っていた。紫のコートと帽子を着て、銀色の長い綺麗な髪をした外国人と思われる少女だった。年の頃は、小学生高学年くらいか?
「早く呼び出さないと、死んじゃうよ……お兄ちゃん!」
「え?」
すれ違い際に、その子はそう言った。慌てて私は振り向いたが、既に、その女の子の姿は無かった。
な……何だったの?あの子?
学校に着いた時にはもう日は完全に暮れていた。校舎内も全て電気が消えている。考えが甘かった。
項垂れていると、突然、グラウンドの方から金属のぶつかり合うような音が聞こえて来た。
まだ、誰か残っていたの?
淡い期待を抱いて、音のする方に向かう。
そして、金網越しにそれを見て、私は驚愕した。
な……何なの?あれ?
そこでは、二人の男性が争っていた……いや、殺し合いをしていた。
ひとりは赤い服を着た白髪の男で、両手に剣を持っていた。もうひとりは、青い軽装の鎧に身を包み、髪の色も青く、赤い長い槍を持っていた。お互いの力は拮抗しているようで、互いに手数は多いが有効打は出ていなかった。
な……何をしているの、この人達?どう見ても、高校生でも、先生でも無い……
「誰だ?!」
その時、槍の男が私に気付いた。
ま……まずいっ!
私は、一目散にそこから逃げ出した。こんな夜中に殺し合いをしているような人達だ。“見られた者は殺す”くらいの事はやりかねない。
必死で走って、校舎の中に逃げ込む。階段を駆け上がり、生徒会室の前あたりまで来て、息が上がって倒れ込む。
これで逃げ切れたんだろうか?でも、もうこれ以上は……
そう思った時、目の前に突然、青い髪の男が現れた。
「よう。」
恐怖で、声も出せなかった。その次の瞬間……
「うっ……」
強烈な痛みが、胸を貫いた。槍で、胸を貫かれたのだ。
「運が無かったな坊主……ま、見られたからにゃ死んでくれや……」
次第に、意識が遠のいていく。
そんな、私、ここで死んじゃうの?こんな知らない土地で、何があったのかも知らずに……い……いや、死にたくない……
そのまま、私は意識を失った。
「お姉ちゃん!いつまで寝とるん?学校に遅刻するに!」
その声で、ようやく目が覚めた。
でも、俺を起こしてるんじゃないのか?“お姉ちゃん”って言ってるし……
目を開けて、起き上がって、思わず声が出る。
「え?」
何だこの部屋は?俺の部屋じゃ無いし、壁に掛かっている服って女物じゃないのか?
更に視線を右に向けて行くと、開いた襖のところに小学生くらいの女の子が立っている。見た事も無い子だが、さっきのはこの子の声か?
「ごはんやよ、早よしい!」
そう言って、その子は階段を降りて行った。
今の口ぶりだと、お姉ちゃんって俺の事?何で俺がお姉ちゃんなんだ……
その時、体の違和感に気付いた。妙に体が軽く、胸の辺りが重い。視線を下に降ろすと、胸に見慣れない膨らみが……
「な……なんじゃこりゃ?」
胸の盛り上がりもそうだが、自分の恰好にも驚いた。女物のパジャマを着ている。更には、股間にある筈の感触が無い……
部屋にあった姿見のところまで行き、自分の姿を鏡に映す。そこで、また声を上げてしまう。
「え?ええ~っ!」
そこに映っているのは、黒く長い髪の、同い年くらいの女の子の姿だった。
お…俺、女の子になっているのか?何で、どうして?
考えても答えが出る筈も無く、仕方が無いので着替えて下に降りることにした。
着る物は、女物の服しかない。まあ、今は女の姿なんだから、逆に男の恰好をする方がおかしいだろう。考えるのも面倒なので、目の前の高校の制服を着て下に降りた。
居間では、お婆さんと先程の女の子が朝食を食べていた。
家族はこれだけか?父親や、母親は居ないのか?
挨拶をして、俺も食卓に付く。すると……
『皆様、おはようございます。』
突然、鴨居に設置されたスピーカーから声が出る。な……何だ?有線か?
『糸守町から、朝のお知らせです。来月20日に行われる、糸守町町長選挙について……』
と、そこで声が途切れた。お婆さんが、スピーカーのコンセントを抜いたのだ。お婆さんは、そのままテレビの電源を入れる。
「いい加減に、仲直りしないよ。」
妹という子が、お婆さんに言う。仲直り?……誰と?
そう考えていた時に、テレビのニユースが耳に入る。
『1200年に一度という彗星の来訪が、いよいよ一月後に迫っています……』
彗星?何だそれは?そんな話、あったっけか?
その後、会話の中で妹という女の子の名前が分かった。“四葉”という名前らしい。
朝食を食べ終わり、学校に行くため、四葉と家を出る。
少し歩いたところで、四葉は小学校なので別な道に別れて行く。そこからはひとりだが、特に道に迷う心配は無い。学校は、家とは湖を挟んで反対側の対岸の丘の上にあり、目の前に見えている。
非常に小さな町で、随分と山の中にある。ぱっと見渡しても、3階建て以上の建物は殆ど無い。相当な田舎だ。
出る前に、自分の名前と今居る住所だけは確認して来た。今の俺は、何故か“宮水三葉”という同い年の女子高生になっている。ここは岐阜県の糸守町という田舎町だ。
これは夢なのか?現実なのか?
夢にしては、随分意識がはっきりしている。しかし、夢の中で“これは夢だ”と認識できるものだろうか?目が覚めてから、“ああ、やっぱり夢だったのか”と思うものでは無いのか?
「三葉~っ!」
後ろから、呼ぶ声がする。しかし、呼ばれ慣れない名前なので、最初は自分が呼ばれていると気が付かなかった。
「三葉ってば~っ!」
再度呼ばれて、やっと自分が呼ばれている事に気付いて振り返る。
自転車に二人乗りした男女が、既に目の前まで来ていた。
「おはよう、三葉!」
荷台に横座りしている、女の子が挨拶をして来る。
「お……おはよう……」
とりあえず挨拶を返すが……困ったな、名前が分かんないや……
俺が戸惑っていると、
「お前、早く降りろ!」
自転車をこいでいた男が、辛そうに不満を言う。
「いいにん、ケチ!」
文句を言いながら、その女の子は荷台から降りる。
「重いんやさ!」
「失礼やな!」
ふたりが夫婦漫才のような会話をするので、
「ぷっ……」
俺は、つい噴き出してしまった。
「ちょっと、何笑っとんの三葉!」
これで、少し気が軽くなった。しかし、
「あれ?どないしたん、三葉?」
その女の子が、俺の顔を見て聞いて来る。
「え?」
「髪、いつものように結ってないに。」
「ほんまや、それじゃまるで侍やな?」
え?この三葉って娘は、いつも髪を結っているのか?とりあえず長くて邪魔そうだったから、部屋に置いてあった組紐でまとめておいただけだけど。
仕方が無いので、その場は寝坊して時間が無かったと言って誤魔化した。
その後、学校に行ってからがまた大変だった。
席が分からず、一緒に登校した二人に聞いたので怪訝な顔をされ。
会話が男言葉なので、増々怪訝な顔をされ。
やたらと困っている人を助けようとしたんで、更に怪訝な顔をされた。
昼休み、この二人と一緒に校庭の隅で昼食をとったが、その頃には完全に異常な目で見られていた。ただ、スマホの日記等を確認して、二人の名前と仇名だけは覚えた。
「お前、ほんまに三葉か?」
「そ……そうだ……そうよ。」
「何で、いちいち言い直すん?」
どうしても、男言葉が出てしまうため、何度も言い直す羽目になる。
「ひょっとして、狐憑きか?」
「何言うとるん?テッシー。」
「せやかて、おかしいやろ!今日の三葉は。」
「きっと、ストレスが溜まっとんよ。お祭りの事とか、町長選挙の事とか、三葉気苦労大いに。」
俺は何も言えず、ただ黙っているしか無かった。
ようやく学校が終わり、疲れ果てて家に帰って来た。その頃には、もう日は暮れていた。
「ただいま……」
力無く玄関に入って来ると、奥から四葉が寄って来た。
「お姉ちゃん、今日、晩御飯の当番やよ。」
「え?ああ、そう。」
疲れていたが、別に夕飯を自分で作るのはいつもの事なので、直ぐに着替えて台所に向かった。冷蔵庫の中を見て、メニューを決めて準備を始める。すると、四葉が台所に入って来た。
「お姉ちゃん、今日の夕飯は何?」
「ん?ああ、揚げ出し豆腐だ……揚げ出し豆腐よ。」
「え?お姉ちゃんのレパートリーに、そんなのあったっけ?」
「ん?……ああ、この間覚えたから……」
何だ、この三葉って娘、揚げ出し豆腐も作れないのか?
特に意識していなかったが、慣れない女の体で、色々な事に気を使っていたため、自分で思うより疲労が溜まっていたようだ。つい手を滑らせて、包丁で指を軽く切ってしまった。
「痛っ!」
その瞬間、何故か突然意識が飛んでしまった。
「……ぐ……がはっ……」
気付くと、俺は、何故か学校の生徒会室の前に倒れていた。
あれ?いつの間にこんな所に……て、ここは冬木の俺の学校だ。体も……元に戻って……
そこで、強烈な痛みと共に、自分の体の異変に気付く。胸の辺りの服が裂け、胸には大きな傷があった。痛みもかなり残っている。更には、自分の体の周りには大量の血が流れた跡がある。
こ……これは、俺の血か?こんなに血が流れて、何で生きてるんだ?何で傷が塞がってるんだ?……おや?
体の脇に、ハート型の宝石の付いたペンダントが落ちていた。
な……何だ?このペンダントは?いったい、誰がこんな物を?
訳が分からないが、そのまま学校に居る訳にもいかないので、俺は家に帰った。
大分遅くなっていたいたため、既に、藤姉と桜は帰った後だった。桜は、いつものように夕食を用意してくれてあり、手紙が添えてあった。それを読もうとした時、
?!
異様な殺気を感じた。それと同時に、天井から槍が降って来た。俺は、紙一重で何とかそれを交わす。
「な……何だ?」
「手前、何で生きてんだ?」
槍と一緒に、青い軽装の鎧を着た男が降って来た。青い髪で、目付きの鋭い男だ。しかし、過去に会った記憶は無い。
「“何で生きてる?”って、どういう事だ?」
俺は、その男に尋ねる。
「何言ってやがる!さっきぶっ殺されたのを忘れたのか?」
さっき?ぶっ殺された?何を言ってるんだこいつは?
「まあいいや、どうせまた殺すんだからな。」
そう言って、男は矛先をこちらに向ける。
ま……まずい、な……何か武器は?
俺は、武器になりそうな物を探す。そして、藤姉が用意した細工入りのポスターを見つける。
「今度こそ迷うなよ、坊主。」
男の槍が、再び俺を襲う。俺は、すかさず細工入りポスターを拾い上げる。
「トレースオン!」
強化したポスターで、何とか槍を受け流す。
「ほお?変わった芸風だな?……ははあ、微弱だが魔力を感じる。心臓を穿たれて生きてるってのはそういう事か?少しは楽しめそうじゃねえか。」
さっきから、何を言ってるんだこいつは?全然、言ってることが理解できない。
そのまま攻撃を受け流していたが、防戦一方で埒が明かない。部屋の中から庭に出て、逃げ回っていたが徐々に追い詰められていく。そして、わき腹に強烈な蹴りを喰らい、土蔵の中まで吹き飛ばされた。
「ぐわああああああっ!」
土蔵の棚に叩きつけられ、激しい痛みが体を襲う。
「しかし、分からねえな?機転は利くが魔術はからっきしときた……もしや、お前が7人目だったのかもな?ま、だとしても、これで終わりなんだが……」
槍の男が俺の前に立ち、止めをさそうとする。
だめだ!もう、逃げられない!だが……俺は生きて、義務を果たさなければ……こんなところで意味も無く、死んでたまるかっ!
その時、土蔵の奥にあった、誰が書いたのか分からない魔方陣から激しい光が発せられた。
「何?」
更に自分の左手の甲に、赤い何かの紋章が浮かび上がる。
そして、魔方陣の中から人影が飛び出し、今にも俺を突き刺そうという槍を弾き、槍の男を土蔵の外に吹き飛ばした。
「な……何だ?」
突然俺の前に、ひとつの人影が現れた。
青い服に銀の鎧を纏い、ブロンドの髪をした男……いや、男では無かった。ふり向いたその顔は、とても美しい女性の顔だった。その女性は、俺に向かってこう言った。
「問おう、あなたが私の、マスターか?」
遂に書いてしまいました。
今迄何本か“君の名は。”と他作品のクロスを書いてきましたが、両方のメインストーリーを平行させるクロスは初の試みです。まだ構想が完全に纏ってませんが、果たしてうまく纏められるのか?
この作中、言葉の訛りは誰も問題視しません。
これは、Fate / stay nightが関西地方をモデルにしたアニメなのに、全く登場人物の言葉が訛っていないからです。それで、“君の名は。”側だけ訛りが指摘されるのもおかしいと思ったので。
但し、“君の名は。”側の既存登場人物は訛ってます。そうしないと、キャラのイメージが変わってしまうんで。
<11/12 一部修正>
イリヤの登場シーンを書き忘れていたので、追記修正しました。