Fate / your name   作:JALBAS

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バーサーカー戦が終わって、今回はちょっと中休みです。
大ピンチのところで、糸守に帰ってしまった三葉。
当然、その後のことが気掛かりでなりません。
そして、ようやく入れ替った時には、環境が大きく変わっていました。




《 第十話 》

バーサーカーとの死闘の翌朝は、入れ替わりは無かった。

俺は、自分の部屋の布団の中で目覚めた。

「士郎?起きてますか?」

襖の向こうから、セイバーの声がした

「ん?ああ……」

俺は、床についたまま返事をする。すると、セイバーが入って来る。

「どうしたんだ?」

「いえ……ただ、夢を見てしまったもので……」

「夢?」

「ううん……うるさいなあ……」

セイバーの話の途中で、俺の布団の中から声がする。

『えっ?』

布団を捲ると、そこには、俺の腰の辺りに抱きついて寝ているイリヤの姿が……

「うわっ!」

「むっ!」

一瞬、セイバーがムスッとしたように見えた。

 

その後、俺はセイバーに手伝ってもらって朝食の用意をしていた。そこに、遠坂が起きて来た。まだ、寝巻きのままだ。

「ふぁ~っ、おはよう……ごめん、牛乳飲ませて……」

「おはよう。」

「ん?……何、朝から凝ってるじゃない?」

「そ、和風ハンバーグ。」

そんな、緊張感の無い遠坂の様子に、セイバーが苦言する。

「だらけてますね、凛。」

「バーサーカーが居なくなったんだから、だらけもするわよ。残りのサーヴァントなら、今のセイバーなら余裕で撃退できるし……」

「戦いにおいて、確実はありません。」

「謙遜、謙遜、アーサー王の手に掛かっちゃ、そんじょそこらの英雄なんて、十把一絡げでしょ?」

「と……遠坂!お前、セイバーが誰かって気付いてたのか?」

「あれだけの聖剣を使える英雄なんて、ひとりしかいないもの……」

 

準備が終わり、朝食を取る。

食卓には、俺とセイバーと遠坂がついているが、食事は、もうひとり分用意してある。

「士郎、あなた、これからどうする気よ?」

食べながら、遠坂が俺に聞いて来る。

「え?どうするって、何をだよ?」

「奥の間に寝ている、ぶっそうなお子ちゃまの事よ!」

「正確には、士郎の部屋です。」

セイバーが、間髪入れずに訂正する。

「へ?」

「今朝、布団の中に潜り込んでいました。」

すると、遠坂はいやらしい目付きで言って来る。

「まさか……士郎に、そんな趣味があるとは思わなかったわ。」

「さらっと怖い事言うなよ!いつの間にか、入り込んでただけだ!」

「へえ~っ?」

「お前な!」

「士郎、私も言いたい。イリヤスフィールを保護するなど、士郎はどうかしています。」

セイバーも、俺に不満をぶつけて来る。

「放っとく訳にはいかないだろう、イリヤはまだ子供なんだし。」

「あんな目に合わされて、まだそんな事を言う訳?」

「ちゃんと言いつけてやるやつが居れば、イリヤはもうあんな事はしない。それに、俺はマスターを殺すために戦うんじゃない!戦いを終わらせるために、戦うだけだって。」

俺の言葉に対し、遠坂は、少し考えた後に呟くように言う。

「でも……あの子は危険よ。」

「言ってなかったけど、俺、この間非戦闘時のイリヤに会ったんだ。」

「え?」

「マスターじゃないあいつは、何処にでも居る、無邪気な唯の子供だった。」

「それで、情に流されたっての?」

「そんなんじゃない……ただ、もし俺に妹がいたら、あんな感じかなって……」

しばしの沈黙の後、セイバーが口を開く。

「確かに……あの子は、士郎の妹と言えなくもないかもしれません。」

『え?』

「あの子の父親は、衛宮切嗣ですから……」

「何だって?!」

「せ……セイバー、何であなた、そんな事知ってるのよ?」

「そ……それは……」

しかし、セイバーはその後口を閉ざしてしまった。

そこに、イリヤが入って来る。一瞬遠坂と睨み合うが、俺の横に来て、スカートの裾を上げて挨拶をして来る。

「礼を言います、セイバーのマスター。敵であった我が身への気遣い、心より感謝致しますわ。」

その振る舞いだけ見ていると、とても11~12歳の少女とは思われない。

ただ、セイバーも遠坂も、無言で反応が無い。

「な~んてね……わあ、いいニオイ、これ私の分?」

いきなり見かけ通りの少女に戻り、俺の用意した食事に見とれる。

「嬉しいっ!」

そして、俺に抱き付いて来る。

「離れなさい!この無礼者!」

思わず、イリヤを叱咤するセイバー。

「やあねえ、お食事時に……本当に無作法なんだから。」

そう言って、イリヤは俺から離れて食卓につく。そして、どんどん食べ初めてしまう。

「士郎、イリヤスフィールを匿うなど、百害あって一利無しです!」

「危険って事は無いだろう!イリヤはもう、マスターじゃ無いんだから。」

その俺の言葉を、遠坂が否定する。

「いい、士郎?そいつはまだ、マスターなのよ!サーヴァントを失っても、令呪がある限りマスターだって教えたでしょ?それは、サーヴァントも一緒。マスターを失っても、消えるまで幾らか猶予がある。そんな逸れサーヴァントと、そいつが契約したら……」

すると、そこまで黙々と食べていたイリヤが、ナイフとフォークを置く。

「私、他のサーヴァントとなんか組まないわ……イリヤのサーヴァントは、ずっとバーサーカーだけなんだから……」

哀しそうな目で、イリヤはそう言った。

それでもセイバーは不満そうだったが、何とか、イリヤをこのまま家に置く事を認めさせた。

その後、イリヤにクロエの事を聞いてみた。クロエの態度を思い出すと、少し怖い気もしたが……しかし、イリヤはクロエの事を全く知らなかった。クロエの方は、あんなにイリヤに遺恨がありそうだったのに……

 

夜、土蔵でいつもの鍛錬を行っていると、セイバーが中に入って来た。

「士郎、今夜は、あまり根を詰めない方が良いです。」

「ん……ああ、分かってる……そう言えば朝、夢見たって言ってたよな?」

「サーヴァントは、夢を見ません。私が見たものは、あなたの夢、あなたの過去です。マスターとサーヴァントは、精神的にも繋がっている。結び付きが強くなれば、相手の過去を垣間見てしまう事もある……許して下さい。」

「そんなのセイバーのせいじゃ……あ、それより、その夢って?」

「大きな火事でした。その中で、あなたは……」

俺は、10年前の災害を思い起こした。炎の中を必死に歩き、もう駄目だと諦めかけた時、親父に……

「……士郎は、私と似ています。だから、あなたの間違いも分かる。このまま進めば、どうなってしまうかも……同じだから分かってしまう。」

「間違った事なんでできないだろ?俺は、親父みたいな正義の味方に……」

「だから、それが間違いなのです。」

「え?」

「以前、凛が言っていました。士郎の自己献身は異常だと。あなたは、始めから自分の命が、勘定に入っていないのでは無いですか?」

俺は、何も言えなかった。セイバーは、哀しそうな目で俺を見詰め、最後にこう言った。

「私は、聖杯を手に入れなければならない。けれど、士郎にも聖杯が必要です。私があなたに呼び出されたのは、必然だったのです。」

 

 

 

 

今朝も、自分の体で目覚めた。

あの後、いったいどうなったんだろう?私は結局、セイバーの治癒中に疲れて寝てしまった。目が覚めた時には、もう糸守だった。

 

バーサーカーは、倒せたのかな?

衛宮くん、セイバー、遠坂さん、皆無事かな?アーチャーは、どうなったんだろう?

もしかして、今日入れ替らなかったのは、もう衛宮くんが……

 

「どうしたん、お姉ちゃん?全然箸が進んどらんに?」

四葉が心配して聞いてくるが、不安で、ご飯も喉を通らない。

 

通学中も、その事ばかり考えていた。

「ほんまにどうしたん、三葉?」

サヤちんが盛んに心配して聞いてくるが、何も答えられない。

衛宮くんには、電話もメールも通じない。だから、入れ替わりが起こらないと確認のしようが無い……いや、直接冬木に行くという手もある。でも、行ってもう誰も居なかったらと思うと、とても行く気にはなれない。

 

もし、衛宮くん達がどうかなってたら……もう、入れ替わりは起こらない。もう、あんな怖い目に合う事も無い……それは、嬉しい事じゃ無いの?どうして、こんなに心が痛むの?私……

 

「オハヨウございマス!」

そこに、クロエさんも合流して来る。

「アレ……ミツハさん、ゲンキないデスね?ドウカしまシタか?」

塞ぎ込んでいる私を、クロエさんも心配してくる。でも、今の私は、クロエさんの顔をまともに見られない。クロエさんを見ると、ついあの“イリヤ”という子を思い出してしまい、余計に胸が痛くなってしまう。

そういえば、衛宮くんの残したメッセージに書いてあった。クロエさんにイリヤとの関係を聞いたところ、激昂させてしまったらしい。なので、私からはクロエさんには、この話はしていない。クロエさんも、前日にそんな事があったとは思えないくらい、私には普通に接してくれている。

「ほう?どうやら、うまく取り入ったみたいやな?」

クロエさんと一緒に登校していると、例によって町営駐車場のところで屯っている松本に、また嫌味を言われる。しかし……

「お……おい?」

松本もびっくりするぐらい、無反応で私はその前を通り過ぎた。

嫌味なんか耳に入らないくらい、私は思い詰めていた。

 

その日は一日、何をしても身が入らず、何をしたかも殆ど覚えていない。

結局、夕飯も殆ど喉を通らず、お風呂にも入らず、早い時間に寝てしまった。

明日こそは、入れ替わりが起こって欲しいと願いながら……

 

 

「……はっ?」

目が覚めて、私は飛び起きた。

 

ここ……衛宮くんの部屋だ!わたし……衛宮くんになってる……よ……良かった……

 

私は自分の……いや、衛宮くんの体を抱きしめて、涙を流していた。

「助かったんやね……皆……衛宮くんも……生きてた……」

「先輩?」

そこに、襖の向こうから声を掛けられる。

 

え?こ……この声?

 

「朝食の用意ができました。そろそろ、起きて下さい。」

桜ちゃんだ。もう退院して、また朝食を作りに来てくれているのだ。

「は……はい……」

返事を返すと、桜ちゃんは居間に戻って行く。

私は涙を拭い、直ぐに着替えて居間に向かう。

「おはよう……」

そう言って、居間の襖を開ける。皆の朝食を並べる桜ちゃん、姉代わりの集りの藤村先生、セイバーも、遠坂さんも、イリヤも、皆居る……

 

え?……イリヤ?!

 

何と、遠坂さんの隣にイリヤが居た。ちゃっかりと、朝食を食べながら。

「い、い、い……イリヤ?な……何で、あんたがここに?」

驚く私に、イリヤはきょとんとして首を捻る。すると、遠坂さんが、はっとして立ち上がり、私の手を引く。

「ちょっと、来なさい!」

「え?いや、ちょ……ちょっと……」

また、衛宮くんの部屋に逆戻りして、遠坂さんが聞いて来る。

「もしかして……三葉なの?」

「は…はい、そうやけど……」

「そう……士郎のメッセージは、まだ見て無いのね?」

「は……はい、早く、皆の顔が見たかったから……でも、良かった。皆、無事だったんですね?」

「あ……そっか、昨日は入れ替わりが無かったから……心配してくれてたのね?」

そう言って、遠坂さんは優しく笑う。

「はい……でも、安心しました。」

「ふふ……ありがとう。」

そこで、私ははっとする。

「そういえば、遠坂さんアーチャーは?」

「無事よ、でも、相当深手を負ったから、当分実体化はできないわ。」

「……そうですか……」

 

ちょっと話をしたかったんだけど……今は、無理か?

 

「あ……それより、何でイリヤが衛宮くん家に居るんですか?」

「ああ……それはね……」

 

遠坂さんは、これまでの経緯を説明してくれた。

私も、イリヤにはひどい目に合わされたけど、衛宮くんの言う事も良く分かった。私にも、四葉という妹が居るから……だけど……

「遠坂さん、まさか衛宮くん、危ない趣味は無いでしょね?」

「え?ん~っ……そういえば、昨日の朝、イリヤを抱いて寝てたそうだから、もしかして……」

「ええ~っ?!」

「じょ……冗談よ!イリヤが、勝手に潜り込んだの……あの子、相当士郎を気に入ってて……」

「それって、許婚やから?」

「許婚?……何、それ?」

「あの子、私に言ったんです。衛宮くんを、10年待ったって。」

「ああ……それは、聖杯戦争の事よ。前回の聖杯戦争が、10年前だったから。」

「でも、衛宮くんを昔から知ってたみたいやし……」

「それは、あの子が士郎の義理の父親、衛宮切嗣の娘だからよ。」

「ええっ?」

「セイバーが、教えてくれたんだけどね。」

「それって、どういう事なんですか?何で、日本人の衛宮くんのお父さんが、アインツベルンと……」

「セイバーは口を閉ざしちゃったけど、おそらく、聖杯戦争に関係していると思うわ。」

 

イリヤは、衛宮くんの義理のお父さんの娘……何で、セイバーはそれを知っていたの?セイバーとイリヤ……いえ、衛宮くんのお父さんとの間に、何かがあったの?

 




セイバーは、10年前に衛宮切嗣のサーヴァントでした。しかし、切嗣はセイバーとの接触は殆どせず、アイリスフィールがマスター代行という感じでした。
そのアイリから、セイバーもイリヤの事は聞いていたと思います。セイバーはアイリに心を開いていました。その娘のイリヤに対して、アニメの原作のセイバーの態度は冷たすぎるように感じました。(まあ、Fate Zeroは後から作った話だから、矛盾もあるでしょうけど)

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