Fate / your name   作:JALBAS

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自分の体で目覚めたのに、目の前にセイバーが居る事に驚く三葉。
一方、凛達も、糸守での聖杯戦争には驚愕します。
また、それに興味を示す第3者が……
そして士郎は、意外な形で糸守の彗星災害の事を知る事に……




《 第十五話 》

 

「おはようございます、マスター。」

「え?……せ……セイバー?!」

朝起きると、私の布団の横に、セイバーが正座をしていた。

私は、目を疑う。慌てて、自分の体を見る。どう見ても、私の体だ。胸を揉んでみる。

 

か……感じる……ちゃんと、有る……

 

そのまま、手を股間に持っていく。

 

無い……ちゃんと、無い……

 

周りを見渡しても、自分の部屋に間違い無い。ここは、間違い無く糸守だ。

「どうしたのですか?三葉?」

 

なのに、何で、セイバーがここに居るの?

 

私は、慌ててスマホを見る。

 

衛宮くんからのメッセージは……あった!

 

そこで、ようやく理解できた。何故、ここにセイバーが居るのか……

でも、とても信じられない内容だった。冬木の聖杯戦争のルーツが実は糸守で、彗星最接近の祭りの夜に、ここで聖杯戦争が行われるなどと……

おまけに、私と衛宮くんの間には、3年の時差まであったのだ。

 

朝食の席では、四葉が怪訝そうにセイバーを見詰めている。

四葉には、聖杯戦争の事は何も知らせていない。セイバーは、お婆ちゃんの遠い親戚で、昨夜遅くにここに着いて、1週間程滞在すると言ってあるそうだ。でも、何の前振りも無くいきなりそんな事を言われても、おかしいと思うのは当然だ。

セイバーは、私のお古の巫女の羽織袴を着ている。私とほぼ同じ体形なので、よく似合っている。

お婆ちゃんは、ずっと不機嫌で、セイバーと顔も合わせない。衛宮くんのメッセージにも書いてあったが、セイバーの事を気に入らないようだ。望んでいた“宮本武蔵”で無かったという事より、昔の日本人に有りがちな“外国嫌い”だ。

 

朝食を終え、学校に行こうとしたら、セイバーも付いて来ようとする。

私が断ると、

「マスターをひとりにするのは危険です。他のサーヴァントに、いつ狙われるか?」

と言って来る。

「あ……あのね、セイバー……」

ここの聖杯戦争は、冬木とは違い、サーヴァントがマスターを襲う事はできない。何より、戦う日時は決められていて、それ以外での戦闘行為は一切禁止されている事を説明して、家に残ってもらった。

最も、セイバーと何も話そうとしないお婆ちゃんと一緒では、セイバーも気が休まらないだろうけど。

 

 

 

 

「糸守で聖杯戦争?しかも、呼び出されたサーヴァントがセイバーですって?!」

俺から、昨夜の糸守での事を聞いた遠坂が、素っ頓狂な声を上げる。

「本当なの?セイバー?」

真っ先に、セイバーに問い詰める。しかし……

「いいえ、そんな記憶はありません。」

「て、言ってるけど、士郎?」

「いや、あれは間違い無くセイバーだった。実際に会って、話して来たんだから。」

「しかし、私は3年前に召喚などされていません。この間も話しましたが、前回聖杯戦争に参加したのは10年前です。」

「う~ん……」

俺達は、頭を抱える。

「もしかして……」

遠坂が、思い付いたように言う。

「入れ替わりが発生した事で、歴史が変わろうとしているのかしら?」

「何?どういう事だ?」

「本来は、三葉のお婆さんが言っていたように、呼び出された英霊は“宮本武蔵”だった。でも、士郎と三葉の入れ替わりが始まったから、その歴史が捻じ曲げられた……だとしたら、入れ替わりの原因にも関係しているかもしれないわ。」

「そ……そうか……今の俺達の歴史では、セイバーは3年前に呼び出されていないって事か?」

「でも、まさか、士郎と三葉の入れ替わりに3年の時差があったなんて……そんな大事な事、何で今迄気が付かなかったのよ?」

「仕方が無いだろう、聖杯戦争の真っ最中で、余裕が無かったんだし……」

「まあ、お間抜けのマスターの士郎じゃ仕方ないか?」

「お前な……」

「でも、糸守が聖杯戦争のルーツだなんて、私も聞いた事が無いわ。遠坂家が知らないのに、間桐家が知っていたなんて癪ね。」

「間桐といっても分家だそうだ。本家に見限られ、冬木の聖杯戦争からは早々に締め出された。それで、古い文献を引っ掻き回して、糸守の聖杯戦争の事を知ったらしい。」

「教会は、この事を知っているのかしら?」

「探りを入れてみるか?例の、10年前のアーチャーのサーヴァントの事も聞きたいし。」

「入れ替わりの事とか、余計な事は言っちゃ駄目よ。あいつは、胡散臭い男だから。」

「分かった。」

 

 

俺とセイバーは、言峰教会に行った。

相変わらず、セイバーは教会の外で待っている。言峰綺礼は、10年前の聖杯戦争にも参加しており、セイバー達と敵対関係にあった。特に、親父とイリヤの母親のアイリスフィールは、要注意人物として警戒していた。だからセイバーも、顔を合わせたくは無いようだ。

「10年前の聖杯戦争から、生き残ったサーヴァント?」

「そうだ、セイバーが確認しているから間違い無い。」

「そんな筈は無い。聖杯戦争が終結すれば、サーヴァントは現世には残れない。」

言峰は、即座に否定する。

「しかし、現に残っている。俺達だって見ている。」

「ううむ……考え難いが、分かった、調べておこう。何か分かったら、そちらに連絡する。」

そう言って、俺に背を向け、奥へ歩いて行こうとする。そこで、俺はもうひとつの質問をする。

「ところで、冬木市以外でも、聖杯戦争が行われた事はあるのか?」

「何?」

言峰は、足を止めて振り返る。

「例えば、3年前に、岐阜県の糸守って町で、聖杯戦争が行われたとか?」

「何の冗談だ?聖杯戦争は、この冬木の霊脈によって成り立っている。この地以外で、聖杯戦争が行われるなど有り得ない。」

俺は、しばらく言峰の顔を見詰めていた。この様子では、本当に知らないようだ。

「そうか……邪魔したな。10年前のサーヴァントの事、分かったら教えてくれ。」

そう言って、俺は教会を後にした。

 

「中々興味深い話だな。」

士郎が立ち去った後、教会の奥から、ひとりの男が現れる。

黒を基調のカジュアルな服装をし、髪の毛も逆立ってはいないが、柳洞寺で士郎達の前に現れたサーヴァントであった。

「どこがだ?この国で、冬木以外の地で聖杯戦争など聞いた事が無い。」

綺礼が答える。明らかに、このサーヴァントと顔見知りである。

「3年前というのがな……覚えているか?3年前の、あの事件を。」

「3年前?……いったい、何があったのだ?」

「人間の記憶は薄いな……“ティアマト”とかいう彗星の破片が、山奥の僻地に墜ちたであろう。」

「ティアマト彗星?……ああ、そういえば、あの彗星の破片が墜ちたのは……糸守?!」

「そうだ、そして、確かにあの時に大きな魔力の流れを感じた。直ぐに消えたので、特に気にも留めなかったがな。」

「では、本当に糸守で?」

「それは分からんがな?もし本当なら、何か痕跡が残っているやもしれん。」

その男は、そのまま出口に向かって歩いて行く。

「行くつもりか?」

「この目で見て来るのが一番であろう?」

 

 

その頃、衛宮家では、凛が衝撃の事実に気付いていた。

「そ……そんな……」

ネットで、ティアマト彗星を検索し、3年前にその破片の墜落により、糸守が崩壊した事実を確認したのだ。

「じゃ……じゃあ、三葉は3年前にもう……まさか?これが、入れ替わりの理由だったの?」

 

 

その日の夕方、俺とセイバーは陸橋の近くの川辺に来ていた。

河口付近に、船の残骸が残っている。セイバーの話では、10年前の聖杯戦争の時のものらしい。前回の名残が、まだかなり残っているようだ。

その残骸を見ながら、俺は言う。

「聖杯に願いを託すのは、本当に正しいのかな?」

「えっ?」

「どんな願いでも叶う……本当に、そうなんだろうか?実際に、まだ誰も聖杯で願いを叶えてはいないんじゃ無いのか?それで、どうしてそんな事が保証できるんだ?」

「それは……」

「前に、セイバーは俺に言ったよな。俺は間違ってるって、俺には聖杯が必要だって……でも、俺は、そんな不確かなものは欲しく無い。俺は、自分が間違ってるとは思わない。」

「士郎……」

「俺は、自分のやって来た事、これからやる事を後悔しない。誰かのためになりたいという、思い自体が間違いの筈は無いから……」

 

「こんな所に居たのか、探したぞ!」

突然、背後から声を掛けられ、俺達は振り向く。

「お……お前は?」

格好は違うが、そこに立っていたのは、あの10年前のアーチャーのサーヴァント、ギルガメッシュだった。

「どうだセイバー、そろそろ答えは出たか?」

「ふざけるな!私は、お前の戯言に応じる気など最初から無い!」

「まだ、そのような事を言っておるのか?まあよい、今宵は、そんな話をしに来た訳では無いからな。」

「何だと?」

ギルガメッシュは、俺の方を向いて問い掛けてくる。

「小僧、糸守の聖杯戦争について、お前の知っている事を全て話せ。」

「何?な……何でお前がその事を……まさか、あの時、教会に居たのか?」

「居たも何も、今の我の根城はあそこだからな。」

 

や……やっぱり、言峰とこいつはグルだったのか?

 

「そんな事はどうでもよい。糸守の聖杯の話だ。いったい何だあれは?あんな物では、霊脈から霊気を吸い取る事もできん。そもそも、糸守には霊脈すら無いがな。使い方も全く分からん。」

「な……何を言ってるんだ?まるで見て来たみたいに……」

「見て来たから言っておるのだ。」

「お……お前、糸守に行ったのか?」

「さっきから、そう言っておるであろう。」

「まさか……お前、三葉や、糸守の人に手は出していないだろうな?」

「手を出す?……居ない者に、どうやって手を出すのだ?」

「居ない?……居ないとは、どういう事だ?」

「今の糸守には、誰も住んでおらん。お前こそ、何を言っておる?」

 

な……何を言ってるんだ?こいつは……糸守に、誰も住んでいない?そんな、馬鹿な?

 

「まさか、知らずに言っておったのではあるまいな?3年前の惨劇を。」

「3年前の……惨劇?」

「本当に、人間の考える事は分からん……ティアマト彗星の破片の落下で、糸守は崩壊したであろう?」

「な……何だって?」

 

糸守が崩壊?3年前?ティアマト彗星の破片の落下?じ……じゃあ、三葉は?

 

俺は、あまりの衝撃に、その場に蹲ってしまう。

「士郎?」

セイバーが、心配して寄り添って来る。

「呆れたものだ。本当に知らなかったようだな……まあよい、そのような些細な事より、今は聖杯の話だ……」

 

些細?……些細な事だと?

 

俺の中で、何かが弾けた。

「先の、我の質問に答えよ。糸守の聖杯……」

「黙れ!」

俺は、ギルガメッシュの言葉を遮って叫んだ。

「何?」

「お前に話す事なんか、何も無い!俺達の前から消えろ!」

ギルガメッシュの、顔色が変わる。

「貴様……誰に向かって口を利いているか、分かっておるのか?」

「世界最古の英雄王だろうが、何だろうが知った事か!」

「……この雑種が、少し痛い目を見ぬと、己の立場が分からぬようだな?」

ギルガメッシュの背後に、時空の歪が生じ、幾つもの武器が顔を出す。

「トレース・オン!」

俺は、両手に剣を投影する。そして、ギルガメッシュに向かって突進していく。

「いけない!士郎!」

「うおおおおおおおおっ!」

「分を弁えよ!雑種!」

無数の武器が、俺に向かって来る。俺は、両手の剣でそれを弾くが、流石に数が多すぎる。剣は砕かれ、その身は何本もの剣に貫かれた。

「うぐっ……」

「しろおおおおおおおっ!」

俺は、そのまま意識を失った……

 

崩れ落ちる士郎の前で、ギルガメッシュは言う。

「安心しろ、命までは取らん。まだ、聖杯の事を聞いておらぬからな。」

「きさまああああああっ!」

激昂したセイバーが、剣を抜いてギルガメッシュに向かって行く。

「今はお前に用は無い、控えろ!セイバー!」

再び、ギルガメッシュの背後から無数の武器が繰り出され、今度はセイバーを襲う。

「はあっ!」

セイバーは、向かって来る武器を剣で弾きながら進むが、それでも全てを弾く事はできず、次第にその身を貫かれて行く。

「うぐっ!」

結局、ギルガメッシュの元まで到達する事はできず、ダメージを喰らい蹲ってしまう。

「無駄な事は止めろ、お前では我には勝てぬ。」

「ならば!」

セイバーはよろけながらも立ち上がり、聖剣のカモフラージュを解く。そして、それを上段に構える。

「はあああああああっ!」

魔力が高まり、聖剣が激しく輝く。

「ほう、そう来るか……ならば、我も奥の手を出すとしよう。」

ギルガメッシュは、姿を黄金の鎧を纏った姿に変える。同時にその金色の髪も逆立つ。

ギルガメッシュの背後の武器が消え、背後の時空の歪みがひとつになる。その中から、今迄のどの武器よりも巨大な剣が顔を出し、ギルガメッシュは右手でそれを引き抜く。

その剣は黒く、赤い渦のような螺旋が付いている。そして、ドリルのように回転を始める。

セイバー、ギルガメッシュは、ほぼ同時に剣を繰り出す。

「エクス……」

「エヌマ……」

「カリバアアアアアアアッ!」

「エリイイイイイイッシュ!」

ふたつの凄まじい剣撃が、ふたりの中央でぶつかり合う。最初は互角かと思われたが、徐々にエヌマ・エリシュのそれが、エクスカリバーを凌駕していく。

「ば……ばかな……」

そして、完全に押し戻され、セイバーはエヌマ・エリシュの剣撃に飲み込まれてしまう。

「うわあああああああっ!」

 

 

 

 

ん?ここは……何処?

痛っ!……か……体中が痛くて……

 

私は、俯せに倒れているみたいだが、痛みで直ぐには起き上がれなかった。

ただ、衛宮くんに入れ替わっている事は分かった。この痛みは、かなりの深手を負っている。敵のサーヴァントに、襲われているのだろうか?

 

せ……セイバーは?

 

目を開けると、屋外だった。陸橋の近くの、川辺のようだ。痛みに耐えて顔を上げると、目の前には黄金の鎧を纏った、金色の逆立った髪の男が立っている。

「目が覚めたか?雑種……もう、懲りたであろう。さっさと、我の質問に答えよ。」

 

質問?な……何を言っているの、こいつ?……何か、異様に偉そうなんだけど……

 

私は、激しい痛みに耐え、何とか体を起こす。そして、辺りを見回す。その私の目に、信じられない光景が飛び込んで来る。

セイバーが……セイバーが、血まみれでそこに横たわっていたのだ。

「せ……セイバー?……セイバアアアアアアアアアッ!」

 






セイバー敗れる。
原作では、この後士郎がアヴァロンを投影する事でピンチを脱するのですが、三葉に入れ替わってしまったので、もうそれもできません。
果たして、セイバーと三葉の運命は?
また、衝撃の事実を知って糸守に飛んだ士郎は?

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