殆どFate / stay night原作そのまんまですが、この導入部が無いとFate側の話が中途半端になってしまうので、ご容赦願います。
「いやっ!死にたく無いっ!」
「何言うとんの?指先をちょっと切ったくらいで大袈裟な。」
「え?」
気が付くと、呆れたような顔で四葉が私の顔を覗き込んでいた。
体を起こして、辺りを見渡す。いつもの私の家の、台所だ。私、台所で倒れていたの?
左手の指に軽い痛みを感じ、人差し指を見る。指の先に、絆創膏が貼られている。
「ほんまにびっくりしたわ。“痛い”って叫んで倒れるから、どんな大怪我したかと思えば、ちょっと指先切っただけやないの。そんなんで気絶するなんて、お姉ちゃんそこまでデリケートやった?」
何か良く分からないが、私は夕飯の準備をしていて、誤って指先を切って気絶していたらしい。じゃあ、さっきまでのは、気絶している間に見た夢だったの?体を見ても、普段の私の体だ。
あれ?だけど、気絶するまで、私何してたの?
今日の、これまでの記憶が無い。あるのは、変な夢の記憶だけだ。
しかし、いくら考えても思い出せないので、とりあえず夕飯の準備を進める事にした。何を作ろうとしていたのかも思い出せないが、まあ、今から考えればいいだろう。
出ていた材料を片付けて、別な材料を出す私を見て、四葉が私に聞いて来る。
「あれ?お姉ちゃん、揚げ出し豆腐作るんや無かったの?」
「揚げ出し豆腐?私、そんなもん作れへんよ。」
「え~っ?だって、さっき“この間覚えた”って言うたやない。」
「記憶にございません。」
冷たく突き放したが、実際に記憶が無いのだから仕方が無い。
食事の後、部屋に帰って気付いた。髪を結っていない。ただ、組紐でひと纏めにしているだけだ。
おかしいな?何で、朝結わなかったんだろう?
そして、また今日一日の記憶を辿る。思い出せるのは、男の子になった変な夢の事ばかり。
何か、不思議な夢だったな。妙にリアルで、意外と鮮明に覚えている。衛宮くんって、結構イケメンだった。いつも“来世は東京のイケメン男子に”なんて思ってるから、あんな夢見たのかな?東京じゃ無かったけど……
でも、相当なお人よしだよね。人に何を頼まれても、嫌な顔ひとつしないで引き受けるなんて……あれじゃ“便利屋”としてこき使われるだけじゃない。
そうやって思い起こしている内に、夜の学校で見た殺し合いまで思い出してしまった。自分が槍で一突きにされる瞬間をリアルに思い出し、体が震え出した。
怖くなって、その日は早めに寝てしまった。
「問おう、あなたが私の、マスターか?」
突然現れて、俺を助けてくれた女騎士が、俺に問い掛けて来る。
「ます……たあ……?」
俺は、何が何だか分からず答えられない。
「サーヴァント、セイバー、召還に従い参上した。マスター、指示を。」
その騎士は俺に指示を仰ぐが、俺は依然として呆けていた。
「うっ!」
突然、手の甲の紋章が疼き出し、俺は左手を胸の前で抑える。それを見た騎士は、
「これより我が剣はあなたと共にあり、あなたの運命は私と共にある。ここに契約は完了した。」
そう言って、土蔵の外に飛び出して行く。
「け……契約って、何の?」
俺は、彼女を追って土蔵を出る。
?!
そこでは、既に彼女と槍の男の戦闘が始まっていた。
彼女は、男の槍の攻撃を剣で弾いていたが、彼女の腕からは白いモヤが剣のように伸びているだけで、剣の姿は見えなかった。
「み……見えない、剣?」
俺は、その凄まじい攻防を、呆然と見ているだけだった。
どちらかといえば女騎士の方が優勢だった。見えない剣に、槍の男は間合いが掴み辛いようだった。彼女の剣を交わし、槍の男は少し離れて距離を取る。
「どうしたランサー?止まっていては槍兵の名が泣こう。そちらが来ないのなら、私が行くが?」
「その前に、ひとつ聞かせろ。貴様の宝具、それは剣か?」
「さあどうかな?斧かもしれんし、槍かもしれん……」
「けっ……抜かせ!剣使い!」
ランサーと呼ばれた男は、槍の構えを変える。何かやる気だ。
「ついでにもうひとつ聞いとくか。お互い初見だしよ、ここらで分けって気は無いか?」
「断る!あなたはここで倒れろ、ランサー!」
「そうかよ……こっちは元々、様子見が目的だったんだがな……ふんっ!」
気合と共に、ランサーの槍が妖しく赤く輝き出す。そして、ランサーが仕掛ける。
「その心臓貰い受ける!ゲイ・ボルク!!」
凄まじい突きが、女騎士を襲う。彼女は見えない剣でその一撃を受け止めた……かに見えた。
しかし、何故か時間が巻き戻ったように槍の一撃は戻り、再度女騎士を襲う。この一撃は交わしきれず、槍が彼女を貫いた。彼女は、串刺しにされた後、庭の端に吹き飛ばされてしまう。
「ああっ!」
ランサーが勝ったかに見えた。しかし、ランサーは引きつった顔を上げて言う。
「交わしたな、セイバー!我が必殺の一撃を!」
女騎士は、槍に貫かれはしたが、心臓への直撃は避けていた。
跪いて貫かれた左肩を抑えながら、彼女は言う。
「縦走……いや、今のは因果の逆転?……ゲイ・ボルク、御身はアイルランドの光の皇子か?」
「ちっ、ドジったぜ。こいつを出すからには、必殺じゃなきゃやばいってのにな。」
ランサーは槍を収め、塀の方に歩き始める。
「うちの雇い主は臆病でな、槍が交わされたのなら帰って来いなんて抜かしやがる……」
「逃げるのか?」
彼女の声に、ランサーは一旦足を止める。
「追ってくるなら構わんぞ……但しその時は、決死の覚悟を抱いて来い!」
そう言い残して、ランサーは塀を乗り越えて去って行った。
彼女は追おうとするが、俺は駆け寄って声を掛けて引き止める。
「おい!大丈夫か?」
彼女は追うのを止め、俺の方を向く。
「お前、いったい何なんだ?」
「見た通り、セイバーのサーヴァントです。ですから、私のことはセイバーと。」
サーヴァント?何なんだ、それは?
「お……俺は士郎、衛宮士郎。」
「衛宮?」
そう言って、彼女ははっしたような顔をした。
何だ?今の表情は?
「この家……いや、聞きたいのはそういう事じゃ無くて……」
「分かっています。あなたは正規のマスターでは無いのですね。しかしそれでも、あなたは私のマスターです。」
「待て!いきなりマスターとか、おかしくないか?」
「それでは“士郎”と……私としては、この発音の方が好ましい。」
「うっ!」
また手の甲が疼いた。おれは、手の甲の紋章を見詰める。
「何だ?これは?」
「それは“令呪”と呼ばれる物です。むやみな使用は避けるように。」
セイバーは、負傷した肩に手を当てる。すると、見る見る内に傷が塞がって行く。
「士郎、傷の治療を。」
「俺に言ってるのか?悪いけど、そんな難しい魔術は……それに、治ってるじゃないか?」
「表面だけです……では、このままで臨みます。」
そう言い残して、セイバーは屋根の上まで飛び上がって行く。
な……何て身のこなしだ!さっきのランサーとかいう奴といい、サーヴァントってのはいったい何なんだ?人間じゃ無いのか?
「外の敵は二人。あと一度の戦闘なら、支障は無いでしょう。」
「外に敵って……」
セイバーは、そのまま屋敷の外に飛んで行ってしまう。
「何だよ?!」
俺は、慌てて後を追う。
門を出ると、既にセイバーは戦闘を開始していた。相手は、赤い服を着た白髪の男だ。両手に剣を持っている。こいつもサーヴァントか?
ただ、完全にセイバーに圧されている。良く見ると、男の後ろに赤いコートを来た女性が蹲っている。赤い服の男は、その女性を庇っているのだ。
「止めろ!セイバー!」
俺は、つい左手をセイバーに伸ばしてそう叫んだ。すると、左手の甲の“令呪”とかいう紋章が光を放ち、波紋のようにセイバーを包み込む。それによって、セイバーの動きが止まる。
「正気ですか、士郎?今なら、確実に彼らを倒せた!だと言うのに……」
「待ってくれセイバー!こっちはてんで分からないんだ。マスターなんて呼ぶんなら、少しは説明してくれ!」
すると、赤い服の男の後ろに居た女性が立ち上がり、口を開く。
「ふうん……つまり、そういう訳ね、素人のマスターさん……とりあえず、こんばんは、衛宮くん。」
その女性は、遠坂凛だった。
彼女もマスターであり、彼女を庇っていたサーヴァントは“アーチャー”と呼ばれていた。
その後、俺は、遠坂に連れられて教会に来ていた。
セイバーは、何故か教会の中に入るのは拒み、門の外で待つと言った。
教会の中で、俺は聖杯戦争の監督役という“言峰綺礼”という神父から、聖杯戦争についての説明を受けた。彼は、神父であるが実は魔術師で、遠坂の亡くなった父親の弟子だった。
聖杯戦争とは、どんな望みでも叶えるという万能の器“聖杯”を求めて、7人のマスターが7人のサーヴァントと呼ばれる特殊な使い魔を使役して戦う儀式だ。既に、過去に4度行われていて、今回が5度目になる。
サーヴァントは、伝説の英雄が聖杯の魔力によって“英霊”として蘇った、一種の超人だ。“セイバー”、“ランサー”、アーチャー“、”ライダー“、”キャスター“、”アサシン“、”バーサーカー“の7つのクラスが有り、”令呪“と呼ばれる紋章を持つマスターと契約する。
”令呪“は、サーヴァントの意志を捻じ曲げてでも従わせる絶対命令権であり、3回のみ使用する事ができる。(俺は既に、1回使ってしまったが……)”令呪“を失った者は、サーヴァントとの契約は切れ、マスターとしての資格も失う。最終的に、全ての相手のサーヴァントを倒したマスターが勝者となり、聖杯を手にすることができる。基本的に戦闘は人目を避け、夜間等に人気の無い所で行うのがルールだ。
相手のマスターを殺す必要は無いのだが、サーヴァントを失ったマスター、マスターを失ったサーヴァント同士が再契約を結ぶ事は可能だ。更に、サーヴァントは超人的な力を持つため、容易には倒せない。だから、マスターを倒した方が手っ取り早い。そのため、結局はマスター同士の殺し合いとなる。
俺は、そんな殺し合いに参加するのは御免だった。しかし、聖杯を手にしたマスターがとんでもない奴だったら、どんな厄災がこの冬木に及ぶか分からない。事実、10年前にこの町で起こった大火災、俺も死に掛けたあの災害も、聖杯戦争によるものだと知らされた。
それを防ぐには、自分が聖杯戦争の勝者になるしか無い。
だから、俺は決心した。
帰り際に、言峰神父は俺にこう言った。
「喜べ少年、君の願いはようやく叶う。分かっていた筈だ。明確な悪が居なければ、君の望みは叶わない。例えそれが君にとって容認し得ぬものであろうと、正義の味方には、倒すべき悪が必要なのだから。」
教会を出て、俺はセイバーに自分の決意を語った。それを聞き、セイバーは改めて俺への忠誠を誓ってくれた。
少し歩いた後、遠坂が切り出す。
「ここで分かれましょ……ここまで連れて来たのは、あなたがまだ敵にもなっていなかったからよ。でも、これで衛宮くんもマスターのひとり、明日からは敵同士だからね。」
そうか、遠坂もマスターなんだから、お互い敵同士なんだよな?しかし、俺は……
「凛!」
そこに、霊体化していた遠坂のサーヴァント、アーチャーが実体化して現れる。
「倒し易い敵が居るのなら、遠慮無く叩くべきだ。」
「分かってるわよ!でも、こいつには借りがあるじゃない。それを返さない限り、気持ち良く戦えないだけよ!」
「ふん、また難儀な……」
文句を言いながら、アーチャーはまた霊体化して消えた。
「できれば俺、遠坂とは敵同士になりたくないな。俺、お前みたいな奴好きだ。」
「な……何言ってるのよ!」
「じゃあな。」
そう言って別れようとした時、
「ねえ、お話しは終わり?」
幼そうな女の子の声が割って入った。
振り向くと、紫のコートと帽子に身を包んだ、銀色の髪の小学生くらいの少女が立っていた。その背後に、巨大な怪物を従えて。
「ば……バーサーカー?」
遠坂が、怪物を見てそう言った。
バーサーカー?あれも、サーヴァントか?
「こんばんは、お兄ちゃん。こうして逢うのは二度目だね。」
そう言って、少女は微笑む。
逢うのが二度目?何を言ってるんだ、あの子は?俺は、あんな子に逢った事も、見た事も無いぞ……
少女は、貴族のようにスカートの端を上げ、遠坂に向かって挨拶をする。
「始めまして凛、私はイリヤ、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン……アインツベルンって言えば、分かるでしょ?」
そう言われた、遠坂の顔色が変わる。そして、何故かセイバーも。
「じゃあ、殺すね。やっちゃえ、バーサーカー!」
「ぐわああああああああっ!」
「士郎、下って!」
セイバーが、突進して来るバーサーカーに立ち向かって行く。
しかし、バーサーカーは巨大な剣でセイバーに襲い掛かる。その腕力の前に、さしものセイバーも翻弄されてしまう。
「セイバーッ!」
「あんなバカでかい剣を、おもちゃのように……あいつ、桁違いだ。」
速さでかく乱しようと、セイバーは移動しながら戦うが、敵は敏捷性にも優れていた。更に……
「くっ……」
セイバーは、蹲って肩を抑える。
「あ……あれは?さっきの傷が、まだ……止めろっ!」
駆け寄ろうとする俺を、遠坂が制止する。
「アーチャー!」
後方でアーチャーが実体化し、剣を弓で放ってバーサーカーを攻撃する。しかし、その攻撃をも、バーサーカーはものともしない。
「な……なんてでたらめな体してんのよ!こいつ!」
「だめだ、逃げろ!セイバー!」
しかし、それでもセイバーは向かって行く。結果、バーサーカーの一撃を喰らって吹き飛ばされてしまう。
「ううっ!」
「セイバアアアアアッ!」
俺が駆け寄ろうとすると、セイバーは手を出して制止する。そして、傷付いた体でなおも立ち上がるが、傷口からは大量の血が流れ、やっと立っているような状態だ。
「……どうして……」
俺は、思わず呟いてしまう。
「いいわよバーサーカー、そいつ再生するから、首を跳ねてから殺しなさい。」
「ぐわああああああああっ!」
「このおおおおおおおっ!」
俺は、思わず飛び出してセイバーを庇った。
「ぐはっ!!」
バーサーカーの一撃が、俺の体を切り裂く。
『なっ?!』
遠坂、セイバー、何故かイリヤまでが、驚きの声を上げる。
俺の意識は、どんどん薄れていく……
「うわっ!」
飛び起きて、はっとする。
え?……こ……ここは?
夜中で真っ暗なのではっきりとは見えないが、今朝見た夢に出て来た部屋の中に、俺は居た。また女物のパジャマを着て、体の感覚も、女になっていた時の……
ま……また、女になってるのか?
俺は部屋の明かりを点けて、姿見の前に立つ。やはり、朝見た夢と同じ女の子になっていた。
こ……これは、また夢か?俺は、バーサーカーに殺されたんじゃないのか?あれが夢だったのか?い……いや、俺が女の筈が無い!こっちが夢?……あ~もう訳が分かんねえ~っ!
「ん……んんっ……」
酷い痛みで、目が覚めてしまう。寝相が悪くて、どこかに体をぶつけたんだろうか?
「え?」
目を開けて、驚く。
空には、満天の星が輝く。時折吹く風が体に当たり、少し肌寒い。私は屋外に居るようだ。
「な……何で外に……」
起き上がろうとして、痛みで一瞬言葉に詰まる。
「士郎、まだ横になっていた方がいいです。」
「え?」
見た事も無い金髪の女性が、私を介抱する。
誰?この人?綺麗な人だけど……何て恰好してんの?鎧なんか着ちゃって、何かのコスプレ?……ま……待って、今、この人私の事“士郎”って……
私は、慌てて自分の体を確認する。やはり、また男の子になっていた。
また、この夢?……て、本当に夢なの?こんなに痛いのに……
「呆れたわ!いったい何を考えてるの?」
介抱してくれている女性の、逆サイドに立っている女性が私を叱咤する。
え?この人……確か、“遠坂”って呼ばれていた……衛宮くんの知り合いだったの?
「何とか言いなさいよ!」
「え?……」
そう言われても、状況が全く分からない。
「身を挺して、マスターを護るのがサーヴァントの務めよ!その逆をやるマスターが何処に居るの?」
何を言っているのか、全く分からない。
「そうです、士郎。何故、あんな事をしたんですか?」
金髪の女性も聞いてくる。
あんな事って……どんな事?だいたい、あんた誰よ?
「イリヤスフィールが気まぐれで手を退いてくれたから良かったけど、本当ならあなたの聖杯戦争はあそこで終わっていたのよ!」
イリヤスフィール?誰、それ?聖杯戦争?何、それ?
「しかし、驚きました。あれ程の傷を、自らの魔力で治癒してしまうとは……難しい魔術はできないと言っていませんでしたか?」
「待って、多分本人は意識していないと思う。セイバー、あなたと契約した事で、あなたの治癒能力の恩恵を受けているんじゃないかしら?」
治癒?あれ程の傷?……そういえば、最初の夢は最後に槍で胸を貫かれて……これはその続き?でも、ここ学校じゃ無いし……だいたい、こんな女性達は居なかったし……あ~っ!もう訳が分かんないっ!
この話では、通常の寝る事による入れ替わり以外にも、入れ替わりの条件を追加しました。
士郎が生死に関わるような傷を負い、意識を失った時にも入れ替わりが発生します。
その場合、糸守の三葉も、一時的に意識を失うような事態になります。今回は寝ていたので、そのまま入れ替りましたが。
私はゲームの方はやっていないので、どういう分岐点で“セイバールート”や“凛ルート”に切替わるのか知りません。そのため、話の展開がいろんなルートのごちゃ混ぜになっちゃいますので、その点もご容赦下さい。