Fate / your name   作:JALBAS

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入れ替わり数回で、分かり易い士郎の人格を見抜いてしまう三葉。
一方で、いち早く入れ替わりに気付いたアーチャーには疑念を抱きます。
士郎の方は、徐々に三葉を取り囲む環境を理解していきます。
そんな中、気になる人物がひとり現れます。




《 第四話 》

 

私自身、今でも信じきれない入れ替わりを、遠坂さんのサーヴァントであるアーチャーが見抜いた。

だからといって、普通に考えればそのまま“はいそうですか”とはいかない。

「ええっ?衛宮くんが別人って、どういう事?」

「何を言っているのだ、アーチャー?ここに居るのは、紛れも無く士郎だ。」

「だから言っているだろう。体は、衛宮士郎の物だ。しかし中身は、心は衛宮士郎では無い。少し、話をしてみれば分かる。」

怪訝な顔をしながら、遠坂さんは私に色々と聞いて来た。もう隠す必要も無いので、私は、ありのままの自分を出して答えた。

「……マジで?これは、信じるしか無いわね。話を聞く限り、どう見ても別人だわ。」

「本当に、あなたは士郎では無いのですか?」

遠坂さんは納得したような顔をして、セイバーは心配そうに私の顔を覗き込んで来る。

「はい……私は、“宮水三葉”と言います。」

私は、自分が岐阜県の糸守町に住む女子高生である事、自分が入れ替わってここで体験した事等も説明した。

「まさか、中身が別人だったなんて……どうりで、話が通じない訳だわ。昨日衛宮くんがあんな事を言ってたのも、そのためだったのね。」

「しかし、アーチャー、あなたは何故気付いたのだ?」

「別に……私達は、霊体のようなものだろう?気付かない方が間抜けなんだ。」

その言葉に、セイバーはカチンと来たようで、きつくアーチャーを睨み返した。

 

でも、霊体だからって、私の魂が見える訳でも無いでしょ?そんな簡単に分かるのかな?

そもそも、自分のマスターじゃ無いんだから、ろくに話した事も無い筈。衛宮くんの事自体、よく知らないんじゃないの?

 

「それじゃあ共闘の話は、明日衛宮くんが衛宮くんに戻ってからしないと駄目ね?」

「いえ、その必要は無いと思います。」

遠坂さんの言葉に、私は即興で返した。

「え?……だってあなた、衛宮くんじゃ無いんでしょ?」

「遠坂さんがそれを望むなら、衛宮くんは絶対断りません。」

断言する私に、遠坂さんは怪訝な顔をする。

「な……何で、そんな事が分かるのよ?」

「だって衛宮くん、遠坂さんを敵だと思ってませんから。」

「え?」

「衛宮くんって、度を超えたお人良しですよね?3回しか入れ替わってませんけど、その事は身に染みて分かってます。」

「ま……まあ、確かにそうね……」

「遠坂さんが望むなら、それを適えてやりたいって絶対に思います。」

「そ……それはそうかもしれないけど……でも、私を敵と思ってないって、何で分かるのよ?」

「衛宮くん、入れ替わった私の事を心配して、聖杯戦争の事とか丁寧にメッセージを残しておいてくれました。でも、遠坂さんの事は何も書いてありませんでした。今日、のこのこ目の前に来たら、命を狙われるって事も。」

「た……ただ、書き忘れただけじゃないの?」

「いいえ!これだけ相手の事を心配してくれる衛宮くんが、そんな大事な事を忘れる筈がありません。心の底から、敵と認識していないんです。」

「……」

私の言葉に、遠坂さんは頬と耳を赤らめて顔を反らした

 

やっぱり、この人はいい人だ。

でも、他人に気を遣い過ぎる衛宮くんだけど、女の子の気持ちには鈍いのよね?桜ちゃんがあんなに好意を寄せてるってのに、遠坂さんとか、セイバーとか、次々に女の子に手を出して……あ、そうだ……

 

そこで私は、セイバーの事を思い出した。衛宮くんは絶対了承するだろうけど、セイバーは?

「せ……セイバー?」

「何ですか?しろ……いえ、三葉?」

「あなたは、共闘には賛成?」

「はい、士郎がそう望むのなら、私はそれに従います。」

 

流石はサーヴァント、主の命令には絶対服従……あれ、遠坂さんのアーチャーは逆らってなかったっけ?

 

「アーチャー、衛宮くんも異論は無いみたいだから、いいわね?」

「逆らえる筈が無いだろう、私は君のサーヴァントなのだから。」

 

あら、やっぱり絶対服従なのね?

 

「三葉、入れ替わりの事は、ここに居るメンバーだけの秘密よ!」

「はい?」

突然、遠坂さんが私に詰め寄って来る。

「こんな事が、他のマスターに知れたら大変だわ。言動に注意して、絶対に感付かれ無いようにしなさい。いいわねっ!」

「は……はい……」

 

遠坂さん、いい人だけど……やっぱり怖い……

 

その後、暗くならない内に、私はセイバーと家路に就いた。

その途中で、セイバーに問い掛けた。

「ね……ねえ、セイバー?」

「何ですか?」

「わ……私は、衛宮くんの中に入っとるけど、衛宮くんや無い。それでも、護ってくれるん?」

「もちろんです。その体は、紛れも無く私のマスターの体です。」

「で……でも、見方を変えると、私って、あなたのマスターの体を乗っ取った敵って事やない?」

「いいえ、違います。士郎はあなたに、私に護ってもらうようにメッセージを残しました。だから、あなたを護るのがマスターの指示です。」

「あ……ありがとう。」

 

頼りになるな、セイバーって。さっきも、あんな化け物をあっという間に倒しちゃったし……で……でも、桜ちゃんの気持ちを考えると、複雑かな?

 

 

 

 

翌朝、予想通り俺は三葉の体で目覚めた。念のために、昨夜の内にメッセージを残しておいて良かった。

 

この間と同じように、お婆さんと四葉と朝食を食べて、登校のため家を出る。前回同様、やり方が分からないので髪は結っていない。次の時は、お婆さんにうまく言って教えて貰った方がいいかもしれない。

 

そういえば、セイバーも普段は髪をまとめていたな?それを教えてもらっても……

 

途中、テッシー、サヤちんと合流して一緒に学校に向かう。髪の件は、また“寝坊して時間が無かった”と言って誤魔化した。歩きながら、今度は三葉の心配をしていた。

 

三葉は大丈夫かな?自分が命を狙われてるなんて知ったら、相当ショックを受けるだろうな?でも、セイバーが居るから、何とか護ってくれるだろう。学校には、遠坂だって居るし……あ……セイバーと遠坂には、入れ替わりの事を説明しておいた方が良かったかな?でも、こんな話信じてくれるかな?

 

その時、前回は気が付かなかったが、町の外れに場違いな大きな建物があるのに気付く。

まだ建設中のようだが、殆ど完成している。まるで、西欧の城のような建物だ。

俺がそれに見とれているのに反応して、サヤちん達が話題にして来る。

「もう、そろそろ完成やね?」

「何で、こんな田舎にあないな城みたいな家建てるんやろな?いったい、誰が住むんや?」

「あれ?テッシー知らへんの?テッシーんとこで建ててる思っとったけど。」

「うちの会社で、あんな外国の城設計できる訳無いやろ!余所の業者がやっとるんや。」

 

へえ?テッシーの家は、建設業なのか?

 

『……そしてなによりも!』

町営駐車場の辺りに差し掛かったところで、拡声器の野太い声が耳に飛び込んで来る。

声のする方を見ると、駐車場の敷地内で、誰かが演説をしている。その男の上半身に、“現職・宮水としき”と書かれたたすきが掛かっている。更に、後ろには横断幕も掲げられている。

 

そういえば、前回入れ替わった時に、朝の有線放送で町長選挙の事を言っていたような……どうやら、これは町長選の演説のようだな……宮水?……三葉と同じ苗字だけど……

 

「おう、宮水。」

その時、前に居て演説を見ていた高校生の男が、俺に声を掛けて来た。

「町長と土建屋は、仲がいいんやな、その子供たちも癒着しとるな。それ、親のいいつけでつるんどるんか?」

男の隣には、女の子が二人居る。

 

町長と土建屋?

 

そう言われて、演説をしている町長を見ると、町長の横には後援会と思われる人達が居る。その後ろには“勅使河原建設”と書かれてた車が停まっている。

 

あれは、テッシーの家の建設会社か?じゃあ、あの現職の町長は、やっぱり三葉の親父?

あれ?でも、あの親父さん、家に居なかったよな?朝早く出掛けたのか?

 

その時、先日の朝の四葉の言葉を思い出す。

“いい加減に、仲直りしないよ”

 

もしかして、お婆さんと喧嘩して家を飛び出したのか?

 

そんな事を考えている内に、いつの間にかさっきの3人組は居なくなっていた。

「偉いな三葉、嫌味、気にせんで。」

「俺は腹が立った。あいつら、いつか締めてやらんと……」

「やめや、そんな事すると根に持つだけやに!」

 

ああ……嫌味だったのか?今の……気にせんというより、理解できなかっただけなんだけど……

 

学校に着くと、校舎の裏の方で何やら数人が揉めているのに気付く。気になったので、俺はそっちに向かって歩いて行く。

「お……おい、三葉、何処行くんや?」

良く見ると、3人の男子生徒がひとりの男子生徒に絡んでいる。どうやら、カツアゲをしているようだ。

「なあ、お前の家は金持ちなんやろ?」

「少しは、俺らにも還元してくれや?」

絡まれている男は、何も答えずに俯いている。小柄な、気の弱そうな男だ。

「止めろっ!」

俺は、そこに割って入る。絡んでいた男達は、一斉に凄味の利いた目付きで俺を睨んで来る。

「なんや、宮水。お前には関係無いやろ!」

「引っ込んどれや!」

「同じ学校の生徒が困っているのを、黙って見てられるか!」

「何やと?」

「俺らに逆らって、ただで済む思っとんのか?」

相手が女と思ってやたらと凄味を利かせて来るが、生憎中身は男だ。そんな脅しは利かない。だいたい、こんな奴らサーヴァントに比べれば敵でも何でも無い。が……

 

いけね……思わず飛び出しちゃったが、三葉の体であんまり男っぽい行動ばかり取ると、後であいつが困るか?でも、今更後に引けないし

 

「ああ?今頃になってびびっとんのか?」

少し怯んだため、相手はいい気になってくる。こうなったら、腹をくくるしかないかと思ったその時……

「俺が相手をしてやってもええぞ。」

凄味を利かせて、テッシーが俺の前に出て来る。テッシーは、ガタイも大きくて腕力もありそうだ。流石に3人組も一筋縄ではいかないと思ったのか、“けっ!”と唾を吐き捨てて離れて行った。

「三葉、大丈夫?」

サヤちんが、俺に駆け寄って来る。

「ん……ああ……問題無い……わよ。」

「もう、あんま心配掛けんといて。」

「ご……ごめん……あと、ありがとう、テッシー。」

「お……おう、俺も、ああいう輩は好きやないからな。」

「ちょ……ちょっと間桐くん!何で、とっとと行っちゃうん?」

すると、突然サヤちんが大声を上げる。見ると、絡まれていた男が、どんどん歩き去ろうとしていた。

「あんた、三葉に助けられたんやろ!何か、ひと言あってもいいんや無い?」

「……別に、助けてくれなんて頼んでない……」

小さな低い声でそう言って、その男はそのまま行ってしまった。

「何や、感じ悪い!」

「ほんまやな、あんなだからあいつ、友達もおらんのや。」

 

間桐?間桐というのか?あいつ……慎二や桜と同じ名字だ。どこと無く、慎二に似ていた気もする。もしかして、親戚かな?

 

その後は、できるだけ言動に気を付けて、男っぽい行動を取らないようにした。

家に帰るとまた夕食の当番だと言われたので、この間作り損ねた揚げ出し豆腐を作った。

「おいし~っ。」

四葉は、すごく気に入ったようだ。それならば、桜の作る揚げ出し豆腐を食べさせてやりたい。これは、本来桜の得意料理だ。俺のとは一味も二味も違う。

 

夜になって、俺に入れ替わっている三葉に連絡を取れないかと、何度か自分のスマホに電話を掛けたが、何度やっても繋がらなかった。

風呂は、三葉に悪いと思って辞めた。何より、俺自身目のやり場に困ってしまう。着替えも、できるだけ体を見ないように行った。

最後に、今日起こった事と、質問事項をメッセージに残して眠った。

 

 

 

 

翌朝は、糸守の自分の体で目覚めた。

入れ替わりは、夜寝た後と、意識を失うような事件に巻き込まれた時に起こるみたい。

スマホを確認すると、やはり衛宮くんからのメッセージが残っている。こういうところは、衛宮くんは本当にマメだ。

 

ええっ?不良に絡まれてる生徒を助けた?正義感が強いのは知ってたけど、少しは自重してよ、私の体なんだから……でも、テッシーが脅して事無きを得たのね?良かった。

 

最後に、間桐くんについての質問が書かれていた。

 

間桐くんの事を教えて欲しい?何で?

そう聞かれても、私も良くは知らないんだよな。大人しくて、目立たないし……

 

名前は、間桐霧也。同学年で、クラスは隣のクラスだ。

彼は糸守で生まれたけど、ご家族は何十年か前に糸守に移って来たらしい。かなりのお金持ちのようで、町の外れに宮水神社よりも広い敷地の邸宅を構えている。ただ、人付き合いの悪い家で、町の集まりには殆ど顔を出さない。でも、お婆ちゃんとは交流があるみたいで、神社の奥でたまに話をしているのを見掛ける事がある。

霧也くん本人も人付き合いが悪く、友達と呼べるような人はひとりもいない。誰かと話している姿を見た記憶も無い。都会ならまだしも、こんな人の少ない田舎では珍しい。

私は、この内容をスマホのメッセージに残しておいた。

 






アーチャーも、三葉に入れ替わった士郎の行動を見てないと、入れ替わってる事には気付きようがありません。だから、今日1日の士郎を観察しています。凛が襲われる場面でも居たから、あえて助けなかったという事になります。まあそこは、士郎が助けるのを知っていたということで。

本作では、糸守側の環境もかなり変えています。
間桐霧也は、冬木の間桐家と関係があるのか?(当然あるんですが……)
建設中の場違いな城は、冬木と関係があるのか?(これも、当然あるんですが……)

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