それでも、話の“キモ”のところは外せないので、原作と順番は変わりますが、重要な会話は残していきます。
糸守の方は、徐々に平穏が崩されていきます。
朝、自分の体で目覚めて、まず道場に行く。
セイバーが、道場の奥で正座している。
「おはよう、セイバー。」
そう言って、俺はセイバーのところまで行く。
「おはようございます。今日は、士郎ですか?」
「え?それって……」
セイバーから、昨日の出来事について聞く。学校にライダーのサーヴァントが現れ、俺と入れ替った三葉が襲われたが、セイバーが駆け付けて倒した事。アーチャーが気付いて、セイバーも遠坂も入れ替わりの事実を知った事。遠坂が、共同戦線を申し入れて来た事を。
「そうか、遠坂が味方になってくれるなら心強いな。」
俺がそう答えると、セイバーはきょとんとした顔で俺を見詰める。
「ん?どうした、セイバー?」
「いえ、三葉の言う通りだなと思いまして……」
「え?何が……」
「いえ、何でもありません。」
何なんだ?勝手にひとりで納得して?
学校に行くと、早速遠坂に屋上に呼び出された。
「まさか、本当に他人と、しかも女の子と入れ替ってるなんて、驚いたわ。」
「俺もさ、これも聖杯戦争の影響かと、本気で疑ったよ。」
「それで、女の子になって、いったい何をして来たの?」
遠坂は、いやらしい目付きで俺を見詰める。
「よせよ、変な事はしてない。それどころじゃ無かったし、自分の体を人質に取られてるようなもんだろ?」
「ふうん……まあいいわ。入れ替わりの原因は、何か掴めたの?」
「いや、さっぱりだ。早く何とかしないと……聖杯戦争が激化してきたら、三葉の身も危ないし……」
「で、共同戦線の件はOKでいいのね?」
「ああ、断る理由なんて無いだろ。」
俺の返答に、遠坂までセイバーと同じ様な顔をする。
「ん?どうした?」
「いえね、本当に三葉の言う通りだなあって思って。」
「おまえもかよ、いったい、三葉が何を言ったんだ?」
すると、遠坂は頬と耳を赤らめて、顔を逸らす。
「べ……べつに……それより、作業を始めるから、手伝って!」
「え?何を?」
「学校に、結界が張られていたのには気付いたでしょ?」
「結界?……ああ、あの違和感は、それだったのか?」
「おそらく、慎二がライダーの魔力を高めるために、学校中の生徒を襲おうとしたのよ。」
「魔力を高める?」
「サーヴァントは霊体も同然だから、人の魂でも魔力を高められるの。」
「何だって?」
「新都で起こっている、ガス漏れ事故は知ってるわよね?」
「ああ。」
「あれも、サーヴァントの仕業よ。」
「それも、慎二がやったのか?」
「いいえ、慎二はこの学校に結界を張っただけよ。あれは、別のサーヴァントね……」
「何て奴だ、関係無い人達まで巻き込むなんて!」
「慎二のサーヴァントは倒したけど、結界をそのままにしとくのは問題よ。それを撤去したいから、手伝って欲しいの。」
「分かった。」
その時、突然校舎が大きく揺れ出す・
「きゃっ!」
「うわっ!」
校舎内、校庭、至る所から赤い帯のようなオーラが発せられ、学校全体をドームの様に包み込んでしまう。
「こ……これは?」
「結界が発動してる?何で?ライダーは、セイバーが倒したのに?」
「と…とにかく、止めさせるんだ!」
俺達は、階段を降りて校内に入る。途端、異様に息苦しくなる。
「な……何だ……これ……」
「体内で魔力を生成し続けるのよ、衛宮くん!」
「はっ……桜はっ?」
俺達は、慌てて桜の教室に向かう。
たどり着いたそこは、地獄のような光景だった。どの生徒も、衰弱し、苦しみ、倒れている。流石の遠坂も、口を抑え、動揺して佇むだけだ。
俺は、教室の中に入って桜を探す。桜は、奥に倒れていた。俺は、桜の顔に耳を近づける。
「息はある。まだ、間に合わない訳じゃ無い。とにかく、サーヴァントを捜して結界を解かないと!」
しかし、遠坂に反応が無い。俺が不思議がっていると……
「……衛宮くん!」
はっとしたような表情になり、遠坂は、廊下に向かってガンドを放った。何かに襲われたのだ。
俺も、モップを強化して、ドアをぶち破って攻撃する。敵は、獣のような、骸骨の化け物だった。それが、何匹も襲い掛かって来ていた。
「何だ?こいつらは?」
「ゴーレム、使い魔の類よ!」
敵は、次々に湧いて出てくる。これでは、先に進めない。こうしている内にも、校内の皆が生気を吸い取られていく。
「こうなったら、セイバーを……」
「待って、あなたの令呪は、もうひとつしか残って無い。それを使ってしまったら、衛宮くんはマスターの資格を失うわ!」
「しかし、早く何とかしないと!」
「あたしに任せて!ようやく、借りが返せるわ……アーチャー、来てっ!」
遠坂の前に、光り輝く球体が現れ、その中からアーチャーが姿を現す。
「トレース・オン!」
何っ?!
アーチャーの両手に、剣が現れる。そして、一瞬の内にアーチャーはゴーレム達を一掃する。
「アーチャー!」
「何だ、この結界は?ライダーは、倒したのでは無かったのか?」
「分かんないわよ!とにかく、結界の元は1階よっ!」
アーチャーを先頭に、俺達は1階に向かう。だが、そこに待ち受けていたサーヴァントは……
「そ……そんな、バカな……」
遠坂が驚く。俺は、昨日はここに居なかったから見ていないが……
「ら……ライダー……」
黒いボディコンスタイルで、床に着きそうな長髪に目隠しをしたサーヴァントが俺達を出迎えた。
そのサーヴァントは、鉄杭のついた鎖で攻撃して来る。
「ふんっ!」
だが、その攻撃をアーチャーは難無く弾き返す。そして、ライダーと呼ばれるサーヴァントに切り付ける。
「ふふふふふふ……」
切られたサーヴァントは、脱皮するように姿を変える。紫のローブに身を包んだ、魔道師のような女に……
「貴様は?!」
そして、無数の蝶に姿を変えて消え去ってしまった。
そのサーヴァントが消えた事により、学校に張られていた結界も無くなった。サーヴァントは取り逃がしたが、とりあえず学校の皆は助かった。
倒れた生徒や先生達は、運び出し易いように廊下に寝かせておいた。作業は俺とアーチャーで殆ど行った。遠坂は、動揺しているようで殆ど佇んで見ていた。作業が済んだところで、遠坂が俺に声を掛けて来る。
「衛宮くん……随分冷静なのね?意外だった……」
「冷静じゃ無いぞ、怒りで我を忘れていただろ。」
「それでも、皆の傷を把握してたじゃない……私には、できなかったけど……」
「別に大した事じゃない……死体は見慣れているだけだ。」
「見慣れてる?」
「それより、この場合、病院に連絡した方がいいのか?」
「え?……ああ、サーヴァントの仕業だから、教会の方がいいわ。私が連絡して来るから、衛宮くんはアーチャーと外で待ってて。」
俺は、校舎の裏でアーチャーと遠坂を待っていた。だが、どうにも気が気では無い。
その理由は……
「何だ?随分と落ち着かないようだが?」
「横でそんなに殺気だって居られて、落ち着けるか!」
「見直したよ、殺気を感じ取れる程には、心得があるらしい。」
「何か俺に、言いたい事があるのか?」
「別に……馬鹿げた理想に取り付かれた男になど、何を言っても無駄だ。」
「何だと?」
「ひとつだけ聞いておくか……お前、バーサーカーにセイバーがやられそうになった時に、セイバーを庇ったな、何故だ?本気で、サーヴァントと戦えると思った訳ではあるまい?」
「そ……それは……」
「大方予想はつく。他人が傷付くより、自分が傷付いた方がいいと考えただけだろう?」
「そ……それの、どこが悪い?」
「自分が痛みを背負うことで、万物全てを救えると考えている。おめでたい話だ。」
「何っ?」
「理想論を抱き続ける限り、現実との摩擦、無常は増え続ける。」
「何が言いたい?」
「お前が取ろうとしている道は、そういうものだ。無意味な理想はいずれ現実の前に敗れるだろう……それでも振り返らず、その理想を追っていけるか?」
「……」
「お待たせ!」
そこに、教会への連絡を終えた遠坂が駆け付けて来た。
「ん?……どうしたの?」
「いや、セイバーのマスター殿は、同盟関係とはいえ敵のサーヴァントと一緒では気が休まらないらしい。私は、消えているとしよう。」
そう言って、アーチャーは霊体化して姿を消す。
「何よ、アーチャーのやつ?」
あいつ……ろくに話をした事も無いのに、何で俺の事があんなに分かるんだ?
……そういえば、さっきの戦闘時に、確かに奴は言った“トレース・オン”と……
スマホのアラームの音で、目が覚める。
体を起こし、辺りを見回す。窓からは陽の光が射し込み、部屋を明るく照らす。静かな平穏が、そこにある。今迄、何も感じなかったけど、平和って本当にいいなとしみじみ思う。
「お姉ちゃん?何、呆けとんの?」
平和な日常に浸っている私の気分を、四葉がぶち壊す。
「ごはんやよ。」
そう言って、下に降りて行く。でも、こんな些細なやりとりも平和な証拠だ。
朝食を終え、学校に向かう。
四葉と別れた後、サヤちん、テッシーと合流する。
「おはよう、三葉。」
「おはよう、サヤちん、テッシー。」
「今日は、寝坊せんかったんやね?」
ちゃんと纏まってる私の髪を見て、サヤちんが言う。
そうか、衛宮くんに、髪の纏め方教えておかなくっちゃっ。入れ替わる度に、寝坊で誤魔化すのも限界がありそうだし……
天気が良くて、風が気持ちいい。暑すぎず、寒すぎず、過ごし易い季節だ。
あれ?そういえば、衛宮くんと入れ替わっている時、かなり肌寒かったな?冬木市って、そんなに寒いの?山の中のこっちの方が、気温が低いと思うんだけど……
「何か、トラックがいっぱい来とるね。」
サヤちんが、町外れに建てられた、場違いな城のような家を見て言う。
「ほんまやな、もう引っ越して来るんか。その内、外人の転校生が来るんかな?美人やとええな。」
「何言うとるん、そもそも、私らと同世代の子供が居るかどうかも分からへんに。」
サヤちんの言う通りだが、こんな田舎じゃ外国人なんて見た事が無いから、もし同学年の子供がいたら会ってみたい。
あ……同学年じゃ無いけど、入れ替わってる時に会ったな。本当に、あんな城に住んでそうな女の子に……
それにしても、こうやってのどかな田舎道を歩いていると、聖杯戦争なんてとんでも無い抗争に巻き込まれていた事が嘘のようだな……本当に、平和っていいな。
「三葉、悪いんやけどまた手伝って!」
「おい宮水、すまんがまた手え貸してくれんか?」
その平和は、学校に着くなり壊された。
お助けマン“エミヤ”の残した負の遺産が、私の上に伸し掛かって来た。
「あ~疲れた……」
昼休み、校庭の端でのサヤちん達と昼食時、私はもう疲れ果てていた。
「せやから、何でもかんでも引き受けるんはやめ言うたに。」
そんな事を私に言われても、引き受けたのは私じゃ無い。
「三葉が、あんなに機械に詳しいとは思わんかったで。俺も顔負けやな。」
そう、頼み事の中に、パソコンや電化製品等の修理の依頼も多かった。衛宮くんは強化の魔術が使えるみたいで、機械の故障個所も触ってトレースすれば分かるらしい。でも、私にはそんな事はできない。とりあえずそういう依頼は、物だけ預かっておいた。入れ替わった時に、衛宮くんにやってもらうしかない。でも、サヤちんが言うように、何でもかんでも引き受けるのだけはやめて欲しい。でないと、私の身が持たない。
休み時間が終わり、教室に戻って来たところで、松本達に声を掛けられた
「おう、宮水、最近随分と慈善事業に精を出し始めたようやが、それも票集めのためか?親父さんに頼まれとるんか?」
思わずカチンと来たが、この言葉は私よりテッシーの逆鱗に触れた。
「お……お前な……」
「止めて、テッシー!」
松本に掴みかかろうかというテッシーを、私は制止する。
私達は、そのまま自分達の席に着く。松本達は、嫌らしい笑みを浮かべてこちらを見詰めていた。
「三葉、あんな事言われて黙ってるんか?」
「やめや、下手に突っ掛かったら、余計妬まれるだけやに。」
過熱気味のテッシーを、サヤちんが宥めている。
もう、衛宮くんがあんな事するから……でも、彼は善意でやっている事なんだから、文句言ったら悪いかな?
家に帰って来ると、お婆ちゃんが神社の本殿の方に歩いて行くのが見えた。声を掛けようと思ったが、後ろにもうひとり人影が見えたので思いとどまった。
あれは……間桐くんのところのご隠居さんじゃ?お婆ちゃんに、いったい何の用なんだろう?
お婆ちゃん達は、そのまま本殿に入って行った。気にはなったが、疲れていたので私は家に入り、自分の部屋へ上がって行った。
宮水神社の本殿の中、宮水一葉が、間桐家の長老と話をしている。
「そうか……いよいよ始まるんか?」
「ああ……明日には、例の娘もあの城に来る。そなたも、準備を急がれよ。」
第三話で三葉が令呪でセイバーを呼んでしまったので、ここでは士郎はセイバーを呼べません。ですので、代わりにアーチャーに来て貰いました。キーになる士郎との会話もさせたかったので。
糸守では、町で力のある二つの家の長老同士が、何やらきな臭い話し合いをしています。
そして、城に来る娘とは?
まあ、予想はつくと思いますが……