チラシの裏の落書き帳   作:はのじ

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ノンフィクション


実録 E県での恐怖

 週末を利用して幾つかの県を越境して電車でぶらぶら。特に目的もなく現地の名物を食べながら電車でガタゴト旅をしていました。

 

 そしてE県でそれは起こりました。

 

 足を延ばしてお風呂に入りたーい!

 

 宿は節約してネットカフェで済ましていたので当然お風呂には入れません。なのでネット検索で近場のお風呂をチェック。

 

 意外と近くに温泉があったのでかばんを背負ってレッツゴー。

 

 入湯料は600円。銭湯じゃなく温泉だったのでこんなもんですかねー。

 

 なんとかって云う元素云々、体の隅々まで行き届き云々、元気に云々。

 

 効能はプラシーボなので気にせず突撃だー。

 

 時間は18時。意外と客は少なく一〇人くらい。

 

 普通の湯と温泉湯とサウナと露天。銭湯を少し大きくした程度の規模の温泉です。

 

 体を洗って、お湯に浸かって、温泉に浸かって、サウナに入って、お湯に浸かって。

 

 恐怖はここから始まりました。

 

 ん? なんか見られている?

 

 僕には視線を感じる能力はないのですが、ふと視界の端っこでちょっと小太りのおじさんがこちらを見ているような気がしました。

 

 気のせいだ……気のせいだよね……移動しよう……

 

 おじさんを振り切って露天風呂に移動しました。熱めのお湯が好きなのですがこの温泉は全体的に温めでした。少し肌寒い気温と温めのお湯。まぁ悪くありません。町中の温泉なので景色は見れませんが、温度差が心地よい。

 

 さっきのおじさんが来ました。なぜ隣に座る……

 

 視界の隅で僕をチラチラ見ている気がします。

 

 気のせいだ。気のせいだ。気のせいだ。気のせいだ。気のせいだ。気のせいだ。

 

 よし、サウナに行こう。ということでサウナに移動しました。

 

 サウナも少し温めです。でもサウナって感じで汗がドバドバ。そして俺の隣でおじさんも汗がドバドバ。

 

 視界の隅でおじさんの顔が何度もこっちを動きます。

 

 これ、タゲ取られてる?

 

 取られてるよね?

 

 やべぇ……早合点ならいいけど、偶然はここまで重ならないぞ……

 

 やべぇよやべぇよ。俺丸出しだよ。お尻ぷるんぷるんだよ。

 

 ちなみに僕の簡単なスペックは身長一六八センチ。体重六五キロ。若干ぽっちゃり系の魅惑のボディの持ち主。

 

 参考までに過去に銭湯で二度、それらしき男性にマークされたんじゃないかと思わしき行動をとられたことがあります。その時は友人がいたので逃げましたが、この日は完全に一人。

 

 やべぇよやべぇよ。

 

 マジやべぇよ。お尻の穴がきゅっとなりそうです。

 

 とりあえず風呂は満喫したいので、温泉内をサーキットしながら逃げました。

 

 何度かかち合い、視界の隅でおじさんがちらちらこっちを見ます。僕は絶対に目を合わせません。

 

 出よう……

 

 これほど楽しくない温泉は久しぶりです。

 

 出口近くのシャワーで体をすすぎ、タオルで水気を落としました。

 

 振り返ったらおじさんがいました。こっち見てます。

 

 これ確定だよね……やべぇ。

 

 おじさんは入口近くのかけ湯をするやつの近くにすわりこっち見てます。

 

 た す け て

 

 慌ててはいけません。何気ない振りをして出るのです。目を合わせてはいけません。

 

 サウナに入ったので汗がまだ出てるので扇風機の前で体を冷まします。

 

 おじさん出てきました。俺、丸裸。

 

 よかった。髪を乾かしているお兄さんが一人いました。いくらなんでも襲ってこないでしょう。

 

 おじさんは裸です。

 

 僕はロッカーを開けて急いで着替えます。

 

 恐ろしい偶然でおっさんのロッカーは僕の隣でした。いや偶然ではなく最初からマークされていた可能性が頭をよぎります。

 

 おじさんはまだ裸です。こっち見てます。携帯を取り出してます。

 

 写真とるのか……それとも外に仲間がいて連絡を取っているのか……

 

 やべぇよやべぇよ……

 

 着替えを探す余裕はありません。脱いだ服をそのままライドオン。

 

 おじさんはまだ裸です。僕は大急ぎで着替えて逃げるように脱衣所を出ました。

 

 番台にいたおばあちゃんに報告です。

 

「男に狙われました」

 

「時々いるのよ。困ったわぁ」

 

 知ってるんかーい!!

 

 こんな事してる場合ではありません。急いで逃げよう。

 

 おっさん登場。さっきまで裸やったやないかーい! どんな早着替えなんやねーん!

 

 俺は下駄箱に移動。おっさんがっちりマーク。おっさん若干急ぎ足。

 

「あ、やっぱりたばこ吸って休憩しよう」

 

 ここで俺がVターン。今時珍しい分煙をしないロビー。ありがとうたばこ! これで逃げれるよ!

 

 おっさんも下駄箱からVターン。灰皿を間に俺の正面に座る。

 

 なんでやねーん!!!

 

 俺怖くて不自然にテレビを見続ける。目を合わせちゃダメだ!

 

「旅をしているんですか?」

 

「えぇ……」

 

 話しかけられた。やべぇよやべぇよ。

 

「どこから来たんですか?」

 

「関西からです」

 

 大阪の隣の政令指定都市からですけどね! 絶対に言わない!

 

「今日どこか泊まるんですか?」

 

「今日帰ります!」

 

 良かったらうちに泊まりませんかって言おうとしただろ!? 絶対に泊まらん!!

 

「電車ですか?」

 

「えぇ……まぁ……」

 

 ネカフェで泊まる予定だけどな! 絶対に言わねぇ! 言ったら隣のブースに来そうだ!

 

「良かったら車で送りますよ」

 

「いえ……歩きを楽しんでいるので……それに駅まで二〇分くらいですから……」

 

 俺にハイエースされる危機が発生。仲間いないだろうな……

 

「ご、ご飯でも食べようかなぁ……」

 

 あ、食べ方わからないや。これはうっかりですね。番台のおばぁちゃーん。教えてくださーい。

 

 僕は番頭さんに小さな声で

 

「あ、あ、あの人です……追いかけられてます……」

 

「あの人は知らない人ねぇ」

 

 他にもいるんかーい!!

 

「ごめんねぇ。現行犯じゃないとどうしようもないの」

 

 それ、俺、掘られとるやないかーい!!

 

 トラウマ発生するわ!!

 

 逃げよう!!

 

 僕はかばんをもって下駄箱に向かう。

 

「お、お疲れさまでした」

 

 おっさん立ち上ち上がる。俺、かばんの中身を確認する振りをして座る。

 

 おっさん下駄箱でもたもた。おれもかばんの中身の確認にもたもた。

 

 おっさん出ていく。おれソファーでぐたー。

 

 仲間がいるかもしれないから一応もう少し様子見でロビーに居座る。

 

 番台のおばあちゃん、もう興味なくなってる雰囲気。

 

 少し時間を空けて温泉を出る。駐車場にヘッドライトの明かりがついている車が数台。

 

 この中にいるかもしれない。僕は急いで大通りに逃げました。

 

 何度も後ろを振り返り安全を確認する事は忘れません。

 

 マンションの陰に隠れたり、辻をいくつも無意味に曲がったり。

 

 ここまでくれば安心だろう。

 

「ふう……やばかった……」

 

 僕は気を抜きました。その時前から白の軽自動車が走ってきました。

 

 進路は温泉から逆方向です。なので一度Uターンしないとこの進路は通らないはずなのです。運転席の窓が下りました。

 

「楽しんでくださいねー」

 

 おっさんでした。

 

 田舎道なので街灯がない暗い道を何度も振り返ってネカフェまで逃げました。

 

 あきらめたのか無事逃げきれたと思います。

 

 確実に狙われていたと思うのですがどうでしょう?

 

 偶然? これは偶然なのか?

 

 自意識過剰?

 

 ちなみにおっさんは優し気な顔立ちでしたが、僕にその手の性癖はないので優し気だろうと厳つかろうとノーセンキューです。

 

 でも、視姦されてるよなぁ……男に視姦されるとか……凹む。

 

 


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