「痛い……」
龍也は泣いていた。動かせない脚の痛みと精神的なダメージで。
現在、龍也は骨折で入院している。
なぜこんな事になったのか、それはツヴァイウイングのコンサート会場を立ち去った直後まで遡る。
キャロル達と共にコンサート会場から転移した後、鎧を解除した龍也はファラに羽交い絞めにされていた。
「キャロルさん……これはいったい?」
「罰ゲームだ」
「ふぁっ!?」
異様な雰囲気に思わずさん付けでキャロルを呼ぶ龍也。そんな龍也に目元を陰で隠した状態で目を光らせながら無慈悲に罰を与えると宣言するキャロル。
「……俺、なにかやらかしましたか?」
「独断専行」
「うっ!」
今回の龍也はキャロルにコンサートの事を伝えずに一人で行動した。その事にキャロルは怒っている。
しかも後先考えていないも同然の行動故に最初のラスボスに目を付けられたのはほぼ確実と言えるだから尚更だ。
「前に俺が命を狙われたからと言って一人で行くやつがあるか」
「…………」
キャロルの言葉に気まずそうに目を背ける龍也。以前にもスーパーロボットが現れてキャロルに襲い掛かった事が有る。龍也が使っているカプセルもその時に手に入れた様な物であり、龍也の予想では自分と同じ転生者か、あるいは自分の行動が原因で発生したイレギュラーが生み出した物だろうが現時点では不明。解っている事は今回のコンサートに現れた事から原作知識の有る転生者、又は原作キャラそれも一期から存在する誰かだろう。
後者に関しては各期ラスボスぐらいしか当て嵌まりそうにないが。
閑話休題。
キャロルは龍也に行う罰の内容を思案する。
「俺の心配でやらかした事だから、情状酌量の余地はある」
その言葉を聞き龍也はホッと安堵の溜息を吐く。だがすぐにその表情は凍り付く事になる。
「骨一本で勘弁してやろう」
キャロルの無慈悲な宣告。龍也はその言葉の意味が理解できず動きが止まった。
数秒経ちキャロルが何を言ったのか理解できた龍也は顔を青ざめる。
「じょ、冗談ですよね?」
「…………」
笑顔である。曇りの無い純粋さすら感じられる笑顔だが龍也には死神が笑っている光景にしか見えなかった。
「なに、安心しろ。すぐにくっ付く様に折ってやるし、他の怪我は治してやる」
「安心できる要素欠片もないんですけど!?」
怪我を治してから折る。と宣言されては安心など出来ないだろう。龍也も何とかして逃げようと足掻くが羽交い絞めされて
「自業自得だ! 諦めろ! たかが脚の一本だ、問題ない!」
「あるだろ! 普通に日常生活に支障が出るって!」
「介護ぐらいはしてやる! いいから大人しくしてろ!」
「それはそれで嫌だぁー!」
龍也の心情的には見た目幼女(中身数百?歳)に介護される事の方がダメージは大きいので断固として折られる訳には行かなくなった。仮に大人モードであったとしても年上の美女に世話される羞恥プレイは想像ですら精神的に辛い。ついでに補足するなら龍也的には普段の姿も大人の姿も好みである(可愛い、綺麗という印象の違いだけ)。だからこそ余計に介護されるのは恥ずかしいのだ。更に言うと肉体に引っ張られている節が有るが転生者でもある龍也の精神年齢はギリギリ20代後半だ。異性(しかもどちらでも美が付く)の介護を平然と受けられるほど達観していない。
「ああもう、騒ぐな!」
『GENE Maximum Drive!』
「ごふっ!?」
キャロルによる容赦のない腹パンが龍也を襲う! 同時に龍也の怪我も治療される。
「レイア! やれ!」
「了解」
キャロルの命令にレイアは容赦なく龍也の左足を、具体的には左脛骨を折った。
「――――っ!!」
「はっ!」
龍也は声にならない悲鳴を上げながらファラに気絶させられた。
「よし。後は――」
『ZONE! Maximum Drive!』
「コンサート会場に送って終わりだ」
キャロルはゾーンメモリを使って龍也を転送した。
「よし帰って交渉準備するぞ」
「キャロル……」
「ん? なんだ、エルフナイン?」
「いくらなんでもやり過ぎじゃないですか?」
「悪いとは思うがこうでもしないと同じことを繰り返す奴だからな……」
龍也の悪癖は時折、思考が極端になり馬鹿をすることだ。今回も自分一人で何とかしようとして後先考えずに行動した。普段はキャロルにツッコミを入れる常識枠のように振る舞っているが彼も大概変人と言われる部類である。何せキャロルをオタクにした原因は龍也なのだから。
「それに足を折ってまで偽装する馬鹿がいるとはフィーネも思わないだろ」
「キャロル……それ自分が馬鹿と言っているのと同じですよ」
「否定はせん」
「否定してください!? それで折られた龍也さんが可愛そうですよ!?」
(どうせ後でツンデレしながら看病するんだゾ)
(面倒くさいから本人に言わないでくださいね)
そんな会話をしながらキャロル達は拠点に帰った。
ちなみに龍也はコンサート会場の階段下にて倒れているのを救急隊員に発見されてそのまま病院に運ばれた。
以上の事が有ってキャロルに骨を折られ龍也は入院中である。
「……はぁ、まあこれも必要な事なんだろ」
キャロルのやる事には意味が有るのだろう、と龍也は納得すると漸く泣き止んだ。
「……小腹も空いたし売店で何か買うか」
泣くのにエネルギーを使った為かカロリーが欲しくなった龍也は松葉杖を取って立ち上がろうとする。
「一人で行こうとしないでください」
「あ、エルフナイン」
ちょうどお見舞いに来ていたエルフナインがそれを止める。
「松葉杖、まだ使い慣れていませんよね」
「十代の男子に病院食だけは少ないんだ」
「食べるのがダメとは言っていません。使い慣れない内は一人で行動するのは危ないと言いたいだけです」
そう言ってエルフナインは龍也の横に寄り添うように並ぶ。
「僕が補助しますから安心してください」
「幼女に補助されるのはちょっと……」
そう愚痴る龍也だが「キャロルの方が良かったですか?」と言われ沈黙した。なにか別の問題が発生しそうな予感がしたからだ。
「何やってるの! 響!!」
売店でお菓子を買って病室に戻る途中、女性の叫びが聞こえた。龍也には誰の声かすぐに分かり「響の嫁か」と呟いた。
「誰の事ですか?」
「エルフナインは知らないのか……。小日向未来のことだ」
「……ああ」
よく二人が名前を言っていたことを思い出したエルフナインは納得の声を出した。
「しかし病院内で叫ぶとは……何が有ったんだ?」
「聞こえた内容的に立花響さんが何かやらかした様ですけど……」
まさかヤミーに土下座しているとは思いもしないだろう。気になった二人は未来の声が聞こえた部屋に移動する。
「次から気を付けてくださいね」
『すいませんでした』
二人が着いた時にはちょうど看護師が響と未来を注意し終わって部屋を去るところだった。
「いったい何をやらかしたんだ?」
「気になりますけど接点の無い僕らが関わるのはよくないですし、部屋に戻りましょう」
「そうだな」
エルフナインの言葉通りにその場を去ろうとする龍也。去り際に響達の方に目を向けると、視線に気づいた響が申し訳なさそうに頭を下げた。恐らく先程の大声で迷惑をかけたと思ったのだろう。龍也はそんな響に会釈をする。
同時に響の肩からタカヤミーが顔を出して同じ様に会釈をした。
「ちょっ!?」
「――――ッ!?」
予想外の事態に響は声を上げ、龍也は驚きで固まった。
「クエ?(どうかしましたか?)」
この場にいる四人の内心を一言で表すなら「お前、何やってんの!?」だろう。
「えーと、二人はこの人? のお知り合い何ですか?」
「俺もそいつに助けられたんだ」
数分後、落ち着きを取り戻した四人は病室内で話し合っていた。ついでに響の質問に龍也は嘘をついた。
「響のお見舞いに来たら訳の分からない人? がいて思わず大声を……」
「気持ちは分かります」
「あははは……」
「まあ、怪人が病室にいればなぁ……」
未来はタカヤミーの存在にかなり動揺していたが自分より年下でしっかりしているエルフナインの説得でどうにか落ち着きを取り戻していた。
「それにしても“噂の怪人”がどうして響と一緒にいるの?」
噂の怪人とは言うまでもなくコンサートの時にキャロルが観客の避難に使ったヤミー達の事だ。空を飛び、人を軽々と持ち上げたり、高速で運んだりしていたのだ。目立たない訳もなく、情報規制など不可能に近かった。実際新聞には「謎の怪人が人命救助!?」の見出しが載った。
ちなみにヤミーの大半はキャロルの元に帰りセルメダルになったが、このタカヤミーだけが響の元に残り続けている。
閑話休題。
未来の質問に響は頬を掻きながら困ったように答える。
「いやー私にも分からなくてさ」
「どうして?」
「事件の時の記憶が無いんだ……」
予想外の答えに未来は固まる。龍也とエルフナインは「もしかして?」と目を合わせる。
「ただ、全部忘れたわけじゃなくてね、誰かが必死で守ってくれたり、助けようとしてくれていたのはなんとなくだけど覚えているの」
「そうなんだ……」
響の言葉に改めて響が危険な目に遭ったのだと理解し、辛そうな表情を浮かべる未来。
その様子を見ながら龍也とエルフナインは小声で話す。
「エルフナインこれって……」
「事件のショックで記憶を失ったか、キャロルがメモリーメモリを使った可能性がありますね」
「キャロルがやった可能性が高いな……わざわざヤミーを響に付けたままだし」
なぜタカヤミーを残していったのか? 疑問に思うがキャロルに聞けば良いか、と龍也はそれ以上考えなかった。だが同時に思った。
「置いていくなら俺達のことはスルーする様に言えよ……」
おかげで響はともかく未来に怪しい奴と思われている。その事に龍也はため息をついた。
「仕方がないか……」
記憶が無いのならばれる事もないだろう。龍也はそう思うことにした。それに龍也からすれば一期さえ乗り越えればなんとかなるのだから。Gのネフィリムは既に対策済み、GXは言うまでもなく、AXZはGXが無ければ問題無し。とにかく一期が最難関なのだと龍也は判断していた。
「え~と……」
「?」
考え込んでいた龍也は響の困ったような声で正気に戻った。
「どうかしたか?」
「その、お二人の名前を聞いて無かったなぁ、と思って」
「……ああ」
そう言えば自己紹介していなかった事に龍也達は気づいた。
「改めまして僕はエルフナインと申します」
「俺の名前は裃龍也。十四歳、中学三年生だ」
「あ、一つ上なんですね」
「裃先輩とお呼びした方が良いですか?」
「呼びにくいだろうから龍也で良い」
「じゃあ、龍也先輩で」
響の呼び方に龍也は「そういえば響に先輩呼びされるキャラいなかったなぁ……」とどうでもいい事を考えていた。
「私は立花響、好きなものはごはん&ごはん! 響って呼んでください!」
「小日向未来です。好きに呼んでください」
響は元気良く、未来はどこか距離を感じる声色で自己紹介をした。
「よろしくな。響、小日向」
「よろしくお願いします。響さん、小日向さん」
精神的に距離を感じる未来は名字で呼び、響は要望通り名前で呼んだ。それと同時に龍也は響に右手を差し出す。
それを見て響も同じように右手を出して握手したその瞬間――
「……え?」
龍也の右腕が取れた。具体的には肘から先が握手した同時に外れた。予想外の事態に響の思考が停止した。未来も固まった。エルフナインは呆れている。
「何をやってるんですか龍也さん……」
「一回やってみたかったんだ。何も知らない相手の前で腕を外すとか漫画とかでたまにあるだろ?」
龍也の言葉にエルフナインは非難の目を向ける。龍也も最初は満足気にしていたが、エルフナインと響達の様子を見て流石に気まずそうにしている。
「謝りなさい」
「ごめんなさい」
龍也はエルフナインの指示に素直に従った。その後は当然、三人から責められる事になった。
正直続きに困っていました。今なおこれで良かったのかと悩んでいます。
サブタイトルがキャロルと龍也と作者自身の心中を示していると言っても良いです。
とはいえ続きを書いていきたいのでとりあえずこのまま進めていきますけど……。