「お前の右腕義手かよ!?」
「一話で思いっきりネタバレしてるから」
最初は前回の続きでそのまま過去編に入ります。
思ったより長くなりそうなのでキリが良いところで投稿します。
「本当に驚いたんですからね!」
「悪かった」
響を驚かせた龍也は何度も頭を下げていたが文句を言われ続けていた。
「お詫びと言っちゃなんだが……」
「?」
自業自得とは言え責められるのに疲れた龍也は懐から何かを取り出す動作をする。
「これを貸そう」
「これは?」
龍也が取り出したのはポータブルDVDプレーヤー。そしてアニメDVD。
「入院中は暇だろ? 時間つぶしにちょうど良いぞ」
「でもこれ龍也先輩も使うんじゃ……」
「俺は他にもあるから」
そう言って取り出したのは漫画、ラノベ、携帯ゲーム機。明らかに物理法則を無視した数を取り出していく。
「いったい何処に隠し持っていたんですか!?」
「手品師か何かですか?」
「似たようなことはできる」
「……腕外したのも含めてですか?」
「悪かったと思ってるから……そんな冷たい目で見ないでくれ小日向……」
龍也は転生時に貰った特典は亜空間の様な所に前世の世界に有ったオタクグッズを保管している。しかも中身は今も増え続けており、持ち主である龍也ですら全容を把握できていない。最近ではプラモデルまで出てきたこともある。
「まあ、驚かせてしまったお詫びに他のも貸すし、欲しかったら布教用もあるから遠慮なく言ってくれ」
「布教用って……」
龍也の発言に未来は呆れた声を出す。
「未来、私オタクって呼ばれる人初めて見たかも」
「私もだよ。響」
彼女達は知らない。二年後に同じ様な人種に会い、親しくなるなど。
「俺の部屋番号を教えておく。暇つぶししたい時は遠慮なく言ってくれ」
「あ、はい」
「あまり変なのは勧めないでくださいね」
そう言って龍也とエルフナインは元の病室に戻って行った。
「さて、暇だしゲームでも――」
「ストップです」
病室に戻った龍也はベッドに横になり懐からゲーム機を取り出そうとするがエルフナインに止められる。
「腕の点検をしますから渡してください」
「えー」
「驚かすためだけに外したりするからです。諦めてください」
エルフナインの言葉に龍也は「仕方ないな」と言わんばかりの態度で右腕を取り外す。
「
「悪かったって」
エルフナインは龍也の右腕になっていた物からガイアメモリを取り出す。メモリにはDの文字が書かれている。メモリを取り出すと人間の腕だった物は白い龍の手を彷彿とさせる籠手に似た形状へと変化した。
「ダミーメモリの方は特に問題ありませんね」
メモリを検査しながらエルフナインは鞄から道具を取り出して検査していく。ただ、あくまで簡易的な検査だったのだろう。数分も経たない内にダミーメモリを義手となっていた物に挿す。
『DUMMY』
「とりあえず問題なさそうなので戻しますね」
「ああ」
龍也の腕に義手を戻すと一瞬で人間の腕へと変化した。その腕はどこからどう見てもただの人間の腕であり、継ぎ目の様なものすら見えない。
「問題無し」
「聖遺物なんですからさっきみたいな変な事に使わないでくださいね」
「ごめん、ごめん」
そう言いながら龍也は懐からゲーム機を取り出し電源を点ける。その様子を見ながらエルフナインは呆れた溜息を吐いた。
「龍也さんの腕は聖遺物の中でも特殊なんですから気を付けてくださいね」
「分かってるよ。少なくとも入院している間は自重する」
「普段から自重してください。――あ、そろそろ戻らないと」
時計を見たエルフナインは椅子から立ち上がる。帰る時間になったのだろう。
「僕は帰ります。入院している間は安静にしてくださいね」
「片足しか使えないんだから大人しくするって」
最後に声を掛けてエルフナインは病室を出て行った。
「聖遺物の義手かぁ……」
帰り道でエルフナインは龍也の腕の事を思い出していた。
「偶然とは言え龍也さんも凄い事してますよね」
それが以前にキャロルの記憶を見たエルフナインの感想だった。それは龍也とキャロルが始めて会った時の記憶。龍也からすれば「運が良かっただけ」の出来事、キャロルからすれば「『奇跡』だと認めない。あれは必然」であった事。
龍也がキャロルと初めて出会ったのは五年前、まだ龍也が転生してから十年も経っていない時だった。
その日、龍也は両親と共にとある国の遺跡内を見学していた。遺跡巡りが趣味の父は長期休みの時に家族旅行を兼ねて各地の遺跡を探索する。無論、許可を貰って。その許可をどうやって取ったか聞いても「知り合いのツテを使ってるだけだ」としか答えない。実は二課と繋がりが有るのではと龍也は疑っていたりする。
そして、その趣味に付き合う形で龍也は何度も各地の遺跡に訪れていた。前世の経験はともかく、世間一般的には幼い子供でしかないにも関わらず。
遺跡に興味を示す方が珍しい年齢、むしろはしゃいで遺跡になんらかの損傷を与えないか心配されるぐらいの年齢だろう。だが、当時の龍也は良くも悪くもおとなしい子供だった。外で遊び回るよりも部屋で漫画を読むことの方が多く、同年代の子と遊ぶ時も一歩下がった位置にいて、まるで高校生以上の学生が子供の面倒を見ている様に見られた(大人と言うほど雰囲気は成熟していない)。家にいても部屋に閉じこもっている(隠れて前世のゲームで遊んでいた)事も多く、父親が遺跡に連れてきたのも龍也なら遺跡を傷つけないと思ったのと、何か別の事にも興味を持ってほしいと思ったからだ。
その事を知る由も無かった龍也であったが、結果的に父親の思惑通りになっていた。この世界が『戦姫絶唱シンフォギア』の世界だと知っていた龍也は遺跡に興味津々だったのだ。何せ、この世界には聖遺物が、神話の武器が実在する世界だ。いや、それどころかネフィリムの事を考えれば神話に出てくる生物も聖遺物として存在するかもしれない。であるならば、遺跡には聖遺物に関する情報が、原作に出てきていない聖遺物が眠っているかもしれないのだ。危険も有るだろうが同時に興味も尽きない。「ロマンが有る」と龍也は思っていた。だからこそ、龍也は興味深そうに遺跡内を家族で探索していた。いつもの様に。
いつもと違ったのは、その日、探索していた遺跡にノイズが現れた事だ。
遺跡は地下に有った為にノイズの出現警報にすぐに気づかなかった龍也は、壁に手をつこうとした。それはその壁からノイズが出てくるのとほぼ同時だった。龍也の右手は触れた先から炭化し始めた。その事に誰よりも早く気づいたのは龍也の父親だった。
息子の命の危機に反射的に体を動かしていた。探索用に持っていたナタを手に持ち、躊躇なく龍也の右腕の肘から先を斬り落とした。そのまま素早く体勢を整えると龍也と龍也の母を抱えて遺跡の奥へと走り出した。ちなみにこの時、龍也達の背後からもノイズが出現していたので龍也の父は唯一の逃げ道を迷いなく選んでいた事になる。
この事を知った龍也は後にこう語る。
「家の親父もOTONAだったかぁ……」
シンフォギアのOTONAは凄い。改めてそう思ったとか。
閑話休題。
ノイズから逃げていた龍也の父はある部屋へと辿り着いた。そこは遺跡の最奥であり、行き止まりだった。幸いなのはノイズがまだ追いついておらず、時間的に猶予が有った事だろう。だが、それも時間の問題であり打開策が無ければこのまま家族揃って炭素の塊へと変わってしまうだろう。父に抱えられていた龍也はここで漸く降ろされ、母によって応急処置が行われた。逃げている間に少なくない量の血が流れていたが、龍也自身が残った左手で抑えていた為か幸い致死量には至っていなかった。
「何者だ? 貴様ら……」
龍也の止血を終えたタイミングで声を掛けられた。その声は少女の様な幼さを感じる一方で、声に似つかわしくないぞんざいな話し方だった。
「今日は人が来る予定は無かったはずだ。なぜ――」
その声の主を見て龍也はすぐに分かった。いや、思い出した。そして同時に疑問が湧いた。なぜ――
『こんなところにいる?』
その瞬間、龍也の心の声とキャロルの声は重なった。
次回は土日に投稿できるように頑張ります。