最近忙しかったのと週末風邪でダウンしていました。
今回は長めです。
キャロルがその日、遺跡にいたのは理由があった。彼女は以前にもこの遺跡に訪れたことが有る。世界解剖計画「万象黙示録」に使える聖遺物、後に発見した魔剣『ダインスレイフ』を利用する事になったが、見つかる前までは各地を探索していた。龍也達が探索していた遺跡もその一つであり、キャロルが龍也に出会ったのは二回目の探索を行っているタイミングであった。
何故キャロルが一度探索した遺跡に再び訪れたのか、それは聖遺物を発見できなかったからだ。
聖遺物の反応自体は有ったため、存在するのは間違いなかった。しかし、どれだけ探しても見つからず、同じところをグルグル回ってしまっていた。錬金術を使おうとしても遺跡内では何故か上手く使えず、諦めて対策ができるまで放置する事にしたのだ。
キャロルが再び訪れたのはダインスレイフを手に入れた後、計画を練っている内にその遺跡の聖遺物を危険性に気づいた。錬金術になんらかの異常をもたらすのが謎の聖遺物の能力ならば、自身の計画の最大の障害に成り兼ねないからだ。完全聖遺物ならば既に起動している可能性が有り、欠片であれば放置している間に回収されてシンフォギアへと変えられるかもしれない。
それ故に再び遺跡を調査しようと思ったキャロルだったが、知らぬ内に遺跡が観光地になっていた為に簡単には調査が出来なくなっていた。内部までは一般人は入れない為、そこまで行ければ気にせずに調査できるが簡単には行かない。
どうするか悩んでいたが何故か一日だけ入場禁止となっており誰も近づかない事になっていた。あからさまに怪しくはあったが放置しておく方が危険と思いキャロルは遺跡へと赴く事にした。その日が龍也達の遺跡に行く日だった。
何故この日、遺跡への入場が禁止されたかと言うと、龍也の父の手によって表向きは誰も龍也達の居る遺跡の探索をする者はいない事にされていた。後に龍也がその事について聞くと、父はこう言った。
「コネが有れば大抵の融通は効くもんなんだぞ」
その回答を聞いた龍也は「どんな人脈有るんだよ。このOTONAは……」と戦慄するのだった。
閑話休題。
龍也は「やばい」と思った。相手は記憶を、「想い出」をエネルギー源としている。「想い出」を奪われた人間の末路を知っている龍也からすれば正しく「泣きっ面に蜂」と言うしかない状況だった。
対してキャロルはと言うと、事前の調査ではこの日にこの遺跡に立ち入る人間は他にいないはずだった。とはいえ不自然ではあったため、どこかの国の調査隊辺りが来ると予想していたのだが、まさか家族連れで遺跡の奥、キャロルが先程見つけたばかりの隠し部屋にまで入って来る人間がいるなど想定外でしかなかった。
お互いに驚愕の表情を浮かべてから一息つくと、遺跡の奥にいたキャロルの疑問に龍也の父は答えた。
「ああ、ノイズが現れてね。逃げ道が他に無くてこんな奥まで来てしまったんだ」
「ノイズだと? ちっ、面倒な……」
龍也は父の言葉に対して舌打ちをしたキャロルの顔を見た。本当に心底面倒くさいと言わんばかりに眉間に皺を寄せていた。その様子を見ていた龍也の頭に疑問が浮かんだ。龍也の知るキャロルであればテレポートジェムが有るはず。それを使って逃げれば良いだけなのに、何故面倒くさいと言う感情が浮かんでいるのか、それが分からなかった。
キャロルからすれば謎の聖遺物の影響で錬金術の類がまともに機能しないため、下手にテレポートジェムを使えないのだ。それ故にここから逃げ出すこともできなくなっている。その状況でもキャロルにとっては面倒の一言で済むのだが。仮にここでノイズにやられてもホムンクルスの肉体を一つ失うだけで、記憶を別の肉体に移せば良い。そっちの方が転送事故よりましだと判断したからだ。
「君は何故ここに?」
「貴様等が知る必要はない」
取り付く島もないとはこの事か。龍也の父の質問にキャロルは答える気は欠片も無く、ただ部屋の中央に有る何かを忌々しそうに見ていた。
「?」
キャロルが父を見ていない事に気づいた龍也はその視線の先を見た。
そこには台座の上から生えている腕が有った。それは黄金のライン模様で飾られた白い龍の手。龍也の目には神々しく輝いている様にも見えた。
古びた遺跡にそぐわない光沢を放つそれを見て龍也はすぐに理解した。あれは聖遺物だと。
「龍也……大丈夫だからね、大丈夫だから」
母親の心配そうな声が頭に入らないほど夢中で見ていたことに龍也は母に無言で笑顔を向ける。単純になんと言えば良いのか分からないのもあったが腕を失った痛みで笑顔が歪まないようにするのが精一杯だった。
「これは……?」
「…………」
龍也の父も聖遺物に気づき疑問の声を上げるがキャロルは何も答えない。キャロルにもまだ分かっていなかったのだ。聖遺物が何なのか。
「……いや、今はそんな事より――」
――音が聞こえた。それがノイズ特有の奇声である事をこの場にいる全員が気付いた。
「まずい!」
龍也の父は焦りの声を上げる。だが打開策は無く、このまま死を待つ以外の選択肢は無かった。この場から何故か逃げられないキャロルも次の体に移る事を覚悟するしかなく、この場にいる全員が諦めの表情を浮かべていた。
しかし、龍也は違った。
龍也は聖遺物の前に立っていた。この状況を打開するには聖遺物に頼るしかないと悟ったのだ。そして、聖遺物に手を伸ばそうとする――
「待て」
龍也を止めたのはキャロルだった。
「お前はそれを使ってどうするつもりだ?」
どんな聖遺物かも分からないのに手を出そうとする龍也に興味を持ったのだろう。その目に宿っていた感情は咎めるものではなく、むしろ何の感情も宿しておらず精々「珍しい動物を見つけた」程度の興味本位の目だった。
「思いついた事が有る」
「ほう……それは何だ?」
「この腕、形的に右手っぽくない?」
「それがどうし――おい、まさか」
キャロルの疑問には答えたと判断した龍也は聖遺物を台座から取り外した。聖遺物と台座の繋がっていたところは台座に固定するためか鋭く尖っていた。
その形を見て龍也は笑いながら小声で呟いた。その声は近くにいたキャロルにだけ聞こえた。
「ちょうどいい」
龍也はその聖遺物を斬り落とされた右腕に突き刺した。失った右腕の代わりと言わんばかりに。
「――――ッ!?」
当然ながらそれは同時に想像を絶する痛みが龍也を襲う事となった。あまりの痛みに声も出ない。キャロルは龍也が実際にやるとは思わなかった行動に呆然とし、龍也の両親も自分達の息子の行動に戸惑いを隠せない。まさか傷口に聖遺物を突き刺すなどと言う馬鹿げた事を子供がやるなど想像の埒外でしかなく、止める事も出来なかった。
そんな周りの反応を気にする余裕もない龍也は痛みに耐えながら口をパクパクと動かす。
「一回、だけで、良い、動き、やがれ!」
龍也が叫んだ瞬間、聖遺物は光を放つ。黄金色の光が室内を照らし出す。まるで陽の光を浴びたかの様な温かさにその場にいた全員が包まれた。
やがて光が止むと、聖遺物と龍也の腕は変化していた。血が流れていた傷口は聖遺物によって塞がり、聖遺物は龍也の腕に合わせたかのように形を変え、龍の腕そのもの様な見た目から籠手の様な人の手に近しい形へと姿を変えていた。
龍也が行ったのは一言で言うと立花響の真似だった。第一期にて聖遺物との融合体となったように自身の体と無理矢理一つにし、第二期の様にガングニールを気合と根性で自らへ適合させた時の様に龍也は聖遺物を自身に適合させようとしたのだ。龍也にとってもこれはギャンブルでしかなかった。聖遺物をくっつけるのはまだしも、適合できるかどうかなど、どれほど強い意志が有ればできるか分からないのだから。
しかし、龍也は賭けに勝った。
「……なるほど、だいたい分かった」
何かを理解した龍也はノイズの奇声が聞こえる方に近づく。
「イメージすれば良いんだな」
龍也は拳を構え、一回深呼吸をする。
「……『バオウ・クロウ・ディスグルグ』!」
龍也が呪文を唱える。それは前世の龍也が愛読していた漫画の呪文。すると、聖遺物から黄金の龍の腕が現れた。龍の腕は徐々に巨大化していく。部屋の壁すら突き抜けて、更に巨大になっていくその腕にキャロルは驚愕の声を上げた。
「な、なんだそれは!?」
「うおおおぉぉぉおおお!!」
龍也は雄叫びを上げながら腕を振るった。それは、まるで来るのが分かっていたかのようにノイズが現れるのと同時だった。遺跡の壁を抉り取りながら龍也はノイズを龍の腕で切り裂いた。巨大な龍の腕による攻撃を受けたノイズは炭素となって消滅した。
「やった……!」
ノイズが倒せた事に龍也は安堵の声を上げる。だが――
「……なんかミシッミシッとかいう嫌な音が聞こえるんだけど」
『お前が遺跡の壁を削り取ったからだ!』
父親とキャロルのツッコミに龍也は周りを見る。目に映ったのは自身の技で土が剥き出しとなった壁だった場所。ノイズを倒す事しか考えてなかったために、その後の事を考えていなかった。
「やべーい」
どこぞの禁断のアイテムのようなセリフを言った龍也の額からは冷や汗が流れていた。見上げると天井に亀裂が走り徐々に広がっていくのが見えた。
「うおおおぉぉぉ!!」
まずいと思った龍也は叫びながら右腕を上げた。すると聖遺物から光の帯が現れ、周辺の壁に張り付いていく。そして、一瞬、一際強く輝くと壁も天井も補強されたのかの様に亀裂や爪痕が埋められていた。
「な、な……」
「よし! 脱出するぞ!」
「待てえええぇぇぇ!」
「うおおう!?」
ノイズが出なくなったのも確認した龍也は外に出ようとすると激昂したキャロルが龍也の首根っこを掴んだ。
「貴様は、貴様はいったいなんなんだ!?」
「なんなんだって聞かれても……」
龍也が起こした予想外の出来事の連続にキャロルは混乱しきっていた。それも仕方がない。龍也の使った技は仮に聖遺物を使ったものだとしても法則性が無く、同じ聖遺物を使ったものだと思えないのだから。
補足しておくと龍也の腕になった聖遺物は“応龍”の腕だ。応龍の能力は水を操る能力が高く雨を降らせ、嵐を起こす事も出来る。そこから雷を操る事も出来る……のは龍也の知識に有るスーパーロボット大戦に出てくる応龍皇の能力だが。他にも年老いると黄龍になると言われており、黄龍は五行で土の属性である。
バオウ・クロウ・ディスグルグが使えたのは龍也の中の雷と金色の龍のイメージから、壁や天井が補強されたのは黄龍が土属性であったためだ。五行の土属性は万物を育成・保護する性質を表し、保護の力で壁や天井の崩落を防いだのだ。ちなみにキャロルが錬金術を使えなかったのはこの性質によって「想い出」の償却が出来なかったためだ。
だが、龍也もそこまで聖遺物について理解している訳でもないので説明できないのだが。
「ただのオタクとしか言えないんだが……」
「訳が解らない事を言ってないで説明しろぉおおお!!」
掴みかからんばかりの勢いのキャロルから逃げる様に遺跡から出ていく龍也。その二人を龍也の両親は後ろからゆっくり追いかける。
「あの子の腕は……」
「後で包帯を巻いて誤魔化そう。聖遺物を取り付けたとなれば国が、政府が放っとかない」
母親の心配そうな声に父親はとりあえずの対処法を口にする。
「聖遺物に関しては見つからなかった事にしよう。こうしてな」
そう言って父親は地面に拳を叩きつけると地震にも似た揺れが起こり、聖遺物が有った部屋の天井が崩落した。
「これで少しは誤魔化せると良いが……」
「なんとかお願いできませんか?」
母親の表情は不安気で有ったが、同時に強い意志を持って父親に視線を向けていた。
「龍也がまだ幼い内は汚い世界に触れて欲しくありません」
「分かっているさ。俺の目の黒い内は龍也を利用させん」
自身の妻の願いを決して裏切らない。父親の目はそう語っていた。
「お願いしますね。光太郎さん」
「任せろ」
後日、聖遺物の事を隠しきって龍也達は家に帰宅した。同時にキャロルは龍也の腕となった聖遺物の研究と、場合によっては龍也ごと排除するために裃家に何度か訪れる事になる。
それから有る事がきっかけでキャロルが龍也のところに訪れる理由が変わる事になる。
それが語られるのはまたいずれ……。
最後が上手くまとめられなかった気がする……。
それでもとりあえず投下しましたが。
ちなみに龍也の父親の旧姓は南だったり……アクマデソックリサンダヨ。