変わらぬ覚醒
「今日はツヴァイウィングのCDの発売日だそうだ」
「と言う事は……」
原作の本格的な始まり、それは戦いの始まり。
「キャロル」
「ん」
キャロルは龍也に一つのアイテムを渡す。それはあるフルボトルだ。
「無駄な足掻きかもしれない。意味のない事かもしれない」
何も変わらないかもしれない。だが既に変わったのならば――
「歌い手を守る為に戦おう」
『Airget-lamh』
フルボトルを変形した義手に差し込む。すると音声と共に龍也は鎧に包まれた。その姿を前世の知識が有るものが見たならばこういうだろう。色こそ違うが――
「原作ブレイクの時間だ」
“ナイトブレイザー”と。
その日、立花響はツヴァイウィングのCDを買うために走っていた。
「CD、特典、CD、特典――」
夢中で走りコンビニの角を曲がって一息ついた時、響の目に映ったのは――
「セイヤー!」
「え?」
黄金のラインが走る銀の全身鎧と赤いマフラーを身に纏った何者かが手に持つ光る剣でノイズを斬り裂く瞬間だった。
「一般人は早く避難しろ!」
「は、はい!」
近くにいた女性が走って離れていく。見れば辺り一帯に黒いものが宙を舞っているのが見える。しかし、響の見える範囲では人が炭化した様には見えない。おそらく響曰く鎧の人がノイズを倒しているからだと思われた。
「いやー!」
「子供の悲鳴か!」
「!」
「あ、待て!」
子供の悲鳴を聞いた響は鎧の人の静止を聞かずに走り出した。
「ああもう、子供を助けたい気持ちはわかるが――」
鎧の人は周囲のノイズを素早く斬り、響を追い走る。
「少しは人を頼れ!」
少なくともここにノイズと戦える人間がいると言うのに。そう愚痴を心の中で吐き出しながら響を追う。
『龍也! そっちはどうだ!?』
「キャロルか!」
鎧の人――いや、龍也の耳に付けた無線にキャロルからの通信が入る。
「響と遭遇した! だけど子供を助けに行った!」
『わかった! ならばこちらからヤミーを援軍として送る!』
「他の場所は!?」
『鳥型ヤミーは救助、水生系ヤミーには身代わりになってもらっている!』
「そっちのパターンか!」
以前から『ヤミーがノイズに触れたらどうなる?』かの予想は立てられていた。一つはメダルで構成されているからすり抜ける、もう一つは生物として扱われて炭化するかのどちらかだと予想されていた。人工生命体というカテゴリに当てはまるのならば炭化の可能性が高いと思ってはいたので龍也は然程驚かなかったが、戦力にカウントできないのが辛い。
『ああ、だからいざと言う時はタカヤミーに身代わりになってもらう』
「! お前まさか……!? そのためにヤミーを!?」
『……響には悪いがな』
キャロルは響が原作通りに覚醒するとは保証が出来ないためにヤミーを護衛、いや身代わりにするために響の憑けていたのだ。しかしタカヤミーが犠牲になれば響が心に傷を負う事になるだろう。
「なら、その前になんとかするしかないな!」
龍也の目に響と少女が映る。二人を保護しようと近づくが、そこに割り込むようにノイズが現れる。
「邪魔だ!」
龍也は光る剣、ナイトフェンサーでノイズを切り裂いていく。そして勢いそのままに響達に近づくが――
「!」
足元に黄色く光る矢が刺さった。
「これは……!」
驚いていると更に龍也を狙って矢が降り注いでくる。
「どこの、どいつだ!」
矢が飛んでくる方を見るが太陽が逆光になっていて影しか見えない。
「こんのぉ!」
ナイトフェンサーで斬り払い、避けつつ響達を追うが気づけば見失っていた。
「くそ!」
矢を放っている者はノイズを無視して自分を狙っていることから龍也はこれが転生者の仕業だと察した。
「そこまでして原作通りにしたいか!?」
聞こえるわけもない文句を口にする。ふざけるな。この世界が原作通りにいくと誰が決めた。龍也からすれば邪魔をする推定転生者の考えなど知った事ではないのだ。ただ自分は既に彼女達に関わった。変化させた。原作知識が有りそれと違う
「邪魔をするな――!」
龍也は自身の倉庫から武器を取り出す。基本的にゲーム機などの娯楽品しかない倉庫だがキャロルが創った武器やメモリも保管している。その一つを取り出した。取り出したのはエンジンブレード。仮面ライダーアクセルの武器だ。
「行くぞ!」
『ENGINE!』
『Maximum Drive!』
「エースラッシャーだ!」
龍也の叫びと共にエンジンブレードの刀身からA形のエネルギー弾が発射された。それを見た敵は回避するためにその場から離れた。
「今のうちに……!」
「龍也さーん!」
「ん?」
声が聞こえた方を向くとそこには――
「はあ、はあ、やっと着いた」
仮面ライダーレーザーバイクゲーマーレベル1が居た。
「燈か?」
「はい、キャロルさんに、作ってもらった、爆走バイクを、使いました」
息を切らしながら燈は自身の姿について説明する。どうやらガシャットの作成に成功していたようだ。龍也も幾つかのガシャットが作られているのは知っているが爆走バイクは初めて見た。
「と言う訳で、二速」
『ガッチャーン! レベルアップ!』
『爆走! 独走! 激走! 暴走! 爆走バイク!』
「乗ってください!」
「よっしゃ!」
レベル2となりバイク形態になった燈に龍也は首のマフラーを鎧内に収納してから跨った。ちなみに免許は冬休みに取っている。
「行くぞ!」
「ひぃ!?」
「きゃあ!」
ノイズから逃げた響と少女はある工場に辿り着いていた。建物の屋上まで上り漸く逃げ切ったと一息ついた時、再びノイズが目の前に出現した。既に体力の限界が訪れた響達に最早逃げる術はないと思われた、その時――
『爆走クリティカルストライク!』
「ライダーブレイク!」
「え」
仮面ライダーレーザーに乗った銀色のナイトブレイザーがバイクでノイズを轢いた。ちなみに紫が持っていたガシャットは神からの特典の為かノイズと戦える。それを参考に作った他のガシャットでもノイズに対抗できるのでレーザーでもノイズを倒せるのだ。
「とお!」
「あ」
突然、龍也はレーザーから飛び降りて響達の前に着地する。その様子は配管工が恐竜を乗り捨てしたときの様だった。いや、この世界なら防人のように、と言うべきだろうか。
「え、ちょっと、ああ~!?」
運転手が居なくなったレーザーは慣性の法則に従い、その勢いのままノイズの群れに突っ込んだ。そして数多のノイズを轢き殺しながらレーザーは屋上から落下した。
「後で覚えてろー!」
あんまりな扱いにキレた燈の叫びが下から聞こえてくるが龍也は聞こえないふりをした。
「あ、あの――」
「そこでジッとしてろ」
ナイトフェンサーを構えた龍也はノイズに向き合う。
「悪いが覚醒イベントとか関係ない」
横一閃、数体のノイズが炭へと変わる。更に振るう。近場に居るノイズを切り裂き、蹴り、殴る。
「来いよ雑音共。命を奪うと言うならまずはイレギュラーである俺からだろ。だから――」
龍也は体勢を整えて響達とノイズの間に立ち――
「歌姫に手出すんじゃねえぞ」
ただ一言呟いた。その呟きは誰にも聞こえなかった。だがまるでノイズは龍也の言葉に慄いたかのごとく動きを止めた。それと同時に――
――――。
「む!?」
それは聖詠。立花響のガングニールの聖詠。
「あ、あ――――!?」
「起動しただと!?」
響の胸から昼間と錯覚しそうになるほどの眩い光が放たれる。そして光が止むと――
「あ、あああああぁぁぁ!?」
体から機械を出現させながら、シンフォギアを、ガングニールを纏う響がいた。
『変わらず、か』
龍也の耳にはキャロルの小さな呟きが大きく聞こえた。