キャロルがオタクになってしまった   作:岸寄空路

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遅くなって申し訳ないです。
なかなか納得のいく展開を書けず時間が掛かってしまいました。
今もしっくり来ていませんがとりあえず投稿します。

それと今更ですがはんたー様よりファンアートをいただきました。

【挿絵表示】

メッセージでも言いましたがこちらでも改めて、
ありがとうございます!


偽物と本物

 気づけば見知らぬ場所にいた響は周りを確認し奏と翼が居るのを確認する。幸い怪我などは無いようだが信じられない情報を幾つも聞いたために三人共呆然とした表情を浮かべている。

 

「機械の体……」

 

 デュークが龍也に告げた雪音クリスと呼ばれた少女の精神が機械で作られた体に移し替えられていること。信じられない内容だがシンフォギアと言うノイズと戦える物まであるなら不可能ではないのだろうと響は思った。

 

「どうして……」

 

 だが、可能だとしてその技術を利用する理由は何なのか、響にはまるで理解できず、唯々困惑することしかできずにいた。

 

「少なくとも五体満足の人間に使うような技術では無い事は確かだな」

 

 困惑する三人を見ながら龍也は気づかぬ間にブレイザーの姿に戻っていた。

 

(やはりコンボは長く持たないか)

 

 龍也は掌の上のガタキリバコンボに使ったコアメダル三枚、それが消えゆくのを見ながら誰にも聞こえない声量で呟く。

 龍也の使ったコアメダルはキャロルの試作品であり大量のセルメダルで作ったものだ。それ故に欠陥が多数あり、その一つが時間制限だ。無理矢理コアメダルの形にしてそのエネルギーで肉体変化させているために変身している間は常時コアメダルのエネルギーが消費され続ける。そしてエネルギーを消費すればコアメダルも形を維持し続けることはできず最終的には消滅する。具体的に言うなら仮面ライダーバースが使用した後のセルメダルと同じように消える。

 何故そんな物を使ったかと言うと、操られているために抵抗するクリスを傷つけずに枷だけを破壊するならタカヘッドの能力を使った方が良いと判断したからだ。

 結果的にその配慮に意味は無かったが。

 

「ブレイザーさん……何がどうなっているんですか?」

「…………」

「わけわかんないですよ。人の心が機械に移されて、好き勝手に操られてる。それも仮面ライダーって呼ばれている人がやっているなんて」

 

 俯いていた顔を上げて龍也を見る響。その目は不安げに揺れている。

 

「何が起こっているかわからないんです……! わかんないよ……」

 

 響からすればノイズを操る謎の少女が現れたと思ったら、その少女も操られていて、少女を操っているのは自分を助けてくれた人と同じ「仮面ライダー」と呼ばれている上に、なぜだか分からないが助言を何度かしてくれたブレイザーも仮面ライダーになるという、あまりにも多い情報に理解が出来ずにいる。

 

「――ハァ」

 

 流石に可能な範囲で説明すべきかと溜息を吐いた龍也はゆっくりと響の前に座り込んだ。

 

「ブレイザーさん?」

「何が聞きたい?」

「え?」

「出来る限りの事は答える。知りたい事を質問してくれ」

「は、はい」

「まあ、時間も遅いからあまり説明もできないけどそこは我慢してくれ」

 

 そこから一問一答と言う形で響は龍也に質問する。

 

「え、えっとそれじゃ、ブレイザーさんは何者なんですか?」

「俺か? まあ、今はあんまり説明できないが一言でいうなら『二課の協力者の仲間』。今はそれで納得してほしい」

 

 キャロルの事を話しても良いが響に知られるとそのまま龍也の正体まで芋づる式にバレる事になるので話さないでおく。当然、二課にも黙っておくように言ってある。

 

「そ、そうですか……そのブレイザーさんが使っていたUSBメモリみたいなのは?」

「これの事か?」

「は、はい」

 

 響は龍也の持っているガイアメモリを見つめる。以前にも龍也が仮装した1号が使っていたのだから気になるのは当然だろう。

 

「ガイアメモリと言ってな……何て言えば良いかな、仮面ライダーの使うアイテムだとしか……」

「仮面ライダー……」

「立花?」

 

 響は数秒ほど俯くとやがて顔を上げて、最も気になっていた疑問を口にする。

 

「仮面ライダーって結局どういう存在なんですか?」

「…………」

「あのデュークと呼んでた人もブレイザーさんが変身していたオーズも仮面ライダーなんですよね?」

「ああ」

「見た目全然似てないのに?」

「デザインとかは気にしても無駄だぞ」

 

 同じ作品内のライダーですら見た目が全く違う場合もあるのだから。

 

「仮面ライダーはそうだな……」

 

 なんと説明すれば良いのかと頭を悩ませながら龍也は自分なりの答えを告げる。

 

「人それぞれかな」

「え……」

 

 その答えに響は思考停止する。

 

「それは――」

 

 いくら何でも適当すぎる、そう声を荒げて文句を言おうとするが――

 

「ある人は愛と平和のための力と答えるだろう」

 

 その前に龍也の言葉で言うのを止めた。

 

「別の人は人の命を救う力、また別の人は友達のために使う絆の力、あるいは――助けを求める人の手を掴む力と答える人もいるな」

 

 手に持っているオーズドライバーを見ながら龍也はそう答えた。その答えは響にとって耳触りの良い言葉だろう。しかし、龍也の言葉はまだ続く。

 

「だが別の奴に聞けば星を滅ぼすための力だと答えるだろうな」

「え」

 

 それ以前まで話していた内容とはあまりにもかけ離れた言葉に響の思考は再び停止する、

 

「ただ単に人を殺すための力と答える奴もいるな」

「…………」

 

 あんまりな内容に響は何も言えない。

 

「結局、使う人次第なのさ。悪人でも仮面ライダーを名乗るなら仮面ライダーになる。『本物』かどうかは別にして、な」

「本物?」

 

 龍也はオーズドライバーを響に見えるように持ち上げながら語る。

 

「そう『本物』……『誰かのために戦える者』だけが真の意味で仮面ライダーと呼ばれる存在なんだと俺は思っている」

「誰かのために戦える……」

 

 龍也の言葉に響は考え込む。

 

「……ブレイザーさんも、あの青い仮面ライダーも誰かのために戦っている『本物』なんですか?」

「デュークは分からないが、少なくとも俺は『偽物』だ」

「……え?」

 

 予想外の答えに響は一瞬呆けてしまう。肯定するものと思っていたからだ。

 

「所詮、俺は『ヒーローごっこ』しているだけの『偽物』だ。本当なら使う資格も無いはずなのに、それでも憧れを捨てきれずに変身しようとしている」

「…………」

「だから俺から言えるのは唯一つだけ」

 

 そう言って龍也は立ち上がりゾーンメモリを取り出す。

 

「『偽物』とか『本物』じゃなくて信じたい方を信じると良い。俺もデュークもやりたいことをしているだけだからな――それと」

「え? ――あ」

 

 龍也は響に向かって使用済みのタカメダルを放り投げる。

 

「ターくん?」

 

 そのタカメダルを響に憑いているタカヤミーが受け取り、体内に取り込んだ。

 

「これでタカヤミーも強くなったはずだ」

「えっと、何のために?」

「護衛は強い方が良いだろ?」

 

 タカヤミーがいるのは融合症例のために攫われる可能性のある響を守るためだ。それ故に試作品のコアメダルを与えてタカヤミー強化させた。

 

「気休めだが無いよりは良いだろ」

『ZONE!』

 

 ゾーンメモリのスイッチを押して、その場を去ろうとする龍也。

 

「待ってくれ」

 

 しかし、龍也は奏に呼び止められて足を止める。

 

「二課に協力してくれるあんた達には感謝している」

「そうか」

「だからこそ分からない」

 

 奏に続いて翼も問いかける。

 

「なぜ私達の、二課に来て共に戦ってくれない!?」

「…………」

 

 その疑問が浮かぶのは何も知らなければ当然のことだろう。しかし、フィーネの存在を知っている龍也からすれば下手なことは言えない。

 

「今は無理なだけだ。……それで納得してくれ」

 

 それだけ言って、龍也は更に言い募ろうとする翼を無視してマキシマムドライブを発動させる。

 

『ZONE! Maximum Drive!』

「またな」

 

 龍也はそう言って転移した。

 

 取り残された響達三人は龍也が去った直後に二課からの迎えが来て帰宅した頃には夜明けとなっていた。

 


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