無限夢想アザバール13遊星の霊子電脳空間内で、私、ジェイル・スカリエッティは今までやって来た研究と、今の契約者であるシングくんから見せてもらった色んな世界の私の研究を平行している。
普段ではそんな事出来ないし、やっても非効率的だが、此処では現実の1秒が何千、何万と引き伸ばされるまさに研究者として理想の空間で、さらにシングくんへの信仰愛というものが私の中に少なからずあるため、プレシア女史までは行かないまでもある程度の事は出来る。
「しかし、こう……アニメーションとして見せられると研究資料が足りない。 考察するにしても限度があるし、かと言ってシングくんからこれ以上の情報は得られないだろうし、、、いや、待てよ?」
この無限夢想アザバール13遊星は、シングくんの『夢想』から始まる。
そこから『観測』『干渉』……私に与えられた権限レベルは1で、自由に使えるのは『観測』。
「シングくんに事情を説明し、『夢想』してもらう……そして私が『観測』し、必要ならば『干渉』してもらう。 よし、これでい」
「何が?」
ある程度結論が出たところで私にとっての魔王が現れた。
彼女、月村すずかは契約者シングくんの恋人であり、シングくんが心の底でもっとも信頼してる人物。
そして私にとっての敵。
なにかとシングくんを動かそうとすると、突如として現れて私の計画を阻むのだ。
これはいけない。
研究者として計画前段階で阻止してくるとか、少しは私にも遊び心というものを与えても罰は当たらないと思うんだがねぇ。
「あー、すずかくん」
「そうだねぇ……シングちゃんの手を煩わせるのは反対だけど、シングちゃんのためになるならいいかな」
「勿論、私の研究成果はシングくんに還元するとも……こう見えて助けられた恩にはきっちりかっちり報いる性質でね」
ニッコリと善人が受ける笑顔ですずかくんに答えるが、すずかくんは一瞬だけ疑わしい目をして、唾を吐き捨て「どの口が言うのか……まぁ、でもいいよ。 シングちゃんにお願いしてみる」と言ってくれた。
本当に僕って信用無いなぁ。
『僕を信用しない方がいいよ、主人公くん』
『知ってるさ』
と、空気を読んでくれないかな? この別時空の僕。
☆
すずかにお願いされて別の世界線を『夢想』して欲しいと言われ、アザバールに接続して『夢想』を繰り返す。
ただ頭の中で色んな設定の色んな世界を延々と考えてるのも、あれなのでその世界での小説を書こうとしたけど、文才がないから止めた。
が、アザバールが勝手に小説を書き出したので、出来上がったら見せてもらうようお願いしよう。
「……てか、やることなくなったー。 ちょっと旅行にでも行こうかな」
思い立ったが吉日。
私はアザバールを動かして、次元の海を彷徨う。
何か面白いことはないかと航行してたら、すぐ近くの次元世界で弱っていく魔力を感じた。
「んー、最近人助けが板についてきた気がする」
かと言って見捨てるのも寝覚めが悪いので、アザバールに転送してもらうと、StrikerSで登場する戦闘機人らしき存在とばったり遭遇。
アザバール経由で念話でスカリエッティに繋げる。
『やぁ、どうしたんだい?』
『あー、なんか戦闘機人っぽいのと出会ったんだけど、知り合い?』
『ふむ、どれどれ……あー、今『観測』し終えたけど、僕が開発した子じゃないね。 そもそも僕の子達は、ウーノを除いて破壊されたしね』
『そ、なら容赦なく潰せるか』
私の言葉にすぐに動いたのは、やはりというかリボンに変容していたエルだ。
どこかの武装警察ホールドの特殊部隊ホーリー所属の断罪さんのお人形さんみたいに、リボンでパイプや敵の武器を切断していく様は素直に凄いと言える。
ちなみに念話中、一方的に攻撃されてた。
そのせいか、エルの機嫌も悪く、リボンの速度がかなり速い。
「くっ! 強い……」
敵さんもエルの速度についていけず、思わず呟いた言葉に私は心の中で「強いのはエルであって私じゃないんだよなぁ」と思った。
や、別に言っても良いんだけど、敵さん、思わぬ強敵の遭遇にワクテカしてらっしゃるもんで……。
「そろそろ本気だして、しと……」
『あ、研究用に貰いたいんだけど』
「え? 要るの?」
『要る、要らないというよりも、何かあったときのためさ。 その時になって用意してないとか、研究者としての誇りが許さない』
いやー、誇りとか別にねー。
それにすずかが出れば、なんでも解決出来そうなんだよねー、物理的に……。
『いやいや、すずか嬢でもどうにもならないことはあっただろ? 海の件とか海の件とか!』
『違うもん。 シングちゃんのゴーサインがあれば、行けるよ! 私は!!』
『そんな君にこの言葉を送ろう。 え~、本当にござるか~?』
『よぉし! そこで大人しくしてろ。 今、そっちに行って、解体しにきた!』
『ひぇ!? はやい!! ちょ、まっ』
見苦しいので念話カット。
「と、言うわけで捕獲優先で」
「すでに捕まえてあるよ」
「んー! んー!!」
エルの言う通り、リボンで全身をぐるぐる巻きにされて拘束されてる戦闘機人が出来上がっていた。
そして当初の目的である人命救助。
血塗れで、青い長髪の女性を眺める。
こうしてる間にも、彼女の生命は減っていき死へと向かっていた。
「ナイチンゲー……」
9割彼女の名を口にして止める。
確かに医療行為ならナイチンゲールが妥当だが、果たしてこの状態の患者を前にナイチンゲールはどう行動を取るか。
いや、シミュレーションしなくてもわかる。
彼女を、患者を認識したナイチンゲールは、まず彼女をアザバールに連れ込んで、殺菌、滅菌、無菌ルームへと移動。
そして始まる手術という名の切断。
パッと見て千切れかかってる左腕……切断。
潰れた右足……膝辺りで切断。
ボッコボコで腹に穴が空いてる……駄目な内蔵は切除。
顔……右目を洗浄して潰れた目を取り除く、左目も若干ダメっぽいから……もう両目とも切除だね。
鼻は骨を矯正して、、、、うん、とりあえず見た目が痛々しい通り越すレベルだ、これ。
「やっば、どうしよ?」
「何が?」
「いや、この人を蘇生? させる方法……というかこんな死者蘇生じみた事が得意な英雄なんて知らないし……。 アザバールと接続したら死者蘇生とか簡単って言ってたけど、死んだ犬の蘇生でさえ失敗してるからなぁ」
「んー、彼女の傷を癒して蘇生させればいいんだね?」
「そう」
「出来るよ」
「え?」
エルの「なんだ、その程度か」みたいな言葉に、開いた口が塞がらない。
「僕は神々が生み出した神造兵器。 そして君の魔力と愛によって僕のスペックはウルク時代よりもさらに万能に至った。 君が望むなら僕は万能の願望機……聖杯の真似事だって出来る」
「それって……」
「もちろん、君の魔力も必要だけど、君にとって微々たるものだ」
衝撃的事実にちょっと頭が追い付かない。
え? エルってそんな凄いの? いや、凄いのは知ってた。 けど、それは兵器として凄いということで、え? え?
「本当に、可能なの?」
「勿論だとも! というか君には、シングにはそろそろ僕も凄いってとこを見せつけようと思ってね」
エルが輝き始め、私の魔力が少し増減して、エルは謳うように
「聖なる杯よ、我がマスターの意、願いの下、その力を振るえ! 『
光はより一層輝き、死へ向かう女性を優しく包みこんで女性と共に消えた。
残ったのは私とエルと拘束されてる戦闘機人。
混乱してる私にエルは、「大丈夫」と優しい声色で言った。
「彼女は帰るべき場所に帰ったよ……家族の下へね」
「そう、なら大丈夫かな」
願わくば、こんな危ない場所へ赴く仕事を辞めて幸せな家庭を築いてほしいかな。
………………難しいよね。
★
目を覚ますとそこは見覚えのある部屋の天井だった。
呆然と、、、まだ上手く働かない頭で辺りを見る。
視界は良好、身体中の傷や痛みすらない。
死に瀕してた私は、研究所でそのまま家族にも会えずに眠りにつくはずだったのに……。
「! そうだ、わたし……」
急に娘達の顔が見たくなった。
当然、夫の顔もだ。
今は何時、いや、今日は何日だろう? 私が助かったのなら隊長やメガーヌだって助かってる可能性はある。
バッ!と自分の部屋にある時計を見て、さらに驚く。
時刻は隊が研究所に侵入した翌日の昼。
計算が合わない。
研究所に侵入して、違法研究者の戦闘機人と戦闘に入り、私達が全滅したとして、私の傷を癒したのは、誰? 私を部屋のベッドに寝かせたのは、ダレ?
目の前が真っ暗になった。
理解不能の出来事。
デバイスの記録データは抹消されて、隊の皆に連絡付かない。
娘達の顔を見たいのに、今は幼稚園に行ってるのか居ないし、夫だって仕事だ。
足下が崩れて世界からこぼれ落ちそうな程、私の精神は不安定で弱っていた。
「だ、れ……か、、、」
私に
次に目が覚めたのは、病院だった。
家で倒れてた私を娘達が発見して、夫に連絡、そして夫が仕事を切り上げて、病院へ連れていったとのこと。
夫は私が任務に失敗して、帰らぬ人になったとの報告を聞かされていたらしく、帰るまで私が家で倒れてるなんて半信半疑だったらしい。
そして病院の検査結果は、、、
ど こ に も 異 常 な し。
子を産める健康な体。
昔負傷して一生残ると言われた傷ですら、綺麗さっぱりなくなっていた。
私に何が起きたのか……。
管理局から事情聴取されたが、私にすらわからないことを答えようがなかった。
☆
拘束した戦闘機人をジェイルに投げて、私はすずかと一緒に遺跡探検をしていた。
次元世界はそれこそいろいろあり、ロストロギアがあったらしき場所を発見したらアザバールで過去に『干渉』して、ロストロギアを入手したりと好き放題してたら、今度はヴォルケンリッター全員に囲まれた。
勿論、後方支援であるシャマルは私達の肉眼からは見えないとこにいる。
「何かな? 私とシングちゃんのデートの邪魔してくれちゃって……」
「前は不覚を取ったが……」
「今度こそ!」
「テメェらの魔力を」
「蒐集させてもらう!!」
「ッ、ほんとに……邪魔」
アザバールからすずかの表情を見てると、そこには眉間に皺を寄せて、目は赤というかかなりどす黒い感じのナニかが蠢いてる。
暴走して私に迫ってきたアカ目でも綺麗だったすずかの目が、、、濁ってた。
それほどまでにこの時間を邪魔されたくなかったのだろう。
勿論、私だって邪魔されたことに怒りを覚えてる。
うん、だからこれはすずかの逆鱗に触れた彼女達が悪いんだ。
空を蹴り、駆るすずかはまず烈火の将へと向かい、自らの筋肉と爪を操作して吸血鬼特有の爪擊を振るうが、将と言われるだけあってすずかの速度についていけて、レヴァンティンと呼ばれる剣型のデバイスで防ぎってた。
そして唯一の護衛であるすずかが離れた事で、私が残りの三人に囲まれた状態になってるが、何、別に問題はない。
「さて、護衛も我が将へ向かって、アンタがいつもしてるリボン……あれも護衛なんだっけ? それもしてないし、近くにババアやバカデカイ黒いのも居ない。 こう言っちゃ萎えるんだけどよ、降参してくんね? いや、だってもう勝負ついてるっしょ? 魔力すっげーのはわかるけど、おたく……戦える力ないだろ?」
確かに私は魔力だけなら凄いある。
凄いなんてモノじゃないくらいある。
自慢できるものは何かって言われたら、まぁ、容姿だと答えるが魔導師に聞かれたら魔力と答える。
だが、私に戦闘力はない。
それでも言わせてもらうけど、別に問題はないんだ。
「正直、ザフィーラやカイトが苦戦したって奴と戦いたかったが、アタシの運がなかったって諦めるから、テメェも諦めて大人しく魔力を寄越せ」
ロリが何か言ってるが、再三言わせてもらおう。
「別に問題はないよ。 護衛が居なくても、貴様ら程度に明け渡す魔力はプランクトンレベルでない」
ああ、私の魔力は確かに膨大だ。
膨大という言葉が陳腐に思えるくらいに大きい。
自衛力、戦闘力に運営出来ないほどの馬鹿げた魔力。
そんな魔力が果たして魔力という枠組みに入るわけがない。
じゃあ、どうなる?
どういう枠組みに入る?
大きすぎる力は、もはや神通力すら超え、力という力の概念すら昇華する。
『圧力』。
ここで注目して欲しいのはただの圧力じゃないということ。
濃厚で押し潰されるほどの霊圧。
霊圧の次元を超えて相手の霊圧を計れないが、近付けば押し潰される霊圧。
魔力でも同じだ。
魔王が放つ威圧感、畏怖は自身よりも放たれる膨大な魔力を圧力として感じてるからだ。
つまり、何が言いたいかと言うと……
「ぐっ」「がっ」「はっ!?」
「私が魔力を抑制せずに垂れ流してると、我が魔力は『圧力』となって敵の行動を阻害……どころじゃないな。 数秒で満身創痍になる『圧力』……自衛力0の看板はもう仕舞い時かな」
私の『圧力』を間近で受けて、手にしてたデバイスも纏ってたバリアジャケットも、肩と胸を大きくそれこそ大袈裟に動かして必死に呼吸してる様は滑稽だ。
「ふふ……」
さて、すずかが戻ってくるまで、何してようかな。
★
戦乱の世を駆け、ベルカの猛者達を屠り、恐れられた我ら闇の書の守護騎士が、あんな平和な世界でぬくぬくと暮らしてる騎士でもなんでもないただの人に、私は苦戦を強いられていた。
「くっ……レヴァンティン!」
ガシュン!とカートリッジ内の魔力が、レヴァンティンと私の魔力をブーストする。
ブーストされた魔力を身体強化に使って斬り掛かるが、紙一重に避けられ、カウンターで蹴りを入れられる。
その蹴りが私の芯を捉える程で、体勢がすぐに崩れる。
とても人が出す威力ではない。
だが、それでも奴の身体から魔力の気配がない。
あり得ない。
こんな、人間が居るのかと自問自答するが答えが出るわけもないし、ましてや本人に聞いても答えることはないだろう。
何処となく、私達が出す魔力とは違った力にも似てる気がするが、まさかな。
「貴様は強い。 だが、私の方が遥かに上だ!!」
主の事を思う。
戦いしか知らなかった私達に、笑顔や幸せの日常を教えてくれた。
苦しむ主を見て、痛む私達に愛だと説いてくれた。
愛は何ものにも勝るのだと、故に私達の愛が! 負けるわけな
「うん、まぁ、なかなか強かったよ。 でもごめんね。 私なら苦しんでる大切な人を一人っきりにさせないかな」
思考が停止した。
目の前に居た少女の姿が変わっていたからではなく、少女のある一言でだ。
「サファイアちゃん、やるよ」
「本当になさるのですか? あのクラスカードは……」
「サファイアちゃん、シングちゃんが私に酷いことするわけないでしょ?」
「…………どうなっても知りませんから」
「呪文省略、
私達で言うデバイスのような杖とカードみたいなのを掲げて、少女は光に包まれ、また新たな姿を晒した。
紫色だったストレートヘアーは、白銀のツインテールとなり、瞳は先程よりもアカアカしく、左目には赤い炎が灯っていた。
服装も白のパーカーに白のビキニ、白のホットパンツと私達が狙っている白い少女に似た姿。
違う点といえば、背には機械の翼と左手で軽々しく扱う白い大鎌。
「なん、だ……その姿は……」
「悪いけど、240秒しか相手出来ないから……」
白い少女が私の知覚から消えた。
だが、わかる。 死と言う名の大鎌が、今まさに私の首を……。
「すみません、我が主……。 あとは頼むぞ、みんな」
届かない謝罪を主に、後の事を皆に託して私は眼を閉じた。