絶望ノ淵デ慟哭ヲ謳ウ   作:玉響@彼方

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解答

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コントロールからの帰還命令により、1度離脱しようと、跳躍しかけたその時だった。

 

「うおっ!?」

 

突然目の前に、数本のナイフが飛んできた。

 

思わず、仰け反って避けるが体勢を崩し、屋根から街道に落下した。

 

着地は受身をとり、ほぼ無傷だったが、襲撃者は攻撃の手を緩めなかった。

 

既に放たれたナイフはアレンの頭部、腹部、脚部を狙って何本も投げられていた。

 

しかし、ナイフごときでアレンを殺せるなら、アレンはとっくに死んでいる。

 

それを裏付けるかのように、アレンは放たれたナイフを全て素手で叩き落とした。

 

襲撃者は屋根からまったく音をたてずに着地している。

 

流石のアレンもそれには驚きを隠せなかった。

 

「お前、本当に人間かよ…?」

 

「……」

 

襲撃者は無言のまま、また新しいナイフを構えた。

 

ナイフの形状は非常に鋭く、医療用のメスのようでもあった。

 

そして、黒い。

 

闇夜に溶け込むかのように、漆黒に染まっていた。

 

(手慣れてやがるな…)

 

アレンはどの武術にも精通しない、独自に編み出した、独特の構えをとり、右手を『クロー』に変化させた。

 

お互い、臨戦態勢を整えて間合いを取ろうとした瞬間だった。

 

突如として、黒い装束に身を包む者が、2人急に現れた。

 

1人は非常に背が高く、もう1人は、服の上からでも分かるくらい、女性的な体をしていた。

 

2人はアレンを見ると一礼した後、顔のマスクを外した。

 

「アルバス…エリスタ…」

 

アレンと襲撃者の間を割って入ってきたのは、かつて世話になった2人だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

正直に言って、アレン様に会いにいけという旦那様からの命令は私にとって苦痛以外の何にでもなかった。

 

今更、どの面下げて会いに行けばいいのだろうか。

 

私を見たら、どうするのだろう。

 

罵倒されるのかな…?

 

きっと怒るだろうな…

 

会いたく…ないな…

 

旦那様に言えば任務から外してもらえるのかな?

 

そんなことばかり考えていた。

 

先輩達に相談しても、『大丈夫じゃない?アレン様なら』と取り付く島もない。

 

いくら命令だからといっても家から最後に追い出したのは私だ。

 

アレン様の荷物を玄関先に置き、扉を閉めた。

 

アレン様はあの時どんな顔をしていたのだろうか。

 

嫌悪、憎悪、憤怒…色々浮かべてみる。

 

浮かべて、消えて、手を伸ばす。

 

何も掴めぬ細い腕を見て、私は私が嫌になりそうだった。

 

「何をしている?」

 

突然後ろから声をかけられ私は飛び上がりそうだった。

 

振り返ると、そこには執事長アルバスがいた。

 

「し、執事長!申し訳ありません!」

 

私は咄嗟に頭を下げ、この場から逃げようとした。が、

 

「待て、エリスタ」

 

と低い声が響き、私の体は静止した。

 

「…アレン様のことを考えていたのか」

 

図星だった。

 

でも、同時に思い至った。

 

執事長は何を思っているのだろう?

 

アレン様に久々に会うことになり、この人は何を思うのだろう。

 

「お前は、悲しいのか」

 

「へ?」

 

「涙を拭け、制服が汚れる」

 

涙?

 

私がいつ泣いていたというのか。

 

手を目元に持っていくと、肌がしっとりとしている。

 

「あ…」

 

「エリスタ、悲しむことを悪いことだとは言わない。だが、それはアレン様に会ってからにしなさい。それより、自分の身を守ることを最優先に考えるのだ」

 

「身を、守ること…ですか?」

 

「あぁ。恐らく、アレン様に会う際に交戦することになる」

 

「交戦?!」

 

「ジャック・ザ・リッパー」

 

廊下の奥から何者かの声がした。

 

「「っ!?」」

 

「彼には十分気をつけてな。2人とも」

 

陰から現れたのはヴィルム家現当主、スカーだった。

 

スカーは黒髪をすべてオールバックに固め、切れ長の目に高い鼻と、片目に縦の古傷を残した顔をしていて、いかにも清く正しくといった身なりに身を包んでいた。

 

「旦那様」

 

アルバスはすぐに廊下の隅により、道を開ける。

 

私もそれに倣い、道を開ける。

 

「いいよ、今は。それに、エリスタにはまだ言ってなかったからね」

 

「旦那様、ご質問よろしいでしょうか?」

 

「構わないよ」

 

「あの…ジャック・ザ・リッパーって最近流行りの…」

 

「うん、婦人ばかりを狙った連続殺人鬼。だけど、僕はこれが意図したものだと思っている」

 

「意図…ですか」

 

旦那様は無言のまま頷づき、続けた。

 

「モリアーティ教授が背後にいると、僕は思う。ジャック・ザ・リッパーの出現とともに、様々な議員や貴族が次々と死んでいる。それは事故であったり、病気など多岐にわたる」

 

「それが、ジャック・ザ・リッパーの手口。婦人ばかり殺したのは隠れ蓑…ということですな」

 

「ありがとう、アルバス。しかし、そこまでの事件が起きていながら、警察はほとんど動かず、事件を迷宮入り化させる始末…恐らくだけど、モリアーティ教授とノルマンディー公は裏で繋がりを持っている」

 

「あの、かの有名なシャーロック・ホームズは…?」

 

「彼は彼で忙しい身でね。この事実にはまだ…いや、彼なら既に気が付いているだろうな。あの天才なら」

 

ククッと喉を鳴らすように旦那様は笑った。

 

「いやいや、面白いなぁ…この世界は。()()()()()身としてはこんなに楽しい玩具箱はないな」

 

「それに、我が子の生い先は遠いようだし、安心してーーぐっ…がはっ!」

 

旦那様は突然、膝をつき、手を口に当てていた。

 

その手には、真紅の液体が吐き出されていた。

 

「旦那様!」

 

近づこうとした私を手で制し、よろよろと立ち上がった。

 

「いいかい…エリスタ…アレンには、君が、必要だ…あの子の傍に、居てやってくれ…」

 

「はい!」

 

旦那様は少し微笑み、私の金髪を一撫ですると、自室に引き返していった。

 

その手はかつて私を慰める時に頭を撫でてくれたアレン様にそっくりの温もりだった。いや、アレン様()似ているのだろう。

 

とても暖かくて、優しい手だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

突如として、現れた2人に困惑を隠せないアレン。

 

しかし、真っ先に動いたのは、エリスタだった。

 

「アレン様、こちらです!」

 

エリスタはアレンの左手を掴むと、すぐに駆け出した。

 

「ま、待て!エリスタ!アルバスが!」

 

「大丈夫です!今は私について来て下さい!」

 

アレンは咄嗟に振り返ると、既に襲撃者とアルバスの戦闘が始まっていることを知った。

 

その様子に気がついたアルバスはアレンを見て、不敵な笑みを浮かべた。

 

遠ざかって行くアルバスを尻目にエリスタは駆ける足を緩めることはしなかった。

 

かなり走り、コントロールのアジト周辺まで来たところで、エリスタは漸く足を止めた。

 

「エリスタ、説明してくれ。何が起きてる!」

 

「アレン様、ご無礼をお許しください。今から私が話すのはすべて事実です。信じえもらえないかもしれませんが、事実なんです」

 

「とにかく話せ!じゃなきゃ本当に分からない!」

 

「旦那様、スカー・ヴィルム様は現在病で床に伏せっております。病名は、『結核』。奥様、リリー様と同様の病気です。医者によると、もう永くない…そうです」

 

「結核だ…と?」

 

「それと、此度の襲撃者はジャック・ザ・リッパーと呼ばれる殺人鬼です。あいつは恐らくノルマンディー公やモリアーティ教授の手下と思われます」

 

「あいつが『ジャック・ザ・リッパー』か。道理で強いわけだ。あれは常人の強さじゃない」

 

「最後にですが、旦那様から伝言を預かっています」

 

「伝言?」

 

「『ある者に、手紙を託した。その者から手紙を受け取った時、もう一度我が家に帰ってきなさい。お前に渡したい物がある』」との事です」

 

「渡したいもの?」

 

「伝言は以上です」

 

エリスタはその場を離れようとしたが、どうにも身体が動こうとしなかった。

 

何故か、自分の中にふつふつと煮えたぎる()()()が離脱を拒んでいた。

 

そして、気がついた時には既にアレンに、抱きついていた。

 

「っ!!エリ…スタ…?」

 

「私は…私はあなたの婚約者です。あなたを誰にも取られたく…ありません。お願いです。私だけのアレン様でいて下さい…」

 

消え入りそうなか細い声で、エリスタは懇願した。

 

アレンは黙ったままエリスタの抱擁を受け入れ、静かにポニーテールに結ばれた綺麗な金髪を撫で続けた。

 

少しの間、抱擁を続けた2人は顔を真っ赤に染めていた。

 

先に口を開いたのはアレンだった。

 

「悪い、エリスタ。俺にはまだやるべき事がある。だから今は答えを出せない」

 

「今は、ですよね?なら、私はずっと待ちます。アレン様が答えを出してくれるまで、ずーっと待ちます。だから、必ず、教えてくださいね」

 

と、念を押した後、エリスタはアレンの頬に軽く口付けをして、アレンと別れた。

 

アレンはその温もりを忘れないように、そっと瞳を閉じた。

 




どうも玉響です。前回お知らせした通り、今回は3000字を越えて長くしました。今更ながら文章を書くのは本当に難しいです。でも書いてる時って楽しいんですよね。これからも頑張っていくので、よろしくお願いします。
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