アレンは1人、夜明けと共に壁を見つめていた。
10と数年前、イギリスを二分させ、王国と共和国を対立関係に導いた万人にとっても、ひどく忌まわしき壁だった。
頬を撫でる風はほのかに冷たく、アレンの意識をはっきりと覚醒させ続けていた。
この高台に人はほとんど来ない。
ひとりぼっちには最適な場所でもある。
……考えてみて少しだけ悲しくなったのは気のせいだと信じている。
しかし、これで構わない。
友人なんてものは1人もいないーー訳ではないのか?
少し考えてみてみたが、答えは否だ。
あくまでも協力関係。
それ以上もそれ以下もない。
エリスタが言っていた「手紙」と「伝言」は未だ知れず。
さらに思考を続けようと眼を閉じた瞬間、風の中に違和感を感じた。
耳を澄ますと、階段を登る音が微かに聞こえてくる。
音は時々重なるように聞こえてくる。
…2人か。
しかし敵対心は感じない。
それどころか向こうはこちらに気がついていない。
アレンは壁を駆け上がり訪問者を様子見ることにした。
突然やって来たのはアンジェとプリンセスだった。
会話をしているのは分かるが、風の音が思いのほか邪魔で、内容が上手く聞こえない。
「10年……ね」
「おかえ……い。シャーロット」
シャーロット。
今、プリンセスは確かにそう言った。
アレンはアンジェ会ってから何か違和感を感じていた。
心の中になにか変な風が吹き、感覚がほんの少しだけズレる…それくらいに小さなズレだった。
そのズレが今、そう。たった今。確証に変わった。
母さんが死ぬ前にあったプリンセスと女王様に謁見した時にあった彼女は既に
何故だか、心の底から笑えてきた。
顔を伏せ、手の平で顔を覆う。
そうでもしないと笑みが零れてしまいそうで、といってもアレン自身は気づいていないが、アレンの口角はこれまでにないくらい、引きつっていた。
愉快。
ただ愉快であった。
この世はすべて腐りきった果実のように、とても甘美な味に満ちている。
しかし胸に疼く焦燥感だけは形を潜めてはくれなかった。
クスクスと笑っていた自分がだんだん嫌になって、次第に笑えなくなってくる。
このことを知って何になる?
幼い時なら自分だけが知る秘密を抱えた時、どことなく高揚感を覚えた。
だが、今はどうだ。
もう子供と呼ばれる年齢ではない。
ある程度の成長を重ねてきた者として、この秘密をどうすればいいのだろうか…
ふと、下にいる2人が気になった。
だが、こんなことを知るべきでも考えるべきでもなかった。
ここで下を確認することがなければ、偽りの王女との関係はそこまで深くなることはなかっただろうに。
プリンセスはその美しい紺碧の瞳を見開いていた。
「あ………」
咄嗟に動けなかった。
その場から脱兎のごとく逃げようと駆け出す前に、既にプリンセスはこちらに手を振っていた。
こうなってしまってはもう逃げられない。
視線を交わらせ、手を振る。
たったこれだけの行為が2人にとっては特別な
アレンは渋々、壁を飛び降りて、プリンセスの近くに着地する。
「合図、覚えててくれたのね」
とプリンセスは柔らかく微笑む。
「まぁ…な」
一方、アレンは視線を合わせようとせず、頬を掻いていた。
「私たちの会話…聞こえていたのかしら?」
「耳はいいからな」
「あら、地獄耳なこと」
プリンセスはあたかも驚いた、かのように手を口に当てていた。
「お前は今、何を考えているんだ?」
「何って…」
「誤魔化すな。
「聞こえていたのなら、分かってるはずよ」
「私はこの国を元に戻す。そして、最後の女王として君臨して………処刑される」
「それが私の本望」
「だから、アレン」
「私を王にして。あなたの力で」
分かっていた。
会話の内容がどれだけ突飛なものか。
だから、もう一度聞きたかった。
自分がただ、聞き間違えただけだと信じたかったから。
しかしそんな幻想は打ち破られる。
だからこそ、新たなる決意をここに誓うのだ。
「俺はーーーー
ーーーお前を王にする」
「お前がそれを望むなら、あの時の借りを返そう」
例え、行き着く先が絶望に彩られた宵闇だとしても。
いつも読んでくださる方、ありがとうございます。新しい話を投稿した後ってあんまりハーメルン開かないので、気が付かなかったんですけど、お気に入りしてくれる方が少しづつ増えてて、ものすごく嬉しいです。これからも、どうかよろしくお願いします。