絶望ノ淵デ慟哭ヲ謳ウ   作:玉響@彼方

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しっかり前にある現実を見ることは大事だけど、辛いのもまた事実。


幻想と現実

12

 

『またね、アレン!』

 

夕焼けを写したように黄金色に輝く金髪を揺らし、紺碧の瞳の少女は大きく手を振った。

 

こちらが少し肘を曲げて、胸の前で小さく手を振り返すと、少女は満面の笑みになって更に大きく手を振っている。

 

なんかもうすごいくらい振ってる。

 

だってブンブン聞こえてくるもん。

 

かわいい。

 

そんなふうに感情豊かに表現できる彼女を羨ましいと思った。

 

彼女は太陽だった。

 

『行くぞ、アレン』

 

だが夢を見るのは終わり。

 

無慈悲な腕はアレンを捕まえて離そうとはしなかった。

 

(あの娘のそばに居たいのにな…)

 

そんな願いは叶うことなく、アレンはズルズルと引かれていく。

 

『絶対!また…会えるよね!』

 

太陽の少女はその美しい瞳に涙を大量に溜め、今にも零れ落ちそうだった。

 

それでも泣かんまいと、懸命に涙をこらえていた。

 

ワナワナと震える唇、力いっぱい込められているであろうスカートを握る手。途切れ途切れに聞こえる鼻をすする音。

 

そんな少女がたまらなく愛しかった。

 

だから、アレンは無意識のうちに叫んでいた。

 

 

『ーーーーーーーー』

 

 

覚醒。

 

さっとベッドから降り、洗面所に向かう。

 

鏡を見る前に口を抑えていた手を離す。

 

「おえぇぇぇぇぇ……」

 

真っ白なシンクが茶色の液体に塗れる。

 

その汚物を見ているとまた吐き気を催しそうだった。

 

この吐き気は先程の幻想を見たせいなのか、それともここ最近の、ウィルスの過剰摂取による副作用、悪影響なのか。

 

「…くそっ」

 

力を込めた訳では無い。

 

しかし叩かれた鏡は粉砕され、写るもの全てを歪ませていた。

 

されど、アレンの拳にはガラスの破片1つ刺さってはいなかった。

 

手速く着替えを済ませ、他の生徒より早く部屋を出る。

 

別に理由があるわけじゃない。

 

ただ単純に他の奴には会いたくないだけ。

 

傲慢。怠惰。嫉妬。悪意。

 

こんな醜い感情が渦巻くこの学校に意味は無い、と思う。

 

くだらない授業を聞くのも飽きてきた。

 

いち早く教室に入ったと思ったが、いつも間にか人が集まって来ていた。

 

よし、寝るか。

 

アレンはくだらない日常の殆どをいつも通り睡眠で時間を潰していた。

 

教師陣からも他生徒からも白い目で見られるが、正直、知ったことじゃない。

 

どうでもいい存在からどう思われようが自分には関係ないと思い続けている。

 

と、思っていた。

 

気がつけば放課後。

 

目を開けると、目の前に知らない男子生徒がいた。

 

ぼんやりした目で、その生徒を見つめていると、突然その生徒はアレンの襟首を掴み無理矢理もちあげた。

 

アレンの身長は171cm。

 

しかしその男子生徒はアレンよりも頭1個分背が高かった。

 

「誰だ、お前?」

 

アレンがはっきりと疑問をぶつけると、男子生徒は思い切り、アレンを睨みつけた。

 

「アレン・ヴィルムだな。ちょっと面貸せよ」

 

と、グイッとアレンを引っ張る。

 

教室はざわめいていたが、そんなことは露知らず、アレンは未だ胡乱げな目で自身を引っ張る生徒を見つめていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

私がその光景を見たのは、放課後のことだった。

 

廊下がザワザワとしていたから、近くの生徒に訊ねると、どうやら男子生徒同士の喧嘩らしかった。

 

「物騒ですねぇ…姫様」

 

と、傍らで私を見上げる可愛らしい少女。

 

ベアトリス…私の従者を自らやってくれる、心優しい女の子。

 

そして、私の友達。

 

まぁ、そう告げると「わっ私が、姫様の友達なんて、烏滸がましいです!」って全力で否定されちゃうけど…

 

「そうね、向こうの道から行きましょうか」

 

「はい!」

 

ニッコリと微笑む姿はとても愛らしい。

 

そして2人並んで歩いていた時だった。

 

眼下に群れる生徒たちを見つけた。

 

(あれが、例の…)

 

と考えているの束の間だった。

 

「あ、あれ…!」

 

礼儀作法の先生が見たらこっぴどく叱られるくらいの勢いで窓に飛びついた。

 

数人の生徒に囲まれる人が、知り合いだったからだ。

 

場所は陽も当たらないくらい校舎の陰だった。

 

見るからに、知り合いの前に立つ生徒はかなり殺気立っている。

 

気がついた時には私は既に一目散に駆け出していた。

 

急いで階段を降り、廊下を風のように駆け抜けた。

 

校舎から出た時、夕焼けが目に刺さり、目の前が真っ白になっても、足だけは止めなかった。

 

そして、眼前に校舎から見えた光景が見えてきて、ようやく私は足を止めて、叫んだ。

 

「待って!!」

 

私より頭1個分は大きいであろう男子生徒立ちに囲まれ、足が竦んだ。

 

「わ、私の顔に免じて、その人を許してくれないかしら?」

 

動揺を見せないように、あえて上から目線の口調で話した。

 

彼らは目を丸くした後、

 

「これはこれは…プリンセス。しかし、これは私と彼の問題です。例え貴方の願いであろうと、快諾しかねますね」

 

「…私なら、貴方のお父上の爵位を上げることも出来るかもしれないわね」

 

代表格の金髪オールバックの生徒の眉がピクリとつり上がった。

 

「…いいでしょう」

 

行くぞと、近くの生徒に声をかけ、多くの男子生徒がその場から立ち去った。

 

あとには、一国の偽姫様と灰色の貴族が残っていた。

 

 




どうも、玉響です。最近しんどいです。この時期って学生さんテスト期間ですもんね。大変だと思いますが、ここを乗り切れば!と思うとほんの少しだけ前向きになれると思います。頑張ってください!
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